全ては小さい頃の『可愛い暴君』ということで許してもらえますか?

羽月☆

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11 私の記憶にない夜の出来事。

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「辺見さん・・・・。」

結局そう呼んでる。

「『ホウチ』でもいいのに。どうせ名前で呼ぶようになるんだから。」

「最近の態度は本当に酷かったから、嫌われてるって思ってた。本当の嫌がらせをされてるんだと思ってた。」

「あれはあれで面白かった。本当に強情なところが変ってない、大人になるとこうやって発露するんだなあって楽しんでた。」

「楽しくなんてない・・・なかった・・・・・。同じように対応してくるから、だから私も引けなくなるんだし。」

「そうだね、そろそろストレスになってきた。本当にどこまでも離れて行きそうで。だから声をかけたんだし。変な風に楽しんでばかりじゃ、あとで後悔するかなって思い始めた。」

あんなやりとりをしてて、喜んで罵られてたんだろうか?
やっぱりどこかマゾっぽい気質があるんじゃないだろうか?
電車に挟まれて前歯を折る顔を想像してたのに。
想像で笑ってやってたのに。

「今度からまた前みたいな満点の笑顔で書類渡してくれるんだよね。」

それは無理だ。急に態度は変わらない。
杉野ちゃんに注意しないと、まだしばらくは観察されそうだし。
ぼんやりと浮いた独り言だったと思いたい。
返事はしてない。


「車の中に必要なものがあるから、取ってくる。」

しばらくグダグタとして話をした後言われた。
ジーンズのポケットのもの以外必要なものがあったらしい。


ひょいとベットから降りて堂々と着替えをして出ていった。

「鍵を持っていって。玄関にあるから。」

勝手にどうぞみたいになったけど。

・・・・だってシャワーを浴びたい。
とりあえずササっと済ませて、楽な服を着て、出た。
最短記録だと思う。

今更だから化粧はいい。

髪をまとめてさっぱりしてリビングに行ったら、帰って来てすっかりくつろいでいたらしい。ペットボトルが空になるところだった。

「なにか飲みますか?」

コーヒーをいれて飲んだ静かな空間。


何を取りに行ったんだろうと思ってたけど、新しく増えた大きめのバッグ。

私の視線を感じたらしくて、中身を教えてくれた。
今夜の着替えやら何やら。

親切に教えてくれてありがとう、ただそれが必要だと一人で決めたらしい。

「泊まってく。」

意思表示をされた。

「嬉しい、どうでもいい、反対、どれ?」

「全部。」即答した。


「じゃあ、明日の夜もう一度聞く。」


参考にしてもらえなかった家主の意見、しかも明日を楽しみにしてるらしい。
同じように答えてやる!
・・・ん?それじゃダメ?

「久しぶりだ、一緒に寝るのは。」

「・・・・・。」

「覚えてない?」



「お互いの家に一晩づつ泊まろうって、そうなったんだよ。俺はちゃんとそっちの家で眠れたのに、俺の部屋に泊まった時は、夜中に泣き出して結局親が隣に送り届けて、一人になったんだよなあ。だから一回だけ、しかも未遂。」

本当に一つの年の差って厄介。
まったく記憶にない。
それが本当か嘘か、何も言えない。


いろんな思い出がよみがえるけど、それだって忘れてることは多い。

「だから今度泊まりに来てくれた時は絶対寂しくならないように、もっと強く手をつないで寝ようって思ってた。記憶の限りあれからお互いに泊まることはなかったと思うけど。」

「だから今日は寂しくないように、夜中に目が覚めて泣き出さないように、手をつないで寝る。」

そう、宣言された。

「そんな事言って・・・・・笑顔でバイバイって、すごく嬉しそうにいなくなったくせに。」

「あれは、本当に分かってなかったんだよ。『引っ越し』が『会えなくなる』になるなんて。次の日からずっと遊びに行きたいって言ってたのに、もう遊べないって分かるまで、毎日頼んでた。」

それは信じられる。
いつも玄関でピンポンを押されて名前を呼ばれて、さっきまで幼稚園で一緒にいたのに、また一緒にいるのも当たり前にしか思ってなかった。

「せめて、手紙を書けばよかった。そこまで頭が回る子じゃなかったから。」

空になったコーヒーのカップはテーブルに置かれたまま。
すっかり暗くなってる、夜の時間。
それでも明日までの時間はたっぷりある。

「寂しかった?」

空っぽになった家の前に立つ自分。
家の中に人がいないのはあの時の私も分かった。
ポチはいなくなったって思った。

当たり前のようにいつも一緒にいたのに、それでもある日急にいなくなることがあるんだって分かった。

「もう・・・・・・急にいなくならないで。」

「もちろん。ずっと隣にいる。明日も、明後日も、来週も、この先ずっと。」

今だからお願い出来た事。
今だったら互いの努力で叶えられる事。
確かに中途半端な年齢で再会してもそんな約束は難しくて、信じられなかったかもしれない。そうじゃないかもしれないけど。

本当にすぐ近くに来てくれた。
体がくっつく距離に。

大きく包まれる、あの頃はきっと無理だっただろうけど、今は本当に包み込むくらいに大きくなった大人ポチ。

頬に手を当てられて、涙が出てたんだと知った。
なんで色々忘れてたんだろう?
なんで『ただのポチ』だなんて思い込んでたんだろう。
『すごく大切なポチ』だったのに。


キスの音を聞きながら、本当に離れたくなくて、背中に手を回してくっついた。

「シャワー浴びたい。」



「貸して。」

「嫌・・・・・まだ・・・・・。」

「じゃあ、あとで・・・・。」

随分時間が経ってからさっぱりした辺見さんが着替えて出てきた。

入れ替わりで化粧を落として、ザザッと髪を洗い体を洗う。

「夕食は?」

「何かある?」

朝ごはんレベルのものならできる。
今日はお腹いっぱいで買い物もしてなかった。
そんな言い訳で披露するほどの腕も必要とせず。
二人で並んで、同じものをつついて、ちょっとだけ満足する。
テレビを見ながら、緊張がなくなると遠慮もなくなり。
いろいろあったし、なんだか『付き合って大分経つ二人感』が出て来そうになる。
『幼なじみとの付き合い』はこんなものだろうか?
『同級生との再会の果て』よりも近い距離を感じる。


「どの男が好みのタイプ?」

クイズ番組を見ていた。
真剣に参加はしてなくても、なんとなく聞いてるだけ。
言われて改めて画面の中の人を見る。

番組の宣伝だと分かる四人の俳優が出ていた。

「顔はこの人、性格はこっち。」

正直に選んだ。
見た目は主役の男優を、性格はインタビューが面白い明るい人を。
作品につられるから実際の性格なんて知らないけど、楽しい人の方がいい。
ただ選べるならと、顔は一番素敵な人を選んでみた。

「最高の贅沢だな。」

そんな感想を言われた。

「辺見さんが女性だったら、どの人がいいですか?」

「顔も性格もこっち。」

私が性格で選んだ明るい人を選んだ。

「きっと女優さんだったら違いますよ。男性だからそうなんです。」

そう言い切った。

「芸能人だと誰に似てるって言われる?」

「そんな事を言われたこともないです。それにたいてい似てないですよね。」

「そうかな?」

もはやクイズ番組じゃなくてもいい。
ニュースでもいいくらいに参加してない。
ずっと横から顔を見られてる気がする。

テレビを見ましょう!
せっかくついてるんだから。

余裕で馴染んでる感を感じてたのに、緊張してくる。

体を小さくまとめて膝に顎を乗せていた。
隣で動く気配があり、体ごとまとめて抱えられた。
小さくまとまり過ぎて、自分を囲んだ足が長く見えるくらいだ。

「『つまらない。』そう言ってそんな風に小さくなってた。たいていゲームに負けていじけた時だった。」

知らない。
それに今は『つまらない』なんて思ってない。
膝を抱えた手を離して、体を緩める。

両手をとられて引き寄せられてそのまま辺見さんの腰に回された。

背中に置かれた手でパンパンと軽く叩かれた。
息をついて目を閉じた。
夜はゆっくりやってくる。




そんなことを言った気もする、たしかにそんな気分にもなった。
『昨日そう約束した。』と言い切られて、週末居座られた。

さすがに思い出のネタも尽きたらしい。
関連する思い出話も出なくなった。
それはちょっと寂しいかもしれない。
一歳差の記憶力の差はやはり大きかった。
今くらい携帯を使いこなして日常を写真に封じ込めていたら、もっとわかり易かったんだろう。
そんな小道具を使いこなすことなく、普通におもちゃや本や文房具で遊んでいたあの頃。

いまなら嬉しそうに楽しそうに笑って遊んでる二人の顔が思い浮かぶ。
たくさんの日々の中のワンシーン、そんな思い出のほうがたくさんあったって分かる。


大切にゆっくり心に仕舞い込んだ。



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