なぜか訳ありの恋にハマりました。

羽月☆

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18 バスで運ばれた山小屋の中に。

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一山超えて、住宅とお店がちらほらと見える。
何か観光できるようなところがあるんだろうか?
荷物を持って???


バスが止まり降りた場所は大きな山小屋の前だった。

車がたくさん止まっていて幟と看板でお食事処だと分かる。
そのまま課長に手を引かれて進む。
入った・・・・。

名物料理が食べたいとか?

自分のお腹に手を当てる、お腹空いてない・・・・・。


ガッカリ思ってたらいきなり課長が振り返った。

「『立木さん。』と呼んでもらいたい。」

ドアップの顔で言われた。
思わずうなずく。何?


「内緒にしててごめん。お正月だから・・・・家族がまとまってここにいるんだ。」

しばらく『カゾク』『かぞく』『華族』と頭の中で言葉が浮かんで。

・・・『家族』

・・・・ええっ。


「会うって言うと緊張するだろう?」

「当たり前じゃないですか。何で今言うんですか?お土産もないです。こんな格好です・・・・。」

旅行用の楽なダウンとスカート。
せめて昨日のパンツよりはいいかもしれない。
でも、もっと工夫が出来る余地があり過ぎる。

「新年の挨拶だけだし。」

じゃあ、一人でしてください!!そう言いたい。

その思いを読み取ったのか困った顔をされた。

「いろいろがっかりさせたし、久しぶりにいい報告が出来たらいいと思って。」

そう言われると何も言えない。

「食事をするんですか?まだ、あんまりお腹空いてないです。」

「いや、もう終わる頃だと思う。一緒に飲み物だけ注文してもいいかと思ってる。」

「はい。」

「本当に悪い。」

「いいえ。」

入り口手前で手をつなぎながらもめる二人の図。
返事はしたし、覚悟もしたのに、先に進まないのは『立木さん』。


「お待たせしますよ。」

続けて、『行きましょう。』と言いたかったのに。
入り口のドアが開いて女の人が声をかけてきた。

「朔、待ってるのに、何してるの?」

ビックリした二人。

「ああ、今行く。」

そう答えた課長の声は聞こえただろうけど、その人は私をじっと見つめてきた。

「こんにちは。」

とりあえず挨拶をする。

「こんにちは。ごめんなさいね、遠くまで。どうぞ入って・・・・・って家でもないけど、みんなもう待ちくたびれてるから。」

先を歩く人。多分上だと思う。三個年上のお姉さんなんだろう。

「上の姉。」

ぼそりと紹介された。
当たり前です。姉は上です、下は妹です!

ドアが開いた部屋からいきなりにぎやかな声が響いてきた。
全員って・・・・何人いるの?

「お待たせ。入り口でごちゃごちゃしてたから声をかけて連れてきました。朔と可愛い女の子です。どうぞ。」

ドアが全部開いて、視線がすべてこっちを向いてる中、課長・・・・立木さんに続き中に踏みいれたら、本当に全員集合みたいだった。

誰が何?どこがどう?
 
おずおずとお辞儀をしながら入る。

「お待たせしました。同じ会社の愛内里菜さんです。」

「愛内里菜です。初めまして。」


「里菜さん、いくつなの?若いよね。」

ちょっとの静かな鑑賞の間があって、さっきの人が質問してきた。

「23歳です。」

「あ~、何?新人の後輩?」

「部下?」

「朔、随分若い子をよくまあ・・・・・。」

「一番上の姉 瞳、隣が旦那さんと子供たち。反対隣が両親、その隣が下の姉、冴とその旦那さんと子供。」

なるほど、上の姉と下の姉がいるらしい。
ざっくりした紹介だったけど、いろいろと初めて知った事実でした。

お姉さんの存在は聞いた、三個上って。1人分しか聞いてない。何なの?

「里菜さん、どうぞ座って。」

食事は終わり、子供たちはわらわらと隅のスペースに集まり、大人が大人しくお茶を飲んでるテーブル。
両親の向かいの席に座った。真ん中だった。

「お邪魔いたします。」

「朔、でも、本当によく若い子を口説き落としたわね?すごい図々しいくらい。」

図々しいと言われた課長の顔が引きつる。

「あの、いつも仕事ではしっかり教育をしてもらってます。」


「そのついでに手に入れたんだ。」

さっきからお姉さん二人が揶揄ってる言葉に何も言い返すことなく。


「若い人の方がいいのに。一回り離れてたらおじさんでしょう?しかもちょっと余分な過去があるし。」

「瞳、止めなさい。」

ハッキリと匂わせたことにお母さんが嫌そうな顔をした。

「だって隠してたってしょうがないし、伝えてあるんでしょう?」

「もちろん。」

やっと声を出してくれた。

「そんな大切な事、後出しされても困るわよね。」

私が言われた。

「はい、最初に話してもらってます。気にしてません。」


「うん、良かった。それ以外はまあまあいい奴だから。」

「はい。」

「飲み物頼んだら?」

メニューを渡された。
そのまま、お義兄さんが頼みに行ってくれた。

「さっきまで内緒にしてたから、彼女はここに家族がいるとは知らなかったから。」

「毎年ここでお昼を頂くのよ。主婦も楽したいしね。」

お母さんがそう教えてくれた。

「はい。」

課長がしゃべってくれないと私からは話題が出せない。
場は盛り上がらない。
そっと横を見ると誰かのお水を飲んでいる。

何で課長が緊張するのよ、緊張するのは私でしょう?


「里菜さん、ご実家は遠いの?」

「いいえ、近いです。明日お土産を持って帰ろうと思ってます。あ、本当に何も知らなくて、お土産などもなく参加してしまって、すみません。」

「大丈夫よ、気にしないでね。朔が誰かを連れて来るなんて思ってもなかったからそれが嬉しいし、それだけで十分ですから。」

「ありがとうございます。」

お母さんは優しい。


「いいなあ、12個下って、いろいろ羨ましい。」

うなずくお姉さんの旦那さんたち。

「あやかりたかったらそのお腹をどうにかしたら?」

瞳さんが旦那さんのお腹を叩いた。
いい音はしなかったけどウッといううめき声はした。

「朔は本当に頼りになるのかしら?」

お母さんが私に聞く。

「はい、もちろんです。課長は人気者です。」

ちょっと過剰評価かもしれないけど、私にはそんな感じだから。

「本当にいつもいつも呼びつけられて、ダメだしされて、指導されて、育ててもらってます。」

「里菜、そのあたりはお前にはまだまだ必要だからしてるんだ。呼びつけてダメ出しして再提出な。」

「何、偉そう。」

冴さんが面白そうに言う。

「完全に公私混同?」

「違う。本当に仕事で必要だからだ。」

「じゃあ、普通の時、仕事外の時はどう?」

私に質問が回ってきた。

「はい、優しい・・・・・です。」

まあ、優しいと言い切っていいだろう。
意地悪なところとか揶揄うところくらい、おふざけだと思ってあげよう。

「何か想像すると寒気がしそうだけど。」

「普通だよ。」

「普通に優しいとは、そんなところ姉にも見せて欲しい、ついでに甥っ子姪っ子にも。」

「あ、悪い、・・・すっかり忘れてた。今度まとめて送る。本当にうっかりしてた。」

「多分期待してると思うけど。」

「ああ・・・・本当に悪い。」

「今日じゃなくてもいいから、いつでも受け付けるから。」

「帰ったらちゃんと送るから。後で謝っとく。」

「今年は特別に許してやるように言うから。自分の彼女に集中し過ぎたんでしょう?」

「・・・・すっかり忘れてた。」


「会社でも近くにいるんだ?バレないの?」

お兄さんに聞かれた。

「今のところは大丈夫です。」

「そういうもんなんだ。」

「友達にも言ってないとか。」

「会社の友達には言ってないです。」

「それはそれでなかなか楽しそうでもあるなあ。」

「夢見るだけなら自由だからどうぞ。」

瞳さんがお腹を叩いて言い放つとしまったと言う顔をする旦那さん。

仲がいいのだろう。
毎年このお店で過ごす家族。

隣を見る、今日だけそんな感じ?

「課長、大丈夫ですか?」

本当に静かなんですが。

「里菜ちゃん、課長って呼んでるの?」

あっ、つい。

「会社でうっかり変な呼び方しても困るので、課長と呼んでます。」

「なんだか変な感じだね。」

「いつからお付き合いしてるの?」

何ですべて私が答えるの?
課長を見たら、さすがに口を開いてくれた。

「まだ二カ月くらい。」

「は?」

皆が課長を見る。私ももう一度見る。

「紹介するっていうから、てっきり・・・・。」

お母さんが言う。

ああ、そういうことか。
ああ、・・なるほど。
・・・・・ああ、期待しましたか?

「紹介するだけって言ったじゃないか。」

「だってそう思うじゃない。」

瞳さんが言う。

皆が私を見る。

別にいいです。
お正月だからちょっとだけお邪魔しましたって感じです。

「まあ、新人の後輩だと最長でも9ヶ月なんだから、まあ、ぼちぼちと。」

冴さんがそう言ってくれた。

課長はお父さんに似ているみたいだ。
さっきから寡黙なお父さん。
さっき皆と一緒に唖然とするまでは厳しそうな顔をしていたのに。
今は緊張が解けたような顔になった。

「まあ、そういうことで。」

「はいはい、そういうことで。」


何となく私は普通のお客様になった気がした。
家族になる予定の人からただのお客様に。
それでも『里菜ちゃん』と呼ばれて話をしていると、ちょっとだけ仲間に入れてもらえてるみたいでうれしかったりする。
子どもが飽きて、家族の元に戻ってきて、食事&ご挨拶の会はお開きになった。


課長が子供たちにお年玉を送るからと約束しているのを聞いてる時、瞳さんに小声で話しかけられた。

「里菜ちゃん、ごめんね。ちょっと誤解してしまって。でも仲良くしてもらえたらうれしい。朔にも幸せになって欲しいと思ってるし。一応言うと、最初の人以外では紹介されたのは初めてだから。」

元奥さんはそうだろう。それ以外はいないということだろう。
それでも気を遣ってくれたんだろう。

「はい、思わずお邪魔してしまいまして、とても賑やかだし楽しかったです。課長が大人しいのも面白かったです。」

「そうなの?普通の時はちゃんと喋ったり楽しませてくれてればいいけど。」

「もちろんです。ポンポンと言い合って楽しいです。」

「ありがとう。また会いに来てね。」

「はい。ありがとうございます。」

冴さんの旦那さんが来て、駅まで車に乗せて送ってくれることになった。

大きなファミリーカーの後部座席に子供二人、真ん中の列に二人で乗り込んだ。
シートに置いた指が軽く絡まった。

前の席のお兄さんお姉さんは前を見て、後ろの子供たちはつぶやきが聞こえるけどゲームの音がにぎやかで。

駅に着く前にお姉さんが急に振り向いて、視線が手元に行ったかもしれない。
普通に見えたと思う。

「じゃあ、また遊びに来てね、一緒に朔も帰ってきなさい。」

「ああ。」

指がそっと離れていった。

車が駅についてお礼を言って降りた。
手を振って車を見送って、その手をそのままつないで顔を見合わせた。

「ありがとう。」

「瞳さんにもお礼を言われました。」

「なんか話をしてたな。」

「楽しく過ごしてますって言ったら良かったって言われました。無口でしたよ。いつもそうなんですか?」

「まあ、姉が二人いる時は任せてる。適当にうるさいから、黙ってる方がいい。」

知りませんよ、そんな事。

臨時列車の空席を見つけて切符を買い、帰ることにした。

お土産を棚の上においてくっつくように手をつないで肩にもたれた。

「楽しかったです。贅沢なお正月でした。」

「また来れるよ。」

手に力を入れて目を閉じる。



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