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10 手探り状態のまま、でも時々大胆に。

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ものすごく余裕をもってアユさんを迎えることが出来た。

「お帰り、アユさん。」
言葉はふるえてない、大丈夫。でも緊張が隠せない。

「ただいま、わざわざありがとうございます、ギイチさん。ご飯は食べましたか?」

「あ、そう言えば、忘れてた。」

「一鉄と話をしてて、まだだった。」

「じゃあ、軽く食べて帰りますか?」

「うん、そうしよう。その前に買い物をしたいんだけど。アユさん用のタオルとか、後は何が必要?」

「タオルくらいでいいです。後は持って来てます。」

肩から掛けたトートバッグを見せられた。
明日の着替えはないだろう。
朝になったら帰るんだろうか?

スーツのままじゃあ窮屈だろうなあ。

「荷物持つよ。」

トートバッグをもらい受けた。
思った以上に重かった。
ビックリした。

整頓上手にいろんなものが詰め込まれてるらしい。

まっすぐ部屋に来てしまった。

「ああ、ごめんね。買い物と食事って言ってたのに・・・・。」

何も言わずについてきたアユさん。
お互い無言だった。
荷物はそっとその場に下ろした。
ぼんやり立ったまま、どうしようかと思った。

「少し休んでから買い物に行く?」

でも、もう夜なのだ。
遅くなる。だから今行った方がいい。

「遅くなるね、もう一度出かけようか?」

「はい。」

見上げられた。

既に汗が出そうなくらいだ。
多分心臓は間違いなく汗をかいてると思う。
他にも手にも・・・・。
こっそりとズボンで拭く。

「ギイチさん、一鉄さんは何か言ってましたか?」

「一鉄?・・・・先輩じゃなくて?」

「相談するなら一鉄さんですよね?」

「な・・・・何を?」

また汗が出てきた。
ニコニコしてるアユさん。何で?

「何でもないです。じゃあ、元気に出かけましょう!荷物も軽くなったことですし。」

先に部屋を出ようとするアユさん。
何が言いたかった?

外は暗い、ゆっくり手をつないできたアユさんの手を感じる。
さっき手は拭いた、間に合ってよかったけど、何だかまた汗をかきそうだ。

つないだ手をアユさんが見た。

「なんだか手が少し小さくなりましたか?」

「そうかな?」

「今日、改めて思ったんですが・・・・。」

「・・・・何?」

さっきからドキドキが止まらないまま。今度は何?

「やっぱり細くなりましたよ。もうよくないですか?なんだか心配になってきました。」

「体は大丈夫だよ。体が軽くなったから早足の散歩をしたり、この間はキャビネットの隙間をスイスイと入って行けるようになったって宇佐美さんがビックリしてたんだ。アユさんのお陰ですねって言われたよ。あ、お弁当のことは言ってないけど。」

「本当に具合は悪くないですか?」

「大丈夫。」

「じゃあ、このくらいのまま維持していく感じで。どうですか?」

「うん。食べ過ぎずに、時々運動もする。大分服もゆるくなってきたんだ。買い直さなきゃ。」

「じゃあ、明日買い物に行きますか?」

「選んでくれるの?」

「もちろんです。すごく楽しいです。」

「やっぱり洋服が好きなんだね。」

「特別ですよ、そんな、他の人の分は興味ないですよ。」

そう言われて笑われた。

そういうことでいいの?

必要な買い物をして、お酒を飲みながら軽く食事をして、また手をつないで帰ってきた。
自分から初めて手をつないだ。
びっくりもされなかった。それが普通な二人だと思ってもらえたらうれしい。
僕は、そう思いたい。

つないでいた手は、いつの間にかつながれていた手になっていた。
自分が力を入れるより、返されるアユさんの力を感じた。

部屋で自分が緩めたのに、まだ離れない手。二人はつながった距離のまま。

アユさんの荷物をおろした場所まで来て、手にあった買い物袋を下ろした。
部屋の中で立ったままの二人。
繋がった手の距離が短くなって、アユさんの手が離れた。

体に巻き付いてきたその手・・・・。
数年ぶり、看護師さんも諦めた僕のウエストに手が回ったアユさん。
来年はきっと健診でもこうやって測ってくれると思う・・・・・・なんて関係ない事を考えないと・・・・・無理。

何も反応しない・・・出来ない僕にアユさんが視線を上げてきた。

本当にすぐそこに顔がある。
自分の手が意志を持って動いた、やっと。
アユさんの背中に回り、ちょっとだけ力を入れてしまった。
ついついついつい。

目を閉じられたから、眩しいのかもと思った・・・りはしなかったけど、自分の頭で影を作ってあげた。そのついでに・・・・した。
ちょっとだけくっついた、本当にちょっとだけ、音も軽くしたくらい。

「アユさん、大好き。」

「ギイチさん、私も大好きです。やっぱり痩せましたね。」

ブニブニと腰の肉をつままれた。
痩せたと言われても現実にはまだまだそこにはある。
前と比べたら痩せたけど、周りの先輩達に比べたらスッキリしたつもりだったけど、標準にはまだまだ遠い。

「アユさん、今までそんな風につまんだことなかったのに。」

「そうですけど、想像ではもっとぷにぷにしそうだなあって思ってたので。」

「肉をつまむ想像をしてたの?」

それはアユさんの変わった趣味だろうか?

「違います!!」

そう言って背中を叩かれた。
痛い!

離れたアユさんが、さっきの袋を手にして商品を出し始めた。
ハサミを持って渡す。

「ギイチさん、先にお風呂にどうぞ。その後借りていいですか?」

「うぅん・・・。」

帰ってからちょっとだけ入った。
明日の朝入るつもりだったから軽くシャワーだけだった。
でも汗もかいたと思う、心臓と手以外にもきっと。

もう一度用意をして入って体を洗って、髪も洗って。
ぐるりと見まわして出た。
とりあえずドライヤーだけ出しておいた。
自分は滅多に使わない。
風邪をひいた冬の日くらいだ。
そんな事も滅多にないくらいだし。
電源は入れて作動確認はしてる。

「アユさん、何かドライヤー以外準備するものはある?」

「大丈夫です。」

そう言って買ったばかりのタオルを持ってお風呂に入った。
一度洗った方が吸水性がいいのに。
こんな事なら僕が先に準備しても良かったかもしれない。
でも新品の方がいいよね・・・・どうかな?
でもアユさん専用にするから。
そう言って買ったものだ。

しばらく音がして、テレビをつけながら見てる振りをしながら時間をやり過ごし、緊張を紛らわせた。

音がやんで出てきたアユさんは少しだけ幼いスッピンになっていた。
そして可愛いパジャマも入っていたらしいあの荷物。
素晴らしい!

お水を持ってコップに注いだ。
いつものようにソファにもたれた。
隣に座ってきたアユさん。
ほんわりと化粧品の匂いがする。

それだけでくらくらしそうになるし、そっちを向けないでいる。

「ギイチさん、私だって緊張してるんです。」

そう言って僕の指をアユさんの細い手首に当てた。
僕の緊張はお見通しで、ドキドキは胸で感じそうだけど、さすがに手首で気がついて欲しいと言うことだった。

手首を見た後、そのまま腕を上がって、やっと顔にたどり着いた。


「緊張して心臓が爆発しそう。だって、明日だと思って油断してたし。」

「そのつもりだったんですが、なんとなく準備してしまって、予定を前倒ししました。」

照れるような笑い顔を見た。
もう可愛くてしょうがない。本当に。

自分から近寄ってみた。

少しだけ同じ匂いがする。
ボディーソープは同じものを使ったのかもしれない。

もう少し近寄って、さっきと同じように腕を回した、軽く。
アユさんの顔が首筋のところにある。
まだ乾ききってない髪から知らないシャンプーの匂いがする。
そっと鼻を寄せたらおでこにキスをしたみたいになった。
ちょっとだけ髪の毛が寄せられてて、肌に直接触れたから。
アユさんの重みを首で感じて、耳元にキスをされた。
おでこより・・・・すごい・・・高度だよ・・・・僕のは偶然だし・・・・・。

「ギイチさん、大好きですから・・・・。」

「うん、もちろん僕も。」

「・・・・だからすごく大切な夜にしたいです。」

それ・・・・出来たらもっと具体的に言って欲しい。
覚悟をするから。
ちゃんと覚悟をするから。
覚悟というか、嫌がられないって言う保証がないとなかなか手を出せない、まだまだ自分は油断できない、だってやっと今日自分から手をつないだんだから。
やっと抱きしめたんだから。

アユさんが手を伸ばして、リモコンをとった。
テレビが消された。
その後隣のリモコンで明かりがゆっくり小さくなった。

リモコンがテーブルに置いてあると便利だから。
『明かりもリモコンなの?』って一鉄は呆れたけど、アユさんが便利に使ってくれた。
僕もいつも便利だと思ってる。
でも一番今日のこの時に、アユさんが便利だと思ってくれたんだとしたらうれしい。

ぼんやりとうっすら残るくらいの天井の明かりを見上げていたら、又首が重くなった。

巻き付いた手に引き寄せられて、思わず顔を向けた。
アユさんの顔がそこにあった。
薄暗いから眩しくはないはず、でも目を閉じられたら自分は影を作るもんだと、反射的に思った。
キスをして、今までのキスよりもっと長くくっついて。
アユさんが色っぽい声を出してくれるのに体が震える。

僕の太ももの上にアユさんが乗っかって、少しだけ首の重みが消えた。
でも今度はアユさんを見上げないといけない。
そう思ったら顔は正面に来るように動いてくれた。

「ギイチさん。」

「ん?」

返事が出来ないよ・・・・。

「大好き。」

もう何度も聞いた。
まさかそうは言わないけど。

自分の手はアユさんの腰にあって、でも動かされた。
ゆっくり胸に。
鼓動を感じる。
さっきよりすごく感じる。
自分と同じくらい早そうな鼓動を。

「ギイチさん、私も、少しは友達に聞きました。」

「何を?」

「初めての夜にどうしたらいいのか。」

私もって、『も』って言ったよね。
自分も一鉄に聞いたけど、そういうことかな?

「私も、初めてだから。よろしくお願いします。」

アユさん、本当に?

「何でそんな顔をするんですか?」

つい思ったことが顔に出たらしい。

「だってアユさん、彼氏いたでしょう?」

「友達以上の人はいましたけど、彼氏はいませんでした。」

「キスもあの車両の中でが初めてでした。もしかして信じてませんか?」

首を振った。どうでもいい。初めてじゃないと思ってたけど、それも当たり前だと思ってたし。初めてでも、何度目でも、そのまま信じる。

「ギイチさん、後は任せました。」

アユさんが目の前でそう言った。
それは囁くくらい小さな声で、本当に息がかかるくらい近くで。

アユさんに導かれた手はとっくに胸からは逃げ出してた。
いつまでも図々しくそこにお邪魔することなく、定位置の背中の辺りに戻ってた。

その手を勇気をもってまた動かした。
ギリリリッて音がするくらいぎこちなかったかもしれない。
頬に手を当てた。

「アユさん、たまらなく可愛いってさっき思ったのに、すごく色っぽい、困るくらいに。」

そういう自分の声も囁きで、自分の声じゃないみたいだった。
誰?
そう思ったくらい。

「アユさん、大好き。愛してる。・・・・・頑張る。」

つい最後は自分の本音が出た。
でも本当にキス直前で、音になったかは分からない。
気がつかれなかったかもしれない。

キスを繰り返して、深く、お互いに息が出来ないくらいで、鼻から息を漏らすくらい。
思わず自分も目を閉じていた。

アユさんの色っぽい息遣いにやられそうだった。
背中に置いた手に力がこもる。
体をくっつけ合って、お互いに擦り付けるように動く。

「アユさん、胸が・・・・・。」
当たる。ふくらみが柔らかく自分にぶつかるのが分かる。
さっきちょとだけ大きさも感した、自分の手の平で。

そう思ったら図々しくアユさんのパジャマを捲りあげて手を入れていた自分。
直接アユさんの肌に触れて、ゆっくりその体温を味わう。
腰から、背中から、ちょっとづつ上に行く自分の手。
どこに向かってるのか・・・・・。

アユさんが体を離した。
その隙間に図々しく入り込んだ。

柔らかい部分に触れた。

ゆっくり触れた。

まあるい形を想像して、ゆっくり縁をなぞる。
アユさんの声が一層色っぽくなる。

耳元に顔を寄せてキスをされた。

そのまま肩に頭を乗せられて、手もそこに置かれた。

「ギイチさん・・・・・。」

せっかく名前を呼んでもらっても、返事する余裕もなく、アユさんの伸びた首にキスをしながら、ゆっくり手を動かす。

漏らされる声は耳元で湿った感じに響く。
腰にずんずんと刺激が響く感じだ。
思わず自分も声を漏らす。

「アユさん・・・・・。」

背中に置いてけぼりの手にぐっと力をこめて、ゆるゆると動かした手は動きを速めて胸を覆って包んだまま動く。

アユさんの反応に突き動かされるように動かしてしまう。
先端に指で触れて、転がして。
自分でも何かが我慢できなくて。

「アユさん、脱いで。」

大胆なお願いをしてしまった。
半分以上めくっていた。

後はアユさんが万歳をしてくれればいい、そのくらいの勢いがついていた。

アユさんが黙って脱いでくれて、パジャマと、下に来ていた薄いものが横に放り投げられた。

そのついでに目の前に胸が来て、思わずキスをした。
その瞬間に声が出たアユさんに頭を抱えられた。

苦しいっ。

息ができる隙間を作る様に顔を動かして、後は押されるまま、揺れるアユさんの胸にくっついた。
くっついてるのは顔だけで、手は自由になっていた。

気がついたら大胆にもアユさんの太ももを撫でていた。
お尻と太もも、そのあたりを執拗にパジャマの上から撫でまわしていた。

つい勢いがついて、脚の付け根を触ってしまった。

本当に無意識に。偶然に。ごめんなさいって、胸から顔を離したのに、また押し付けられた。

アユさんの声が大きく伸びた。

ゆっくり手の動きを緩めて、落ち着く。

頭を押さえる力も緩んで、アユさんと視線が合った。

「ギイチさん、何で私だけ脱いでるんですか。」

恥ずかしそうに怒るアユさん。
自分も脱ごうとしたら、先に立ち上がられた。

アユさんが脱ぎ去ったパジャマを胸に当てて、手を出された。
手をつないだら、ゆっくり引っ張られて、歩き出された。

そのまま自分の寝室に入った。
やっぱりリードをとってもらってる。

「ギイチさん、ちゃんと大丈夫な日を選んでますけど、持ってますか?」

小さく聞かれて、僕も小さく頷いた。

またギリリリリッって音がしたかもしれない。
これ以上にない真剣勝負、ぶっつけ本番。緊張が高まるだけ高まって、気分が悪くなりそうだった。

「お任せします。」

そう言ってパジャマを落として先にベッドにもぐりこんだアユさん。
ぼんやりしてた一瞬、直ぐに我に返って、上だけは脱いでお揃いの状態で横になった。

「アユさん、大丈夫だったかな?」

「大丈夫です。すみません、大きな声を出して。」

「誰も聞いてないよ。僕だけだよ。色っぽい声だから、新鮮。」

「ギイチさんも時々すごく大人っぽい声を出してました。お互い様です。」

やっぱりあれは自分の声だったんだ。
自分でも疑うくらいだったのに。

「ギイチさんの声も色っぽいです、時々。」

「アユさんはずっと色っぽい、声も、体も・・・・ぉぉぉっと。」

「じゃあ、早く・・・・終わりじゃないですよね。」

そう言って首に手を回された。
上からゆっくりキスをする。

何度か繰り返して、アユさんの手を背中に感じて。
グッと引き寄せられたら、下半身もぴったりとくっついた。
急いで腰を上げた。
恥ずかしい。

もう本当に恥ずかしい。

それなのに容赦なく足を巻き付けられて、引き寄せられた。

「ギイチさん、もっとくっつきたいんです。」

「だって・・・・・。」

「早く・・・・。」

顔を見たらやっぱり色っぽくて、もう力が抜けるくらいだった。
ただ、抜けたと思った力は逆に入ったらしい。

アユさんに覆いかぶさるようにキスをしながら首から胸にたどり着く。
さっきのところまで一気にたどり着いた。
自分にまきつく足に触れながら、腰の辺りから手を入れる。

大胆過ぎる自分。
しばらくそのまま指先だけ入れてウロウロしてたら、腰を上げられて、反射的に一気にパジャマのズボンを下ろした自分。

後はアユさんが自分で脱いでくれた。
お返しとばかりに自分も脱がされたから、間違ってなかったと分かる、安心した。
でもそんな冷静に考える瞬間なんて本当に一瞬で。

自分の手はどこまでも自由にアユさんの肌の上を動いてる。
お尻の丸みを感じながらなぞって、アユさんの声を聞いて、くっついた部分はもう何も隠せない。下着越しの二人だけど、お互いに隠せない。

「アユさん、脱いで。」

そう言う声も他人の声みたいだった、そしてその声にしたがったのは自分で、下着に手をかけて下ろした。
自分も引っ張られて脱いだ。

もう何もない。
どこでもお互いの肌を感じられるようになった。
体をぴったりとくっつけてお互いにぎゅっと抱きしめ合う。

「アユさん、大好き、愛してる。すごくしたいよ・・・・・。」

さっきまでとも違う甘えた声がでた。
欲しい、アユさんの全部。
自分が欲しい。

もっと聞きたい、アユさんが感じてくれる声を。

そう思って体をくっつけたまま揺れる。
お互いに横になったまま揺れてるから、おでこと顎がぶつかったりするし、痛い。
でも感じたことない気持ち良さは体のどの部分でも感じてる。

「アユさん、すごく気持ちいい。もっと・・・・・。」

「ギイチさん、私も、気持ちいい、すごく、気持ちいいの。ねえ、もっと、ぎゅっとして。」

手に力を入れようと思ったけど、その前に腰を突き出した。

アユさんの手が離れて、大きく声が出た。
上から本当に乗っかる様に腰をくっつけて、目的をもって、そこだけくっつけて、激しく動いた。
アユさんの声が一層大きくなって部屋に響く。
こんな声が自分の寝室からした事なんてない。

だって自分も声を出してる。
気持ち良くて、すごく気持ちよくて、我慢できそうにない。

本当にやばい。そう思ってるのに離れられない。

「ギイチさん、もっと、もっと・・・・。」

アユさんが腰を上げてくついてきて、腰に抱きつくようにして動きを速めた。

「もう・・・・・。」

アユさんがのけぞるようにして、声を出してから脱力した。
ビックリしたまま、離れた。
すぐに離れて、自分でも限界だったと分かったから急いでテイッシュをとった。

恥ずかしい・・・・。

そんまま半分うつ伏せで静かにしていた。

ゆっくり呼吸をしながら鼓動を落ち着かせて、手を伸ばしてゴミ箱へ捨てた。
アユさんの隣で毛布を掛けて、自分もその中に入ってそのまま横になったまま動けず。

一鉄に言われて、枕の下に入れてある。

ちゃんと使うように言われた。
当たり前だ。
そんなの・・・・今までは当たり前じゃなかったのに、偉そうにそう思った。
まったくタイミングが分からなかった。
いつ使えばよかったのか?
だって『もっと』って言われたから、あのまま動いてしまった。

まだまだ最後までいってないのに、疲れた。

ちゃんと必要になるだろうか?
この後まだ続けるんだろうか?

ゆっくり上下するアユさんの胸のあたりを見てたらむくむくと力がこもってきて・・・・・使いたいって言ってるけど・・・・・・。

毛布の上からゆっくり抱きしめた。

アユさんがゆっくり首を回してこっちを見た。

「ギイチさん・・・・・恥ずかしい。」

「全然大丈夫。僕も大丈夫?」

「ギイチさん・・・・・。」

腰を引き寄せられた。

「ギイチさんのあの声を聞きたいです。いつもの優しい声も好きですけど、男っぽい声もいいです。」

「男っぽいのかな?」

「はい、すごく。」

「初めて言われた。」

「だって、初めてですよね?」

「・・・・・。」

「あ、すみません。」

「いい、よ。もう言ったよね、そんな事言ったも同然だし。」

「だから私しか聞いてないです、あんな男らしい声。一鉄さんは知ってますか?」

「知らないよ、当たり前じゃん。僕だって初めて聞いたんだから。」

「じゃあ、また聞きたいです。」

「そんな意識して出るものじゃないから。」

「じゃあ、出たら堪能します。」

鼻がくっついた。

体もくっついて、どうせ隠せてない。

さっきよりゆっくり進めた。
自分が我慢できないから、少し休憩を入れつつ、そう思って。

ただ、そうは思ってもアユさんが許さないし、自分でも無理になって。

無事に用意したものは活用できた。
そこはゆっくり慎重にしたからモタモタだったけど。

一回ちゃんと練習すべきだって、一鉄のアドバイスはそんな具体的なことは何もなかった。
箱の説明は丁寧に読んだけど、何度も繰り返し読んで、頭の中でシュミレーションはしてたけど、実践も必要だったと分かった。
ただ不器用に焦る手先だったけど、そこは大人しく待っててくれたアユさん。
あんまり何度も休憩をしてたから、唸り声でせかしてくる、ちょっと知らないアユさんもいたけど、そこのモタモタは唸られなくて良かった。

でも満足。アユさんもそう思ってくれたらしい。
最後にはぎゅっと抱きしめ合って、大好きと言ってもらえた。

同じくらい力をこめて感謝を込めて愛情も込めて同じように答えた。
伝わったと思う。


元々広いベッドにしていた。
ダブルまではいかなくてもゴロゴロしても自分のサイズでも狭くないベッドに。
疲れて部屋で寝てる時間は大切だから。
旅行主張も多いけど自宅では手足全部くつろいで寝れるように、だってなかなか買い替えないベッドだから、寝心地がいいと評価の高いものを買ってたし。

それなのになんだか狭い。
うっすらと目が覚めた時にそう思った。
はっきり目が覚めた時に理由は分かって、あんまりくっついてたせいだと反省した。

アユさんの髪の毛が自分の顔に当たり、くしゃみをしたくなる。
くすぐったくて、恥ずかしくて、ついでにいろいろ思い出して・・・。

いけないと思って腰を引いた。

くっついた距離から、離れるように動いたのはちょっといきなりだったみたいで、アユさんが目を覚ました。

もっと離れて、見つめ合った。

「お、おはよう、アユさん。」

驚いて悲鳴を上げられたりしたら悲しいけど、そんな事もなく。
寝乱れた髪の隙間から視線が自分を見てる。

「おはようございます。ギイチさん。」

少し寝ぼけたような声だけど、朝の挨拶も甘い。
その一言目の挨拶すら甘くてジワジワと自分にしみ込んできて、もっと腰を離した。
上から見たら『く』の字になってるくらいに。

顔にかかる髪を払いたい、もっとよく見たい。
そんな願望は押し殺して、ちょっと距離をとったまま。

「アユさん、よく眠れた?」

「もちろんです。」

「まだちょっと早いけど、目が覚めたなら、起きる?」

「・・・・嫌です。」

「うん。」

そう言っても目を閉じるでもなく、そのままの姿勢で。

「何でそんなに離れてるんですか?」

「別に・・・理由は・・・。」あるけど、言えない。

二人の体の間に置いた手に細い指を重ねられた。

ええっと・・・・・・、次の日、目が覚めた朝の二人はどうすればいいのかって、そんな事も一鉄は教えてくれなかった。
だって今日の予定も分からない。決めてない。、服を買いに・・・・。
でも、起きようかと聞いたのに、まだいいと言われて。

心と頭が忙しくて、そのおかげで少し体の方が落ち着いてたらしい。

アユさんの手が自分の手から離れて腕に行って、近寄って抱きつかれた。

体は正直だ。
反応したんだから、やっぱりさっきまでは幾分落ち着いてたんだ、やっと、こっそり。
でも、無理無理無理。

一晩のいろいろじゃあ、まだまだ分からいよ。
もっといろんなパターンとシュミレーションと。
始まる前だけしか想像できなかったから、始まった後のことの想定は本当に白紙だった。

ちょっとだけ体を離すようにして、深呼吸するように、落ち着くように自分の体に言い聞かせた。それでも当然だけど、なかなか自分の体は言うことを聞いてくれない。
最近はちょっとだけ食欲飢餓状態もあったりして、そうなると違う欲の方にバランスがいくんだろうか?なんて思ったりして。
あえてアユさんを見ないようにベッドの上の方を向いて取り留めない考え事に集中しようとしていた。

「ギイチさん。」

ちょっとギリッと音がするギイチの『ギ』で呼ばれた気がする。
気のせいだろうか?
恐る恐る下を向いたら、やっぱり怒ったような顔。
あああ・・・・、ごめんなさい。

「アユさん」

「何ですか?」

なんですか?ってその前に名前を呼ばれたので・・・・。

「・・・・ギイチさんから誘ってくれてもいいじゃないですか。」

視線を外されて言われた。
さっきの『ギ』よりは少し弱い『ギ』になった。
いつも誘いたい。いつでも会いたい。もっともっと一緒にいたい。
そう思ってる。

「僕は、いつでも、誘いたいです。土曜日も日曜日も祝日も昼も夜もいつでも、一緒にいたいくらいです。でもアユさんも友達と会いたいだろうし。それに行きたいところもなかなか思いつかなくて。アユさんの行きたい所だったら、僕も興味を持ちたいから。いつでも誘いたいです。ずっとそう思ってます。」

「あの、今日も一緒にいたいです。出かけてもいいです、部屋でのんびりでもいいです。できたら明日も一緒にいたいです。」

まだ決まってない今日の予定。
アユさんが誘われるのを待ってるなら誘う。
でも具体的には・・・・やっぱり思いつかない。
今度一鉄に聞いておきます。
今までデートした所を聞いてみます。
今まで聞いてたはずなのに、まったく心に残ってない。反省だ。

お腹辺りにあったアユさんの手が思いっきり腰の肉をつまんだ。
『ギュッ』と音がしたかもしれない。

「あ、痛っ」

急に来た痛みにちょっとだけ腰が折れた。
もしかしたら赤くなったかも。

アユさんの手が顔に来て思いっきり頬を伸ばされた。
今度は両手使いだった
多分変な顔になってる。

「ひらぃ。」

情けない声が出て、手は離された。

アユさんが上からのぞき込んできた。

色んな危険なアラームが鳴る。
何で?怒ってる?何かした?
あの、胸が・・・視線を下ろせない。
それで、感触も・・・・。
コソコソとゆっくり下半身が後ずさる。
広いベッドは逃げ場もある・・・・・と思ったのに、随分端にいるらしい。
いつの間にか追いつめられてる。
漫画のようなオチを想像した。

当然布団から全身が出て、無様に転がった裸の自分の姿。
情けない、それじゃあ・・・・バレる。
一人そんな想像に逃げ込んでる間もアユさんに睨まれてたらしい。
気がついたら怖い顔のアユさんと目が合った。
何でだろう?デートに誘ったらつねられた。

奈央さんに聞きたい、そんなことします?


「ギイチさん!」

「はい!」

まだまだ薄暗い遮光カーテンに閉ざされた寝室で、元気よく点呼された気分。

「まだ起きたくないって言ったんです。」

「愛してくださいって言ったんです。」

「ギイチさんから、始めてくださいって、そう言ったんです。」

「どこまでニブ鉄なんですか?」

「察してください。」

「もう言いません。」



「どうぞ。」


そう言って力を抜いて、胸のあたりに落ちてきた。

言葉の合間に考えて、分かった気もして。

動かなくなって、本当に静かになったアユさんの頭を撫でた。
本当につねられても仕方なかった・・・・のかな?

ちょとづつ体をアユさんの方に寄せていく。
アユさんの背後にはベッドの半分くらいのスペースがある。
とりあえずもっと真ん中に移動したい。
二人で落ちたら、漫画以上に滑稽だから。

アユさんの頭を自分の体にのせたまま、腰を抱いて横にずれた。
意外に器用に出来た自分に拍手。
これで安心安全で・・・・まあ。

アユさんを横に下ろして上からのぞき込む。

視線を合わせてもらえない。
怒ってるんじゃなさそうだけど。

「アユさん、目が覚めて本当にうれしかった。昨日はすごくいい夜だった。まだ起きないんだったら、夜の続きでいいよね。」

「いいです。さっき言った『おはよう』は取り消しです。」

「アユさんを怒らせると怖い。ねえ、昨日みたいな色っぽい声で忘れたい。」

そういう自分の声も変だった。

音を立てるようなキスをして、許された下半身も寄せた。
求められるなら隠さない。
堂々と教えてもいい。
僕だって目が覚めた瞬間そう望んだんだって。

アユさんがすぐに色っぽい湿った声で答えてくれた。

脚を絡め合い、大人しくない体をくっつけ合い、キスはゆっくり首から胸に降りる。

「ギイチさん。」

最高に甘い声で呼ばれる。

「うん?」

「大好き。」

腰にあった手が肉をつまむ。
『ギュッ』じゃなくてぷにぷにと柔らかく。
そんな愛情表現はあるんだろうか?

「アユさん、くすぐったい。」

胸に顔を埋める。

「気持ちいい。」

程よいふくらみが柔らかくて、自分の肉なんて全然つまんでも気持ちよくないだろうに。
こっちのお肉の方が絶対いい、当たり前だ。

柔らかい中の固い部分も好きで、舌を伸ばしてみた。

アユさんが漏らした声がもっと色っぽく響いて。
もっと聞きたくて口をつける。

ジッとできないアユさんを押さえつけるように覆いかぶさってるのに、少しも重しになってないように落ち着かないらしい。
アユさんが動くたびにくっついてる自分も刺激されるし、そうなると口を開けて声を出してしまい、口が離れてしまう。

与えられる刺激に気がついたらそっちが気になる。

もっと深く足を入れてアユさんの反応をしっかり感じた。

同じようにされたら後は勢いがついてお互い揺れて刺激を強めるだけだ。

「ギイチさん。」

「アユさん、もっと、ねえ、・・・・。」

我慢できない。
アユさんだけじゃなくて自分も無理だから。

離れた。

「待ってて。もっとちゃんとくっつきたい。」

二度目になると手慣れてきた気がする。
もたもたする感じも薄れて一二三・・・・五くらいで出来た。

手を伸ばしてきたアユさんにくっついて、深く深くお互いの奥に入り込む。

「アユさん。大好き。気持ちいい。」

ゆっくり揺れながら伝える。
アユさんも色っぽい声で答えてくれたんだと思う。
目を閉じてる表情を他の誰も知らないと思うと、本当に自分に力が入るのが分かる。

もっと奥に、もっと深く、誰にも邪魔されない所に行きたい。

休憩ははさまずにずっとまっすぐ突き進んだから、唸られることなく、ただただ色っぽい声だけを聴き続けた。

最後の最後まで。
自分で最後に出した声は満足とも色っぽいとも違う雄たけびになったかもしれない。
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