夢にまで見たい二次元恋愛、現実にはあり?なし?

羽月☆

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7 不愛想な同期とでも妄想の会話はできるのだ。

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普段の時は二瓶さん紀伊さんと会うこともない。
あれから何か話しただろうか?
いつもの愛想なしよりは少し愛想があった生井君と飲んで楽しかったとか、また飲みたいなあとか。

もちろん私も生井君にそんな事を聞くこともしない。



「筒井さん、生井君。ちょっといい?」

部長に呼ばれた。珍しく二人。
今回はさらに遠慮なしの量の雑用かもしれない。


「これお願いしていい?とりあえずいつものように引き出して会議室に運んでくれる?」


印のついたものを見る。ざっと倍くらいになっていた。
いくらなんでも多すぎる。
前回の箱二つレベルで対応できるものじゃない。
もっと必要。


「分かりました。」

資料は私の手に。生井君はあくまでも補佐だろうか?
前回取ってきてもらった物差しと箱をいくつかもって資料室に行った。

もちろん並んで行った。
特に話をするでもなく、ちらりともらった紙を見ながら。

社員証をかざして、ため息をつく。

「俺が取り出すから、運んでもらっていい?」

そう言われたのでそれに従った。
とは言ってもしばらく箱を組み立てて待つのみ。

脚立に乗った生井君の手から資料を受け取り箱へ。


ある程度溜まったら運ぶ、次の箱を組み立てておく。


そして黙々とお互いに引き出し、運ぶ、が終わりになる頃。


資料を見つめている横顔を見てて、ちょっとだけ気になったから聞いてみた。


「ねえ、湯田君と仲が良かったんだね。全然知らなかった。」

そう言ったらこっちを見た。
この部屋に入ってからも初めて会話らしい会話だ。
なんならここ最近の久しぶりの会話とも言える。


「まあね。」


「楽しそうだったね。」


「まあね。」

さっきと変わりない無感動な反応。

「すごくいつもの顔と違った。たまにはあんな顔するんだって・・・・・あっ。」


・・・・忘れてた。何で忘れてたんだろう。
今、思い出した。

前にも見たじゃん、あれよりもうれしそうだった顔。
美人の彼女と一緒にいた時・・・・・。

そんな事実をふいに思い出して。

不自然に会話を途中で止めた私にジッと注がれてたらしい視線。
それに気がついた。

「何?何か言いたい?」

そう聞かれた。無感動よりは何?って感じで問い詰められた気がする。

首を振った。


「違う、楽しそうだったなって思っただけ。皆・・・楽しそうだったなって、楽しかったなって思っただけ。」


「そう。三木君と仲良く話してたしね。」


「うん、楽しかったね。」


友達だ。三木君は出来立ての男友達みたいな人。
だから紀伊さんのことも同期で女子で友達で、だから楽しかったよねって。

そうか・・・・・・。



最後の資料を出し終わったらしく、箱に積まれて、その上に紙を置かれた。



「終わったけど。」

「ああ、ごめん。ありがとう。」


そう言って箱を持とうと思ったけど、先に持ってくれて、私は消灯して、鍵がかかったのを確認しただけだった。
二人でやるとそれなりに早いらしい。



会議室に集めた資料、たくさん並んだ資料。
さすがに二人に頼んだだけはある、持ってくるだけじゃなくて、その先もあったのだ。


日差しの入る会議室で、一人だったら眠気と戦うために声を出してただろう。
一人じゃない、そこはもちろん生井君も一緒だった。
ただ、一人じゃなくて二人だからと言って、楽しい訳じゃないのだ。
本当にもっと楽しく出来ないかと自分でも思うけど、独り言は言えない、あくびも思いっきりできない、愚痴も言えない、歌も歌えない・・・・・本当にちょっとした会話も出来ないんだから。

『いい天気で眠くなりそうだね?』
『急がなくていいって、ちょっと休憩しながらでよくない?』
『部長ってなんだか新人を使いまわすために雑用を探してる気がするんだけど、どう思う?』
『コーヒーくらい奢られたいよね。』
『一人じゃ大変だったな。一緒にやってもらって助かる。絶対途中で飽きそうだもん。』


別に個人的な会話じゃなくても、それくらいの会話はあってもいいのに。
他の人とだったら絶対そのくらい話しながらやるのに。

声にも出せず、相手にもならない。
私は一人で心の中でぐちぐちと言いながら仕事をした。
ドキドキシーンじゃなくても妄想での会話ならできるのだ。
ただ、何の楽しみも無い、やっぱりドキドキは必要な要素だから。

そして終わった。


単純な作業とはいえ疲れる上に、余計な気疲れまで足された時間だった。

部長に報告して一応お礼は言われた。

もう一声!!


残念だけどご褒美はなかった。

毎回ないから、しょうがない。




一人で手を洗うついでに、休憩室で休憩することにした。


「あ、お疲れ様。休憩中なんだ。」

三木君が来た。財布片手に休憩に来たらしい。

「お疲れ様。初めてだよね、ここで会うの。」

「そうだね。いつも社食に行ってぼんやりしてたんだ。あっちの方がたくさん種類あるし。」


確かに自販機がたくさんある。
ここはドリップコーヒーだけだ。


「そうなんだ。そっちは行ったことないけど、結構休んでる人いるの?」

「うん。寝てる人と話し込んでる人、両方いる。」

「いいなあ、誰かと一緒に休憩だったら、そっちに行けるのに。一人だとここでいいやって思っちゃう。あんな広いところに一人でポツンって寂しい。」

「きっと誰かいるよ。知ってる人。」


知ってるだけじゃあね。

曖昧に笑う。


「この間楽しかったね。」

「そうだね。本当にまた行くかな?」

「行きたいなあ。男子だけだと本当に立ち飲みみたいなお店になるんだ。たまには美味しく創作された料理が食べたい。」

「そうなんだ。あの三人だとどっちがよく喋るの?」

生井君は抜いて二人のどちらかだろう。

「皆同じくらいだよ。」

ええ?信じられない。もしかして笑顔だったりするの?

「何?」

「だって生井君が話をしてるところなんて信じられない。この間も随分明るい表情で驚いたけど、・・・・・喋るんだ。」

「そんなに変?普通だよ。」

「変というか、本当に想像できない。さっきまで一緒に部長の頼まれ仕事をしてたけど、ビックリするほど言葉もなかったからね。本当に静かに黙々とやった。脇目も振らない感じで真面目にやり過ぎてあっさり終わったから、今は休憩中なの。」


「そうなんだ。そう言われると表情はわりとクールな方かな。声を出して大笑いってないかもしれないけど。」

それだって呆れた失笑しか浮かばない感じ。

「湯田君は二瓶さんを知ってるし、なんとなくわかる気もするんだけどね。」

「知らない人にすぐに声をかけるタイプには見えないよね。そこは湯田君も意外かもしれない。」

「いろいろ聞いたの?」

そこはちょっと小声になってしまう。

「なんとなく・・・・きっかけを作りたくて、思い切ったらしいね。」

「そうみたい。一目ぼれってことだよね?」

「そうだね。」

小声のまま話をして、ちょっとだけ見つめ合って、少しだけ近寄った顔を離した。

「なんだかね。」

「なんだかだよね。」


羨ましさを隠せない気分、でも三木君もそうかも。


「じゃあ、そろそろ行くね。」

「うん、社食で見かけたら声かけて。」

「うん、私にもね。」

「分かった。じゃあね。」


手を振って席に戻った。

ゆっくり休憩できた。
話しこんでしまい、ちょっと飲み頃を過ぎた状態でコーヒーも半分くらい残ったまま。

ちらりと生井君の方を見た。
普通に仕事をしている。
休憩しようなんて思ってもないらしい。
必要ないタイプはいる。
そんなタイプなんだろう・・・・多分。


さすがに資料を紙で残す時代じゃないから、その内部長から仰せつかる雑用も半分くらい減るかもしれない。
その頃はもっと自分も忙しくバリバリ働いてるんだろうか?

天井を見て想像して、ぐるりと周りの先輩を見渡して生井君を見たら目が合った・・・・ゆっくり逸らされたけど、見られてた。
いい加減に仕事すればいいのにって思ってる?

そんなに忙しくないよね?



そして今日もお母さんと、ノー残業のお父さんと食事をする。



「お父さん、新人の指導とかやってるの?」

「さすがにそんな時代はとっくに過ぎたよ。今はふんぞり返って指導する中堅を見たり、監督する方だよ。」

「そうなの?」

「まあ、偉そうには言えないけど、ちょっとは偉くなったんだから。」

「そうだよね、もうベテランだもんね。じゃあ、いろんな新人を見て来たでしょう?」

「そうだね。後輩はたくさんできたからね。」

「お父さんから見て付き合いにくそうだなあって思う人もいる?誘っても断られそうだなあとか、一緒にいても何を話したらいいか考えそうだなあとか。」

「それは世代が違うから、もう里穂くらいまでとはいかなくても一回り違うと誘いにくいなあ。やっぱり育ってきた時代が違うといろんな価値観も違うからね。」


「もっと楽しそうに仕事すればいいのになあって思う人もいる?」

「当たり前だよ。お父さんだってそうだよ。いつも楽しい訳じゃないし、もはや惰性で会社に行ってるようなものかも。通勤電車に勝手に吸い込まれていく感じだよ。里穂、なにか大変なのか?」

「ううん。今のところ大丈夫だよ。」

「何が何でも辞めないで頑張るって時代でもないんだろうけどね。」

「心配しないで。何かあったら絶対相談するし。いろいろ聞いただけ。」

「そうか。」


食欲もあるし、様子も変わらないから本気で心配はしてないだろう。


なんでいろいろ聞いたんだか、お父さんは会社員の先輩だから。
仕事のことはお母さんに聞いてもあんまりピンとこない事があるだろう。
そこはやっぱりお父さんに聞くことだ。


ご飯を食べて、お母さんの手伝いをして部屋にいった。


新しい同期の友達、三木君。
『休憩室で初めての再会編』・・・・やっぱり何かが始まりそうな予感はない。
だってあの時もドキドキがなかった。
ちょっと顔を寄せてひそひそ話までしたのに。
お互いに全くだったらしい。

う~ん。

今日も一つ現実を直視した気分だった。

携帯を開いて二次元に入り込んだ。

やっぱりドキドキは二次元にこそある。
こうなったら主人公とシンクロして、盛大に心臓の鼓動を早めよう。
体温もあがって、声も出て、足はジタバタするくらいに。

そしていい夢を見そうな気分で眠った。



バタ足が過ぎたのが、ちょっと疲れたらしく、夢も見ずによく眠れた。



まだまだ一週間は始まったばかりだ。
今週も頑張る!

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