苦手なものを克服する一番いい方法は?

羽月☆

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2 ゴリラの『男らしさ』について考えてみました。

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次の週になんと恐怖のお告げが私に!今度は私がヘルプを頼まれた。

もともとそんな予定だったの?

気分的にはここ一のピンチ!
頼んできた部長が不審に思うくらいに自分の顔色が変わったのがわかった。
取り消してもらえますか?
人を変えてもらえますか?

そう言いたいのに、『じゃあ、まあ、よろしく。いろいろと教わってね。』

最後に笑顔で話を締めくくり、終了とした部長。

試しに美沙子に頼んでみた。

「絶対いい人だし、面白いし、一緒に働いてみて。それに今回頼まれたのは阿里なんだから、おかしいじゃない、代わったらなんでって思われるよ。」

ダメなの?お願いしてもダメなの?美沙子は楽しめるんでしょう?
目で伝えたのに。

「ほら、後で挨拶に行ってみて。本当に食わず嫌いだって、いい人だから、怖くないって!」

食べないし、食べられることはあっても、逆はないし。

午後もブルーな気持ちはどうしようもなく、粘りに粘っても、部長その他からはなんの変更のお知らせもなく、美沙子には脇腹を何度も突かれて。

おずおずと席を立ち、郷里さんのデスクに向かった。


目的地点のすぐ隣からは原市先輩が電話対応してる声が聞こえた。

そっちに集中したい。

そんな訳にはいかないので、声をかけた、当然震えた。
見上げられてた気がして、それだけで空気の圧に押された気がした。
思わず、一歩下った。

「明日から、ご指導よろしくお願いいたします。」

言葉が震えた。
お辞儀をしてまっすぐ顔をあげてしまった。
目が合った!
石になるっ!!
幸い石にはならなかったけど、ロボットにはなった。
ギシギシと不器用な動きで逃走を試みた。

なにか言われたかもしれないけど、無理だった、聞いてない、だってやっぱり、怖い。



本当に苦手なのだ。

小学生の頃、体育が苦手だったのに、落ちこぼれを出さないようにとすごく真面目に手を抜かず頑張ってくれた先生がいた。
声が大きくて、体も大きくて。
元気のある先生で、いつも笑顔で優しくて皆には好かれていたと思う。
だけど、私は苦手だった。
声が振動を伴って聞こえてくるし、とにかく大きかったから。
それなのに、逆上がりができない私に最後まで手をかけて頑張ってくれた。
何度も何度も背中を押されて、ぐるぐる回るのに、一人じゃ出来なくて。
回されるたびに目も回って、何度も回されたあと気分が悪くなった。
最後まで一人ではできないままだった。
クラスの皆ができて、最後の一人だった。
別に怒られたわけではない、残念な顔をされて終わりだったから。
それでも、すごく自分が残念な子でごめんなさいと思った。
これでも公園でお父さんと練習したのだ。頑張ったのだ。
だけど全くコツをつかめず、終わった。

決して運動神経が悪いわけではない。
走るのも泳ぐのも選手に選ばれることなんてなかったけど真ん中くらいだと思う。
ただ、鉄棒とか平均台とかボール競技とか跳び箱とか苦手なものは全くダメだった。

一度怖いと思うと苦手になるタイプで、落ちる恐怖や痛かった体験が克服できないタイプ、攻撃的な視線に怯えるタイプだった。
高跳びとかドッチボールとか大嫌いだった。
ドッチボールなんて乱暴な競技。いじめじゃん、暴力反対って思う。
高跳びも棒に当たって痛い思いをするまでチャレンジする必罰競技だし。

あと皆で記録を目指す大縄跳びとかも緊張して引っかかったりするタイプだった。
不器用なわけじゃないのに、ただの小心者、ひよこ並みのチキンハートだった。

それは今でも変わらない。すごく残念だけど。

だから明日から大きな体の影に入り仕事をするプレッシャーは、目隠し東尋坊散歩並みにただただ恐怖なのに。
声をかけられたら体が10cmくらい浮くかも、注意されたら凍った顔のまま涙が出るかも、最後には心臓と胃がやられ、便秘になって肌荒れして、げっそりやつれるかも。

怖い!



今日が永遠に続けばいい、明日なんて来なくていい!

もう悲壮な顔して残りの今日を過ごしたのに、あっという間に次の日は来た。




朝から自分の席を離れて、魔窟か猛獣の巣穴へ赴く心境。
手にはペンと紙。
それよりは武器が欲しいくらいなのに。鎧もほしい。
一歩一歩が重い。
ズブズブと底なし沼のように、・・・・あぁ、たどり着いた。

「おはよう、阿里ちゃん。」

「おはようございます、原市先輩。」

ひきった笑顔じゃないですか?笑えてますか?
さすがに今は全力笑顔の自信がないです。

「あ、今日からヘルプなんだっけ。」

指が恐怖の大王の郷里さんを指す。

「文土に優しく教えてもらうといいよ。思ってるよりは優しいと思うよ、それでも、何かあったら僕に言いつけに来ていいよ。」

涙目で原市先輩を見上げる自分を想像しそうになった・・・。
じゃあ、今・・・・。

「何があると言うんだ!」

ひぇ。

せっかく癒やされてたのに、ちょっとうれしい想像をしそうになって現実逃避しようと思ったのに、完全に視界から外してたのに、割り込んできたどら声!
やっぱり怖い!

ヘルプなんて無理、もちろん、一緒に飲むのも無理だってば!

ぎこちなくそっちを見て視線は合わせずに、可能な限り合わせずに、挨拶はした。

「今日からよろしくお願いします。」

震える声でも最後まで言えた。
頭をあげたら、上げすぎて目が合った。
すぐに視線はそらされて、まだ石にはなってなかった私。

「これをお願いします。」

差し出されたものに手は出た。

「会議で使えるようにまとめて欲しい。」

渡された書類に視線を落とす。
結構な厚さだった。
簡単に片手で渡されたけど、両手で受け取った、それでも重いくらい。

「入れて欲しいデータには丸つけてるから、後はわかりやすく。」

ざっくりしたお願い。大丈夫?

「わからないところはその都度聞いてほしい。」

「・・・はい、・・・・全体でどのくらいにまとめればよろしいですか?」

「三枚くらいと別表で。」

「・・・やってみます。」

だんだん落ち着いてきたから返事のセリフはすんなりと出た。
自分の適応能力か、もしくは早く立ち去りたいという本能か。

「僕も相談に乗るよ!」

天使の声がした。

ホントですか?
心が騒ぎ出す。明らかにさっきとは違う場所が。
震えて小さくなっていた心臓も緩むくらいの言葉です。
そんな嬉しいこと、頑張らないように頑張りたい、ご指導よろしくお願いしたい。


「お前は自分の仕事があるんだろう?」

「あるけど、求められたら助けたくなるじゃん!」

「なら最初から俺を手伝えばいい。」

「それは別。ね。」

はい。心で賛成する。全力で。
本当にまったく天国と地獄ほど、『別』です!
それでも一応は自分でやる。やらないと・・・・・ね。

「じゃあ、やってみます。」

原市先輩の笑顔をみて、名残惜しく席に戻った。

無事に戻ってきて肩が落ちる。

隣から笑顔でお帰りと言われた。

「書類のまとめで会議用だって、そうだった?」

「ううん、データの打ち込みと確認だった。」

わからなかったら聞こうと思ったのに、ダメらしい。

「そうか。」

「優しく教えてくれると思うよ。」

そうね、原市先輩がね・・・・。太陽のような笑顔で優しく、暖かく・・・・・。

そう思ってたらにわかに雲行き怪しく、空が分厚い雨雲に覆われて太陽の光が遮られた。
そんな・・・・何?

視線を書類から上げた。
目の前に雨雲より濃い色が、見なくてもわかる、その雲の正体!
スーツの色。スーツ色の壁、嵐を呼ぶような雨雲色の暗い空。

心臓が騒ぎ出した。安心しきって油断してたから、一気にキュッと小さくなり、めちゃくちゃな一斉足ふみのようなビートを刻んでる。


なんでしょうか・・・・。


顔を上げ切らない前に目の前にプリントが出された。

「これを参考にすればいい。」

地響きのように低い声がして、書類を数枚渡されてくるりと向きを変えていなくなってくれた。

空にはまた太陽が。
私の元に明るい光が届いた。


「ねえ、怖がり過ぎだよ。なんだか可哀想になってきた。」

「だって苦手だって、大きい人は、無条件に心が怯えるんだもん。」

「本当はすごく優しい、いい先輩だよ。飲みに行ったら絶対分かるから。いい機会だから仲良くなろう。」

それはきっと無理です。
先週までは同じくらい・・・とは言わなくても一緒に怖い先輩一位であげてたくらいだったのに何があったの?
もしかして、本当に郷里さんと飲みたいの?
仲良くなりたいの?
もっともっと本当に仲良くなりたい・・・ってこと???
そう思って見てたら笑顔を向けられた。
そうなの?
美沙子、どちらかというと細い草食系男子が好きだと言ってたのに、趣旨替え?
肉食代表だと思うよ。骨付き丸焼きが好きそうな肉食なのに・・・・多分。
細いのなんて睫毛くらいかもよ。

ねえ、そういうことなの?

じゃあ、協力するべき?
原市先輩も協力してくれるし、一緒なら・・・・・頑張る、協力する。

とりあえず仕事を頑張ろう。
美沙子のためにも、友達の私が足を引っ張るのもよくない、それにちゃんと出来ないと・・・・・怒られる。

参考に渡された資料は他のプロジェクトの資料だったけど、確かに参考になりそう。
早速渡された厚い束に取り掛かる。

頭の中で文章を読みながら、片隅で美沙子と郷里さんの並んだ姿を思い浮かべてみた。
でもよく顔が思い浮かばない。
だってあんまり直視できてない。
怖いからすぐ目をそらすし、私の背だと全然頭は上の方だし、どんな顔かと言われても・・・・。
思い出そうとしてたら手が止まってしまった。
顔を向ければいるとはわかってる、思い出すより早く見れるけど、そんな恐怖体験は必要最小限にとどめたい。
まあ、いい、仕事仕事。
そんな事を二度も繰り返して、それでもそのたびに集中しなおして。
付箋だらけの分厚い資料。
午後にまとめて、指定のデータを添える。
そういう感じでいいだろう。

ランチは普通に美沙子と一緒に行った。
別に何も言われてない。いいのよね?

「ねえ、美沙子、先週はどうしてランチできなかったの?何か言われてた?」

確かに大体は隣の席にいた、時々いなかった。
郷里さんと一緒に食べたって言ってた。
誘われたの・・・??もしかして誘ったの???

「ああ、切りのいい所じゃないと分からなくなるから。別に何も言われてないよ。」

「何?もしかして一緒にとか言われてた?」

「まさか・・・、言われてないよ。」

むしろ誘われたら、ランチは食べない主義ですと言って断る・・・ことは無理だから、美沙子か・・・・原市先輩に助けを求める。

「郷里さん、妹がいるんだって。可愛いらしいよ。」

今頭の中にはジャイアンと妹ジャイ子しか浮かんでこない。

「郷里さんの男らしい感じとは別で、すごく小さくて可愛いらしい。」

すごく幼いジャイ子を思い浮かべる。
大きくなったら立派なジャイ子。
そんなに年の差があるんだ。すごいなあ。じゃあ、可愛がるかもね。

「いつそんな話したの?」

「もちろん先週。なんだかいろいろ聞いて情報を仕入れてきた。」

楽しそうに話す美沙子。
さっきもさり気なく郷里さんのことを『男らしい』と褒めていた。
ゴリラも男らしいとは思う。オラウータンはロングヘアでちょっと茶髪、それに比べるとゴリラは男らしい。体毛は黒くて短い、筋肉が分かりやすい。動作も豪快。
そういうこと?

やっぱり顔が浮かばない、それでもそんな類人猿というよりも物の怪寄り、猛獣寄りの恐怖物体だったはず。
それより原市先輩の情報の方が興味あるけど。
まあ彼女はいるらしい。
そこは最初から優しい憧れの先輩って枠だからしょうがない。
誰にでも優しいし。そんなものだ。

それに誰でも恐怖よりはそっちがいいに決まってる。
だから私もそうなんです。
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