苦手なものを克服する一番いい方法は?

羽月☆

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14 じわじわと私に来るプレッシャー。

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太郎と仲直りした写真を椎名ちゃんにこっそり撮られたらしい。
そしてその写真を私に送ってくる郷里さん。
笑い顔の太郎に昨日のパウチのおやつを見せてる写真だった。
斜めからの写真で顔はよく見えなくても郷里さんが笑ってるのが分かる。
だって太郎の笑顔がそう言ってる、うれしいって。
それはおやつのパウチのせいかもしれないけど。

『なんだか椎名が変なんだ。たまにニヤリとしながらも、時々ぼんやりしてたりして。悩み事かな?相談してくれないと分からない。』

『母親にも何も相談してないらしいけど、今日は友達と出かけるからってお昼代をねだられた。もしかしてデートかも。あんまり聞くと怒りそうで聞けない。』

そんな相談みたいなことを私にされても、どうなの?

『もう少し様子を見たらどうですか?それとも寂しいですか?』

『ちょっとは頼られたい。せっかくいろいろ相談したんだから、今度は逆に相談にのるのに。』

そんなんだから相談相手に選ばれないのでは?
一体どのくらい報告されてるんだろう?

『どっしりと落ち着いた頼りがいのあるお兄さんでいてください。』

『それは椎名にとってってことだよね。阿里ちゃんのお兄ちゃんにはならないからね。』

は?

『当たり前です。』

『じゃあ、もう妹のふりはしないでね。悲しいし、寂しい。』

ああ・・・・・、あれは悪乗りというか、郷里さんが誤解を受ける言い方するから。

『すみませんでした。もう、しません。』

『冗談だよ。ゴメン。』

私こそ冗談でした、悪乗りでしたが。

『来週早く終わった日にご飯でも食べる?二人が変なら、原市も一緒でもいいし、ジムに行かなきゃ薄木さんも一緒でもいいし。』

『二人でも大丈夫です。ただ、他の人にはバレたくはないです。』

『もちろん、その辺はあいつにも言ってあるから。』

『はい。』

美沙子には報告して、口止めもした。
良かったねと言いながら、お返しとばかりに幸せいっぱいの惚気たメッセージが続いた。

月曜日、特に変わりないふうで。
かすかに原市さんの視線が気になるくらい。
今までだったらうれしいくらいの出来事だけど、午前と午後に一度は私たちのところに話しかけに来る。
明らかに頻度が増えたのだ。
美沙子のハッピー報告を聞いたあと、さりげなく私にもあやかりたいねと言ってくる。
曖昧な笑顔と返事しかできないし。

その間少しだけ違う視線も感じるし。

そう、美沙子に彼氏が出来た話は隠さないのでバレてもいい。どうせ相手は遠い部外者。



ただ、どうしてそうなるのか?

「ねえ、原市さんと仲がいいね。」

先輩にそう聞かれた。
私ですか?びっくり・・・・。
今までより少し接近して、美沙子が相手じゃないとはっきりした今、ちょっとだけ思わせぶりな余計な一言がそんな誤解を生んだのかもしれない。

「はい、なんだか妹みたいに可愛がってもらってます。いろいろと恋愛相談してるんです。美沙子も私も。原市さんと彼女のラブラブエピソードを聞いて参考にして、美沙子はあの通り。」

「そうなの?じゃあ、阿里ちゃんは?」

「なかなかです、あやかろう!とか美沙ちゃんに続け!とかって原市さんには言われてるんですが、私はなかなかです。今のところ原市さんの応援だけが空回りです。」

そう言った。否定してもしょうがない。
逆に認めて半分本当を混ぜた方がいい。

「ごめんね、ちょっとだけ原市さんと阿里ちゃんなのかと思ってた。」

「なんだか、他の人にも言われました。だって原市さんには彼女がいますし。全然隠してないですよね。それでもチャレンジするなんて私は無理です、そんな勝負師じゃないです。」

「そうだよね。阿里ちゃんも頑張って。」

「はい。応援してくれる人だけは多いんです。」

そんなトイレでの会話。


先輩の隣には1人の知らない先輩もいた。
途中トイレに入ったけど、静かだった気がする。

聞いてました?

彼女の存在を隠してなくても、好きになる人はいると思う。
無理だなって思ったら、私たちみたいに後輩顔で話しかけられてるのも羨ましいとか。
それは分かる。少し前も、今も確かにうれしい。
前よりはちょっとだけ鬱陶しいと思うことがあったりなかったり。
だってその度に視線を感じるし、たまに見ると前みたいな怖い顔を見てしまったり。
前にふと目にして、怯えて苦手だと思ってた表情。
ああ・・・・あんな感じだったから・・・・・。
今はどう思ってるんだろう?
なんでも話せる美沙子が本当に羨ましい。

そんな日々を過ごす木曜日、お昼に連絡が来た。

『今日は予定通り早く終わりそうだよ。』

昨日の夜にそう聞いてはいた。
郷里さんが忙しくてなかなか約束が出来てなかったけど。
今日は大丈夫らしい。

うれしい顔をしたのかもしれない。
美沙子にはすぐにバレた。

「楽しい夕方?」

「食事に行くかもしれない。」

「いいじゃない。私も暇だけど、誘われないでおく。その代わりに一緒に帰る振りしてあげる。」

そう言われたから、そのまま伝えた。

そうして打合せ通りに郷里さんが立ち上がるタイミングで、美沙子に帰ろうかと言われ、自然に郷里さんに話しかける美沙子の隣で合流成功。
そのまま一緒にエレベーターに乗りこみ、途中まで一緒に帰った。
当然駅に着いたら別れた。
そのまま二人並んで電車に乗り、予約した店に。

ずっと二人だった。
でも普通に同じ会社の人くらいの距離だから変じゃなかった思う。
電車では隣り合ってても静かな二人のまま。
ちょっと微妙な距離の二人のまま。
知らなきゃ気がつかれない、他人の二人のまま。

目的の駅に着く前に次だよと言われて、他人の振りは終わった。
一緒に電車から降りて歩く。

途中まででも方向が一緒だといい。
帰るのも途中まで一緒。
ここは定期券内だけど降りることはない駅。

「知ってるお店ですか?」

「ううん、初めて。原市が予約したんだよ。」

「そうなんですか?何から何まで、お世話になってます。」

「うれしい?」

そう言われて、郷里さんを見上げた目は少し冷たかったかもしれない。

「ゴメン、ちょっと言ってみただけ。」

「いりません。」

何がだろう、そんな心配は、とか続けたいのか自分でも分からないけど。
同じ理由で不機嫌になり、同じ理由で謝られて、さすがにそれはもう無しにしたいから。

「今度、そんな事を聞かれたら、怒ります。」

充分怒ってる目で見て、怒ってる声で言ってしまったのに、そう言った。

「最近、先輩たちが私に探りを入れるんです。前より仲良くなってるみたいに見えるし、美沙子はさっさと彼氏できました宣言してるし、単純な引き算で私と仲がいいって思われてます。」

「迷惑な奴だよね。本当に。」

そう実感を込めらた気もした。

「だから、妹のように恋愛相談にのってもらってますって言いました。美沙子と二人とも応援されてたのに美沙子だけ幸せになって、あとは私が一人だけ応援されてるって。」

「そう、言ったの?」

「多分必要な言い訳でした。すべて否定しても疑惑は拭えません。半分は事実を肯定しました。」

「どこが事実?」

「どこ・・・・・って恋愛相談とか応援とか、まあ、そんなところです・・・・か?」

「何だか事実は僕の方が相談に乗ってもらって応援してもらってる気がするけど、世話を焼かれてるとも言うかな?」

おおむね正解かもしれませんが。
そんな細かい所はいいです。
面倒な誤解で女の人の噂には上りたくないんです。

「あんまりちょっかい出すなって言っとくね。」

そう願いたいです。
でもそうハッキリとは言えない立場の二人だとも思えます。

お店に着いたらしい。
どうやって歩いてきたのか、横を歩いてただけでよくわからない。
一度曲がればいいと思うし、帰りは一緒だからいいか。

背中について行くように入った。

「何で原市さんの名前で予約してたんですか?」

「『ゴウリ モンド』でいれると外人じゃないかって思われるだろうって言われた。」

郷リモンドさん?

「そんな経験があるんですか?」

「まあ、あると思う。」

「はあ、大変ですね。」

「前もってわかるとウェブ予約で漢字も書けるけど、電話だとそう思われるかもしれないから。」

それが問題かどうなのかは分からないけど、名前を聞き返されるのも面倒だ。

「でも素敵ですね。」

「まあ、そう言うところは本当に役に立つから。」

「明日お礼を言います。」

「いいよ、俺が言うから。」


「よろしくお願いします。」

一応そう言ったけど聞かれると思うし、私だって言います。
ちょっとだけわかりやすい反応が面白かった。
ニッコリ笑ったら、郷里さんも優しい顔をした。
きっと太郎に向けていた笑顔もそんな感じなんだろう。

「なんだかね、椎名に好きな子が出来たらしいんだ。あいつもうれしくて自慢するようにこの間教えてくれてね。違う高校の生徒にラブレターもらったらしいんだ。随分友達のやり取りをして、この間お昼ご飯代をねだられた日にデートしてたみたい。」

いきなりの話題が妹のことらしい。
本当に仲がいい。

「スッキリしましたね。変な悩みじゃなくて良かったです。」

「そうなんだけどね・・・・。」

妹の恋愛がらみの相談を彼女・・・・じゃないけど、会社の後輩と二人きりの時にするんだ。
もう、どんな人よ、最初のイメージと全然違うじゃない。
怯えてた自分がバカみたいに思えてくるくらい。

「あっという間になんだか抜かされたんだよ。悔しいなあ。」

「何がですか?」

「え~、だから・・・・、友達から一歩進んで彼氏になったとか、今週は潤君を太郎に紹介するから散歩はいいとか言われてる。先週末までは友達だったのに。」

年下の妹と何を競うんでしょうか?
私を巻き込まないでください。
ノーコメントで対応した。

しょんぼりしたようにうなだれてるけど、ずっとこのまま食事ですか?

「お兄ちゃんも頑張ってください。」

ついそう言った。

「椎名にもそう言われた・・・・。」

そうでしょうねえ、それしか言えない。


「あの、食事しませんか?」

そう言ったらやっと普通に戻ってくれた。

やるなあ、椎名ちゃん。どんなプレッシャーかけるんだろうっていう話です。
それ以上広げずに、その話題は折りたたんで仕舞ってもらった。
だから美味しかった食事は美味しくいただけた。

私の駅まで送ろうかと言われたけど、さすがに大丈夫。

「そんなに遅くないですし、明日も仕事です。ごちそうさまでした。また明日。」

そう言って手を振って別れた。
階段を降りる前にちょっとだけ振り返ったらまだそこにいた。
もう一度手を軽く振って、階段を降りた。
ちょっと恥ずかしい。
違う路線に乗りかえてお互いに自分の駅へ。

向かいのホームにいるかもと思うと恥ずかしいけど、すぐに電車が来た。
やっぱり慣れない。
大きい人には慣れた気がするけど、すぐ近くで誰かに見つめられるのに慣れない。

その視線の意味を知ってるから、ちょっと照れる。

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