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8 世の中の二人組について考える。

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「ねえ、三木君と仲がいいの?」

水曜日、いつものランチメンバーと食事をしていた時に聞かれた。

夢ちゃん、なんで声を潜められたの?

「うん、この間近くにいた二瓶さんと話をしてて、湯田君と紀伊さんと飲みに行ったの。その時に前に座ったから話をしたんだ。いい人だよ。」

普通に声を潜めもせずに答えた。

「なんだかすごく仲がいいって聞いたけど。」

「なんで?一回皆で飲みに行っただけだけど。楽しかったからまた飲もうねっては言ったんだ。そのくらいだよ。」

真実はその通り。裏もないし隠し事もないくらいにその通り。


「そうみたいだね。なんだ、ちょっとだけ楽しい事あるのかなって思ったのに。」

「それは楽しかったけど。皆が期待してるのとは違うけどね。」


周りもガッカリとした顔をした。

「でも何でそんな話になったんだろう?誰に聞いたの?」

「なんとなく、月曜日二人で休憩室でコソコソしてたって、そんな話を聞いたんだけど。」

嘘・・・・・コソコソって湯田君の話だから・・・・。


「そんなことないよ。湯田君と二瓶さんのことをちょっとだけ聞いたりして、そこはコソコソとヒソヒソとしました。それだけだよ。」


「ああ、そうか。でも五人だったの?」

「六人だよ、あ、あと生井君も行ったんだ。三人は仲いいらしくて飲んでるみたい。」

「へえ。」

「それでね、あの生井君も普通に話をするって聞いてね、ビックリしたんだけど。紀伊さんとは普通にまあまあの笑顔でしゃべってたから、そんな時もあるみたい。」


「よくは知らないけど、里穂ちゃんの話だけだと相当の愛想なしの無口な人じゃない。」

「だってそうだよ。この間も資料室と会議室で二人で作業してたのに、本当にしゃべらなかった。もう無言で作業した感じだったっもん。だから余計に三木君と普通に話しが出来て楽しかったのかも。」

「じゃあ、何かあるんじゃないの?」

また声を潜められた。
そして視線も私に集まる。

「なんだかそんな感じじゃない。やっぱり違うよ。」

「まあ、今のところはね。」

何となくは納得してくれたみたいだけど、諦めてないような反応。

多分違うのに。


そう思ってぼんやり斜めを見たらずっと奥に生井君がいた。
一人で静かにランチタイムを過ごしているようだ。

よくわからない人。

会社では同期の誰よりも近い場所にいると思うのに、まったく理解不能、もしくは、嫌われてるのかな?
それはそれで残念だったりする。
しばらくは同じ部署で働いて、これからも協力してすることはあるかもしれないのに。


しょうがない。

気を取り直して食事をした。


そして無事に終わるはずの金曜日。
早速また飲むことになった。
今週も?

湯田君と二瓶さんは・・・いいの?お邪魔様です。
あ、それとも紀伊さんのためとか?

前日に連絡が来て、大丈夫だと返事をした。
今回も生井君とは全くその話はせず。

お母さんに夕食は欠席の事を伝えた。

「楽しい食事会?」

「美味しい食事会だよ。」

だってオマケだと思うから。



金曜日女子三人で先に待ち合わせて行った。

女子の並びは同じ。
てっきり男子メンバーも一緒だと思ってたのに。

生井君はいなかった。
代りに三木君が紀伊さんの正面に座り、私は新しい三人目の岡村君と向き合った。

????
これはどう考えればいいんだろう?

岡村君と軽い探り合いの会話から始まる。
湯田君が何度かランチを一緒にとったくらいの仲らしい。

「仕事終わりに誘われたのは初めて。女子と行くのも初めてだよ。」

「そうなんだ。」

「残業なくて良かったよ。」

「うん、来週でいい事はそのままにしてきたから。」

「悪かった、急で。」

「大丈夫。」

湯田君と岡村君の会話だ。
どうやら急に誘われたらしい。

急いで考えてみた。

生井君は急遽キャンセルだったらしい。
仕事は普通だと思った。
それ以上に何か大切な用が出来たのかもしれない。

でも・・・・。

離れた三木君と紀伊さんを見る。
楽しそうだ。

もしかして本当にこの間席を代わった方が良かったんだろうか?

そして仕事後も仕事中のような二人になるところだった生井筒井ペア。
それだったら彼女との用事を優先するかもしれない。
別に行かなくてもいいかなって思うかもしれない。
むしろ行きたくないって思ったかも・・・・それは悲しいけど。



「筒井さん、お~い?」

湯田君に名前を呼ばれた。

我に返って視線を合わせる。

「ごめん、ちょっとぼんやりでした。」

二瓶さんを見ても心配そうに見られてる気がする。
もしくは・・・・気の毒そうに?

「岡村君は飲めるの?」

とりあえず現実を楽しもう。

「うん、普通だよ。」

この間と違うのは正面の人が変っただけ。
岡村君も変な人じゃない。
一緒に飲むのに変な癖もなく、普通に楽しくしゃべれる。

なのに、何か、ちょっとだけ、楽しめてない。





「お帰り、里穂。」

「ただいま。お腹いっぱい。」

「そんな美味しい飲み会だったの?」

「そうだね。」

「なかなか楽しい顔で帰ってこないのね。」

「そう?今日も新しい友達が出来て良かったって気分だよ。」

そう言ったのにじっと見られる。

「そういえば久しぶりに一郎君が帰ってきてるみたいよ。懐かしいでしょう?まったく変ってないみたいだけど。」

「そうなの?」

「はい、お土産だって。気が利くわよね。」

おしゃれなお菓子をもらったらしい。
二個減っているからお父さんと食べたらしい。

「もう遅いし明日食べる。会いに行ってみようかな?」

「会いに来るって言ってたわよ。」

「本当?じゃあ、楽しみにしようっと。もう寝るね。お休みなさい。」

「お休み。」


そう言って部屋に戻った。
ささっとお風呂に入り、そのままベッドにゴロリとなり、もぞもぞと布団の中にもぐりこんで目を閉じた。


何も考えずに眠りたい。
今週もお疲れ様。来週も頑張ろう。




お酒はほどほどにしてるけど、それなりに疲れてるらしくて、すぐに眠れた。


朝起きた時はすごく寝た気分でスッキリしてる。

お母さんに起こされなくても目が覚める、そんな週末の日もたまにはあるのだ。
顔を洗って着替えをして。
何をする予定もない、何もなかったよな・・・・・なかったな・・・・うん、ない。

朝ごはんを食べて、ダラダラと部屋で携帯を片手にゴロゴロしていた。


「里穂、一郎君よ。降りてきなさい。」

忘れてた
そうそう、一郎君。変わらないと言われてる一郎君。

急いで携帯をポケットに入れて降りて行った。


リビングに顔を出すと昔のように馴染んでる一郎君を見つけた。

「一郎君、久しぶり。元気?どうしたの?」

「里穂、久しぶり。全然変わってないなあ。せっかく社会人になったのに相変わらずらしいし、やっぱり変わってないってことだよな?」


「褒めてるの?それとも照れてるの?もっとちゃんと褒めてくれてもいいのに。」

「照れてる訳ないだろう、昔通りの里穂に安心しただけだよ。」

「一郎君だって全然変わってないじゃない。相変わらずだね。」


本当に相変わらずだった。まったく変わりがない。

ちょっとだけホッとした。


「普通の週末なのにどうしたの?」


「里穂、一郎君結婚するんだって!!」


「お母さん、そんな嘘には騙されません。何?どうしたの?」

「何で嘘だと決めつけるんだよ。本当だよ。昨日は彼女を連れてきて、親に紹介したんだよ。」

「だ、か、ら~、騙されないって。」


「ごめんね、一郎君。里穂がアンハッピー過ぎて、人の幸せを喜ぶこともできないみたい。」

お母さんが一郎君にそんなことを言う。

「だって、嘘でしょう?一郎君だよ、結婚だよ、彼女だよ。」


二人が私を見る。
残念な目で。

「本当なの?」

「ああ、ちょっと早いけど、転勤になりそうなんだ。だからいいきっかけかなって思って。大阪の支社に行くんだけど、今までも滅多に帰ってないから変わらないけどな。」

一郎君が結婚?大阪に行くのはまあいいとしても、結婚?



「おめでとう。」

何とかそう言ったけど、少しも元気がないセリフだった。

「ありがとう。里穂もいい男捕まえろよ。あんまり線で描かれた男ばっかり見てたらばあさんになるからな。」


懐かしい顔がそう言った。

「ありがとう。」


「ああ、じゃあな。元気でな。」


そう言って玄関に向かう一郎君。

後ろから急いでついて行った。

「一郎君、彼女と仲良くね。お幸せに。」

やっぱりどこか寂しかったけど、それでも元気に言えた。

「ああ、もちろん。里穂も俺が入れ歯をカタカタ言わして、びっくりして腰を抜かすくらい色気のある大人の女性になれよ。楽しみにしてるからな。」

「当たり前でしょう。一郎君とすれ違っても気がつかれないくらい大人の女性になってるから。」


「そりゃ楽しみだ。じゃあな。」


手を振って出て行った。

一番近い幼馴染も遠くに行った。
自分の手の中にしっかりと今の幸せを掴んで

一郎君はいい人だと思う。小さいころからよく遊んでくれた。
私が風邪で寝てた時は部屋の隅で本を読んでくれたし、お腹を壊した時はお腹をさすってくれて、足を怪我した時は一緒に家の中で遊んでくれたし。

そう、いい人。

大切な思い出がたくさんあるし、なんの遠慮もいらない幼なじみ。

リアルな結婚の話。
それは思ったより寂しいニュースだった。


日曜日、お父さんがいなかった。
友達に会うんだと遅い朝ご飯を食べた後、出かけた。

お母さんと久しぶりに一緒に出かけることにした。
出かけるお父さんが少し寂しい顔をした。

「今度は三人で出かけようよ。」

それに気がついたので誘うように言ってあげた。
少しは気分が上がったらしく、先に出かけたお父さん。

もう、世話が焼けるんだから。
あ、もしかしてお母さんと二人が良かったとか言わないよね?
私とも出かけたいんだよね?

気になったのでお母さんに聞いてみた。

「ねえ、お父さんと二人で出かけるって、最近ない?」

「ないわね。里穂のお昼ご飯をずっと作ってじゃない。お父さんもあんまり出かけないし。」

「お母さんはお父さんと二人で出かけたい?」


「そうね・・・・里穂がいないんだったら二人で出かけてもいいな。」

「何で私が絡むの?」

「面倒くさくてダラダラパジャマで過ごして、ずっと部屋でゴロゴロしてそうじゃない。」

「出かける時にはきちんとした感じで見送るよ。それならいいでしょう?」

そう言ったらお母さんが私をじっと見た。

「何?もしかして誰かをこっそり招待したいの?」


ビックリな誤解だ。

「違うよ。今日二人で出かけるって決めた後のお父さんが寂しそうだったから。お母さんと二人で出かけたいのかなって思っただけだよ。もう、全然違う方向に話が行ったじゃない。」

「そうよね、まだまだそんな奥の手は使わないわよね。」


奥の手って何?

それでも久しぶりにお母さんと出かけた。
三ヶ月前の春、入社式の前にいろいろ買いに付き合ってもらって、三人で食事をした。
それ以来だ。


私が行きたかったカフェに入った。
ケーキを頼んで、紅茶を飲む。
女子が好きそうなお店で来れてよかった。
友達同志が一番多いけど、時々カップルもいる。

そしてお店の外を通る人も半分はカップルだと思う。

なんだか寂しい気がした。
一郎君もその中に入ったら、知らない景色の一部になる。
ガラスのこっちと向こう側みたいに。
でもガラスのこっち側にもカップルがいて・・・・・・。


何で皆そんなに簡単に相手を見つけて二人になれてるんだろう。


何で私には難しいんだろう。


湯田君の友達が毎回変わって、一周したら、もう誘われなくなるかもしれない。
あと何人いるんだろう。
紀伊さんはどうなったんだろう?


「里穂、どうしたの?」

フォークを持ったまま固まってしまっていた私。

「なんだかいろんな人がいるなあって思って。」

「そうね。たくさんの人の中でご縁があるのは本当に少しだけかだら、出会った人は大切にしなさいね。」

「うん、もちろん。」

でもお母さんは友達に会うと言って出かけることは少ないかもしれない。
お父さんは時々仕事帰りに飲んでくることがあるけど。
お母さんは私たちが仕事してる時間を使って出かけてるんだろうか?

「ねえ、一郎君の結婚の話はいつ聞いたの?」

「昨日よ。だって一郎君も突然前の週にお母さんに言ったらしいし、全然彼女の話もしてなかったらしいわよ。ただ、帰るからって言われただけみたい。それがいきなり彼女連れで結婚で転勤で、きっとビックリしたわよ。」

一郎君のおばさんとは話をしてると分かった。

「本当に人の子供は大きくなるのが早いのよ。里穂も大きくなったけど、まだまだ子供だって安心してるから、余計にそう思うわね。」

「もう大人だよ。一郎君が大人なら私だって来年は同じ年だし。」

「でも電撃発表は今のところ全くなさそうだから、安心してる。好きな人が出来たら我慢できなくて教えてくれてたもんね。」


そりゃあ、隠せるタイプじゃなかった。
喜んで教えて、しばらくしたら悲しんで報告もした。
全部教えてる。

このところ随分空いてる。何も報告することがない状態が続いてる。


「早くいい報告をしたいのに。自慢したいのに。」

「お父さんとお母さんは焦らずに、気長に待ちます。」

「お父さんはうれしいかな?」

「それはないかもね。」

だいたい内緒だって言ってもすぐお父さんに教えてたお母さん。
仲が良すぎだよ。



まったりとケーキを食べて、デパ地下で好きなお惣菜を買って帰ることにした。

たまにはお母さんも楽をすればいい。
そう思うのに、家事はそれ以外もたくさんあって。
お父さんのシャツにアイロンをかけていた。
きっとお父さんが帰ってくるまで待つんだろう。
酔っぱらったお父さんの話を聞いて、相槌を打って、キリのいいところでお風呂に連れて行って・・・・。

あんまり楽な一日じゃないのかも。

ついでに娘の愚痴まで聞く。

「絶対的に恋愛能力が低いみたい。」

そう吐き出した。
もちろん家に帰ってからだ。

「今までに好きな人に告白してたの?されてたのよね?」

「されてた。」

「じゃあとりあえずたくさん知り合いを作る事、もしくは告白したくなるくらい大好きな人を作る事。」

「知り合いは出来ても、友達とは違う。学生の頃のような密度で付き合うことって女友達でもない事だよ。だからなかなかだよ、よっぽど惚れられないとそんな告白なんてされないよ。」

そう考えたら六日で週末のお出かけを誘った湯田君は凄い。
入社したばかりの不安な頃、吊り橋効果みたいな心理現象があったんだろうか?


「だから急がなくてもいいから、まだ三ヶ月じゃない。」

なんてやり取りで慰めてもらっていた。

やっぱりお母さんには楽な日じゃなかっただろう。
いっそ娘も夫も会社に行って不在の方が、手慣れた家事を終わらせたら自由を満喫できるのかもしれない。

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