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8 もう一人の友達に相談したこと。
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朝、目が覚めたと同時に今日の予定を考えた。
11時頃だったら大丈夫かな?
もちろん石神君に連絡する時間だ。
夜ならそれくらいまでと思ってる。
でも昼って。
家族と暮らしてるし、朝ごはんもちゃんと食べたってこの間も言っていた。
そんなにぐうたらな生活じゃないだろう。
11時にはきっと部屋で本でも読んでるんじゃないだろうか?
ベッドから降りて、もろもろの一人暮らしの家事を済ませて、のんびり紅茶を飲む。
テレビを見ながら化粧も済ませて、でもパジャマのままで。
11時にあと30分。
時計を見てるのも疲れてメッセージを送ってみた。
『石神君、おはようございます。何時ごろに連絡していいかな?』
『おはよう。別に何時でもいいよ。』
すぐに返信が来た。
深呼吸して電話をする。
慣れないことは本当にドキドキしてしまうみたい。
『もしもし、如月さん、おはよう。さっき言ったけど。』
「おはよう。今、大丈夫なの?」
『うん、部屋にいるよ。』
微かに音楽が聞こえる。
ボサノバっぽい。
「音楽聞きながら本を読んでた?」
『うん。あたりです。』
「今日の予定は?」
『別に。特にはないよ。』
「もしかしてすごく時間が空いてる?本もちょっとの時間だったら読まなくて平気なくらい。」
『うん。空いてるよ。気にしなくていいよ。』
どんな顔をして言ってくれてるのか想像がつく。
「昨日帰ってから調べたの。」
『うん、気に入った日あった?』
「ねえ、直接会って話したいって言ったら困る?」
『いつもその言い方だね。困らないよ。だいたい如月さんに言われて困る事なんて・・・何だろう?思いつかない。』
「じゃあ、今日午後、会って一緒に決めていい?」
『うん、そうする?予約も入れちゃおう。』
「ごめんね。読書の邪魔して。」
『別にいいよ。小説とかじゃないから眺めてるだけだし。』
そう言ってくれた。
待ち合わせは13時に。2人の最寄り駅の中間あたりの大きな駅で。
早速洋服を考える。
遅めのランチをするだろうか?
この間とは違う感じの服で、少しラフにまとめた。
時間は適当につぶそう。
用意をして部屋を出る。
先週に引き続きまた土曜日に会うことになったんだ。
私のお気に入りも伝えたいけど、石神君の好みも聞きたい。
トランペットはほとんど、どの日も入ってる。
アクセサリーも控えめにつけて、バッグにタブレットを入れて出かける。
駅ビルの中の上の階に有名な楽器屋があった。
中古から新品まで。
きれいに並べられている。
1人で吹いて様になるのは相当の腕前の人だけ。
遊びの様にメロディーを吹くだけで精いっぱいの私。
もしかして石神君は本当にすごくうまいのかも。
ソロとか任されてたのかな?
トランペットを見る。
シルバーも見るとかっこいいけどやっぱり金色がいい。
最初の日はあの頃の彼が吹く姿を思い出してたのに、今は見たことないのに石神君が吹いてる姿を想像してる。眼鏡も髪型もプライベートな姿の状態で。
ガラスに指を突き見つめる。
中古でもきれいにポリッシュされている。
欲しい、でも練習する場所もない。技術もないけど。
「如月さん。」
後ろから声を掛けられた、誰だかは振り向かなくても分かる。
「こんにちは、石神君。」
手にはお店の袋が握られていた。
「買い物してたの?」
「うん、ちょうど切らしたものがあったから。」
「私もこの中に楽器屋さんがあるって気が付いて来てみました。偶然だったね。」
「本当だね。まだ早いね。もしかして買うとか?」
トランペットを指さされた。
「無理。眺めてるだけ。」
「ねえ、もしかしてトランペット二個以上持ってる?」
「ううん、一個だけだよ。ちょっと高い気に入ったモデルを買ってもらったから、大切に使ってる。」
「やっぱりトランペットが今でも一番好き?」
「そうだね。他にやりたいのはって聞かれたらアルトサックスかな。」
石神君を見る。
さっきまでトランペットを吹いてる姿を思い浮かべてた。
「ごめん、ペットのイメージが付き過ぎて想像できない。」
「そう?ホルン吹いてるところ見たかった。高校生だよね。」
「うん。」
ゆっくり顔を見られた。
恥ずかしいので又楽器に視線を戻す。
二人でゆっくりガラスケースの前を移動する。
しばらくしてお店を出て下に降りる。
「なんだかイメージがこの間とも違うからびっくりした。違う人かもってちょっと思ったりした。」
「そう?ちょっと楽な感じで来ちゃった。」
「似合ってる。」
そう言われた。
普通に、当たり前の様に褒めてくれる。
言われたこっちが照れてるのに。
「お昼は食べた?」
「ううん、食べてない、朝も食べてないかも。」
「じゃあ、どこかで食事する?」
「石神君は?朝ゆっくりじゃなかったの?」
「ううん、9時だったからお腹空いてる。」
「やっぱり早いね。私はその頃寝てました。」
「実家だと起こされるんだよね。」
「ほら、一人暮らしは自由だから。でもぐうたらとも言う。」
「いいね、憧れるけど、大変そう。いろいろやってもらってるから楽。」
「一度も実家を出たことないの?」
「うん、実はずっと実家。」
「そうなんだ。」
良く知らない商店街を歩き素朴なお店を見つけて入る。
ナポリタンとか卵サンドとかありそうと思ったら、ビストロだった。
ランチの時間でお得な価格帯。
早速ランチセットを頼んだ。
「お休みなのにごめんね。ありがとう。」
「いいよ。別に何もすることないから部屋でぼんやりしてるだけだし。」
やっぱり優しい顔のまま言われた。
顔を見て話をしたい。そう思った。
それがちょっとした用事でも。
文字じゃなくて。
ランチを食べて他のお客もいなくなった店内。
会計を済ませて外に出た。
駅の方へ戻りカフェへ入る。
中の席はいっぱいで外のテラス席が空いていたのでそこに座って待つ。
タブレットを出してスケジュールのページを見る。
コーヒーを手に持ってきてくれた石神君に見せる。
「石神君の好きなバンドの日ってないの?」
「うん、特に。トランペットありきがいいけど、たいてい入ってるし。」
「残業とか次の日の事を考えたら週末がいいかなとも思うし。いいよ。如月さんの好きな時で。」
「そう?」
「なんだか、申し訳ないような気がするんだけど。」
「如月さん、そんなに僕に気を遣わなくてもいいのに。もともと僕のお気に入りの場所だし、気に入ってもらえたらうれしい。」
私がタブレットを操作してると言われた。
「だいたい、如月さんにだったら誰でも誘われるのは迷惑なんて思わないと思うよ。」
それは、他の人を誘ってもいいんじゃないって事?
今タブレットには私が選んだ三つの日が付箋ではられてる。
約束だし一つは一緒に行くけど、他の日は別の人を誘って行ってみればってこと?
「だって石神くんが優しいから、でも本当は他にも行きたい日があったりしてって。」
「もともと一人で行くことが多かったし、どうしても行きたかったら一人でも行くと思うけど。だから大丈夫だよ。一緒に聞くのは如月さんの選んだ日でも、全然。」
一人で行きたいの?
だったらそこも誘ってくれてもいいのに。
「僕以外にも誘われたい人はいると思うよ。この間筒井さんが話を聞いてきて、教えたら早速誘いたがってたよ。」
だから誘えばいいって事?
誘われればいいって事?
「でも、石神君は誘ってくれないよね。いつも私が誘う。今日も。」
下を向いたまま、でも今のは失礼だと思い返して。
「あ、ごめんなさい。忘れて・・・ほしい。」
顔を見たけどすぐに視線をそらした。
ちょっと静かなままの間があって。
「それは、僕に期待されても。それは違うから。全然。そんなんじゃない。如月さんも筒井さんも・・・・期待できるけど、僕は違うよ。」
今ゆっくりと、でもはっきりと『友達の中でも随分限られた部分の趣味が合うだけの友達』そう言われた気がした。
趣味のライブに月に一回くらい付き合う友達。
それ以外は一人で行くけど、月一くらいは一緒に行こうって決めてる友達。
だいたい何で筒井さん?
昨日あんなにうれしかったのに。
タブレットに張り付いた付箋をはがされた。
行きたい順番に番号を振って三つ候補をあげている。
「これは予約していい?」
顔を見るといつもの笑顔で聞いてくる。
友達。やっぱり大切な友達だから。
でも、もういい・・・、そう思ってるのに、そこをやめるともう会うことも連絡することもなくなるから。
「お願いします。」
笑顔はないからゆっくりと頭を下げる様にお願いした。
表情を見せないように目の前のコーヒーに手を伸ばす。
買ってもらったコーヒーはちょっとぬるくなっていて。
一口飲むと苦い味だけがした。
昨日の方が楽しかった。
でも今日の方が楽しみだったのに。
結局想像と違って悲しい思いで別れた。
それでもまた会いたいと思うかも。
でも、きっとそれは来月のライブまでないと思う。
帰ってからぼんやりとしてると石神君からメッセージが届いた。
『さっき予約しました。この間の席を取れたよ。』
『ありがとう。』
顔を見て話したいって思ってたのに、文字で良かったかもって思う。
今私は少しもありがとうって顔をしてないと思うから。
月末、月始め、半期締め、年末、年度末。
いくつか忙しい時期がある。
それは分かってるから頑張る。
集中して、残業もして、肩も凝って。
やっと今月も終わった。
少しの間ホッと息をつける。
忙しい間、本当に体も疲労してて、部屋に帰るととりあえず寝た。
余計なことは考えないで。
それでも浅井さんに飲みに付き合って欲しいと連絡はしていた。
どうしても聞いてほしくて、相手は石神君じゃなきゃ浅井さんしかいなくて。
前は聞き役だったから今度は私が。
平日の夜をお願いした。
週末はもしかして筒井さんと飲みに行くかもしれない、そう思って。
あれからどうなったのかは聞けてない。
今は自分のことだけで頭がいっぱいだった。
水曜日、一緒に仕事終わりに待ち合わせて飲みに行った。
前に飲みに行ってから社内でも会えてなかった。
顔を見てちょっとびっくりされた。
「忙しかったの?」
「うん、月末がひどかった。」
そう言った。
そうじゃなくても少し食欲もない。
前と同じ店に入りお酒を注文する。
少し食べるものを頼んで、まず食べる。
「ねえ、今日の昼に瀬野尾君が来たんだけど。一緒に同期会に参加して欲しいって。連絡先教えてないからお知らせが回ってこなかったでしょう?」
「うん、今初めて聞いた。いつ?」
「来週の金曜日。」
そう言われた。予定を見るまでもなく空いてる。
そして次の日はライブの予約をした日。
「どう?行く?」
「誰が来るのかな?」
「だいたいこの間と同じメンバー。」
「石神君は?」
思わず聞き返したのがそのことだった。
近くにいて欲しい。まだまだ慣れないし、近くにいて欲しい。
浅井さんには頼みにくい。
「分からない。そんなの舞が聞いたら?」
浅井さんはすっかり呼び捨てで呼んでくれる。
でも私は浅井さんのまま。『ゆかり』と呼んだことはない。
「聞いてみなよ。すぐ返事来るかも。そうしたら二人分瀬野尾君に返事しておくから。」
そう言われた。
携帯を出して開く。
最後にメッセージを送ったのは随分前。
打ち合わせに誘った日のお礼の一言だった。
『お疲れ様です。突然ごめんなさい。浅井さんと飲んでます。来週の同期会参加するの?』
しばらく画面を見てたけど読んでくれてないみたい。
家族と食事してるのかも。
「元気ないね。何か相談事だった?」
「うん・・・・。」
「何?」
お酒を手にしてゆっくり待ってくれてるのが分かる。
「最近、好きな人が出来た。そう思ったのに、すぐに振られたみたい。」
「なんで、何か言ったの?」
「自分に期待されても、全然違うからって、そんなんじゃないって言われた。」
決して冷たい声でもない。
優しくやんわりと断られた私。
だから、もう、誘うことは出来なくなった。
許されてるのは月一回、あのライブハウスだけ。そうなった。
欲張ってもっと会いたいって思ったら、はっきりそう制限されたみたい。
それすらも他の人と行っても構わないっていう言い方をされた。
「ちゃんと言ったの?」
「誘って欲しいって言った。迷惑じゃなければ私からばかり誘うんじゃなくて、誘ってもらいたいって。そう話したらそう言われた。」
「ねえ、相手に心当たりがあるんだけど、言いたくない?間違ってる?」
首を振る。
「そう。」
忘れていた携帯が着信を知らせる。
気が付いて読んでくれたみたい。
『誘われたから行くって返事したんだ。如月さんも行く?』
画面を見せた。
「普通だね。」
そういう浅井さん。
そう、まったく。私があっさり振られて悲しんでるのに、全然普通に、気が付いてないように付箋を外して予約するねって言った石神君。
その後の少しのやり取りも全然変わりなくて。
もし行くよって言ったら気まずいって思うの?
次の日には会うけど。
「返事した方がいいよ。」
浅井さんにそう言われた。
『行こうと思います。知らない人ばかりだと不安だから、近くにいていい?次の日は約束のライブの日なので時間などまた決めたいと思うんだけど。いいかな?』
一緒に参加したいと言いたかった、月一の約束のことも話したいからって。
すぐに返事はきた。
『そうだね、また一緒に飲もう。楽しみにしてる。じゃあその時に土曜日のことは決めよう。』
また返信を見せた。
「ねえ、やっぱり伝わってないんじゃない?全然解釈が違って誤解してるとか?」
「分からない。」
そうだったらどんなにいいか。
「私が動いていいならちょっと確認してみようか?一緒に飲んでるって知ってるから、振ったつもりでいるなら相談されてるって分かってると思うよ。」
視線を携帯からはがして浅井さんを見る。
自分の中でもどうしていいか分からない。
私はどんな顔をしてる?
頭を撫でられた。
「クールじゃなくて単に不器用なのにね。」
「じゃあ、ちょっとだけ探りを入れてみる。任せて。私は借りがあるしね。」
あの不倫のことだろう、まさか筒井さんのことじゃない?
その話は出ない。
進展があっても気をつかって言いにくいかな?
少し酔って、ちょっと泣き出したところでお酒は止められた。
お水をもらって飲んで、トイレを済ませて強烈ミントの飴をもらって別れた。
11時頃だったら大丈夫かな?
もちろん石神君に連絡する時間だ。
夜ならそれくらいまでと思ってる。
でも昼って。
家族と暮らしてるし、朝ごはんもちゃんと食べたってこの間も言っていた。
そんなにぐうたらな生活じゃないだろう。
11時にはきっと部屋で本でも読んでるんじゃないだろうか?
ベッドから降りて、もろもろの一人暮らしの家事を済ませて、のんびり紅茶を飲む。
テレビを見ながら化粧も済ませて、でもパジャマのままで。
11時にあと30分。
時計を見てるのも疲れてメッセージを送ってみた。
『石神君、おはようございます。何時ごろに連絡していいかな?』
『おはよう。別に何時でもいいよ。』
すぐに返信が来た。
深呼吸して電話をする。
慣れないことは本当にドキドキしてしまうみたい。
『もしもし、如月さん、おはよう。さっき言ったけど。』
「おはよう。今、大丈夫なの?」
『うん、部屋にいるよ。』
微かに音楽が聞こえる。
ボサノバっぽい。
「音楽聞きながら本を読んでた?」
『うん。あたりです。』
「今日の予定は?」
『別に。特にはないよ。』
「もしかしてすごく時間が空いてる?本もちょっとの時間だったら読まなくて平気なくらい。」
『うん。空いてるよ。気にしなくていいよ。』
どんな顔をして言ってくれてるのか想像がつく。
「昨日帰ってから調べたの。」
『うん、気に入った日あった?』
「ねえ、直接会って話したいって言ったら困る?」
『いつもその言い方だね。困らないよ。だいたい如月さんに言われて困る事なんて・・・何だろう?思いつかない。』
「じゃあ、今日午後、会って一緒に決めていい?」
『うん、そうする?予約も入れちゃおう。』
「ごめんね。読書の邪魔して。」
『別にいいよ。小説とかじゃないから眺めてるだけだし。』
そう言ってくれた。
待ち合わせは13時に。2人の最寄り駅の中間あたりの大きな駅で。
早速洋服を考える。
遅めのランチをするだろうか?
この間とは違う感じの服で、少しラフにまとめた。
時間は適当につぶそう。
用意をして部屋を出る。
先週に引き続きまた土曜日に会うことになったんだ。
私のお気に入りも伝えたいけど、石神君の好みも聞きたい。
トランペットはほとんど、どの日も入ってる。
アクセサリーも控えめにつけて、バッグにタブレットを入れて出かける。
駅ビルの中の上の階に有名な楽器屋があった。
中古から新品まで。
きれいに並べられている。
1人で吹いて様になるのは相当の腕前の人だけ。
遊びの様にメロディーを吹くだけで精いっぱいの私。
もしかして石神君は本当にすごくうまいのかも。
ソロとか任されてたのかな?
トランペットを見る。
シルバーも見るとかっこいいけどやっぱり金色がいい。
最初の日はあの頃の彼が吹く姿を思い出してたのに、今は見たことないのに石神君が吹いてる姿を想像してる。眼鏡も髪型もプライベートな姿の状態で。
ガラスに指を突き見つめる。
中古でもきれいにポリッシュされている。
欲しい、でも練習する場所もない。技術もないけど。
「如月さん。」
後ろから声を掛けられた、誰だかは振り向かなくても分かる。
「こんにちは、石神君。」
手にはお店の袋が握られていた。
「買い物してたの?」
「うん、ちょうど切らしたものがあったから。」
「私もこの中に楽器屋さんがあるって気が付いて来てみました。偶然だったね。」
「本当だね。まだ早いね。もしかして買うとか?」
トランペットを指さされた。
「無理。眺めてるだけ。」
「ねえ、もしかしてトランペット二個以上持ってる?」
「ううん、一個だけだよ。ちょっと高い気に入ったモデルを買ってもらったから、大切に使ってる。」
「やっぱりトランペットが今でも一番好き?」
「そうだね。他にやりたいのはって聞かれたらアルトサックスかな。」
石神君を見る。
さっきまでトランペットを吹いてる姿を思い浮かべてた。
「ごめん、ペットのイメージが付き過ぎて想像できない。」
「そう?ホルン吹いてるところ見たかった。高校生だよね。」
「うん。」
ゆっくり顔を見られた。
恥ずかしいので又楽器に視線を戻す。
二人でゆっくりガラスケースの前を移動する。
しばらくしてお店を出て下に降りる。
「なんだかイメージがこの間とも違うからびっくりした。違う人かもってちょっと思ったりした。」
「そう?ちょっと楽な感じで来ちゃった。」
「似合ってる。」
そう言われた。
普通に、当たり前の様に褒めてくれる。
言われたこっちが照れてるのに。
「お昼は食べた?」
「ううん、食べてない、朝も食べてないかも。」
「じゃあ、どこかで食事する?」
「石神君は?朝ゆっくりじゃなかったの?」
「ううん、9時だったからお腹空いてる。」
「やっぱり早いね。私はその頃寝てました。」
「実家だと起こされるんだよね。」
「ほら、一人暮らしは自由だから。でもぐうたらとも言う。」
「いいね、憧れるけど、大変そう。いろいろやってもらってるから楽。」
「一度も実家を出たことないの?」
「うん、実はずっと実家。」
「そうなんだ。」
良く知らない商店街を歩き素朴なお店を見つけて入る。
ナポリタンとか卵サンドとかありそうと思ったら、ビストロだった。
ランチの時間でお得な価格帯。
早速ランチセットを頼んだ。
「お休みなのにごめんね。ありがとう。」
「いいよ。別に何もすることないから部屋でぼんやりしてるだけだし。」
やっぱり優しい顔のまま言われた。
顔を見て話をしたい。そう思った。
それがちょっとした用事でも。
文字じゃなくて。
ランチを食べて他のお客もいなくなった店内。
会計を済ませて外に出た。
駅の方へ戻りカフェへ入る。
中の席はいっぱいで外のテラス席が空いていたのでそこに座って待つ。
タブレットを出してスケジュールのページを見る。
コーヒーを手に持ってきてくれた石神君に見せる。
「石神君の好きなバンドの日ってないの?」
「うん、特に。トランペットありきがいいけど、たいてい入ってるし。」
「残業とか次の日の事を考えたら週末がいいかなとも思うし。いいよ。如月さんの好きな時で。」
「そう?」
「なんだか、申し訳ないような気がするんだけど。」
「如月さん、そんなに僕に気を遣わなくてもいいのに。もともと僕のお気に入りの場所だし、気に入ってもらえたらうれしい。」
私がタブレットを操作してると言われた。
「だいたい、如月さんにだったら誰でも誘われるのは迷惑なんて思わないと思うよ。」
それは、他の人を誘ってもいいんじゃないって事?
今タブレットには私が選んだ三つの日が付箋ではられてる。
約束だし一つは一緒に行くけど、他の日は別の人を誘って行ってみればってこと?
「だって石神くんが優しいから、でも本当は他にも行きたい日があったりしてって。」
「もともと一人で行くことが多かったし、どうしても行きたかったら一人でも行くと思うけど。だから大丈夫だよ。一緒に聞くのは如月さんの選んだ日でも、全然。」
一人で行きたいの?
だったらそこも誘ってくれてもいいのに。
「僕以外にも誘われたい人はいると思うよ。この間筒井さんが話を聞いてきて、教えたら早速誘いたがってたよ。」
だから誘えばいいって事?
誘われればいいって事?
「でも、石神君は誘ってくれないよね。いつも私が誘う。今日も。」
下を向いたまま、でも今のは失礼だと思い返して。
「あ、ごめんなさい。忘れて・・・ほしい。」
顔を見たけどすぐに視線をそらした。
ちょっと静かなままの間があって。
「それは、僕に期待されても。それは違うから。全然。そんなんじゃない。如月さんも筒井さんも・・・・期待できるけど、僕は違うよ。」
今ゆっくりと、でもはっきりと『友達の中でも随分限られた部分の趣味が合うだけの友達』そう言われた気がした。
趣味のライブに月に一回くらい付き合う友達。
それ以外は一人で行くけど、月一くらいは一緒に行こうって決めてる友達。
だいたい何で筒井さん?
昨日あんなにうれしかったのに。
タブレットに張り付いた付箋をはがされた。
行きたい順番に番号を振って三つ候補をあげている。
「これは予約していい?」
顔を見るといつもの笑顔で聞いてくる。
友達。やっぱり大切な友達だから。
でも、もういい・・・、そう思ってるのに、そこをやめるともう会うことも連絡することもなくなるから。
「お願いします。」
笑顔はないからゆっくりと頭を下げる様にお願いした。
表情を見せないように目の前のコーヒーに手を伸ばす。
買ってもらったコーヒーはちょっとぬるくなっていて。
一口飲むと苦い味だけがした。
昨日の方が楽しかった。
でも今日の方が楽しみだったのに。
結局想像と違って悲しい思いで別れた。
それでもまた会いたいと思うかも。
でも、きっとそれは来月のライブまでないと思う。
帰ってからぼんやりとしてると石神君からメッセージが届いた。
『さっき予約しました。この間の席を取れたよ。』
『ありがとう。』
顔を見て話したいって思ってたのに、文字で良かったかもって思う。
今私は少しもありがとうって顔をしてないと思うから。
月末、月始め、半期締め、年末、年度末。
いくつか忙しい時期がある。
それは分かってるから頑張る。
集中して、残業もして、肩も凝って。
やっと今月も終わった。
少しの間ホッと息をつける。
忙しい間、本当に体も疲労してて、部屋に帰るととりあえず寝た。
余計なことは考えないで。
それでも浅井さんに飲みに付き合って欲しいと連絡はしていた。
どうしても聞いてほしくて、相手は石神君じゃなきゃ浅井さんしかいなくて。
前は聞き役だったから今度は私が。
平日の夜をお願いした。
週末はもしかして筒井さんと飲みに行くかもしれない、そう思って。
あれからどうなったのかは聞けてない。
今は自分のことだけで頭がいっぱいだった。
水曜日、一緒に仕事終わりに待ち合わせて飲みに行った。
前に飲みに行ってから社内でも会えてなかった。
顔を見てちょっとびっくりされた。
「忙しかったの?」
「うん、月末がひどかった。」
そう言った。
そうじゃなくても少し食欲もない。
前と同じ店に入りお酒を注文する。
少し食べるものを頼んで、まず食べる。
「ねえ、今日の昼に瀬野尾君が来たんだけど。一緒に同期会に参加して欲しいって。連絡先教えてないからお知らせが回ってこなかったでしょう?」
「うん、今初めて聞いた。いつ?」
「来週の金曜日。」
そう言われた。予定を見るまでもなく空いてる。
そして次の日はライブの予約をした日。
「どう?行く?」
「誰が来るのかな?」
「だいたいこの間と同じメンバー。」
「石神君は?」
思わず聞き返したのがそのことだった。
近くにいて欲しい。まだまだ慣れないし、近くにいて欲しい。
浅井さんには頼みにくい。
「分からない。そんなの舞が聞いたら?」
浅井さんはすっかり呼び捨てで呼んでくれる。
でも私は浅井さんのまま。『ゆかり』と呼んだことはない。
「聞いてみなよ。すぐ返事来るかも。そうしたら二人分瀬野尾君に返事しておくから。」
そう言われた。
携帯を出して開く。
最後にメッセージを送ったのは随分前。
打ち合わせに誘った日のお礼の一言だった。
『お疲れ様です。突然ごめんなさい。浅井さんと飲んでます。来週の同期会参加するの?』
しばらく画面を見てたけど読んでくれてないみたい。
家族と食事してるのかも。
「元気ないね。何か相談事だった?」
「うん・・・・。」
「何?」
お酒を手にしてゆっくり待ってくれてるのが分かる。
「最近、好きな人が出来た。そう思ったのに、すぐに振られたみたい。」
「なんで、何か言ったの?」
「自分に期待されても、全然違うからって、そんなんじゃないって言われた。」
決して冷たい声でもない。
優しくやんわりと断られた私。
だから、もう、誘うことは出来なくなった。
許されてるのは月一回、あのライブハウスだけ。そうなった。
欲張ってもっと会いたいって思ったら、はっきりそう制限されたみたい。
それすらも他の人と行っても構わないっていう言い方をされた。
「ちゃんと言ったの?」
「誘って欲しいって言った。迷惑じゃなければ私からばかり誘うんじゃなくて、誘ってもらいたいって。そう話したらそう言われた。」
「ねえ、相手に心当たりがあるんだけど、言いたくない?間違ってる?」
首を振る。
「そう。」
忘れていた携帯が着信を知らせる。
気が付いて読んでくれたみたい。
『誘われたから行くって返事したんだ。如月さんも行く?』
画面を見せた。
「普通だね。」
そういう浅井さん。
そう、まったく。私があっさり振られて悲しんでるのに、全然普通に、気が付いてないように付箋を外して予約するねって言った石神君。
その後の少しのやり取りも全然変わりなくて。
もし行くよって言ったら気まずいって思うの?
次の日には会うけど。
「返事した方がいいよ。」
浅井さんにそう言われた。
『行こうと思います。知らない人ばかりだと不安だから、近くにいていい?次の日は約束のライブの日なので時間などまた決めたいと思うんだけど。いいかな?』
一緒に参加したいと言いたかった、月一の約束のことも話したいからって。
すぐに返事はきた。
『そうだね、また一緒に飲もう。楽しみにしてる。じゃあその時に土曜日のことは決めよう。』
また返信を見せた。
「ねえ、やっぱり伝わってないんじゃない?全然解釈が違って誤解してるとか?」
「分からない。」
そうだったらどんなにいいか。
「私が動いていいならちょっと確認してみようか?一緒に飲んでるって知ってるから、振ったつもりでいるなら相談されてるって分かってると思うよ。」
視線を携帯からはがして浅井さんを見る。
自分の中でもどうしていいか分からない。
私はどんな顔をしてる?
頭を撫でられた。
「クールじゃなくて単に不器用なのにね。」
「じゃあ、ちょっとだけ探りを入れてみる。任せて。私は借りがあるしね。」
あの不倫のことだろう、まさか筒井さんのことじゃない?
その話は出ない。
進展があっても気をつかって言いにくいかな?
少し酔って、ちょっと泣き出したところでお酒は止められた。
お水をもらって飲んで、トイレを済ませて強烈ミントの飴をもらって別れた。
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いつからか音信不通に。
あんなにうっとうしいほど構ってきた男が――
なぜ突然、私を無視するの?
不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、
突然ルイスが帰還した。
ボロボロの身体。
そして隣には――見知らぬ女。
勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、
私の中で何かが壊れた。
混乱、絶望、そして……再起。
すがりつく女は、みっともないだけ。
私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。
「私を簡単に捨てられるとでも?
――君が望んでも、離さない」
呪いを自ら解き放ち、
彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。
すれ違い、誤解、呪い、執着、
そして狂おしいほどの愛――
二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。
過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。
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