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14 それは当たり前なのに…と思うのは自分だけなのかもしれない ~匠~
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腕の中で眠る桐乃さんを見ていた。
ずっと見ていたのに、素顔は予想外だった。
あんなに可愛いなんて。
全力で褒めたのに、まったく伝わらなくて。
頭を殴られてびっくりした。
暴力反対!!せっかく甘い時間を堪能してたのに。
本気でテレビを見始めるし、何でって思うよね、怒っていいよね。
褒めたくて褒めたくて褒めてるのに伝わらないって、本当に難しい。
もっと素直に喜んでくれてもいいのに。
冬には二人で旅行をして、温泉に入って、のんびりとしたい。
まだまだ夏も来ないのに、そんな先の季節を楽しみにしてた。
今日は何をするんだろう?何をしたいだろう?
まだまだ朝にはならなくていいけど、目が覚めてくれないならさっさと朝になってもいい。
頬に手をやって顎まで滑らせる。
短い髪は寝顔を全然隠してない。
それでも真っ暗な部屋では綺麗な輪郭に縁どられた顔がぼんやり分かるくらいだ。
軽く閉じた唇に触れて、指を入れる。
ビックリして目が覚めたらしい、舌で思いっきり押し出された指が浮いた。
噛みつかれなかっただけでもいいか。
「桐乃さん。」
暗闇でも雰囲気が伝わるくらい笑顔になった。
「もう朝?」
寝ぼけた声の返事はさっぱり色気がなくなってた。
もっと甘く何かを言って欲しい。
「まだ。」
そう答えて腰を引き寄せた。
細い細いと言われてたけど、やっぱり桐乃さんの方が細い。
スタイルが良くて、かっこよくて、時々優しくて、たまに怖くて。
素顔は可愛くて、でもやっぱり色っぽくなって。
そんな桐乃さんとくっついて、嫌がられないからどんどんくっついて。
すっかり目は覚めたみたいだ。
それでも閉じてる目とちょっと開いてる口と。
「ずるい。」
「・・・・ん?」
思いっきり体を引っ張り腰の上に乗せた。
「起きて・・・・。」
腰を掴んで揺らす。体を浮かして桐乃さんが揺れる。
声が揺れて、体が大きく揺れて。
気持ち良くて、もっと感じて欲しい。
ずっと聞いていたいと思った。
掴まれた腕が痛いけど、見上げる桐乃さんがたまらなく色っぽくて。
本当にあえぎ声が途切れて体の上に落ちてくるまで、くっついた部分に感覚を集中させて動いた。
眠りにまた落ちる時にはしっかり腕の中に抱いていたはずなのに、目が覚めた時は一人だった。
いつの間にか勝手に腕からすり抜けたらしい桐乃さん。
それに気がつかずぐっすりだった自分。
下着を着て寝室を出た。
すっかりパジャマから普段着に着替えてくつろいでコーヒーを手にしてる桐乃さんと目が合った。
「おはよう、草野君。良く寝てたわね。」
自分のトランクス姿がマヌケに見えるだろう。
挨拶もしないで近寄った。
「少しは起きるまで待っててくれました?せっかくだから寝たふりして待っててほしかったです。」
「それで?」
「二人で目が覚めて、一緒に朝を始められたら良かったのに。」
「もしかして厄介なの?良く寝てるなあって随分観察しても起きなかったんだから。中途半端に起こされてたら怒ったんじゃない?」
「起こし方がいろいろあるじゃないですか?そこは任せます。」
「じゃあ、自然に目覚めてね。」
そう言ってキッチンに立った桐乃さん。
とりあえず寝室に戻ってパジャマを着て、洗面台を借りた。
確かに遅い朝だった。
お腹空いた時間。寝坊は確実に自分の方。
コーヒーをもらって隣にいた。
「約束覚えてますか?」
「何の約束?」
「冬の温泉です。」
「覚えてるわよ。どうかした?止める?」
「行きます。一緒にお風呂に入って雪を見るんです。」
「そう。それで、その約束がどうかしたの?」
「覚えてもらえてるならいいです。忘れてなければいいです。」
何を確認したかったの?って顔をしてる。
自分でもそう思う。
ずっと先の約束なのに、来週の約束もまだなのに。
伝わらないことが多い。
お互いに不審な顔をすることが。
だから言葉より行動で伝えたいと思った。
そのほうが伝わる。
「草野くん、美味しいもの食べに行こう。」
やっぱり伝わってないんだろう。
外に出たがる桐乃さん。
そして返事も待たずに寝室に消えた。
着替えをしてるんだろう、化粧もするんだろう。
大好きな桐乃さんのいつもの顔とスタイルになるんだろう。
ずっと憧れてたのに、今はスッピンの顔のほうがいいとも思う。
ちょっとの偉ぶったさもなくなった顔とそこから色っぽくなる顔。
会社の人は誰も知らないだろう桐乃さん。
そんな事を考えてたら、テキパキとすっかり支度を終えたらしい。
びっくりの素早さ。
「もう準備できたんですか?」
「まあね。さっさと着替えて荷物をまとめないと置いてくわよ。」
アクセサリーをつけながら言う。
「さすがに会社員が長いと支度も早いんですね。」
手際がいいのは全てにおいてだ。
お好み焼きも上手に焼けるし、きっと家事もテキパキ完璧なんだろう。
そう、仕事もそれ以外も。
「そうね、もたもたしてる草野くんよりはずっとずっと長いからね。」
褒めたのに、うれしそうでもない桐乃さん。
もっと褒めた。
「さすがです。」
あんなにぱっぱっとした時間で着がえとメイクも完璧だ。
いつもの桐乃さんが出来上がっていたんだから。
廊下の暗がりでズボンを履いて、上も取り替えた。そういう僕もすぐできた。
女の人じゃなくてよかったのかもしれない。朝の準備で疲れそうだ。
荷物の中に脱いだパジャマを入れて。
部屋の隅においた。
「出来ました。」
なんのことはない、昨日の服とそうは変わらない。
小さいバックに携帯を入れたら準備完了。
「じゃあ行こう。」
そう言われて、玄関を出て。
「お腹空いた、桐乃さんは?」
「もちろん空いたわよ。もっと早く起きたら朝ごはんもごちそうしたけどね。」
「ゆっくりがいいです。せっかく休みなんですよ。」
「どこに行くんですか?」
「何食べたい?」
「ガツンとお肉にしましょう。その後買い物に付き合って下さい。」
「何買う、どこ?」
「着替えの服を買いたいです。どこでもいいです。」
「荷物が増えるんじゃ・・・・・・ねえ、バッグは?」
「置いてきました。」
「それは洗濯よろしくってこと?」
「だめなら持ち帰ります。」
「いいよ。勝手に開けていいなら洗っとくから。」
「お願いします。」
つないだ手をブンブンと振った。
預かってもらえてる間はあそこに泊まるから。
僕のところに来てもらうより、いろんな荷物が楽だろう。
ランチタイム、お得なお肉料理を食べて満足した。
後は服もその辺のよくあるカジュアルブランドの服で事足りる。
それでも桐乃さんに選んでもらったら、多分自分で選ぶよりは冒険してる。
試着なんてしないで適当に買ってたのに、ちゃんと体に当てて、鏡を見てるし、組み合わせも考えてる。
自分には見慣れない感じでも、満足そうに笑顔になられたら似合ってるんだと思える。
そうしてシャツとTシャツと靴下と下着と。
さすがに靴下と下着はまとめ売りのものを買った。
そこではさすがに桐乃さんの冒険心は発揮されなかった。
普通の好みでも問題なかった。
通りがかりのお店を見て、試しに聞いてみた。
「桐乃さん、パジャマ売ってるみたいです。」
「別にいらない。」
指を指してみた瞬間に何を言われるか分かってたのかもしれない。
即答だった。
どんなパジャマを彼女に着せてたのよ・・・・そうそっぽを向いて呟いた声はしっかり聞こえていた。
そんなのは記憶にない。
あるはずの場面も思い出せない。
もう随分昔の話だし。三年以上も昔の話だし。
本当に思い出せない。
彼女の顔も忘れてしまった。
ただ、うっすらと笑いながら、仕方ないなあって言う声は思い出せる。
たくさんのガッカリを笑いながら許してくれた彼女。
でも結局仲間の中でも一番に器用そうなアイツの事が好きだったんだ。
敢えて不器用でダメな部分の多い男を選ぶ人はいない。
器用な方がいい、賢い方がいい、かっこいい方がいい、優しい方がいい。
全てにおいて勝ち点の高い男がやっぱり勝ち進む。
女性に限ったらそうじゃない気もするのに。
そう思うのは男性だからなのか。
女性だと同じように勝ち点上位の女性が勝ち組って思ってるんだろうか?
人の魅力はいろんな方向に無限だと思う。
それなのに今隣にいるのが桐乃さんで、思ってる事とは全く違った。
完全に勝ち組の方だと思う。
そんな人に惹かれた自分。
桐乃さんが一人でいてくれたありがたい事実。
いくら魅力的でもそこはやっぱり何かのご縁が必要らしい。
芸能人だって綺麗で人気が高くても独身のままの人もいるんだから。
デザートを買って部屋に戻った。
地元で用事が済んで、ずっと手はつないだまま。
それでもマンションではさりげなく離された。
顔を見たら睨まれてしまったから、大人しく荷物の持ち手だけを握りしめた。
別にいいんじゃない?
部屋に戻ってキッチンに置かれたままのシフォンケーキ。
一緒にジャムも買って来た。
袋から服を出してハサミを借りてタグを切り取る。
「気に入った?」
「もちろんです。ありがとうございます。」
やっぱり笑顔になってもらえた。
「洗うものは出しててね。」
「今はないです。シャワーの後・・・・明日の朝まとめてでいいです。下着とパジャマをお願いします。」
そう言ったら電気ポットを持った桐乃さんの動きが止まった。
「なんで?ねえ、もしかして・・・・今日も泊まる気?」
何考えてるんだ?正気か?とまでは言わなくても気のせいだよね?ってニュアンスを感じ取った。
「だって、そのつもりで、買い物もしたし、荷物も置いて行ったんだし、てっきり全力OKだと思ってたんです・・・・・ダメですか?出かける用事がありましたか?」
まるで仕事中のようなクールな視線で見られて、視線をそらされた後に小さく息を吐いたみたいだ。
「分かった。じゃあ、今日も泊まっていい。」
すごくしぶしぶ感が出てる。
「邪魔なら、帰ります。」
僕もしぶしぶ言った。隠せてなかったと思う。
「別に・・・・明日も用事はないから。」
『需要と供給』恋人の間でも基本はそうであると思うのに。
大好きで一緒にいたいから、相手にもそう思ってもらいたいと思って、だから一緒にいる。
一緒にいて楽しいって伝えて、喜んでもらえたらうれしくて。
そんなのとはちょっと違う?
バランスの問題だろうか?
そこはちょっと悲しい事実を含んでいるんだろうか?
やっぱり不器用なままの自分。
そんな事も分からない。
ぜんぜん自信がないんだから。
ずっと見ていたのに、素顔は予想外だった。
あんなに可愛いなんて。
全力で褒めたのに、まったく伝わらなくて。
頭を殴られてびっくりした。
暴力反対!!せっかく甘い時間を堪能してたのに。
本気でテレビを見始めるし、何でって思うよね、怒っていいよね。
褒めたくて褒めたくて褒めてるのに伝わらないって、本当に難しい。
もっと素直に喜んでくれてもいいのに。
冬には二人で旅行をして、温泉に入って、のんびりとしたい。
まだまだ夏も来ないのに、そんな先の季節を楽しみにしてた。
今日は何をするんだろう?何をしたいだろう?
まだまだ朝にはならなくていいけど、目が覚めてくれないならさっさと朝になってもいい。
頬に手をやって顎まで滑らせる。
短い髪は寝顔を全然隠してない。
それでも真っ暗な部屋では綺麗な輪郭に縁どられた顔がぼんやり分かるくらいだ。
軽く閉じた唇に触れて、指を入れる。
ビックリして目が覚めたらしい、舌で思いっきり押し出された指が浮いた。
噛みつかれなかっただけでもいいか。
「桐乃さん。」
暗闇でも雰囲気が伝わるくらい笑顔になった。
「もう朝?」
寝ぼけた声の返事はさっぱり色気がなくなってた。
もっと甘く何かを言って欲しい。
「まだ。」
そう答えて腰を引き寄せた。
細い細いと言われてたけど、やっぱり桐乃さんの方が細い。
スタイルが良くて、かっこよくて、時々優しくて、たまに怖くて。
素顔は可愛くて、でもやっぱり色っぽくなって。
そんな桐乃さんとくっついて、嫌がられないからどんどんくっついて。
すっかり目は覚めたみたいだ。
それでも閉じてる目とちょっと開いてる口と。
「ずるい。」
「・・・・ん?」
思いっきり体を引っ張り腰の上に乗せた。
「起きて・・・・。」
腰を掴んで揺らす。体を浮かして桐乃さんが揺れる。
声が揺れて、体が大きく揺れて。
気持ち良くて、もっと感じて欲しい。
ずっと聞いていたいと思った。
掴まれた腕が痛いけど、見上げる桐乃さんがたまらなく色っぽくて。
本当にあえぎ声が途切れて体の上に落ちてくるまで、くっついた部分に感覚を集中させて動いた。
眠りにまた落ちる時にはしっかり腕の中に抱いていたはずなのに、目が覚めた時は一人だった。
いつの間にか勝手に腕からすり抜けたらしい桐乃さん。
それに気がつかずぐっすりだった自分。
下着を着て寝室を出た。
すっかりパジャマから普段着に着替えてくつろいでコーヒーを手にしてる桐乃さんと目が合った。
「おはよう、草野君。良く寝てたわね。」
自分のトランクス姿がマヌケに見えるだろう。
挨拶もしないで近寄った。
「少しは起きるまで待っててくれました?せっかくだから寝たふりして待っててほしかったです。」
「それで?」
「二人で目が覚めて、一緒に朝を始められたら良かったのに。」
「もしかして厄介なの?良く寝てるなあって随分観察しても起きなかったんだから。中途半端に起こされてたら怒ったんじゃない?」
「起こし方がいろいろあるじゃないですか?そこは任せます。」
「じゃあ、自然に目覚めてね。」
そう言ってキッチンに立った桐乃さん。
とりあえず寝室に戻ってパジャマを着て、洗面台を借りた。
確かに遅い朝だった。
お腹空いた時間。寝坊は確実に自分の方。
コーヒーをもらって隣にいた。
「約束覚えてますか?」
「何の約束?」
「冬の温泉です。」
「覚えてるわよ。どうかした?止める?」
「行きます。一緒にお風呂に入って雪を見るんです。」
「そう。それで、その約束がどうかしたの?」
「覚えてもらえてるならいいです。忘れてなければいいです。」
何を確認したかったの?って顔をしてる。
自分でもそう思う。
ずっと先の約束なのに、来週の約束もまだなのに。
伝わらないことが多い。
お互いに不審な顔をすることが。
だから言葉より行動で伝えたいと思った。
そのほうが伝わる。
「草野くん、美味しいもの食べに行こう。」
やっぱり伝わってないんだろう。
外に出たがる桐乃さん。
そして返事も待たずに寝室に消えた。
着替えをしてるんだろう、化粧もするんだろう。
大好きな桐乃さんのいつもの顔とスタイルになるんだろう。
ずっと憧れてたのに、今はスッピンの顔のほうがいいとも思う。
ちょっとの偉ぶったさもなくなった顔とそこから色っぽくなる顔。
会社の人は誰も知らないだろう桐乃さん。
そんな事を考えてたら、テキパキとすっかり支度を終えたらしい。
びっくりの素早さ。
「もう準備できたんですか?」
「まあね。さっさと着替えて荷物をまとめないと置いてくわよ。」
アクセサリーをつけながら言う。
「さすがに会社員が長いと支度も早いんですね。」
手際がいいのは全てにおいてだ。
お好み焼きも上手に焼けるし、きっと家事もテキパキ完璧なんだろう。
そう、仕事もそれ以外も。
「そうね、もたもたしてる草野くんよりはずっとずっと長いからね。」
褒めたのに、うれしそうでもない桐乃さん。
もっと褒めた。
「さすがです。」
あんなにぱっぱっとした時間で着がえとメイクも完璧だ。
いつもの桐乃さんが出来上がっていたんだから。
廊下の暗がりでズボンを履いて、上も取り替えた。そういう僕もすぐできた。
女の人じゃなくてよかったのかもしれない。朝の準備で疲れそうだ。
荷物の中に脱いだパジャマを入れて。
部屋の隅においた。
「出来ました。」
なんのことはない、昨日の服とそうは変わらない。
小さいバックに携帯を入れたら準備完了。
「じゃあ行こう。」
そう言われて、玄関を出て。
「お腹空いた、桐乃さんは?」
「もちろん空いたわよ。もっと早く起きたら朝ごはんもごちそうしたけどね。」
「ゆっくりがいいです。せっかく休みなんですよ。」
「どこに行くんですか?」
「何食べたい?」
「ガツンとお肉にしましょう。その後買い物に付き合って下さい。」
「何買う、どこ?」
「着替えの服を買いたいです。どこでもいいです。」
「荷物が増えるんじゃ・・・・・・ねえ、バッグは?」
「置いてきました。」
「それは洗濯よろしくってこと?」
「だめなら持ち帰ります。」
「いいよ。勝手に開けていいなら洗っとくから。」
「お願いします。」
つないだ手をブンブンと振った。
預かってもらえてる間はあそこに泊まるから。
僕のところに来てもらうより、いろんな荷物が楽だろう。
ランチタイム、お得なお肉料理を食べて満足した。
後は服もその辺のよくあるカジュアルブランドの服で事足りる。
それでも桐乃さんに選んでもらったら、多分自分で選ぶよりは冒険してる。
試着なんてしないで適当に買ってたのに、ちゃんと体に当てて、鏡を見てるし、組み合わせも考えてる。
自分には見慣れない感じでも、満足そうに笑顔になられたら似合ってるんだと思える。
そうしてシャツとTシャツと靴下と下着と。
さすがに靴下と下着はまとめ売りのものを買った。
そこではさすがに桐乃さんの冒険心は発揮されなかった。
普通の好みでも問題なかった。
通りがかりのお店を見て、試しに聞いてみた。
「桐乃さん、パジャマ売ってるみたいです。」
「別にいらない。」
指を指してみた瞬間に何を言われるか分かってたのかもしれない。
即答だった。
どんなパジャマを彼女に着せてたのよ・・・・そうそっぽを向いて呟いた声はしっかり聞こえていた。
そんなのは記憶にない。
あるはずの場面も思い出せない。
もう随分昔の話だし。三年以上も昔の話だし。
本当に思い出せない。
彼女の顔も忘れてしまった。
ただ、うっすらと笑いながら、仕方ないなあって言う声は思い出せる。
たくさんのガッカリを笑いながら許してくれた彼女。
でも結局仲間の中でも一番に器用そうなアイツの事が好きだったんだ。
敢えて不器用でダメな部分の多い男を選ぶ人はいない。
器用な方がいい、賢い方がいい、かっこいい方がいい、優しい方がいい。
全てにおいて勝ち点の高い男がやっぱり勝ち進む。
女性に限ったらそうじゃない気もするのに。
そう思うのは男性だからなのか。
女性だと同じように勝ち点上位の女性が勝ち組って思ってるんだろうか?
人の魅力はいろんな方向に無限だと思う。
それなのに今隣にいるのが桐乃さんで、思ってる事とは全く違った。
完全に勝ち組の方だと思う。
そんな人に惹かれた自分。
桐乃さんが一人でいてくれたありがたい事実。
いくら魅力的でもそこはやっぱり何かのご縁が必要らしい。
芸能人だって綺麗で人気が高くても独身のままの人もいるんだから。
デザートを買って部屋に戻った。
地元で用事が済んで、ずっと手はつないだまま。
それでもマンションではさりげなく離された。
顔を見たら睨まれてしまったから、大人しく荷物の持ち手だけを握りしめた。
別にいいんじゃない?
部屋に戻ってキッチンに置かれたままのシフォンケーキ。
一緒にジャムも買って来た。
袋から服を出してハサミを借りてタグを切り取る。
「気に入った?」
「もちろんです。ありがとうございます。」
やっぱり笑顔になってもらえた。
「洗うものは出しててね。」
「今はないです。シャワーの後・・・・明日の朝まとめてでいいです。下着とパジャマをお願いします。」
そう言ったら電気ポットを持った桐乃さんの動きが止まった。
「なんで?ねえ、もしかして・・・・今日も泊まる気?」
何考えてるんだ?正気か?とまでは言わなくても気のせいだよね?ってニュアンスを感じ取った。
「だって、そのつもりで、買い物もしたし、荷物も置いて行ったんだし、てっきり全力OKだと思ってたんです・・・・・ダメですか?出かける用事がありましたか?」
まるで仕事中のようなクールな視線で見られて、視線をそらされた後に小さく息を吐いたみたいだ。
「分かった。じゃあ、今日も泊まっていい。」
すごくしぶしぶ感が出てる。
「邪魔なら、帰ります。」
僕もしぶしぶ言った。隠せてなかったと思う。
「別に・・・・明日も用事はないから。」
『需要と供給』恋人の間でも基本はそうであると思うのに。
大好きで一緒にいたいから、相手にもそう思ってもらいたいと思って、だから一緒にいる。
一緒にいて楽しいって伝えて、喜んでもらえたらうれしくて。
そんなのとはちょっと違う?
バランスの問題だろうか?
そこはちょっと悲しい事実を含んでいるんだろうか?
やっぱり不器用なままの自分。
そんな事も分からない。
ぜんぜん自信がないんだから。
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