合掌 ~お地蔵さまに教えてほしいこと~

羽月☆

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11 ありえない事が連続するとあり得る現実にたどり着く ~桐乃~

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分かってる。でも気がつかないふりでやり過ごした。
金曜日、帰る宣言をわざわざ言いに来た。

視線を軽く合わせた後、そらして、お疲れさまと言った。

ガッカリして帰る姿も想像できるような、そんな足音を聞いた。

酷い女だと思われてるだろう、がっかりされてるかもしれない。
何やってるんだ、29歳、大人だろう!
自分でもそう思ってるのに、想像では草野君の不満顔がそう言ってる。

電話番号が書かれた紙は部屋にある。
何でいきなり柏木君に電話すると思うんだろう。

するわけない。
するなら友近・・・・はやめて、会社外の友達だ。

でもつぶやくように聞いてみたのは財布の中のお地蔵様だった。
微笑んでばかりで有効なアドバイスもなく。
『心のままに』最終的にそんな幻聴まで聞こえてきた。
それが分からないから教えて欲しいのに。

今週ものんびり予定の週末。

とりあえず朝ごはんを食べて、出かける一歩手前の段階までは準備して。
さて、何しようか?

何かに夢中になれれば現実逃避できる。

映画にでも行くか。

この間迷った映画のもう一本を選び、時間を調べて。
一歩手前だった顔を仕上げる。
あれからすっかりちゃちゃちゃに慣れて、アレンジもやめていた髪。
時間もあるし、ひねってみた。

いいじゃない。

鏡の中の自分を褒めて、いい気分のまま出かけよう。

携帯をバッグに入れたちょうどその時に着信に気がついた。
知らない番号だった。
チラリと何かの予感が横切ったけど、そんなはずはないと思い直す。

「はい。」

とりあえず出てみた。

『・・・・・朝倉さん、草野です。すみません。』

最初から謝られた。
何で知ってるんだろう?教えてないと思う。
教えてたらもっと早くかかって来たかもしれないし。

「草野君・・・・ おはよう。」

ここまでされて、半分は観念した。
期限は今週末だということだろう。
ピアスが電話に触れて小さく音をたてた。

無言の草野君の背後の音がザワザワと聞こえる。
外にいるらしい。
『どうしたの?』なんて聞けるはずもなく、私も無言。

『今、駅にいます。今日は忙しいですか?』

「映画を見たいと思って、ちょうど出かけるところなの。」

そう、忙しくしたいほどの気持ちなの。

『じゃあ、映画と食事など終わって、帰ってくるまで、待ちます。駅の辺りを探検したり、カフェで本を読んだり、時間は合わせます。今日、会ってもらえませんか?』



「どこの駅にいるの?」

『桐乃さんの最寄り駅です。』

駅名も言われた。確かに今から向かう駅だった。
今、歩いて五分くらいの距離にいるらしい。
何時間待つつもりなんだろう。

夕方帰ってくる時間まで待つという。
6時間くらいを予想してるだろうか?
ただただ無駄な時間じゃない。

顔を背けて息を吐いた。

自分がきちんとすべきなのだ。
後輩の休日を台無しにするくらいには迷惑をかけてるらしい。

「映画は明日でもいいから、今からそこに行く。どこにいるの?」

申し訳なさそうに答えて、やはり謝られた。
駅前のカフェにいるという。

「じゃあ、直ぐに出れるから。」

そう言って玄関に向かいながら電話を終わりにした。

駅まで行くだけにしては無駄に張り切ってしまった状態。

その後予定通りの行動をする気分になるだろうか?
向かいながらも、どう言うか決めてない自分に気がつく。
それでも考える余地を残してる自分には驚かない。

ため息をつく。

どんな気分だろう。
きっとヨロヨロ立ち上がりお辞儀をされて、また何度目かの謝罪をされるんだろう。
そのままカフェでコーヒーを飲んで話が出来るだろうか?
周りが気になって仕方ないじゃない。
場所を移そう。

いろいろ考えた・・・・どこがいいのか。

思いつかない。
駅まで歩きながらも返事を考えるより、場所を探してキョロキョロしてた。

それでもすぐに駅着いて、結局場所も返事も答えの出ないまま。

分かりやすい席にいてくれた、二人席だけど、隣は本当にすぐ隣。
やっぱり無理でしょう?

コーヒーを注文したけど、やっぱり無理だと思う。
すぐに気がついて、目礼してきた草野君。

もう、本当に申し訳なく思えてきた。

コーヒーを受け取り、外を指さす。

分かってくれたらしく、一緒に外に出た。
コーヒーはまだ入ってるらしい。
どのくらい飲み頃を過ぎたんだろうか?

もう・・・・・。

歩きながらも無理で・・・・結局コーヒーをテイクアウトして自分の部屋に帰って来るしかなかった。一番安心はできる。
ただいっそう申し訳なさそうにほっそりしてる気がする草野君。
せっかく選んであげた服が台無しじゃない。
もっと嬉しそうに見せてくれたのに。
なんて、全部私のせいだろうから、何も言わない。
飲み物を出す手間は省けた。
場所の提供のみでいい。

「草野君、それ、ぬるくなってたら温めるけど、どう?」

「・・・・大丈夫です。ありがとうございます。」

じゃあ、そんなに無駄に待つこともなかったのかもしれない。
ここまで来たのが丸ごと無駄な時間だと言えばそうだけど。

「ごめんね、休みの日に。」

反省はしてる。自分のせいだと分かってる。
そこは大人として謝った。

「いえ、せっかく映画を見に行くところだったのに、予定をダメにしてしまって、すみません。」

「大丈夫。何もすることがなかったから思いついただけ。本当に明日でもいいし。」

つい癖でテレビのリモコンを手にして、朝の情報番組をつけた。
音量は絞った。

入って直ぐにちょっとだけキョロキョロしたけど、今はコーヒーに視線を固定してる。

「ねえ、もっとリラックスしてもいいよ。」


「無理です。」

「だよね。」

苦笑するしかない。

「じゃあ、返事だよね。」

そうハッキリ言った。
求められてることを確認しただけ、肝心の中身は続かなかった。

「それが、まだ、考えてないの。」

そう言ったら何とも言えない顔をされた。

「どう考えたらいいか分からなくて。」


「ねえ、いっそ、教えてくれる?どう考えればいい?」

まさかそんな返しが来るとは思ってなかったんだろう。
戸惑う様子が分かりやすい。

それを見て軽く笑顔にはなれた。

小さく息を吐いて、唇を湿らせた草野君。

「一緒にいて、嫌じゃなかったら、楽しいと思ってもらえるなら、その次のチャンスも作って、また一緒にいてください。それを何度か繰りかえして・・・・。」

「繰り返して・・・?」

「もっと長い時間を過ごしたいと思ってもらえるように・・・そうあってほしいです。」


「なるほど。そうだよね。そんな考え方もありだね。」

そう言った。

今返事をもらったのか、どうなのか、こっちを見たまま、やっぱり戸惑う雰囲気の草野君。

それでいいか。そう思ったけど、それがどれだか今一つはっきりしてない。
とりあえず断ることはしないままで、仲良くしてみることにした。
それでいいだろうか?
自分にも聞いた。
いいよね、それもありだよね・・・・・・。


「ねえ、やっぱり似合うよね、その服、どう?」

「ありがとうございます。気に入ってます。・・・試着してる間もずっと、デートにって、そう思ってました、これを着て隣にいたいって。」

「・・・・じゃあ、良かった。」

「はい。」

少し安心してくれただろうか、伝わっただろうか?


コーヒーを飲む。飲み頃を過ぎたくらい。
きっと草野君のはもっと冷えてるだろう。
でも暑そうだからいいよね。

視線を感じたらしく、こっちを向かれた。

照れた顔から、一転、視線が強くなる。

「すごく似合います。その髪型。好きです。」

髪型の好き嫌いははっきり言いたいらしい。

「この間は褒めてくれなかったよね、不満そうな顔で見られた気がしたけど、気のせいだった?」

「あれは、あんまり僕が思ってたイメージと違ってて。」

「そうか、あれは一度で懲りた。面倒なんだもん。もうしないと思う。」

ちょっとうれしそうな顔をしたのが可愛かった。
ずっと見つめ合いそうな予感がしたので視線を外したまま、立ち上がった。
あ・・・・立ち上がって思いだした。

「ねえ、これ、返す。必要ないと思うから。登録もしてない。」

サービス券に書かれた電話番号を返した。
捨ててもいいけど、一応もらった個人情報だし。

それを見ても、手は出されず。

「登録してください。さっき携帯に着信を残しました。それは僕の番号です。」

え?

「柏木君のじゃないの?」

確かそう言ったよね。

「違います。柏木に相談するくらいなら、可能性があるかなって思って、そうしたらもう一度伝えたいと思ってました。」

しなくて良かった。いや、するつもりもなかったけど。
携帯を出してさっきの着信履歴を見る。
確かに。

「ねえ、駅はともかく、誰に番号を聞いたの?」

そう言っても答えてくれない。
誰が教えたの?誰かに知られてるの?

「いけないとは思いましたが、緊急連絡簿を見て、覚えました。」

「ああ、そう。」

ホッとした。誰かにバラすようなことをしたんじゃなければいい。

「あれは別に課内の分しか見れないし、ぜんぜんいいんじゃない。もし後ろめたく思ってるならだけど。」

「でも、住所も覚えました。」

「ここに来てる時点で、それはまあ許されるよね。」

そう言ったら改めて部屋を見られた。

「そうですね。ありがとうございます。」

何のお礼だろう。

「本当にごめんね。本当はすごく遅くてイライラしてたでしょう?」

冗談みたいに聞いてみた。
開いた口が閉じた。

「ああ、やっぱりそうなんだ。いつ返事が来ると思った?いつから早くしろって、罵ってた?」

「週明けにはもらえると思ってました。ケジメはさっさとつけたい方だろうと思ってたので。金曜日に何も言われなかったから、その後は少しづつ・・・・。」

罵られたのは一日くらいだったらしい。そう信じてあげよう。

「本当にごめんね。」

「いいです。いい返事が聞けたと・・・・思っていいですか?ちょっとわかりにくくて。」

「いいよ。これからもよろしく。」

「もう少し、具体的には、だめですか?」

そう言われると恥ずかしくなる。

「じゃあ、天気もいいし、デートしよう。」

そう言って立ち上がり、手を出した。


手を乗せられたから引っ張った。なんだか逆だよね?

二人で立ち上がったら当然草野君の方が背が高くて。
それに細身の服に包まれた体で、私はヒールがない状態で、その差は思った以上だった。

一歩下がってお返しの様にじろじろと見て褒めようと思ったのに、手はつながれたまま、離れる前に抱き寄せられた。
軽く、手を回されて、頭の上でお礼を言われた。

離れた手はすとんと落ちてたけど、私も細い腰に回した。

ちょっと力を入れたから、少しだけ体が近づいて、黒い服にファンデーションがつく前に顔をあげたら、そこに当然顔があった。
息がかかるくらい近くでビックリした。
それでも手は緩まなくて、少し背伸びをしたあと、目を閉じた。

なかなか二人だけって空間もないだろうから、いきなりだったけど、本当にお詫びのつもりで。

すぐに顔は離れた。
どんな顔をしてるのか見たかったのに、顔を首元に埋められた。
私も見られなかっただろうから、いいか。

「桐乃さん。」

「何?」

お互い同じ姿勢のまま。背伸びはやめた。

「来週、友達に飲み会に誘われますよ。男の人もいます。行くんですか?」


「何の話?」

体を離して聞いた。さっぱりわからない話だったから。
友近と誰かの話を聞いたらしい。私の名前が出たらしい。
誰だろう?飲み会?同期?

「行きますか?」

「そうね。あんまりないから、みんなが集まるんだったら行くと思う。」

そう言ったら眉が下がった。

「だってきっと同期で集まるんだと思うよ。」


「明らかに桐乃さんありきの感じでした。お世話されるんじゃないですか?」

「どうすればいいと思ってるの?」

「彼氏が出来たと教えてください。本当に同期で飲むんだったら見送ります。」

「びっくりされる。絶対聞かれるし。」

「それは任せます。知らない人にならバレてもいいです。」

そんなに早々にばらさなくてもいいじゃない。
様子を見つつ、その内にでいい。

「それは嫌だ。話が来たらそう言うから。」

そう言ってもあんまり納得はしてもらえなかった。
じっと見つめられて軽く顎を掴まれたかと思ったら、背伸びするまでもなく顔が下がってきた。

なかなか意外性のあるキスだった。
時々器用になるらしい。
もしかしてここぞという時には器用になれるんだろうか?
いつものおどおどビクビクを想像してたから、ちょっと感動レベルだった。

そして思わず満足の吐息を漏らしてしまった。
何度か。

「ねえ、デートは?」

離れた隙にやっと言えた。

「今、デート中じゃないですか。」

結構しつこい。
キスが好きなのかもしれない。
だいたいずっと立ったままなんだから。

「外に出なくてもいいのに。」

「せっかくだから出ようよ。映画のつもりだったから、一応おしゃれしたんだから。」

草野君もそうだろうに。
ちょっと離れてまた全身を見られた。

「そうですね。」

嬉しそうになったから、今日の感じは髪型込みで嫌いじゃないらしい。
分かりやすい。

『無礼』とは思わないであげよう。
だんだん地蔵の心が板についてきたたじゃない。

コーヒーはそのままにして外に出た。
とその前に鏡を見て、ちょっと唇の色を直して。

草野君もうっすらと赤い唇だけど、知らない、教えない。
勝手にした事だし、自業自得。
最初のきっかけは・・・違ったかも・・・。まあ、いい。しつこかったんだから。


二人で手をつないで太陽の下に出た。

「桐乃さん、なんだか唇が甘いんですけど。」

ぺろりと唇を舐めて言う。

「コーヒーにシロップでも入ってたんでしょう?」

無視無視。
分かってて言ってるんだろう。
赤いとは気がつかないなら、そのままでいればいい。
そんなに変じゃない。とっても変だったらさすがに教えるし。
ちょっとだけだから教えない。

無邪気なふりして・・・不器用な癖に・・・・。

結局映画を二人で見た。
予定はそのまま実行された。


映画は楽しめた。
ストーリーに入り込んで頭はそっちに集中した。

ただ感覚は繋がれた左手にあった。
ずっと、いつでも手は繋いでいたいタイプなのかもしれない。
飲み物も買わずに入ったから何も邪魔する動作もなく、そのまま繋がれたままだった。

エンドロールのテロップを見ながら改めてそう思った。

「面白かったね、草野君も楽しんだ?」

「もちろんです。いろいろと。」

隣の人の立ち上がる気配に、一緒に立ち上がる。


「お腹空いた。」

「そうですね。」

「じゃあ予定通りランチにしよう。」


一人で過ごす予定だったのに、思わぬツレが出来た。それ以外は予定通り。

「このあとはどうするんですか?」

「特に決めてない。いつもフラフラして買い物して帰るから。」

どこに出かけてもそのパターンは変わらない。



「明日は?」

「起きてから考える。」

うれしい予定なら楽しめるけど、一人の予定はその日、その時の気分でいい。
それが一人の週末を楽しむ私の方法だった。

無理はしない。本当にお休みする休日であってもいい。



「ねえ、柏木君が紹介してくれた女の子はどんなタイプだったの?」

草野くんに合うタイプだと言っていた。
どんな子が隣にいるのがしっくりくると思うんだろう。

「控えめな可愛らしい感じの人でした。」


「似合いそうだね。」

そうだろう。グイグイと行くタイプよりは、そっちかもしれない。

「そう思われたんだと思います。でもすぐに同期に取られましたよ。」


ここですごく悔しそうな顔でもしたら、なによって思ったかもしれないけど。
そうでもなくて、そう言った表情を見て自分はなんと思っただろう。

じっと見てたら、気がついたらしい。


「なかなか人は思い通りに動かないんです。自分のことだってなかなかなのに。」


「そうだよね。」


本当にままならないことなんてたくさんあるんだから。



少しだけ寄り道はしたけど、駅で別れた。

手を振る後輩と一日一緒にいた日。
これが答えを出した日の結果だ。

思ったより楽しめたからいいと思う。
草野君も楽かったと思ってくれたらうれしい。

映画館を出て離れていた手をまたつないできて、そのままされるに任せていた。

近所の子供の引率。
気分はそんな感じだと言いたいのに、今日は先を歩く背中を見ることも多かった。
それでも時々伺うように振り向く。
その顔が可愛いとも思った。

年下・・・・・ちょっとだけ・・・・年下。
初めてだった。
少し年上か、同じ年だったから、初めてだ、5個も下。

あんなに手をつなぐよりも、さり気なく腰に手をやられたり、肩を引き寄せられたり。
自分からはする方じゃないから、相手が気まぐれに動かしてくる手を感じてるほうだった。
自分からだとしたら、多分腕を組むだろう。
距離を詰めるように腕に巻き付く。
手をつなぐより近くなる。
でもずっと映画の間つないでるって、そんなことはなかった。
そこは新鮮。
物足りないような中途半端な距離を感じそうだけど、そうでもなかった。
この間もそうだったから腰を抱くのもそう躊躇する方じゃないんだろう。
今日はまだ手をつなぐ日だったということだろう。

『もしかして不満なの?』
新鮮だと思い込みながらも、不満なんだろうか?

よく分からない。

一緒にいる時間を繰り返す、そう言ったのに、明日の予定は特になく。
話の中にも先の事は出なかった。

『やっぱり不満なんじゃない?』
なんだか最近話かけていた地蔵にそう聞かれた気がした。

もう、目を閉じてたんだから見てないよね。
いまだって全然見えてないよね。
勝手に心を読まないでください。
読み解いて開陳しないでください。
やっぱり話しかけていた。

あの占い師さんもこんなに自分の渡した地蔵カードを活用してくれてるなんて思ってないだろう。喜んでくれるだろうか?

気がつけばずっと、一日過ごした後輩の事を考えていた。

ゴミ箱には空のコーヒーカップがあり、ここにも来たんだとしみじみと思ったり。

結局今週も楽しく過ごせたかと満足の笑顔の自分に気がついて、ハッとして、さっさと電気を消して寝た。
あっさりと眠れた。



日曜日、そう言えば・・・と携帯を見た。
何も連絡はない。お礼も感想も提案もない。

てっきりあると思ったものがないとすごくがっかりするもので。
昨日のうちに私もすべき事だったのに、時間が空いてしまった。

とりあえずそのまま携帯は手放して、いつものように朝ごはんを食べ、顔を洗い。
さて、今日の気分では何をしようか?
特に何も思いつかず。

コーヒーを飲みながらぼんやりと朝の情報番組を見る。

だから・・・・そんな日もある。
それでいい。

一日テレビをつけたままぼんやりしていた。

今日も来るだろうか?次の予定はいつだろうか?
暇すぎて考えることがないとそれくらいにしか頭が行かず。

とうとうガッカリしてる自分に気がついた日曜日の夕方。

どうしたんだろうと心配になった夜。

それでも携帯は静かなまま。

ゴミ箱の空きカップをもう一回見に行った。
やはり現実はそこにあった。

一緒に過ごしたよね?

考えるのに疲れて、考えたくない事に気がつかないようにしてる自分に疲れて。

ふと有給でもとって温泉にいくかな・・・・とそんな気になった。
この間テレビで見た、あの懐かしい温泉街へ。

火曜日か水曜日。
ちょっと遠出して日帰り温泉にでも行こう。
しばらく使ってない有給。
いいじゃない。

朝、仕事の具合を見て、行けると思った。
水曜日の有給申請をしてするっと了解をもらえた。

火曜日の帰りにホワイトボードに書いておくだけでいい。
それで温泉行きが決まる。

元々行く方向は決まってるし、日帰りだからさほど調べなくてもいいし、電車の中で事足りるくらいだ。
後は前後の日にちょっとだけ残業でもすればカバーできる。

そう思って火曜日も頑張った。

顔をあげてぼんやりしたりすることもなく頑張った。

夕方、友近がやってきた。

「ねえ、金曜日、飲み会だよ。」

ああ・・・・来た、本当にそうだったんだ。

「分かった。同期が集まるの?」

「そうそう。随分久しぶりじゃない。」

「そうだね。」

「じゃ、楽しみにしといて。お店をまだ決めてないんだ。」

「任せていいんでしょう。」

「いいよ。」

「よろしく。」

金曜日の予定は決まった。
これまた残業しないように、木曜日に頑張るしかない。

そして火曜日、終わった~、温泉~。

ホワイトボードに有休を書いて、帰る準備をする。

わざわざ友近も直接飲み会の知らせを言いに来たりして、携帯があるのに。
よくある事だったからいまさら特別でもないけど。
携帯壊れてるわけじゃないよね?

今朝もきちんと私を起こしてくれたし、問題ないと思う。

ただ誰も私に連絡をしてこないだけ。
静かに目覚ましの機能だけ正常に動いてる状態。

結局帰ってからパソコンで温泉を調べて、前に友達と利用したことのあるお宿に決めた。
化粧品を多めに持って行けばいいくらいだ。

こうなると髪が短いのも楽だと思う。
すぐに乾くんだから。

眠る頃になっても携帯は静かだった。

手はつないでも、日々の連絡は別にいらない派なんだろうか?
今日友近が来てたのも知ってるだろうに・・・・・。

暗闇で目も閉じてる、それでも地蔵を思い浮かべて聞いてみた。

『どうしたんでしょう?』

癒されるはずの微笑みはただただ無言だと憐れんでいるようにも思えてきた。
想像の中の地蔵も目は開かないから。
ただゆるりと微笑んでるだけだった。


平日とは思えない人混みはちょっとだけ残念だったけど、青い空の下、露天の屋根の下でぼんやりと何も考えずにお湯につかっていた。
前に来たのはいつだろう?

もう随分前だ。
冬のさなかに友達と有休を合わせて来たのが最後だと思う。
さすがにデートでも来たことはあるけど、温泉には入らずに足湯止まりだった。

冬の温泉もいいよなあ。
雪が降る頃来てみたいなあ。

何故かあり得ない混浴シーンを思いうかべてビックリした。
ないない、何で一緒に入ってるのよ?
どんな設定?

ものすごくいい旅館に二人で旅行して、露天。
さすがにそんなお部屋はビックリな金額だから泊まらない。

貸し切り家族風呂・・・・・そんな・・・一緒には入らないなあ。
だいたい一緒に旅行なんてするわけないじゃない。
やっと映画デートが一回だけなのに、次の約束もないのに、連絡さえ一切ないのに。

もしこのままなかったら、それはそれで。
やっぱり無理やり二年前の昔を掘り起こしてもタイミングが違ったからと、そういうことだと思う。

ああ、せっかく癒されに来てるんだから、考えてもしょうがないことは考えない!

それでも久しぶりに雪見温泉を提案してもいいなあって思った。
もちろん友達にだ。

まだまだ春が終わったばかりですが。


旅行もしばらく行ってない。
実家に帰るくらいだ。
友達と予定を合わせて計画をするってこともなくなるものだ。
食事だってたまになんだから、旅行なんて会ってる時に計画しないと絶対まとまらないと思う。

彼氏と行ってないと、随分行かない事になるんだ、それが現実だ。

やっぱり癒されるには現実が覆いかぶさってきて、なかなか頭の中はすっきりしないらしい。それでも体は随分緩んだと思う。
結局二時間くらい露天を満喫して、出た。

水分をとって、扇風機の前で体を冷まして、化粧をしてお昼ご飯に行った。

うどんを食べて満腹になり眠くなってきた。

さすがにスイーツまでは誘われずに、そのままお土産屋さんで買い物をして戻ってきた。
洗濯もせず化粧だけ落として、そのまま寝た。
まだまだ夕方の時間だけど、眠い。

目が覚めたのが夜で、一瞬ビックリした。

スッキリ目が覚めて起きだして、お腹が空いてちょっとだけ食べて、荷物をかたずけた。

たまにはいいじゃない、一人温泉。

雪見温泉の映像を思い浮かべて、またお昼と同じ人が隣にいたような気がして、急いで追い出した。一人でも行ってやる!

テレビを見て、眠くなるまで画面の中の人たちに付き合った。

そして眠くなって寝た。

有意義な有給だったじゃない!独り言を言いながら目を閉じた。
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