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3 兄の褒められるべきところ、妹からの絶対のおすすめポイントなのです。

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お兄ちゃんが大好きだった。
いつも優しくて頼りがいがあって、何でも言うことを聞いてくれて。
妹の私はちょっと甘えれば何でも許されて、器用だから便利で、面倒を押し付けても嫌な顔をしないし、結構マメだから苦手な掃除も私の部屋までやってくれたし。
その他にもいろいろ役に立つ。
本当にいいお兄ちゃんなんだ。単純に優しい。
だけど就職をしてから全く色気がない気がする。
ずっと実家に暮らしてるから分かる。
一度の旅行も外泊もないって、どういうこと?
もしかして人気ないの?
真面目な顔をするとちょっとだけ怖い、迫力はある方かも。
でも笑顔を見れば優しいって分かるのに。
よく見れば頭もまあまあいいよ。

大学の頃はよくわからない。
友達の家にだらしなく雑魚寝してる風でも、多分彼女もいたみたい。
だから彼女の家に泊ったこともあったかも。
詳しくは聞いてなかったし、家族の誰もその辺は放っといた。
男の子だしって。
私ももっと幼くてそんな事は気にしなかった。
でもサラリーマンになって、真面目に毎日帰ってくる。
週末の夜ご飯も家で食べるくらい家にいる。

さり気なく、何度か聞いたことがあるけど、好きな人はいなそうだった。

「ねえ、友達が社会人と付き合っててね。最初はラブラブだったけど、やっぱり忙しいみたい。夜も遅いし、週末も疲れてるって言われるみたい。お兄ちゃんは、どう?週末には大好きな彼女のために時間作ってくれるよね?」

私の買い物に付き合い、庭木の手入れや草取りなどもやり、愛犬太郎の面倒もきちんと見てる。
むしろ普段できない分、週末まとめていろいろやってくれる。
家事もお母さんの手伝いを私より・・・やってくれる。

それをやらなければ、十分に彼女と遊ぶ時間は作れると思う。

「本当に友達の話なんだよな?」

何?

「もちろん私じゃないよ。」

もう、全然違うよ。
高校生と社会人って設定が無理だったかな?
せめて先輩って言えばよかった。
よく考えたらちょっと犯罪?

「そうか。学生とは時間の感覚も違うからな。連絡も出来る出来ないは職種によるし、会議の時に頻繁に連絡されても困るとかあるかもしれないし。週末も同じかな。ちょっと疲れてると約束が重たいかも。」

「だってお兄ちゃんは太郎のお世話もして、私にも付き合ってくれるし。」

「そりゃ、部屋着でその辺行ったり、気を遣わない妹の世話とは違うだろう?喋らなくてもお前がしゃべるし、無言でもいいと思ってるくらいだし、その類の気を遣わないでいいし。」

「分かった、そうかもね。でも、お兄ちゃん、私と太郎に慣れてると、いざ彼女が出来たらお兄ちゃんも大変だね。今好きな人いないの?」

「いない。」

顔色も変わらず、慌てる感じもない、内緒にする感じなんて全然ない。
こりゃ、いないな。

「残念だね。優しいのは私が保証するのに。いい人がいたらいいね。」

「放っといてくれ。」

「そうはいかない。私は可愛いお姉さんが欲しい。」

そう言うと微妙な顔をしてどこかへ行った。

サラリーマンはそれなりに大変らしい。
お兄ちゃんも彼女が出来るまでは私と太郎に癒されてればいいか。

そう思ってたのが半年くらい前かな?
あれからも同じように甘いというか、言いなりでいい感じにマメなお兄ちゃん。

ある時、一緒に買い物に連れて行ってもらった。
毎年恒例の誕生日プレゼントということで、いつもより高め設定のおねだり。
ちょっと大人のお店をめぐっていた。
どれにするか、三つには絞れたのに。
悩んでたら全部って、もしくは二つとかってあり?
そう思ってスポンサーのお兄ちゃんを見た。
もう甘えるような視線で、困ったなあ、決まらないなあ、どれも甲乙つけがたいよぉの視線で見た。

あれ?

隣には、いなかった。

立ち止まったままらしい。
後ろの方にいて、ずっと前の方を見ている。
その視線をたどるように見たら、数人の女性たちが入り混じっている。
誰かいた?知ってる人?元カノ?

しょうがないので歩み寄った。

「お兄ちゃん、どうしたの?元カノ発見?」

そう言ったら、赤くなった。
冗談だったのに、ええって驚くくらい赤くなった。
元カノネタはそんなに照れる?
ものすごく綺麗になってて、改めてああ・・・・・って思ったとか?

「どの人?あのブルーのワンピースの人?、白いカーデガンも捨てがたいかな?」

大人っぽい女の人を見つけて探るように言ってみた。

「行くぞ。」

返事はなく、唐突にそう言われて歩き出した。

「ねえ、まだ買い物決まらないよ、一人で見てるから、一時間くらいいいよ、二時間でもいいよ。」

優しい妹の気遣いです。
ご機嫌になって心も広くなって、三点買いもいけるかも。
ちょっとだけそう思って。
それにお兄ちゃんも、もし希望があるなら、チャンスは逃さない方がいい。

「馬鹿言うな。ただ、昔の友達の彼女を見かけただけだ。ビックリしただけだ。」

友達の彼女に赤面?
ないない。
でも隠したいならいい。

「本当にいいの?後悔しない?私のせいとか言わないでね。」

「だから違うって。それより決まらないなら特別に二個買ってあげてもいい。」

「本当?ねえ、いい事あった?なにかいい事あったの?やっぱりあった?」

「一個にするか?」

「いえいえ、二つ、ありがたく二つ選ばせていただきます。」

二つは色被り、だから二択となって、あとはすんなり決めた。
支払いを終わって、もう一度言ってみた。

「ねえ、本当にいいよ。ここで別れてもいいよ。」

半分は本心だったりするけど。
今日の大きなお役目はこれにて終わりですし、あとは彼女の元へ行ってもいいよ。
兄思いの気の利く可愛い妹の気遣いだった。

「もう、関係ないだろう。ちなみにお前が言った色の服は着てなかったから両方ハズレでした。」

「そうなの?どんな人?大人っぽい人を選んだのに。」

「そこが間違い。可愛い系だから。」

過去形じゃないよ、どうしたの?どういうこと?

「ふ~ん、可愛い系の彼女だったんだ。お兄ちゃんはもしかして、そっちが好き?もしかして、私みたいに可愛い甘え上手な女の子が好きなの?」

「お前、他の人の前でもそうやって自己評価してるのか?」

「まさか、正直になるのは家族の前だけです。少しは謙遜します。嫌われるじゃない。」

・・・・いいな。
そうつぶやかれた。
何が?見上げてみたけど分からない。
結局どっち?可愛い系が好きでいいの?大人女子じゃないの?

ただ、それからも毎週毎週太郎のお世話を出来てるくらいには暇らしい。
今日も太郎にリードをつけて散歩に出て行った。
一時間は帰ってこないだろう。

「お母さん、お兄ちゃんってもてないのかな?優しいのに、ちょっと顔は怖いけど、よく見るといい男だとは思うのに。」

「本当に、そんな感じないわね。」

「ねえ、今までお兄ちゃんに彼女がいるらしき気配感じた事ある?」

「ないわね。」

「じゃあ、子供の時とか誰が好きって言うでしょう?どんなタイプだった?可愛い子ぶりたい子?賢い子?真面目な子?大人しい子?目立つ子?」

「一人しか知らない。かわいい子だったけど、まったく相手にされてなかった、可哀想なくらい。お兄ちゃんは気がついてなかったみたいだけど。」

「ああ・・・・・、お兄ちゃんの黒歴史。可哀想。なんだかなあ、もっと楽しい大人になってもらいたいのに、なんで太郎とばっかりデートしてるんだろう。しかもオスだし。これで犬友でも出来ればいいけど、私が散歩してても年寄りか主婦としか会わない。若いくて綺麗な人が散歩してないかなぁ?」

「お兄ちゃんはお兄ちゃん。そう言う椎名はどうなの?前にお兄ちゃんが同じこと聞いてきたわよ。」

まさかサラリーマン彼氏の話、やっぱり疑った?
もう高校生だってば!!丸ごと作り事なのに!!
まるで騙されやすいじゃない。

「私も同じ。太郎とデートばかり。でもオスだからまだいい。お兄ちゃんより私に甘くて、気前よくて、優しくて、マメな人いたらいいのになあ。」

「兄妹仲がいいのはうれしいけど、そろそろ兄離れしなさい。文土もそろそろ独り暮らししたらいいのにね。」

「それは寂しいな。せめて彼女出来るまではいいじゃない。」

「椎名が離さないんじゃないの?彼女が出来たらちゃんと祝福してあげなさい。」

「もちろん。この間ね、誰か、多分女の人に視線を固定して動かなくなったの。誰だか聞いたら友達の元カノって言われた。でも真っ赤になったから違うと思う。自分の元カノかも。会ってきていいって言ったのに、全然だったから進展はないみたいだけどね。」

「そんな事があったの?どんな人?」

「女の人がたくさんいて分からなかった。大人っぽい人を言ったけど、どれも違うって言われた。可愛い系だって。やっぱ好みはそっちみたい。」

「そうなのかしら?」

「分からないけど。ああ、だってもう五年くらい彼女いないんじゃない?」

「五年?なんでそう思うの?」

「だって外泊もない。」

「そんな観察止めなさい。気にするわよ。」

「分かってる。」

つまんない。
可愛いお姉ちゃんが欲しい。
ちょっと寂しいけど我慢するのに。

太郎とご機嫌に帰って来たお兄ちゃん。
二時間くらい経っていた。
散歩後のブラッシングでお互いに癒されまくってる。

ダメだこりゃ。
ブラッシングの後もオス同士でじゃれ合う一人と一匹を見てそう思っていた。

ただ、自然は偉大である。季節はめぐる。必ず一年に一度は春がくる。
そして・・・・、お兄ちゃんにも春の気配が来た気がする。
残念ながら気配だけ。だから片思いだと思う。

時々太郎を撫でながらもぼんやりしてたり、鏡を見て百面相したり、ため息ついたり、ちょっと悲しそうな顔をしたり。
明らかな変化。
私にはわかる。
家族は誰も気がついてない?

二人でリビングにいる時だった。
やっぱり太郎をブラッシングしながらぼんやりしてた。
太郎の頭にブラシがゴチゴチッて当たってるのに、太郎が頭を低くしてるのに気がついてない。
痛そうにしてるけど、耐えてる太郎。太郎も優しい。
我が家は男性皆優しい、太郎込みで。


「お兄ちゃん、好きな人できたの?」

後ろから見ながら、ふいにそう聞いたら驚かれた。
そして、変な力が入ったみたい、そのまま太郎の頭をブラシが直撃した。
さすがに太郎が逃走。
よく耐えたよ、ありがとう、太郎。
それにしても分かりやすい。
不意打ちに弱いタイプだから。

「さっきから太郎の頭にブラシが当たってて痛そうだったよ。ぼんやりしたり、ため息ついたり。相談にのるよ。」

「別にいらない。」

太郎の方を向いて謝るような目をして、私を見ずに言う。

「真っ赤だよ。」

太郎に謝るお兄ちゃん。

「太郎の頭じゃないよ、お兄ちゃんの顔色です。」

やっとこっちを向いた。

「どんな人?可愛い人?会社の人?」

そう聞いたらあっさり白状してくれた。

「怖がられてる。体が大きい人は本当に苦手らしい。近寄れないし、挨拶もできない。」

悲しそうに言いながら、ブラシの毛を集めてる。
何の進展も望めないって事らしい。

「そんなあ・・・・、絶対仲良くなれば良さが分かるよ。」

「もともとタイプじゃないらしい。同期の奴がいいらしい。仲良く話してるし。」

「いいじゃん、優しい攻撃して、仲良くなって、奪ってみよう。」

「なかなかな。」

ブラシの毛を集めてゴミ箱に入れて、太郎に謝りに行く。
頭を優しく撫でている。
絶対優しいのに、何で?
身長高いのも、逞しいのも、強そうなのも、お兄ちゃんの美点なのに。
何で分かってくれないの?

どうしようもない。
相談に乗ろうと思ったのに、徒手空拳の二人。
あらためて、悲しい思いをさせただけだった?

私もガッカリしてしまう。ため息が出てしまう。

やっぱり、浮かれる様子もなく、変わらず太郎と過ごす週末のお兄ちゃん。
三ヶ月くらい経ってもそんな調子だった。
まだ駄目なのかな?
気がついてもらえないのかな?
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