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13 色気の問題について語り合う夜の始め ~桐乃~
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静かに夜を過ごし、静かに仕事をして、一人有給休暇で温泉を満喫して帰って来た日。
ようやく携帯が目覚めたらしい。
帰って来てから寝てしまい、夜の時間だった。
『声が聞きたい。』そう言ってきた後輩。
この間ちょっとだけ後輩から彼氏に昇格した。
ただその時間は短かった。
後はまた普通・・・より薄い感じだった。
もっと連絡が来るかとも思ってたのに来なくて、私も何もつぶやかず。
タイミングよく過ごした有給を不審に思ったのかもしれない。
返事をするとすぐに電話がかかってきた。
どうやらひとしきり愚痴りたかったらしい。
私の文句を私に言う、確かに他の人には言えないだろう。
金曜日に待ってると言われた。
飲み会があるからと断ったら、知ってると言われた。
それはそうだろう。
今日、駅の改札で私を見つけて手を振ってくれた草野君を見て、ちょっと久しぶりだと思った。
なかなか笑顔が見れなかったから。
元々会社で見ることもなかったけど、この間の一日ですっかり見慣れてた。
同じように笑顔でただいまを言い、一緒に部屋に戻ってきた。
無理に押しかけるように来たことは反省してるみたいで、謝られた。
初めの日に自宅に連れて来てたせいか、あんまり違和感もなく。
シャワーを浴びてリビングに行くとテレビを見ていた。
照明を少し落としたのはスッピンになったからだ。
24歳と、29歳。どうよ?
パジャマで座ってる背中はやっぱり細いと思う。
持って来たバッグにはいろいろと入ってたらしい。
歯ブラシのセットがテーブルに置かれてる。
まだ眠くない。
さっきまで食べて飲んでいたから、もうしばらくは起きていたい。
そう言えばと思い出したお土産を忘れないうちにと思ったのに、立ち上がりかけた自分を引き留められて、くっついた。
さっき歯磨きを終えて戻ってきた草野君がさらに照明を落としたから、テレビは眩しいくらいに明るい。
「お帰りなさい。」
抱きついたまま言われた。
ここは私の部屋なのに。
有給休暇の間留守番をさせていたんでもないし、まして捨て子扱いもしてないのに。
それでも『ただいま』と素直に言えた私。
有給休暇の温泉について聞かれた。
「本当に日帰りで電車に乗って行って、入って、ご飯を食べて、お土産を買って帰ってきただけ。」
「一人で行きたかったんですか?」
「別に、ただ、しばらく行ってないなあって思って、平日の方が空いてるかなあって思っただけ。」
「空いてました?」
「まあまあ。きっと休日はすごいと思う。」
「だって一緒に有休とるのは無理そうです。」
「そうね、一緒に行きたいなら、休みの日に。」
そう言った。
思い浮かべたのは雪の中の露天風呂の映像で、やはり一緒にお風呂に入ってる映像だった。
一緒に入る?家族風呂は女子友としか借り切ったことがない。
恥ずかしいよね、でも部屋に着いてる露天だと小さいし・・・・高い部屋だよ。
「お風呂で別れるんだとしたらそれはなんだか。お部屋にお風呂がついてたらいいですね。」
同じことを思っただろうか?
そんな部屋がもともと高くて、休日になったらさらに上がって、でも・・・・。
「ねえ、彼女と一緒に入るタイプ?」
そう聞いた。
人それぞれ、主に女性の方がどっちかに分かれると思う。
回された手が締め上げるように力をこめてきた。
「そんな経験はないです。桐乃さんに聞いたりはしないですよ。でも、一緒には入りましょうね。」
「緑が綺麗だったけど、雪を見ながらもいいかなって思ったの。」
「そうですね。冬を楽しみにします。」
「今日は楽しかったですか?」
「そうだね。久しぶりだったし、遠慮もない感じで楽なんだよね。」
「あの先輩にはちゃんと言いましたか?」
「ちゃんとじゃないけど、それらしくは言った。」
友近の事だろうと思った。
そう答えたら、首元の顔が動きはじめた。
何度か優しいキスをされて。
「良かった。」そう言われた。
昨日の夜に珍しく電話をした。
『好きな人がいて、ちょっとだけ仲良くしてる。』
そう言ったら、驚かれて、おめでとうと言われて、その後文句をつけられた。
『せっかく金曜日仕込んだのに。』
『何を?』
『一人いい感じの子を混ぜたのよ。もう、桐乃のタイプかと思ったのに。』
そう言われた。
『今は、いい。』
『そんな事は早く言ってよね。まあ、他に回すからいいや。』
確かに1人同期以外がいた。
それでも他の子と仲良くしゃべって楽しそうだった。
「で、どんな人?」
賑わいの中で隣の友近が体を寄せてきて、聞かれた。
ここで年下、目の前にいつもいる後輩、何て言ったら驚くだろうなあ。
「優しい人だよ、大人しそうだけど、そうでもないかも。」
「それじゃあ分からない。いくつ?普通の会社員?」
じっと見る。
内緒にはしてくれるだろうけど、今までだって時々席まで誘いに来ていたから。
教えたら、そのたびにちょろちょろと見たり、話しかけたいって思ったりしそう。
それはやめて欲しい。
「まだ、微妙だから。」
その言葉で逃げた。
「分かった。決定的になったり、惚気たくなったら教えて。」
「そうだね。」
そう答えた。
今日のこの後・・・それは決定的なことになるんだろうか?
いつの間にか肩に乗った頭を撫でていたらしい。
小さくて温かくて、撫でるのにもちょうどいい。
年下感が演出できるし。
せっかく年下と付き合うんだから、いいよね。
腕が疲れて頭を撫でる手を止めた。
ゆっくり耳に触れながら下ろした。
「桐乃さん、・・・・このパジャマが色っぽくない。」
普段からそんな色っぽいものを着る必要がある?
地震が起きたらこれで飛び出すかもしれないのに?
天気を見る時にカーテンを開けて朝陽を浴びて、ベランダから顔を出すのに?
「草野君の趣味には合わせない。」
「せっかく一緒にいるのに。真冬は寒いけど、くっついてるし、もっと違う感じでもいいよね?」
「それで草野君はどんな色っぽいパジャマを着てくれる予定なの?」
「僕は見るだけ、触れるだけ。僕の分はいいよ。」
誰も買ってあげるとは言ってない、買い直すとももちろん言わない。
「遠慮します。」
「だって素顔だし、なんだか急に色気がなくなった。」
さっき露天風呂の話をしてたよね?
バッチリ化粧してハイヒール履いて露天に入ってる二人を想像してたの?
肩にある頭を殴りたくなる。
24歳に色気無しと言われた素顔&パジャマの29歳。
追い出そうか、今なら間に合う。
荷物を手に持って、玄関に追いやって鍵を閉めてやってもいい。
「ちょっと年上感がなくなる。いつもはちょっと偉そうなのに、今は全然だね。柏木には内緒にしたい。」
その頭を砲丸投げの要領でガシッと掴んで放り投げたいと思った。
ちょっと偉そうだと・・・・・一人前に扱えるくらいちゃんとしてない誰かのせいじゃない。
思わず心の声が鼻息になって出た。
「あ、言い過ぎた。色気はあるよ、ちょっといつもはもっとあるから大分減ったかなあってくらい。大丈夫、全然。」
失言ポイント一つだけしか気がついてないらしい。
他にもたくさんあるだろうに、『自然に無礼』節だ。
テレビでも見よう。
肩に置かれた砲丸は無視。
薄暗い部屋に明るいテレビ。
さっきからついてるのに無視してしまっていた、申し訳ない。
しっかり目を開けて、両手を足の上において握りこぶしを作り、視線はテレビに集中した。
つい、笑ってしまったり、よく見ようと前のめりになりかけたり。
存在を無視されてるとやっと気がついたらしい。
手を伸ばされてリモコンをとられた。
テレビが消えたら急に暗さが増した感じの部屋になった。
巻き付いていた手を離して片手で私の握りこぶしを一つ掴んで自分の頭に持って行った。
撫でろと、まるで犬か猫が催促するように。
グーのまま草野君の頭に置かれた私の手。
撫でるもんか、そう思ったら軽く頭が動いた。
残念ながら握りこぶしもそのまま動いただけ。
モヤモヤしてたから脳天チョップをくらわせてやった。
「痛っ。」
「何で?さっきは優しかったのに。」
「さっきはさっき、自分が何を言ったのかちゃんと考えなおして。玄関の外に放り出されてないだけまだましよ。」
さすがに顔が離れた。
ずっと体温を感じていた肩がスッと冷えた。
「すごくいい雰囲気だったのに。大体何でテレビの方に集中できるの?せっかくこんなにくっついてるのに。」
全くわかってないらしい。
体ごと向き直った。
「素顔だとなんですか?文句ある?色気も無くて悪かったわね。いつも偉そうなのは草野君にだけよ、柏木君とは普通に話しをしてます。さて、何が違うんでしょう?」
そう言い切って体はテレビに。リモコンをとって部屋にテレビの明かりを足した。
さすがに失言に気がついたんだろう。
だいたいこの間まで世話の焼ける近所の子だったのに、何でそう偉そうになれるんだ?
不器用な癖に偉そうって、始末が悪い。
『自然に無礼』って、素直に思ったままを言う失礼な奴って事よね。
さすがに反省してるだろう。
チラリと顔を見たら、困った顔をしていた。
何?
「自分が最初に明かりを落としたのに。」
「化粧を落としたからです。」
「そんな事をされたら喜ぶに決まってるのに。」
「知らない。そもそもちょっとだけだったわよ。その後暗くしたのは草野君でしょう。」
「もちろん、やられたらやり返して、応えたい。」
それがそもそも間違いだって。
「ねえ、桐乃さん、匠って呼んでくれてもいいのに。何でいつまでも草野君なの?」
「会社でそうやって呼びつけられたいの?」
「別にいいけど。すごくいい返事をするよ。」
冗談でしょう?
課内の空気が凍るわよ。
「ねえ、会社じゃあ間違えないでね。ちゃんと今まで通りに呼んでね。」
「あんまり呼ぶことないよ。」
そう言えばそうかも。あの・・・・・とか言っておずおずと目の前に立ってたから。
「それで、色気がないって言われて怒ったの?だからむくれて僕の事放っといてテレビに集中したの?」
その流れでは子供っぽいねって言われそうな感じだ。
草野君だけには言われたくない!
「今はってことだよ。この後はもうびっくりだろうなあって、ことだから。」
何が、『ことだから。』だ。
勝手に想像しないで欲しい。
それともそっちこそビックリなくらい器用なの?
さっき自分がつけたテレビに視線は向いていても明るさを足す役にしかなってない。諦めて消した。
その諦めに何を思ったのか、さっきよりぴったりとくっついてきて。
ゆっくり手を動かされた。
頭や肩や、腰をゆっくり縁どられるように撫でられる。
顎を肩に乗せて、ゆっくりと首元で音がする。
「髪の毛切って正解だね。」
合間に言われた。
どんな感想?
耳元で声がして、つい頭を撫でた。
さっき脳天チョップした同じ手とは思えない、優しい手つきで撫でてあげた。
砲丸の様に掴むことも、投げることもせず。
キスが顎に来て耳に来る。
体を動かして、ちゃんと向き合う。
やっと視線が合って、正面同士、顔が近づいた。
首に抱きつくようにしてくっついた。
色気のないパジャマの下に潜り込んできた手がもっと入り込んで肌に触れる。
ゆっくり胸に来た手が丸みを包み込む。
思わず声が出て、首が伸びる。
「そんな声出されたら、色っぽいって。すごく。」
満足してもらえたらしい。
ゆっくり動く手の平に包まれて、その声は止まらない。
「寝室に行きたい。」
「うん・・・・。」
返事をしたけど手が止まらないんだから、しょうがない。
少し体に隙間を作ったら、逆に両手を誘ったみたいになった。
離れた顔に自分からキスをして行く。
草野君の首に、耳に、甘い声を出しながら、キスを繰り返した。
「ねえ、あっちに行こうよ。」
手を離して・・・・・。
でも自分の手ががっしりと首にかかっているんだと気がついた。
試しにそこを外したら、あっさり手はパジャマの中から抜け出て、立ち上がられた。
そのまま寝室でパジャマを脱いで横になった。
「色っぽい。大好き。想像した通り。」
最後の一言は言わなくていいのに。
ねえ、柏木君、知ってた?不器用は仕事に限定されるみたい。
とりあえず特にへどもどしてイライラさせられることなんてなかった。
本当に予想外・・・・じゃあなんで・・・・・・。
長い腕に包まれて、くっついて眠った。
ようやく携帯が目覚めたらしい。
帰って来てから寝てしまい、夜の時間だった。
『声が聞きたい。』そう言ってきた後輩。
この間ちょっとだけ後輩から彼氏に昇格した。
ただその時間は短かった。
後はまた普通・・・より薄い感じだった。
もっと連絡が来るかとも思ってたのに来なくて、私も何もつぶやかず。
タイミングよく過ごした有給を不審に思ったのかもしれない。
返事をするとすぐに電話がかかってきた。
どうやらひとしきり愚痴りたかったらしい。
私の文句を私に言う、確かに他の人には言えないだろう。
金曜日に待ってると言われた。
飲み会があるからと断ったら、知ってると言われた。
それはそうだろう。
今日、駅の改札で私を見つけて手を振ってくれた草野君を見て、ちょっと久しぶりだと思った。
なかなか笑顔が見れなかったから。
元々会社で見ることもなかったけど、この間の一日ですっかり見慣れてた。
同じように笑顔でただいまを言い、一緒に部屋に戻ってきた。
無理に押しかけるように来たことは反省してるみたいで、謝られた。
初めの日に自宅に連れて来てたせいか、あんまり違和感もなく。
シャワーを浴びてリビングに行くとテレビを見ていた。
照明を少し落としたのはスッピンになったからだ。
24歳と、29歳。どうよ?
パジャマで座ってる背中はやっぱり細いと思う。
持って来たバッグにはいろいろと入ってたらしい。
歯ブラシのセットがテーブルに置かれてる。
まだ眠くない。
さっきまで食べて飲んでいたから、もうしばらくは起きていたい。
そう言えばと思い出したお土産を忘れないうちにと思ったのに、立ち上がりかけた自分を引き留められて、くっついた。
さっき歯磨きを終えて戻ってきた草野君がさらに照明を落としたから、テレビは眩しいくらいに明るい。
「お帰りなさい。」
抱きついたまま言われた。
ここは私の部屋なのに。
有給休暇の間留守番をさせていたんでもないし、まして捨て子扱いもしてないのに。
それでも『ただいま』と素直に言えた私。
有給休暇の温泉について聞かれた。
「本当に日帰りで電車に乗って行って、入って、ご飯を食べて、お土産を買って帰ってきただけ。」
「一人で行きたかったんですか?」
「別に、ただ、しばらく行ってないなあって思って、平日の方が空いてるかなあって思っただけ。」
「空いてました?」
「まあまあ。きっと休日はすごいと思う。」
「だって一緒に有休とるのは無理そうです。」
「そうね、一緒に行きたいなら、休みの日に。」
そう言った。
思い浮かべたのは雪の中の露天風呂の映像で、やはり一緒にお風呂に入ってる映像だった。
一緒に入る?家族風呂は女子友としか借り切ったことがない。
恥ずかしいよね、でも部屋に着いてる露天だと小さいし・・・・高い部屋だよ。
「お風呂で別れるんだとしたらそれはなんだか。お部屋にお風呂がついてたらいいですね。」
同じことを思っただろうか?
そんな部屋がもともと高くて、休日になったらさらに上がって、でも・・・・。
「ねえ、彼女と一緒に入るタイプ?」
そう聞いた。
人それぞれ、主に女性の方がどっちかに分かれると思う。
回された手が締め上げるように力をこめてきた。
「そんな経験はないです。桐乃さんに聞いたりはしないですよ。でも、一緒には入りましょうね。」
「緑が綺麗だったけど、雪を見ながらもいいかなって思ったの。」
「そうですね。冬を楽しみにします。」
「今日は楽しかったですか?」
「そうだね。久しぶりだったし、遠慮もない感じで楽なんだよね。」
「あの先輩にはちゃんと言いましたか?」
「ちゃんとじゃないけど、それらしくは言った。」
友近の事だろうと思った。
そう答えたら、首元の顔が動きはじめた。
何度か優しいキスをされて。
「良かった。」そう言われた。
昨日の夜に珍しく電話をした。
『好きな人がいて、ちょっとだけ仲良くしてる。』
そう言ったら、驚かれて、おめでとうと言われて、その後文句をつけられた。
『せっかく金曜日仕込んだのに。』
『何を?』
『一人いい感じの子を混ぜたのよ。もう、桐乃のタイプかと思ったのに。』
そう言われた。
『今は、いい。』
『そんな事は早く言ってよね。まあ、他に回すからいいや。』
確かに1人同期以外がいた。
それでも他の子と仲良くしゃべって楽しそうだった。
「で、どんな人?」
賑わいの中で隣の友近が体を寄せてきて、聞かれた。
ここで年下、目の前にいつもいる後輩、何て言ったら驚くだろうなあ。
「優しい人だよ、大人しそうだけど、そうでもないかも。」
「それじゃあ分からない。いくつ?普通の会社員?」
じっと見る。
内緒にはしてくれるだろうけど、今までだって時々席まで誘いに来ていたから。
教えたら、そのたびにちょろちょろと見たり、話しかけたいって思ったりしそう。
それはやめて欲しい。
「まだ、微妙だから。」
その言葉で逃げた。
「分かった。決定的になったり、惚気たくなったら教えて。」
「そうだね。」
そう答えた。
今日のこの後・・・それは決定的なことになるんだろうか?
いつの間にか肩に乗った頭を撫でていたらしい。
小さくて温かくて、撫でるのにもちょうどいい。
年下感が演出できるし。
せっかく年下と付き合うんだから、いいよね。
腕が疲れて頭を撫でる手を止めた。
ゆっくり耳に触れながら下ろした。
「桐乃さん、・・・・このパジャマが色っぽくない。」
普段からそんな色っぽいものを着る必要がある?
地震が起きたらこれで飛び出すかもしれないのに?
天気を見る時にカーテンを開けて朝陽を浴びて、ベランダから顔を出すのに?
「草野君の趣味には合わせない。」
「せっかく一緒にいるのに。真冬は寒いけど、くっついてるし、もっと違う感じでもいいよね?」
「それで草野君はどんな色っぽいパジャマを着てくれる予定なの?」
「僕は見るだけ、触れるだけ。僕の分はいいよ。」
誰も買ってあげるとは言ってない、買い直すとももちろん言わない。
「遠慮します。」
「だって素顔だし、なんだか急に色気がなくなった。」
さっき露天風呂の話をしてたよね?
バッチリ化粧してハイヒール履いて露天に入ってる二人を想像してたの?
肩にある頭を殴りたくなる。
24歳に色気無しと言われた素顔&パジャマの29歳。
追い出そうか、今なら間に合う。
荷物を手に持って、玄関に追いやって鍵を閉めてやってもいい。
「ちょっと年上感がなくなる。いつもはちょっと偉そうなのに、今は全然だね。柏木には内緒にしたい。」
その頭を砲丸投げの要領でガシッと掴んで放り投げたいと思った。
ちょっと偉そうだと・・・・・一人前に扱えるくらいちゃんとしてない誰かのせいじゃない。
思わず心の声が鼻息になって出た。
「あ、言い過ぎた。色気はあるよ、ちょっといつもはもっとあるから大分減ったかなあってくらい。大丈夫、全然。」
失言ポイント一つだけしか気がついてないらしい。
他にもたくさんあるだろうに、『自然に無礼』節だ。
テレビでも見よう。
肩に置かれた砲丸は無視。
薄暗い部屋に明るいテレビ。
さっきからついてるのに無視してしまっていた、申し訳ない。
しっかり目を開けて、両手を足の上において握りこぶしを作り、視線はテレビに集中した。
つい、笑ってしまったり、よく見ようと前のめりになりかけたり。
存在を無視されてるとやっと気がついたらしい。
手を伸ばされてリモコンをとられた。
テレビが消えたら急に暗さが増した感じの部屋になった。
巻き付いていた手を離して片手で私の握りこぶしを一つ掴んで自分の頭に持って行った。
撫でろと、まるで犬か猫が催促するように。
グーのまま草野君の頭に置かれた私の手。
撫でるもんか、そう思ったら軽く頭が動いた。
残念ながら握りこぶしもそのまま動いただけ。
モヤモヤしてたから脳天チョップをくらわせてやった。
「痛っ。」
「何で?さっきは優しかったのに。」
「さっきはさっき、自分が何を言ったのかちゃんと考えなおして。玄関の外に放り出されてないだけまだましよ。」
さすがに顔が離れた。
ずっと体温を感じていた肩がスッと冷えた。
「すごくいい雰囲気だったのに。大体何でテレビの方に集中できるの?せっかくこんなにくっついてるのに。」
全くわかってないらしい。
体ごと向き直った。
「素顔だとなんですか?文句ある?色気も無くて悪かったわね。いつも偉そうなのは草野君にだけよ、柏木君とは普通に話しをしてます。さて、何が違うんでしょう?」
そう言い切って体はテレビに。リモコンをとって部屋にテレビの明かりを足した。
さすがに失言に気がついたんだろう。
だいたいこの間まで世話の焼ける近所の子だったのに、何でそう偉そうになれるんだ?
不器用な癖に偉そうって、始末が悪い。
『自然に無礼』って、素直に思ったままを言う失礼な奴って事よね。
さすがに反省してるだろう。
チラリと顔を見たら、困った顔をしていた。
何?
「自分が最初に明かりを落としたのに。」
「化粧を落としたからです。」
「そんな事をされたら喜ぶに決まってるのに。」
「知らない。そもそもちょっとだけだったわよ。その後暗くしたのは草野君でしょう。」
「もちろん、やられたらやり返して、応えたい。」
それがそもそも間違いだって。
「ねえ、桐乃さん、匠って呼んでくれてもいいのに。何でいつまでも草野君なの?」
「会社でそうやって呼びつけられたいの?」
「別にいいけど。すごくいい返事をするよ。」
冗談でしょう?
課内の空気が凍るわよ。
「ねえ、会社じゃあ間違えないでね。ちゃんと今まで通りに呼んでね。」
「あんまり呼ぶことないよ。」
そう言えばそうかも。あの・・・・・とか言っておずおずと目の前に立ってたから。
「それで、色気がないって言われて怒ったの?だからむくれて僕の事放っといてテレビに集中したの?」
その流れでは子供っぽいねって言われそうな感じだ。
草野君だけには言われたくない!
「今はってことだよ。この後はもうびっくりだろうなあって、ことだから。」
何が、『ことだから。』だ。
勝手に想像しないで欲しい。
それともそっちこそビックリなくらい器用なの?
さっき自分がつけたテレビに視線は向いていても明るさを足す役にしかなってない。諦めて消した。
その諦めに何を思ったのか、さっきよりぴったりとくっついてきて。
ゆっくり手を動かされた。
頭や肩や、腰をゆっくり縁どられるように撫でられる。
顎を肩に乗せて、ゆっくりと首元で音がする。
「髪の毛切って正解だね。」
合間に言われた。
どんな感想?
耳元で声がして、つい頭を撫でた。
さっき脳天チョップした同じ手とは思えない、優しい手つきで撫でてあげた。
砲丸の様に掴むことも、投げることもせず。
キスが顎に来て耳に来る。
体を動かして、ちゃんと向き合う。
やっと視線が合って、正面同士、顔が近づいた。
首に抱きつくようにしてくっついた。
色気のないパジャマの下に潜り込んできた手がもっと入り込んで肌に触れる。
ゆっくり胸に来た手が丸みを包み込む。
思わず声が出て、首が伸びる。
「そんな声出されたら、色っぽいって。すごく。」
満足してもらえたらしい。
ゆっくり動く手の平に包まれて、その声は止まらない。
「寝室に行きたい。」
「うん・・・・。」
返事をしたけど手が止まらないんだから、しょうがない。
少し体に隙間を作ったら、逆に両手を誘ったみたいになった。
離れた顔に自分からキスをして行く。
草野君の首に、耳に、甘い声を出しながら、キスを繰り返した。
「ねえ、あっちに行こうよ。」
手を離して・・・・・。
でも自分の手ががっしりと首にかかっているんだと気がついた。
試しにそこを外したら、あっさり手はパジャマの中から抜け出て、立ち上がられた。
そのまま寝室でパジャマを脱いで横になった。
「色っぽい。大好き。想像した通り。」
最後の一言は言わなくていいのに。
ねえ、柏木君、知ってた?不器用は仕事に限定されるみたい。
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