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2 謝るしかない、そう思って頭を下げた夜。
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4月の末に近い頃。
歓迎会では新人の席の中に一人座らされて、一緒に主役扱いだった。
少しだけの疎外感も感じながら、少しだけ若い子達と交わりながらも、ぼんやりしてマイペースに飲んでいた。
斜めの席に来た辺見さん 。
仕事を教えてもらい、覚えてからもわからないことは一番に聞きに行っていたから男性の中では一番話をしてる先輩だった。
軽くあいさつのような言葉を交わして、辺見さんは新人にも声をかけた。
新人が話しかけてきて、しばらくそれを聞いていた。
「辺見さん、おいくつですか?」
新人の事情聴取が始まった。
その後も遠慮と言う壁越しの質問から始まったが、その内壁を乗り越えプライベートをズケズケと聞かれてる。
律儀に答えてたりしてるのだ。
一つ上らしい・・・・もっと上かと思ったのに。
出身は東京。
ただ、小さい頃住んでた最寄り駅は私の実家と同じ駅だった事実にビックリ。
小学生になる時に都内の別の場所に引っ越していったらしい。
現在一人暮らしらしいが同居人の有無については秘密らしい。
意外にも子どものころはもっと小さい方だったらしい。
小学生になる時に空手と水泳を強制的に習わされて、それなりに逞しくなったらしい。
確かに見た目はそんな細い感じじゃない。
嬉しそうに笑っている雰囲気。
聞いてる新人たちも楽しそうだった。
そんな雰囲気を横顔で聞きながらお酒を飲んでいた。
一通り質問タイムが終わるといろんな人の話になる。
その内全然関係ない知らない人の話に。
さり気なく席を立ちトイレに行った。
あの席から動けば、もっと仲良く話が出来る人も少しはいた。
女性の先輩にも仲良くしてもらっていた。
ただ、今更で、別にいいかとも思って、ずっと同じ場所にいた。
途中から席を動くにもタイミングが難しい。
料理はどのくらい進んだんだろう。
あと少しかもしれない。
皆食べるより飲む方らしい。
にぎやかな酔っ払いの宴会だった。
それはどこの課もあまり変わりない。
のんびりと手を洗い、急ぐでもなく鏡の前で顔を緩ませる。
さすがにつまらない顔は出来ない。
やっぱりあの席から動こうかな。
そう思って部屋に戻ろうとしたら、丁度同じタイミングで出てきた辺見さんと会った。
「寒川さん。お疲れ様。」
「お疲れ様です。新人にいろいろ聞かれてましたね。」
「ああ、そうだね。遠慮がないね。」
「その割には楽しそうに答えてた気がしますよ。辺見さんが一つ上って言うのは意外でした。もう少し上だと思ってました。」
そう言ったらちょっと不服そうな顔をしたので急いで付け加えた。
「ああ、別に見た目とかじゃなくて、なんとなくいろいろ教えてもらっていたので落ち着いてるイメージがあって。もっと先輩だと思ってました。そう言う意味です。」
「そう?」
「はい。」
「辺見って名前だけど。」
「はい?」
わざわざ言われた。
もしかして・・・・。
「私は間違えましたか?すみません、まったく気がついてないです。辺見さんといつも呼んでたつもりでしたが。」
「間違ってはいないよ。・・・・『ネネちゃん』だよね。」
いきなり下の名前で呼ばれてびっくりした。
辺見さんも間違ってないですが。何ですか?
「『ホウイチ』って名前も珍しいと思わない?」
軽く頷く。確かに珍しい、私の名前より珍しいと思う。
「小さいときに隣に住んでた一個下の女の子がうまく言えなかったのかな?『ポウチ』って呼ばれてたんだけど。」
ポウチ?
ポウチ!!
ポチ???
待って、そんな名前だった?『辺見さん一家』だった?
分からない。知らない。
気にした事もなかったし、おばさんが仕事をしてたから、いつもポチは私の家にいたんだし。
それに・・・・・『ポチ』としか知らない。
そっと顔を見たら笑われた。
シマッタ・・・・・・。
「すみませんでした。」
思いっきり腰を折り、とりあえず謝った。
何をって・・・・小さい頃の非道の数々を。
忘れていた思い出の数々が、幼いポチの悔しそうな顔とともに浮かんでくる。
もちろんお菓子分け合いの場面なんて平和なものではなく・・・・謝罪すべき場面の数々。
半分以上忘れてるかも、でも私が忘れても、あの時一つ上だった辺見さんは明らかに私よりは覚えてるんだろう。
「いろんな話は終わってからできるよね。」
そのセリフをどんな表情で言われてるのか、見れなかった。
「お願いします。」
ただ一言お辞儀のままそう言った。
今日は厄日でしょうか?
それとも因果は時間をかけてめぐるということでしょうか?
お辞儀のまま動けない私を残して、いなくなった辺見さん。
もうあの席にも戻れない。
辺見さんがいなくならない限り、それは無理。
トイレに入り直した。
いつ気がついたんだろう?
そしてなんで気がつかないのかと思っただろうか?
ムカついただろうか?
時々意味ありげに伺われていた視線を思い出す。
すっかり身勝手なふるまいの数々を、すっぽりきれいに忘れてるようなかつての小生意気な隣人。
ああ、親切な先輩だと思ってたけど、さすがに言いたくなったらしい。
言いたいことは分かる。
『さあ、思い出せ!!あの頃の傲慢な態度を謝って然るべきだろう!!』と。
さっきより大きなため息をついて席に戻った。
まず自分の席を見たけど、辺見さんは既にいなかった。
どこかへ動いているらしい。
ならやっぱり私は動けない。
大人しく自分の席に座り、ぼんやりとウーロン茶を飲んだ。
もはや飲む気も食欲もどこかへ。
この後の時間を思って心が重くなった。
歓迎会では新人の席の中に一人座らされて、一緒に主役扱いだった。
少しだけの疎外感も感じながら、少しだけ若い子達と交わりながらも、ぼんやりしてマイペースに飲んでいた。
斜めの席に来た辺見さん 。
仕事を教えてもらい、覚えてからもわからないことは一番に聞きに行っていたから男性の中では一番話をしてる先輩だった。
軽くあいさつのような言葉を交わして、辺見さんは新人にも声をかけた。
新人が話しかけてきて、しばらくそれを聞いていた。
「辺見さん、おいくつですか?」
新人の事情聴取が始まった。
その後も遠慮と言う壁越しの質問から始まったが、その内壁を乗り越えプライベートをズケズケと聞かれてる。
律儀に答えてたりしてるのだ。
一つ上らしい・・・・もっと上かと思ったのに。
出身は東京。
ただ、小さい頃住んでた最寄り駅は私の実家と同じ駅だった事実にビックリ。
小学生になる時に都内の別の場所に引っ越していったらしい。
現在一人暮らしらしいが同居人の有無については秘密らしい。
意外にも子どものころはもっと小さい方だったらしい。
小学生になる時に空手と水泳を強制的に習わされて、それなりに逞しくなったらしい。
確かに見た目はそんな細い感じじゃない。
嬉しそうに笑っている雰囲気。
聞いてる新人たちも楽しそうだった。
そんな雰囲気を横顔で聞きながらお酒を飲んでいた。
一通り質問タイムが終わるといろんな人の話になる。
その内全然関係ない知らない人の話に。
さり気なく席を立ちトイレに行った。
あの席から動けば、もっと仲良く話が出来る人も少しはいた。
女性の先輩にも仲良くしてもらっていた。
ただ、今更で、別にいいかとも思って、ずっと同じ場所にいた。
途中から席を動くにもタイミングが難しい。
料理はどのくらい進んだんだろう。
あと少しかもしれない。
皆食べるより飲む方らしい。
にぎやかな酔っ払いの宴会だった。
それはどこの課もあまり変わりない。
のんびりと手を洗い、急ぐでもなく鏡の前で顔を緩ませる。
さすがにつまらない顔は出来ない。
やっぱりあの席から動こうかな。
そう思って部屋に戻ろうとしたら、丁度同じタイミングで出てきた辺見さんと会った。
「寒川さん。お疲れ様。」
「お疲れ様です。新人にいろいろ聞かれてましたね。」
「ああ、そうだね。遠慮がないね。」
「その割には楽しそうに答えてた気がしますよ。辺見さんが一つ上って言うのは意外でした。もう少し上だと思ってました。」
そう言ったらちょっと不服そうな顔をしたので急いで付け加えた。
「ああ、別に見た目とかじゃなくて、なんとなくいろいろ教えてもらっていたので落ち着いてるイメージがあって。もっと先輩だと思ってました。そう言う意味です。」
「そう?」
「はい。」
「辺見って名前だけど。」
「はい?」
わざわざ言われた。
もしかして・・・・。
「私は間違えましたか?すみません、まったく気がついてないです。辺見さんといつも呼んでたつもりでしたが。」
「間違ってはいないよ。・・・・『ネネちゃん』だよね。」
いきなり下の名前で呼ばれてびっくりした。
辺見さんも間違ってないですが。何ですか?
「『ホウイチ』って名前も珍しいと思わない?」
軽く頷く。確かに珍しい、私の名前より珍しいと思う。
「小さいときに隣に住んでた一個下の女の子がうまく言えなかったのかな?『ポウチ』って呼ばれてたんだけど。」
ポウチ?
ポウチ!!
ポチ???
待って、そんな名前だった?『辺見さん一家』だった?
分からない。知らない。
気にした事もなかったし、おばさんが仕事をしてたから、いつもポチは私の家にいたんだし。
それに・・・・・『ポチ』としか知らない。
そっと顔を見たら笑われた。
シマッタ・・・・・・。
「すみませんでした。」
思いっきり腰を折り、とりあえず謝った。
何をって・・・・小さい頃の非道の数々を。
忘れていた思い出の数々が、幼いポチの悔しそうな顔とともに浮かんでくる。
もちろんお菓子分け合いの場面なんて平和なものではなく・・・・謝罪すべき場面の数々。
半分以上忘れてるかも、でも私が忘れても、あの時一つ上だった辺見さんは明らかに私よりは覚えてるんだろう。
「いろんな話は終わってからできるよね。」
そのセリフをどんな表情で言われてるのか、見れなかった。
「お願いします。」
ただ一言お辞儀のままそう言った。
今日は厄日でしょうか?
それとも因果は時間をかけてめぐるということでしょうか?
お辞儀のまま動けない私を残して、いなくなった辺見さん。
もうあの席にも戻れない。
辺見さんがいなくならない限り、それは無理。
トイレに入り直した。
いつ気がついたんだろう?
そしてなんで気がつかないのかと思っただろうか?
ムカついただろうか?
時々意味ありげに伺われていた視線を思い出す。
すっかり身勝手なふるまいの数々を、すっぽりきれいに忘れてるようなかつての小生意気な隣人。
ああ、親切な先輩だと思ってたけど、さすがに言いたくなったらしい。
言いたいことは分かる。
『さあ、思い出せ!!あの頃の傲慢な態度を謝って然るべきだろう!!』と。
さっきより大きなため息をついて席に戻った。
まず自分の席を見たけど、辺見さんは既にいなかった。
どこかへ動いているらしい。
ならやっぱり私は動けない。
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