合掌 ~お地蔵さまに教えてほしいこと~

羽月☆

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7 ひょっこりと二度目の食事をした日、全部私がお世話した日 ~桐乃~

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火曜日。
草野君に昨日提出してもらった書類は問題なかった。
伝える必要もないだろうと思った。

だいたい朝からじっと見られて不機嫌な顔をされた気がするのだ。
いつものビックリするような顔じゃなく、ちょっと怯えるような顔でもなくて、明らかに不満そうな顔だった。

朝早く目が覚めたから、美容院で教わったアレンジで、朝からクルクルしながらじっと鏡を見て。余分な時間は全部それに費やされた。

やはり面倒だ。やってらんない。
そうは思ったけど褒められると悪い気はしない。

なんなら他にも2種類くらいアレンジを教わってるから、またやってみてもいいじゃないって気分になるくらいには褒めてもらえた。

やはり女子は・・・女性は褒められて綺麗になるのだ!綺麗になろうとする努力をするのだ!!
最近褒めてくれる人も少なくなった。
しかもセクハラにかからないように外見を褒めるのは美容院か洋服屋さんか、エステか化粧品屋さんか、とりあえずお金を払った相手だ。
あとは特別な誰かだろう。
そう言えば昨日もご機嫌に始まった。
今日もご機嫌に始まる1日のはずだった、地蔵の存在を忘れそうだ・・・そう思ったのに、正面にいる草野君の納得いかない表情を何とする。
まったく・・・・・。昨日と同じパターンじゃないだろうか?

地蔵地蔵・・・・・。

朝のひと仕切りが終わると髪の事なんて忘れる。
昨日は短い髪を癖で後ろに払いそうになったり、指で梳く動作に何も触れなかったり。
それでも1日で随分慣れた。
今日はそんな動作もないくらいだった。


大人しく仕事をして、午後休憩をとってたら柏木君と一緒になった。

彼女とそろそろ結婚しそうな柏木君。
生意気な奴め、まだまだ若いじゃないか!!

「お疲れ様です、朝倉さん。」

「お疲れ様、柏木君。ねえ、聞きにくいんだけど・・・・草野君と飲んでて愚痴なんて聞かされる?」

「愚痴ですか?別にないです。頑張りたいって言ってます、でもまだまだなんだよなあって反省もしてますよ。何か気になります?」

「ちょっと元気なくて、私がきついからかなあって。名前を呼ぶと明らかにどんよりしてるし。」

「ああ、それはまあ、明らかにどんよりのビクビクですよね。大丈夫ですよ、あんまり後ろ向きには考えてないみたいです。」

「そう?」

「はい、大丈夫です。それに元気ないのはちょっとこっちの責任で、朝倉さんは気にしないでください。」

金曜日の事だと思ったけど、知らないふりで、納得したふりをした。

「そう、良かった。ちょっとだけ安心する。」

「大丈夫です。本人も不器用は自覚してるんで、その分頑張ろうって思ってるし。仕事だけじゃなくて、他の事も。」

「仕事は、まあ、もうしばらく責任持つけど、それ以外は柏木君が指南してあげたら?随分器用そうじゃない。」

「匠はすごくコンプレックスに思うかもしれないけど、僕はいいと思います。それが匠らしい感じで、変に馴れ馴れしかったり、上手くその場その場を乗り切って調子よくなったりしたら、それじゃあ匠のいい所が台無しです。」

やっぱりいい奴の柏木君は心も男前じゃない。
草野君もいい同期を持ったじゃない。

「だってそんな匠は朝倉さんだって嫌でしょう?」

「確かに、嫌ね。何だか違うわよね。同期だし、タイプは違うけど仲もいいし、いろいろと伝授してあげればって思ったけど、やめた方がいいかな?」

「全然です。多分無理です。」

「そうね、そこまでも不器用そうだしね。」

「そうですよ、それが匠です。」

「本人が悩んでも?」

「きっとそんな匠がいいって言う子が出てきます。僕も探します。」

「そういえば、彼女もやっぱり不器用なところを笑いながら呆れてたって嬉しそうに言ってたけど。」

「いつの話ですか?」

「ちょっと・・・だいぶ前かな?そのことを久しぶりに聞いたら黙られてしまって。ちょっと聞かない方が良かったみたい。」

そう言ったら柏木君も黙った。

ああ、本当に言ったらいけない話題?
しまったなあ、眠れない理由の一つになったかもしれない。
朝からぼんやりしてたし、不機嫌そうだったし、傷つけたかな?

さっさと撤収すべし。

「じゃあ、戻るね。お先に。」

その場から逃げ出した。

危ない危ない。何があった?
まさか彼女が亡くなったとか、そんな悲惨な事じゃないよね、大丈夫だよね。

ああ、地蔵地蔵、ごめんなさい、懺悔です、念のため、懺悔です。
手慣れた動作で引き出しを覗き込んで、心の中でつぶやいて、閉めた。


いつかどこかにきっと誰かが、草野君にも、そして私にも。
きっときっといつか、どこかに誰かが。
できたらそろそろお願いしたくて、割と近くで、ハイスペックな人希望です。
なんて・・・・そう思うだけならいいじゃない。

チラリとみたら草野君はいなかった。

明らかに寝不足の顔をしてたけど、大丈夫だよね、柏木君、よろしく。

そう思ってたら、いつの間にか帰ってきたみたいで仕事を始めてる草野君。

今日は無駄な残業はしないぞ。
私も早く帰りたいんだ。



「桐乃、似合うじゃない、どうしたの?何かあった?」

「友近、わざと聞いてる?何もないって知ってるでしょう。」

「だって随分雰囲気変えてきたね。」

「映画を見たら影響されたのよ、つい短くしてしまって。美容師さんがせっかくアレンジの方法を何種類か教えてくれたから、試してみたの。」

「似合う似合う、柔らかい雰囲気がいいじゃん。」

「そう?」

「うん。これで中身も丸かったら言うことなし。」

「残念でした。このアレンジはやっぱり面倒。せっかく短いんだから手櫛でちゃちゃちゃで終わらせたい。」

「そこに気合入れないと何も起きないから。」

「なんで髪型で変わるのよ。」

「変わるよ。印象なんてそんなものじゃない。最初は騙せる、しばらく騙せる、どうせ飽きっぽくて長続きしないんだったら最後まで騙せるかもね。」

「毎回そうとは限らないじゃない。」

ちょっとだけ長く続く人はいる。
色んな理由で、相手のタイプと忍耐と愛情によるところが大きい。

「いいね、そんな飽きのこない魅力のある人がいたら。」

そりゃいいけど。
そんな人はたいてい『先約済』の札を持ってるんだから。


「頑張ろう!」

そう言って背中を叩かれた。
頑張る必要があるのは私だけで、ゴール寸前の友近。
それでも付き合う中でも結婚した後も何らかの頑張りは必要らしい。
人生そうそう楽は出来ないし、気も抜けないのだから。


やはり次の日は面倒だったし早起きもしなかった。
ちゃちゃちゃと手櫛で髪が整う楽さ、いいじゃない。
それでも週末くらいは頑張ってもいいかもと思った。

会社では納得の視線と、もったいないの言葉をもらいながら席についた。


「朝から面倒はかけられないから。せっかく楽な髪型にしたのに。だから週末だけ気合を入れることにした。」

「そうなんですか?でも何となく落ち着きます。こっちがいいかな?」

後輩の言葉は素直に受けたい。
さすがにこの年になって、同性の言葉は素直に聞いたほうがいいと思うようになった。
昔は敢えて反抗したり、疑ったりしたものなのに。

人はだんだん丸くなるのです。性格もそれなりに。

「そういえば、週末、これ使いませんか?彼氏の会社が関わっててたくさん余ってるんです。良かったら是非!」

そう言って目の前に広げられたのは美術館の優待チケットだった。
なんて事、いいじゃない。

「もらっていいの?」

「興味ありました?」

「あるある、行きたい。行くよ。」

「うれしいです、是非どうぞ。」

いい子だ、本当に。
お金を払ってでも行きたいじゃない、ただなら絶対行くでしょう!!

週末の予定は出来た。美術館で芸術鑑賞!!



ただ、会社でバラまいたチケットで、もらった人が週末を使うのは同じで。
びっくり、知った顔を見かけた。

ただ、私は一人で相手が一人じゃないとなると知らないふりですれ違うように移動する。

ああ、まさかわざわざデート用にって贅沢に二枚もらってた人がいたなんて。
考えもせず、当然の様に1枚だけ抜きとった。
確かに沢山ビラビラと広げて見せられた。
使われるなら何枚でも良かったんだろう。

しまった・・・・・。

途中のソファに座り、正面の作品を見るふりをしてやり過ごす。

他にももらった人がいるんだろうか?

相手が一人ならそうでもないけど、うっかりデート中の知り合いと遭遇するのは、なんとなく・・・・。

そんな時はこっそりやり過ごすに限る。

雨が降る今日でも地下道でたくさんの駅と繋がってるから、電車に乗れば濡れないで来られる。
ゆっくり見るにはいいと思ったのに。
考えることは同じらしい皆、今日も混んでいた。

他に誰かいるだろうか?

しょうがない。

歩き出して作品を見始めた。

館内は作品保護のために全体的に薄暗い。
作品だけ見てればそうそう気がつかない、気がつかれない、そうだといい。

その後はゆっくり見て、人は敢えて見ずに、出口まで来てホッとした。
記念の商品を見て、気にいった葉書を数枚買って、会計をして出た。

手に持った傘スタンドの鍵。

番号を合わせて引き取るのを忘れずに・・・・・・。

最後の最後にバッタリ。

いたの?もらってたの?来てたの?

そこにいたのは草野君だった。
だいたい何が起こってるのかすぐに分かった。

「鍵を無くしたの?」

いきなり声をかけたら飛び上がるくらいに驚いたらしい。
凄い顔になった。

「落としてなければどこかにあるから、落ち着いて探せば?」

そう言って背後に回った。
デニムのポケット、財布の下が明らかにボコボコしてる。

「ねえ、パンツの後ろポケットに入ってない?」

そう言ったら首が回って、手もついてきた。
無事に見つけたらしく、安堵の表情になった。
それでもずいぶん焦ったらしく、ちょっと汗をかいてるくらい。

私は自分の鍵を番号に合わせて、無事にすんなりと傘を手に出来た。

まさか取り出し方が分からない、なんてこともなく草野君も無事に傘を手に出来たみたいだ。不器用はともかく不注意なんだろう。
私服でいる姿は初めて見た。
思ったより足が長いらしい、細い足がまっすぐに伸びていた。
ついでに上半身も薄い。
スーツだと頼りない感じだけど、私服だとスタイルが良く見えるみたいだ。
多分もっと体に合う服を着れば・・・・・。

いつも自分が呼んだ時に体が細ってるように見えたけど、元々細いらしい。

こっちを見て笑顔になった。

「朝倉さん、ありがとうございました。」

「その内気がついたでしょう、別にいいわよ。」

草野君の視線が髪に行ったのが分かった。
そう今日は週末なのでアレンジを頑張った。
別に一人のお出かけでもそれくらいの手入れはする。

じっと見られた後顔全体を見られて、ちょっと後ろに下がって全身を見られたらしい。

それはとても失礼でしょうよ!!

「やっぱりかっこいいです。オフでもかっこいいんですね。」

いつもよりは緊張もなく、だから失礼な感じにも気がつかず、すんなり褒めてくれたと思いたい。

「ありがとう。」

お返しに私も感想を言った。

「草野君も、思ったより足が長いのね。気がつかなかった、スタイルいいね。」

「そんなことないです。痩せてヒョロヒョロなだけです。」

「太ってぶよぶよよりもいいと思うけど。」

「そうですか?じゃあ、初めて褒められたと思うことにします。」

笑顔で言われた。

知り合って2年以上過ぎて、初めて褒めた?
今まで褒めてなかった?
まあ、そうかも。
そんなに話をすることもないから。

「他に誰かに会った?」

「今日ですか?」

「そう、チケットはいろんな人の手に渡ったのかな?」

「ああ、そうですね。でもまだ期限があるし、他に誰かいましたか?」

「うん、気のせいかも。草野君は一人?」

「・・・・はい。朝倉さんは?」

「誰か隣に見える?」

馬鹿正直に隣をみる草野君。
その後目が合った、すみません、そう言われてる気がした。
ちょっとムッとするじゃない、そこはお互い様でしょうって。

「せっかくだから一緒に食事する?それともこの後急ぐ用事あり?」


「・・・・ないです。」

「あ、無理じいはしないよ。用がなくてものんびり余韻に浸りたいとか、放浪したいとか。」

「いえ、ご一緒させてください。」

「じゃあ、お腹空いたから付き合って。」

つい仕事口調になりそうになる。

でも気持ちは本当にオフだから、楽な感じで誘ったつもり。
一人で食べるのは寂しい、週末だし。
一緒にいてもらえるだけでも、見た目は助かる。
食事だけの時間、横にいてもらえたらいい、なんて思っただけだと思う。

歩き出したのは地下道。

お互いに好みを言い合い、草野君にこだわりも行きつけもないのは分かった。
さっさと決めたい方だから自分の行きたいところに連れて行った。
『お任せします。』そう言われたから文句もあるまい。

ただ、ビックリはしたかも。
思いっきり作業付きのお店。お好み焼きのお店に連れてきた。

「しばらく食べてないなあって思って。女子と行くところでもないし、一人だともっといかないから。どう?」

「はい、僕もすごく久しぶりです。」

「じゃあ、入ろう。」

ランチはどこかのコーヒー屋さんでパンでもと思ってた。
それに比べるとグンといいじゃない。

お洒落でもなく、気取った感じもない。


ただ、ここでも不器用だった。

揃った一式を見てもぼうっとしてた。
焼いてくれるというタイプじゃないらしい。
動かない草野君に聞いてみたら、出来ないと思う、と。

「じゃあ、私がやっていい?私も得意じゃないけど、ちょっとはみ出して歪になっても知らないよ。」

「はい。あんまり・・・大丈夫です。」

そうは言っても普通レベルには焼ける。
だってそんなに技術は必要ないよね。
ひっくり返すときくらい。

くるっとひっくり返して、はみ出たものはササっと中に押し込んで。
どうよ、うまくいったじゃない。
満足の笑顔の私に、草野君も笑顔で拍手をしてくれて、思わずピースサインを出してしまった。

「美味しそうですね。」

「ねえ、半分に分けてから、青のりね。」

「はい。そうなんですか?」

「青のりはいらないの。振りかけたかったら自分の分だけにしてねって事。」

「はい。」

ピンとこないらしい。
まさかお店を出る時に青のりだらけの口になってる気じゃないでしょうね?
大丈夫かしら?

「歯とか唇につくでしょう?まだこの後ぶらぶらするのに青のりつけてるのは恥ずかしいじゃない。そういうことよ。草野君は似合いそうだからご自由に。」

やっと分かったみたい。
ただ人の顔をジッと見て納得するのはやめて欲しい。

「勝手に私の顔に青のりを足したでしょう?」

「ああ・・・・すみません。」

「嫌がらせしたら、仕事で倍返しするからね。」

「・・・しません。」

よし。
そもそもそんな度胸があるとは思ってない。
そんな稚気もないだろう、そこは安心だ。
ただ、思い至らないという一点は気を付けた方がいい。
悪意がないと分かってると仕返しも出来ない。
ひたすら謝るだろう、文句も言えない。

「いい具合に出来たみたい。」

ソースとマヨネーズをかけて鰹節を躍らせた。

「あ・・ごめん。半分に分けてからが良かったかな?」

「いいです。やってもらってありがたいです。いただきます。」

合掌をしてそう言った草野君。
結局最初から最後まで私がした。
半分に分けた後、それをまた三分割してあげたんだから。

鉄板の向こうでじっと割り箸を持って待ってる草野君。

ねえ、子供の頃やらなかったの?

すぐに口に運ぼうとするから、注意した。

「熱いよ。」

寸前で止まってふ~ふ~し始めた。
鰹節が私の方の二分の一に飛んできたけど、まあいい、許す。

目の前にいるのは近所の子供だと思うことにした。

お酒を頼んで、ゆっくり食べる。
半分食べてもう一枚追加して。

やらせようかと思ったのに首を振られた。
しょうがないのでまた一から自分で焼いた。

本当に、近所の子供だと思うことにした。
今までそんなよそ様の子を預かるシチュエーションもなかったけど、そうとしか思えなかったから。

それでも美味しそうに、食べてるのを見ると餌付けしてるみたいで、ちょっとした労働の対価としては満足もした。

「本当にコレは一人じゃ食べないよね。」

「そうですね。僕は記憶にないくらい昔です。」

「そうなの?私はたまには食べるよ。家でもやるし。」

「ないです。」

「作り方覚えた?」

そう言ったら、あっ・・・・って顔をして、視線が天井を向いた。
記憶を再現してるのかもしれない。

「今度食べたくなったら誘うから、その時はよろしく。」

そう言ったら再現途中だろうけどこっちを見た。

冗談なのに。

「彼女と行くこともあるかもよ。上手に焼けるといいね。」

そう言ったら首を振られた。
今は何でも動画があるから大丈夫なのに。
本当にただの餌付けだったみたい。

二枚目を食べ終わり、お酒を二杯飲んで。

「お腹いっぱい。満足。付き合てくれてありがとう。」

「僕も、全部やってもらって。今度は僕が焼きます。ちゃんと練習します。」

「そう?期待してるね。」

握りこぶしを作るくらい覚悟がいることなの?
意外に簡単なのに、でも教えてあげない。

いつか誰かとの場面の役に立つだろう。
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