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21 許されたことと伝えたいこと。
しおりを挟む日曜日、朝食事をして終わった後もしばらくそのままそこにいた。
「父さんは?」
「昨夜遅かったから。もう少ししたら起こすから、何か話があるの?」
「うん、あるよ。」
「今日の予定は何か言ってた?」
「ううん、聞いてないから大丈夫じゃない。」
探るような母親の目。
「頑張って、わがまま言ってみれば。」
まるですべて分ってるようなことを言う。
目を見て思った。
分かってるかもと。
昨日父親も母親に言ったのかもしれない。
書類を見せられたのかもしれない。
『どう思うか?』
そんな一言でもあったのなら可能性はあるが、あまり期待するとがっかりするだけだ。
「じゃあ、食事が終わったら教えて。少し部屋に行ってる。」
「分かったわ。」
着替えをして携帯を見る。
起きたらしい。
急いでメッセージを入れようとして考える。
『おはよう。後で連絡するからちょっと待っててほしい。』
出かける用意はしておく。
夜の七時まで。
その間の時間をどう使うか。
結局待てずに下に降りた。
父親が新聞を広げて食事をする前だった。
「おはようございます。食事のあと時間をもらえますか?」
基本はこんな言葉使いだ。誰もが。
新聞を折りたたんで疲れた顔を見せる。
「昨日はお疲れさまでした。遅くまででお疲れのところ申し訳ありませんが、時間をいただけませんか?」
「分かってる。」
「ありがとうございます。」
もう一度部屋に行く。
どうせあと30分はかかる。
音楽をかけて椅子に座り込む。
いつもの音楽も少しも心に響かない。
落ち着かない。
雑誌をめくっても指も目も滑るだけ。
もし許されたならば、彼女を誘ってあのホテルに泊まってもいい。
すごく久しぶりだ。
七時にロビーに降りて行けばいい。
優待券はまだまだある。
母親が使うのは食事券で宿泊券は余る
何枚かは自分がもらっていた。
もし許されない場合は・・・・。
どうしようか。
とりあえず兄を味方にできるかどうか。
母親は表立っては父親には逆らえないだろう。
ため息が出るが、乗り越えるしかない。
下に降りると珍しくもう食事を終えたようだ。
テーブルの上にはコーヒーと封書があった。
分厚い気がする書類。
「涼太、コーヒーいれるから、座りなさい。」
母親が二人分のコーヒーを持って自分も父親の隣に座る。
二対一。やっぱり分が悪い。
父親が書類を滑らせてきた。
開けて手に取ってみる。
テツヤが届けた書類だった。
いい仕事をしたらしい。
平日の彼女の行動パターン、分析と傾向・・・・というほど何もなく。
食材の買い物だけで、ほぼ直帰する毎日。
本当にどこにも寄ってないらしい。
週末の行動は自分込みで。
さっきまでの彼女一人の隠し撮りとは違う。
こっちの写真は自分も写っている。
客観的にみると楽しそうな自分と彼女。
どこにでもいるカップルだ。
あとはお兄さんの家族と詳細。
神奈川のご両親についての詳細。
テツヤは優美さんとも話をしたらしい。
両親ともに好印象と家族の仲の良さのエピソードなども添えられている。
テツヤにそんな特技があったのか。
もちろん彼女の過去にも調べが及んでいた。
高校の頃の話、彼氏の話があった。
吹奏楽部トランペット担当の彼氏がいたと。
だから・・・・。
最初のきっかけは確かにトランペットの話だった。
納得した。好きだと言っていた。
その後の大学生の頃の話。1人お付き合いした人がいるらしい。
会社での勤務態度。
この辺りは上司に情報をもらったのだろう。
勤務態度はすこぶる良好だ。
結果、どこにも取り立ててあげるような問題はなしと締めくくられていた。
履歴書も同封されていた。
リクルート用の写真だ。
シンプルなかっこうをしているのは今と変わらないくらい。
それでも印象は大分変わった。
最初の頃よりは随分変わったのに、会社ではほとんど気が付かれてないようだ。
彼女の変化も、自分とのことも。
書類を封筒に乗せたまま返す。
「お調べの通りです。お付き合いして、一年です。自分の立場は気が付いてないと思います。彼女に限らずに誰も気が付いてないでしょう。」
「何かこれで分かりますか?」
「いい社員だと言うことだけじゃないですか?」
「彼女のお兄さんとお嫁さん、その子供にも会ってます。ふたりで何度か家にお邪魔して子守をしてます。その間に夫婦の時間をプレゼントしたり。それほど仲がいいんです。子供も可愛いです。」
「自分にどうしろと言いたいんですか?」
繰り返し聞いてみても父親は表情も変えずにいるままで。
どう思ってるのか全く分からない。
「どうしたいんだ。」
やっと聞こえてきた言葉はそれだった。
可能性があるというのか?
認めないという時はすべての言葉を否定される。
それでも安心はできないし、簡単にあきらめるわけにもいかない。
「まだ、先の話はしてません。でもこのまま一緒にいたいと思ってます。姪っ子の繭ちゃんを抱いてお兄さんの部屋で食事をしてたりすると、自分でも信じられないくらい自然だと思います。あまりに馴染み過ぎてお兄さん夫婦にびっくりされたくらいです。彼女もビックリしてました。」
「でも、今では自分は簡単に想像できます。だからそのつもりです。」
父親が口を開かずに母を見た。
「もちろん賛成です。すごく変わりました。いい風に。すごく楽しいのが伝わってきます。反対しても無理でしょうし、この書類にも反対する理由は一つもないです。」
「ありがとうございます。」母親に頭を下げた。
そのまま父を見る。
「望むように。相手が変わったらまた違うかもしれないが。」
「許してもらえるんですか?」
「もともと反対はしない。自分の相棒くらいは自力で見つけ出せないでどうする。」
「・・・・・ありがとうございます。」
頭を下げた。
涙が出てきて顔をあげられない。
父親が席を立つ音がした。
「話は終わりでいいか?」
「はい、ありがとうございました、・・・父さん。」
頭を下げたまま礼を言った。
足音を聞いて顔をあげる。
「もう、せっかく褒めたんだから。しっかりして。」
そういう母親も涙目で。
「そのうち紹介してね。」
「うん。」
「ありがとう、母さん。」
「あなたが良くても舞さんがどう思ってるかはわからないわよ。きれいな人だし、せいぜい振られないようにね。」
「うん。」
席を立って二階へ駆けていく。
部屋に入り携帯を取り電話をした。
しばらくのコール音の後、彼女の声がした。
「舞、会いたい。話があるんだ。今から部屋に行くから。いいよね?」
『うん。』
「じゃあ、今から出る。」
そう言って電話を切って駅に向かった。タクシーでもいいけど結局電車の方が早い。
「あ、・・・・・ホテルに泊まるつもりだったのに、何も持ってない。」
急ぎ過ぎた。
どうしようかと思ったがとりあえず改札をくぐる。
急いで彼女の部屋に行きその勢いで部屋の中に入れてもらった。
最短記録かもしれない。
ただびっくりすると思ったのに、元気のないまま迎え入れられた。
顔も腫れぼったい。
「舞、どうしたの?具合悪い?」
じっと見つめられた。
「ううん。涼太こそどうしたの?座って。」
「うん。」
お茶を入れてくれる彼女。自分も落ち着く。
母親の言う通りだ。
まだ肝心なところはこれからだ。
お茶を二人分持ってきて少し距離を開けて座る彼女。
「舞、ちょっと長い話があるんだけど。体調は大丈夫なの?別の日にしてもいいけど・・・・出来たら今日話したいんだ。」
「大丈夫。私も話がある。」
「僕から話してもいい?」
「どうぞ。」
「昨日父と兄の会社の創立記念日で出席してた。」
そう言ったら思いっきり顔を下に向けられた。
何も言わない彼女。
もしかして知ってた?
「そこで同級生にあった。小学校の頃仲良くしてたのに急に家庭の環境が変わって、凄い久しぶりに会った。うちの…兄の会社の社員だった。仕事でそこに来てたんだけど、その仕事を依頼したのは父親だった。調査部という部署に配属になっていた。」
やはり無言だ。
でもちらりと顔をあげた。
「舞には気が付かれたみたいだって言ってた。調査した日にちも預かってきた。ストーカーと勘違いして怯えさせてたら悪かったって、謝ってくれって言われた。」
テツヤが書いたメモを目の前に置いた。
見てるのは分かる。
「お兄さん家族とご両親のことも触れられていた。お義姉さんもご両親も気が付いてないと思う。自然に仲良くなる風にして話しかけたらしい。」
「申し訳ないと思ってる。こんなことを勝手に調べられて。写真もあったらしい。週末は二度にわたって自分の写真も撮られたらしい。」
書類は見せてもらったけど知らない振りを続ける。
「今朝、父親と話をした。母親もいた。もちろん調べてもらった書類で舞のことはちょっとは分かってもらったと思う。それでもそれだけじゃわからないから質問はないのかって聞いた。何も言われなかった。逆にどうしたいんだと聞かれたからこのまま一緒にいたいと言った。」
さすがに顔をあげてくれた。
「結論は反対なんてされなかったよ。自分の相棒くらい見つけ出せないでどうするんだって言われた。母さんはまだ何も話してないんだったら振られないようにしなさいって。」
「知ってたの?いろいろ。」
彼女が顔をあげたまま視線を逸らす。
「偶然、兄が気が付いたの。いろんな会社にスポンサー依頼をしようって動いてるらしくて、親会社の二人が同じ名字だけどって。それから家族写真がネットで出てきて、名前も一緒、面影もあった。」
「見たの、その写真。」
「うん、信じないだろうからって。一番それが確実に分かるからって。自宅だと思う。大きなスピーカーのある部屋でお母さんも写ってた。お母さんに似てるんだね。」
「そうかもしれない。」
父親の要素は全部兄に行った。
「昨日会社の創立記念日だって事も、パーティーがあるから参加してるんじゃないかってことまで言われた。」
「すごいね。お兄さんは、きっと舞のためだよね。」
「お兄さんとお義姉さんは何て言ってるの?」
「覚悟はしておけって言われた。優美さんは応援するって言ってくれた。知らない人がついて来てる気がしたり、写真撮られたり、何だか気持ち悪くて、それも我慢してたけど優美さんだけには言った。調べられてるかもしれないって分かって嫌な気持ちは変わらなかったけど、少しは安心できたから。今は全く気配はないし。」
「ごめん、本当に何も気が付いてやれなくて。テツヤにも鈍いって言われた。それにテツヤは応援してくれるって言ってくれた。書類を書いた締めの言葉も褒めたって。いい社員だって言われてるからって。でも、本当にごめん。」
首を振る彼女。
半分プロポーズしたようなものなのに、どうしたらいいんだろう?
それともはっきり言った方がいいのだろうか。
今ここでプロポーズしてもいいのだろうか?
分からないけど体を寄せて抱きしめた。
「今日の夜、兄に会うんだ。まさか親父に反対されないなんて、期待してなかったから。報告したいんだ。心配してるテツヤにも。」
「舞、結婚したい。母親も会いたいって。返事は急がないけど今すぐにもらえたら嬉しい。今度は期待したいんだ。せっかく許されたんだから。ねえ、またちゃんとするけど、安心したい。ダメ?」
体を離して見つめる。
「本当にいいと思う?」
「うん、思うよ。父親には、もし相手が変わったら前言撤回でまた調べてから考えるからって言われた。舞ならいいって家族が思ってくれてる。兄も書類を見たかも。それは分からないけど反対はされないから。」きっと。
「うん、一応OKします。」
「舞、一応って何?」
「だって今じゃない。もっと違うところで、ちゃんとした時にお願いします。」
「分かった。今度改めて。でも報告していい?」
「うん、私も兄たちに。」
取りあえず良かった。
「ねえ、今日あの最初のホテルで19時に兄に会うんだ。また泊まらない?ホテルから出勤しない?近いからゆっくりできるよ。」
「お祝いしたい。記念日。本社の創立祭の後って絶対忘れないから。」
返事なんてどうでもいいくらい舞い上がってた。
多分返事してくれたんだと思う。
仕事用のバッグを持って着替えももって。
荷物を揃え始めたから。
何か気になった気がしたけど、今はいいか。
取りあえず母さんと、テツヤと・・・・それだけか?・・・・報告した。
きっと彼女も。
迷惑をかけた人々に会って謝りたい。
せめてテツヤがいい印象を残したという言葉を信じたい。
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