合掌 ~お地蔵さまに教えてほしいこと~

羽月☆

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8 お好み焼きのお礼の下僕宣言 ~桐乃~

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お会計は半分に割って、割引券は草野君にあげた。

ガムを噛みながら駅に向かう。

時計を見るとまだまだ早い時間。
駅に着く前に別れてふらふらしよう。

「朝倉さん、今日は、この後は?」

「適当にふらふらしないと、お腹が重い。」

「僕も一緒に行ったらダメですか?」

餌付けのつもりだったのに、刷り込みまでした?私の後ろをついてくるの?

「だってお店をふらふら見るくらいだよ。買うものもないけどふらふらとするだけで。女性向けのお店が多いし、退屈じゃない?」

何考えてついてくるの?

「一人でいても、もっと退屈だから。荷物持ちでも、何でもします。」

「下僕宣言のようだけど。」

「はい。」

認めてどうする。

「じゃあ、いいよ。メンズのお店も入ろうか?びっくりするくらいイメージが違うコーディネートをしてあげる。」

今着てるのは多分量販店の物だろう。
どこにもブランドマークは見えないし、特徴もない普通の服だ。
そんなにこだわりもないだろうから、そう思ったけど。

これで有名どころの服ですなんて言われたらびっくりだけど。

「いつもはどこで服を買うの?」

「近所です。体に合えば、いいです。」

多分、合ってもいないよ。

「そんなんじゃ、もったいないじゃない。せっかく手足が長いんだから。」

そう、指も長かった。
割りばしを器用につかう指を見てそう思った。
フォークじゃわからないけど、お箸だとちょっとだけ分かりやすかった。

「でも出かけることもあんまりないです。自分の駅で済ませる方です。」

「そう。別に買わなくてもいいから見てみよう。こんな感じもいいんじゃないって、人が勧めるのと自分が好きなものは違うじゃない。選択の幅が広がれば楽しいわよ。」

「朝倉さんは楽しそうに買い物するんでしょうね。」

「当たり前よ、女の人から買い物を取り上げたら、後は食べるしかないじゃない。」

「そんなきれいなスタイルで言われても説得力はないです。」

「努力はしてるの。」

褒めてくれたのはお好み焼きのお礼だと思ってやろう。

「僕より手足が細いじゃないですか。」

太い訳ないじゃない。

「だから努力だって。ヒールのせいもあるし、スタイルよく見える工夫なら取り込むし。」

そう言ったら後ろに下がった。
立ち止まったら、草野君も立ち止まった。
また全身を見たよね?
本当に失礼なんですが・・・・・。

「本当に綺麗じゃないですか。」

二枚目のお好み焼きのお礼だと思ってやろう。
失礼な視線第二弾のお詫びも入ってると思ってやろう。

でも男としてはダメだ。ちゃんと教育してあげよう。

「ねえ、あんまり、じろじろ見たりするのは失礼よ。相当自信がある人ならいいけど、後輩にやったらセクハラって言われるわよ。」

そう言ったら驚いた顔をした。

「すみません。」

本当に悪意がないのって始末が悪い。
そんな事も教育的指導が必要なんて。

「ねえ、年下どう?うちの二人も飛び切り可愛いじゃない。他の課にもかわいい子はいるみたいだし、噂にはならない?」

二年分の後輩が出来た三年目の草野君、課内は二人だけ。
でもお洒落で可愛い子達だ。性格もいい。
今日のチケットももらえたんだから。

「二人とも彼氏がいます。他の課の子なんて知りません。」

「もっと興味をもてば?エレベーターで見かけたり、休憩室や社食でも見かけるでしょう?いっそ他の会社の子でもいいし。」



「ないです。」

不愛想に答えられた。
一緒にエレベーターに乗り、上に上って行く。
ぐるぐると本当に一周する。

「ねえ、退屈したら、遠慮しないで言って。別に帰ってもいいのよ。」

「荷物持ち係です。」

今は別にないけど、それに買うとは言ってない、見るだけって言ったのに。

そうは言ってもちょっと気になると欲しくなる。
しかもそんな時は褒めてくれて、その気を煽る。

どうしても荷物を持ちたいの?

ブラウスを体に合わせて、ジャケットをイメージする。

「似合いますよ。髪がスッキリしてるので大きな襟もいいですね。」

私もそう思った。
不器用な癖にポイントをついて褒めてくる。

値札を見る。バーゲンまで残ってるか考える。

荷物持ち予定はふらふらと違うアイテムのところに行って、手に取ってる。
女性の服なのに、何を基準に見たいんだろう?
一度ラックに戻し、他のを見てみる。

「これ似合いそうです。」

笑顔で言われた。
マネキンが着てる一押し商品を勧めてきた。

いつ着るの?
会社には着ていかないだろう服。

そんな余裕はない。

「ありがとう。」

取り上げて、ラックに戻した。
ブラウスも諦めて次のお店に行く。


「ダメでした?」

「いいけど、あんまり着る機会がないから。会社に来ていく服じゃないと。」

「そうですね。」

「でもお洒落だったね。バーゲンで残ってたら買うかも。」

一応追加で言ってお礼に足す。

「本当ですか?」

マネキンが着てたんだからきっとなくなるでしょうけどね。


結局シンプルなブラウスは買った。
嬉しそうに手を出したので持たせた。

退屈した感じもなく、ついてくる。
時々勝手に見て、高そうな服を勧めてくる。
買いません!!

「ねえ、ぴったり体に沿うような服が好みなの?」

どれもタイトなラインで、明らかに腰の細いデザインの服を見つけて持ってくる。

「似合うと思ったんです。僕の好みとかじゃなくて、朝倉さんが一番きれいに見える服を考えたんです。」

さすがに食後のお腹が気になるから無理。
努力はしても、食後くらいは油断したい。

「じゃあ、今度は私が選ぶ。」

やっとメンズのあるフロアに来た。

入るまでもなく回れ右したそうにしてたお店に強引に連れていった。
かなり個性的で、お値段も張ることは分かってる。
本当に変身するならってお題で選ぶ服。
店員さんが寄ってくると恥ずかしがるだろうから、指をさすだけにした。

その度に首を振られて、手も振られて。
まあ、無理だろうと思ってあきらめた。

それでももっと安い感じのお店があったので、そこは堂々と手にして体に当てた。
値段を見て考えてる。
拒否感はない。

それでもタイトな黒のコーディネートを提案してみた。
かなり男くさい感じになる。今よりワイルドな印象になるだろう。
参考までにって思ったのに。

疲れて判断力が鈍ったのか、手に取って試着してみると言い出した。

マジ?
どうしよう、笑わないように努力はするけど、万が一・・・・だったら、謝るしかない。

男らしさ前面スタイル、そうなればいいんじゃないっていう提案だけど、今の荷物持ち君に似合うかは微妙なところだ。

試着室の外で待つ。

褒めよう褒めよう、お返しに褒めよう。
呪文のように繰り返す。

おずおずと声をかけられるか、その前に脱いで首を振られるか、そう思って待ってたのに。
いきなりカーテンが開いて見せられた・・・・というくらい堂々と近くに立っていてビックリした。

気に入ったらしい、表情がそう言ってる。
少し照れたような、それでもうれしそうな顔。
それを見たらこっちもうれしくなるけど、呪文を忘れるくらい言葉が出なかった。
似合ってた・・・冗談抜きで似合ってた。
ただ思ったほどの男らしさはないけど、やっぱり似合ってるとしか言えない。
こんな感じもいいんだと分かった、多分草野君自身も。
チェックやワンポイントくらいの量販品より、いっそダークな色一色で攻めるのもありだと。

「どうですか?」

満足そうに聞いてきたけど、他人の評価も気になるらしい。

「すごく似合ってる、すごくいい、惚れ直すから。」

心からそう言えた。言い過ぎたくらいだったかも。

くるりと回って鏡を見てる。
でも表情が嬉しそうだった。

一歩近寄って囁く。

「似てる感じの持ってる?」

「いいえ。もっと緩い感じが多いし、これは結構細いです。」

そう言われて腰のあたりの布を掴んだけど、まだまだ余裕はある。

「サイズ感はいいと思うけど。」

無理に買わせたりするつもりはないけど、勧めていいのかどうなのか。
いつもの価格帯とどうなのよ?
それでも全部買うとそれなりだろうし。

「どうですか?すごくお似合いですけど。違う色を試してみたかったらお持ちしますよ。」

近寄ってきた店員さんに笑顔で言われた。

「脱ぎながら考えます。」

そう言われたから店員さんを見た。

「どうぞごゆっくりご検討ください。」

「ありがとうございます。」私が言った。

カーテンが閉められて、ごそごそと脱いでる気配がする。
その場を離れた。

他の色で似合う色・・・。

男っぽさは諦めた、やっぱり優しさが前面に出てしまうらしい。
じゃあ、他は何色が似合うんだろう?

後輩といってもそんなに個性をよく知ってるわけじゃない。
仕事はまだまだ、伸びしろを期待したい、それくらい。

どうしても意外性で黒しか思いつかない。

でもそれじゃあスーツと変わりない色だ。

「お待たせしました。」

手にはきちんと畳まれたり、ハンガーに戻された服がある。

「どうする?」

「もう少し・・・。」

「じゃあ、他のも見ながらね。」

いろんな色を試してもやっぱり黒が一番いい感じだった。
タグを見て、三点合わせてみた。

「買います。せっかく朝倉さんに選んでもらったので、記念に買います。」

女性の買い物の幅とは違う。
いつもそんなにお金かけてないならそれなりの出費だけど。

「すごく似合ってたよ。これで飲み会に参加してみたら?」

そう言ってみた。
具体的に着る予定があれば、買う張り合いもあるし。


「買ってきます。」

そう言われただけだった。
柏木君に誘うように言ってみようか。
私服参加だから、もちろん週末にだ。
背中を見ながらそう思ったりして。
でも何て言うの?服を選んであげたから合コンに誘ってみて、って。
何でそうなったのってことになる。

ああ、面倒だ。まあいいや、自分で何とかして。

大きな袋を持って戻ってきた。

お店を出て、残りを見て回る。

自分のブラウスは持つと言ったのに、返してもらえなかった。
本当に荷物持ちがやりたいらしい。

残り一軒、またしても個性マックスのお店だった。
良くは知らないけど、かなりこだわりがありそうな感じだ。
服は高くても小物は行けるかも。
勝手に入って、後ろをついてくるのを確認した。
ベルトを手に取り、バッグを手に取り、サングラスも手に取った。
内装を見ればわかる、かなりとんがってる。

サングラスを手にして渡してみた。

大人しくかけてくれた。
一緒に鏡を覗き込んだ。
かつてないほど顔が近いけどしょうがない。

表情はまんざらじゃない感じだ。

一緒に値段を見て、固まった。やはり、それなりのこだわりありだった。
かっこいいのに。すごくかっこいいのに。

ゆっくりサングラスは戻されて、手を引かれてお店を出た。

ずんずんと歩かれて、メンズのお店は多分終わり。

その内ゆっくりになった。

手をつながれたままだけど。

サングラスをして何を思った?
どうだった?

「ねえ、高かったね。びっくりした。でも似合ってたよ。持ってる?」

「しません。」

「そう。」

紫外線対策は必要なのに。男子も日焼け止めや日傘をする時代だし。
手はつながれたまま、所々にあるソファに空きを見つけて、そこに向かっていってるようだ。

早く気がついてくれないかな?
振り払うにはタイミングがおかしいし、つないでるのはもっとおかしいけど。

何か怒ってる?

ソファに座る瞬間手は離れたのに、腰に来た。

「疲れた。」

そう言って座った後に横を向かれて飛び上がられた。
声にならない悲鳴が聞こえた。
そりゃそうだ。
腰を抱かれてたんだからかなりくっついてた。誰と間違ったのよ。

すかさず立ち上がった。

「付き合ってくれてありがとう。お疲れ様。じゃあね。」

自分のブラウスの袋を持ってさっさと背中を向けて歩き去った。

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