内緒ですが、最初のきっかけは昔の彼の記憶でした。(仮)

羽月☆

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6 楽しい場所を教えてもらった日。

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土曜日。

早起きしてしまってがっかりした。
もっとよく寝てても良かったのに。

だって待ち合わせは夕方6時。
早めに行って食事をしようと昨日連絡して決めた。

もう一度寝ようと思ったのに眠気はいっこうに来ない。

起きだして紅茶を飲みながら見慣れない朝の番組を見る。

何か買いたいものとか、見たいものがあっただろうか?
買い物しても荷物が多いと邪魔になるだけだし。
買い物したいなら明日。

そうなると特に時間をつぶすこともなく。

久しぶりに大学の友達に連絡して・・・・午前中は迷惑かも。

いつものように朝ごはんを食べて掃除して、洗濯して。
時間が空いたのでアイロンまでかけたり、衣替えをしたり。

昨日考えていた服のセットを出す。
バッグと小物も。
帰りは遅くなる。冷えないように対策をして。

昼にはもうすることもなくなった。

石神君は何をしてるんだろう?
週末に約束をするにしてもほとんどランチで。
夕方約束バージョンの時間のつぶし方が分からない。

顔を洗って、パックなどして、ゆっくり準備をする。
テレビを見ながら着替えて。
結局落ち着かず早めに出かけた。

いつもふらふらするあたりのお店を見る。
そろそろ秋冬の服が出揃う。

少しだけ重たくなる色、ゆっくり新作を見ながら。

洋服ブランドの奥のカフェに入る。
携帯を見ると浅井さんから連絡が来ていた。

『来週付き合ってもらえる?金曜日。うるさい筒井さんを何とか静かにさせたいの。須田さんも付き合ってくれるみたい。どう?あんまり乗り気じゃなきゃ、いっそ、はっきり断ってもいいと思うけど。』

何で昨日の今日なの。
すごいマメに連絡取り合ってるじゃん、ふたり。

もちろんある目的を持って一度話がしたい。

『金曜日空いてる。一緒に行ってくれるなら大丈夫です。今日はライブなの。』

つい付け足して返信する。
予定表に書き込む。

一ヶ月は早い、月初めに乗り切ったと思ったのにすぐにまた月末になる。
来週金曜日なら楽しめる。

軽くお茶をして焼き菓子を食べた。

一時間くらい過ごして又外に出て。

お礼したほうがいいのかな?
デパ地下に入り小さなチョコのギフトを買う。
ビターだから甘いものが苦手でも食べれるだろう。

どこに住んでるのか、なにが好きなのか、嫌いなのか。全然知らない。
トランペットが吹けて、実家暮らしであることくらい。

約束の時間まであと30分というところまでは時間をつぶした。
待ち合わせたのは駅の大きな橋の上。
桜の季節は綺麗だろう。両岸に桜の木が並んでる。
橋の上からゆったりと流れるその川を見つめる。
江戸の昔から有名な場所だったらしい。
のんびり眺めながら、さっき送った浅井さんの返事を見たりして。

『喜んでた。奢ってもらおう!!』

思わず笑顔になる。
絶対私じゃないのに。
浅井さんは今すぐには駄目かもしれないけど、筒井さんだって絶対。

だって、いつものパターン。

珍しさがなくなると冷静になる男の人たち。
一緒にいると面白くないって気がつく。
ずっとずっと浅井さんのほうが楽しいから。
そう気がつくのが遅くならないように私から教えてあげたい。
須田さんも来てくれるなら楽しそうだし。


「如月さん。」

ちょっと想像して喜んでて油断してた。
石神君がやってきた。

「あ、・・・・石神君、今日は・・・・ありがとう。」

目をやった彼がちょっといつもと違って。
でも本人。
イメージが違った。
まじまじと見てしまった。

「どうかした?」

「ちょっとイメージが違って。仕事始めて少し痩せた?」

だってスーツだともっと大柄に見える。はっきり言うともう少しふくよかに。
春のあの時はよく思い出せない。
今はすごくスッキリして見える。
眼鏡もフレームが細くなり、髪型も前髪が違う。

「バレた?確かに痩せたんだ。だからスーツはちょっと大きい。冬用からサイズを下げようと思ってるんだ。」

「眼鏡も変えるの?」

「うん、アレは仕事用でパソコン対応してるんだ。これだと疲れるから。変?」

首を振る。
むしろどうしてって、こっちのほうがずっといい気がするのに。

「でも如月さんもちょっと雰囲気が違うかな?」

詳しくは教えてもらえなかったから、私が言ったことで気を遣ってくれたのかもしれない。

「行こうか?」

「うん。」

横に並んで歩いてごみごみした道を渡る。
ライブハウスは地下で急な階段を下りる。

「こんにちは。予約してます石神です。」

「あ、石神さん、どうも。」

顔見知りらしい。
私も挨拶されて、し返す。

席は半分くらい埋まってる。
美味しいとサイトにもあったパスタも注文されてるようだ。

席は奥の二人テーブル席。

ステージになるところには今は楽器が置かれている。よく見えそうだ。

メニュー表を渡された。
お酒を注文して、石神君のお勧めメニューを聞く。
数品注文して待つ。

「石神くんのうちはどこ?」

聞いた駅はすごく会社に近い場所だった。

「すごく通勤が楽そう。」

そんなところに実家があるの?
ちょっとびっくりした。羨ましい、住みたい街上位の場所ですが。

「ここに来るまで何してたの?」

「特には。部屋で本読んで、音楽聴いてて。」

やっぱり想像ができる。

「如月さんは?」

「掃除洗濯アイロン。それでもふらふらと秋服を見たり、お茶してたりした。夕方に約束することがあんまりないから時間の使い方が分からない。」

「そうなの?」

「夜出かけることが多い?」

「そうでもないかな。部屋にいてもゆっくり過ごせるタイプだから。」

「ここは、誰と来ることが多いの?」

「昔は友達が多かったけど、今は一人も多いよ。ふらりと来てあの辺に座るかな。」

後ろの席を指された。

「あそこはタバコ席なんだ。」

そうか、やっぱりそれは嫌かも。

料理が運ばれてくる。
取り皿を貰い二人で分ける。

「石神君、好き嫌いは?」

「うん、ないよ。」

「そう?」

「如月さん、何が苦手?」

「私もない。」

「足りなかったら注文してね。本当に美味しいから。」

「ねえ、今日は気を遣わないで、飲んでね。」

「うん。」

ライブが始まる前に2杯づつ飲んで、料理は十分堪能した。

「美味しかった。本当に美味しかった。」

「喜んでくれるとうれしいな、良かった。」

「ね、やっぱり全然酔ってないでしょう?普通に飲めるのに。」

何で集団でいると飲まないんだろう。
飲んでも変わってないじゃない。
佐賀君の言い方だと毎回そうみたいだった。
お酒が苦手な振り。

「また会社の飲み会、誘われたら行くの?」

「うん、多分。」

「如月さんは、もう行きたくない?」

あんまり、というか全然。

「浅井さんと石神君が一緒にいてくれるなら行ってもいい。」

「そんな、他の人も話したがってたし。」

「珍しいだけだと思うから。」

最初だけだから。



気がついたら席はほとんど埋まってた。

バンドのメンバーもやってきてそれぞれ音を出し始める。

「途中でも注文して大丈夫なんだよ。」

お酒を指差して言われる。

「うん、ありがとう。」

グラスには半分残ってる。

1stステージが始まった。
狭いお店だけに音が体に当たるような感覚。
久しぶりのライブ感に感動する。

照明が落とされて動くライトに石神君の眼鏡が時々光る。
ジャズは演奏してる本人たちが楽しんでるのが伝わってくるから好き。
ソロの技術はすごいし。

あっという間に休憩になった。

お酒は空になったので二人とも新しい物を頼む。

「本当に強いんだね。」

「意外?」

そう聞くとじっと顔を見られた。見つめあう。

「そうでもない。」

笑顔で言われた。
優しい目が笑顔でもっと優しくなって、ほっと体から力が抜ける。

私、緊張してた?

そのまま二杯飲んで2ndステージも終った。
拍手してアンコールを一曲。
後は照明が戻り食事やお酒を楽しむ時間。

「すごかった。ねえ、この席すごくいいね。」

「うん、他にもいろんなところに座ったけど、ここが一番気に入ってるんだ。今回取れてラッキーだった。」

会計を待つ列が短くなったところで席を立つ。

階段を上るとさすがに真っ暗だった。
まだ体には音の響きが残ってるくらい、冷えた空気にさらされてゆっくりとその響きが静まる感じ。

上を見上げていたら段差に気がつかなくて。
ちょっとヒールのある靴を履いてたのもあって、バランスを崩してびっくりしてしまった。

「きゃあ。」

声を出してよろめいたのを支えてくれた石神君に思わず体重を預けてしまった。

「ごめんなさい。ちょっと上を見てて、気がつかなかった。」

「うん、大丈夫?」

痩せたと言ってたけどやっぱり男の人だったから、体重をいきなり預けても支えてくれた。

「ありがとう。酔ってるわけじゃないと思うから。」

一応言い訳をした。

「如月さん、早く帰ったほうがいい?」

「ううん、別に。」

「僕、時々行くお気に入りの場所があるんだけど、少し歩くのが嫌じゃなかったら行ってみない?」

「うん。」

つかまったままの腕を急いで離して横を歩く。
ゆっくりと。

今の季節、ゆっくり歩くのにちょうどいい気温。

ついたのはビルの真ん中ぽっかりと作られた広場だった。
大きな噴水の周りにテーブルと椅子が並べられていて、コーヒーをテイクアウトして座ってる人がほとんど。

「何か買ってくるけど。」

「私さっきのお金も払ってないから。」

「うん、後ででいいよ。何がいい?」

コーヒーをお願いして席に座る。

下から光が出ていて高く上がる噴水にも綺麗にライトが当たっている。

カップを二つ手に戻ってきた石神君。

財布を出して忘れないうちに精算してもらった。

「ねえ、もっと多くなかった?」

絶対、お酒も結構飲んだし。

「大丈夫。今回は割引券を持ってたから安くなったんだ。」

本当なのか、もしくは気を遣ってくれたのか。
でもそう言われて、そのまま言われた金額を払った。

「ごちそうさまでした。」

「僕が作ったわけじゃないけどね。」

「あ、これ、お礼なの。ちょっとだけ。」

袋を見れば中身も分かるだろう。

「ありがとう。」

袋を見つめてから視線を上げて言われた。

何度か言われたお礼の言葉。
本当にするっと心に入る。

「ちょっとだけだよ。」

笑顔で言った。

「ううん、ありがとう。」

ほら、また。

「そう言えば・・・・・、昨日うちの先輩と飲んでた?」

「あ、そう。でも今日を楽しみにしてたからお酒はちょっとだけだったよ。浅井さんに誘われたの。でも、石神君、何で知ってるの?」

「先輩が如月さんの名前出してた。残業はしないって。」

本当に本当に言ってたらしい?誇張じゃなく?

「もしかして残業を頼まれたのは石神君?」

「うん。」

「あ~、後輩に押し付けたって言ってた。そうなんだ。」

「・・・・楽しかった?」

「うん、ちょっと面白かった。」

詳しくはいえないけど、これから楽しくなりそうなの。
顔を見られた。
私はにっこり笑う。だって本当に・・・・。

しばらくカップを見つめたままの二人。


「石神君、ねえ、また誘ったら迷惑?」

「僕を?」

「うん、一緒に楽しみにしてくれたらって思ったんだけど。あの、時間が合ったらでいいの。」

「うん、もちろん僕は大丈夫だけど・・・・。」

「けど・・・・・?」

言いよどまれると気になる。
見慣れた優しい笑顔でいいよって言ってくれると期待してた自分に気がついた。

「ううん、如月さんが行きたい日を教えてくれれば、いつでも予約取るし。」

「ありがとう。月に一回は行きたい。本当はもっと行きたい。」

「うん、僕はいつでも。」

「ありがとう。」

私も何度もお礼を言った。
でも石神くんの言葉ほどは響かないのかもしれない。
楽しみで笑顔になったのに、石上君はぼんやり私を見ていた。

コーヒーを飲み終わって、片付けてもらった。

歩いて駅まで行く。
地下鉄の同じ駅、すぐにバラバラの路線になるけど。

「如月さん、また筒井さんに会うの?」

「うん、来週浅井さんと同じメンバー四人で約束してる。」

「そうなんだ。」




「じゃあ、ここで。これありがとう。」

紙袋を掲げてお礼を言われた。

「うん、すごく楽しかった。私こそありがとう。又連絡するね。」

「うん。」

そう言って手を振って別れた。

部屋に帰って携帯を出してメッセージを送った。
お礼のメッセージ。

そのままお風呂に入ったら同じような返事が来ていた。
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