やられたらやり返す…主義でしたが、笑顔でお礼を言えそうです。

羽月☆

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11 あの日のいろいろはこれで綺麗に消化できた気がする。

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思ったほど気も遣わずに一万円をゼロに近づけた。
残り二百円、思わず惜しいと思った。綺麗に使い切りたかったのに。
つい言われて、差し出した手の平におつりを乗せられた。

「醍醐さんがもらったお金だし。」

「じゃあ、コーヒー一杯おごります。」

百円玉をひとつ返した。


少しの食事と二杯のお酒が飲めた。

「美味しかったです。」

「そう言ってもらえると良かったかな。気に入ってる店なんだ。」

壁際に置かれた小さな高さのあるテーブルの席だった。
壁のおしやれなランプがうっすら照らす狭い空間で、もしかしたら顔を近くに寄せながら話をしても似合いそうな空間。
さすがに悪態を囁くようなことはせず、堂々としゃべってしまった。
二人の距離は十分離れてたけど、でもそんな相手は珍しかったかもしれない。
いつもはもっと近くで囁き合いたい人と一緒に行ってるのだろう。
そう思った。


「本当に弟なんだよね。」

「はい?」

疑う?お互いに姉弟の話をしたのに、今さら?

真っ直ぐに駅を目指して歩く。

「また、誘っていい?」

「・・・何かありましたら。」

あの日のこと以外で何を話すと言うんだろう。

駅はもう目の前だった。あ、自分の使う駅を目指してきたけど。
良かったのよね?
改札の少し前で体を向けてお礼を言った。

「ごちそうさまでした。本当にお世話になりました。」

「ごちそうになったのはこっちだけどね。」

人当たりのいい笑顔、今日で随分見慣れた笑顔だ。

「帰る?」

「はい。」

もちろん目の前に改札がありますから。


「じゃあ、お休み。」

「お疲れ様でした。」

一礼して、そのまま改札を入って電車に乗って帰った。

週末、クリーニングを取りに行く。
あとは友達に会う。

そういえばさり気なく、笑顔はないけど人とは問題なく仲良く出来てるんだな、みたいなことを言われた。
女はみんなニコニコしているのが当たり前だと言わんばかりに。
不愛想だと嫌われるぞとか、そういう意味だろう。
必要な時はそれなりにしてるし、別に社内で必要は感じないだけだ。
ちゃんと先輩とも同期とも、普通に仲良くやってる、つもり。
ただ、同僚という枠からはみ出さないけど、それなりの関係は作れてると思いたい。

だいたい、じゃれ合いたいなんて、冗談だとしても、紬と同じように仲良くできるわけない、二十年以上の知り合いなんだから。

あ、もしかして彼女と別れたばかりで寂しいとか?
それもしんみりと語られたし。
どんだけなんだ、そっちこそ友達と騒げばいいのに。
誰と仲がいいのか、全く知らない。気にもしてなかったから。
隣の営業一課でも、なかなか優秀だと、そんな評判を聞いたような気もする。
あの反省もないようなエロオヤジから一万円を引き出すくらいには言葉巧みだったということだ。

まあいい。
これでお礼も完璧、宙ぶらりんのお金もきれいさっぱり消えた。
よし、お終い!


日曜日、久しぶりに友達と会った。
いつものメンバーの数人が集まってランチ女子会だ。
ホテルでアフタヌーンティーコースを予約したと言われた。
一年前まではそんな気取ったお店じゃなくて、ファーストフードやチェーン店ばかりだったのに。大人になったもんだとしみじみ思った。

さすがに楽な恰好じゃなくて、頼まれてもいないのにきちんとスカートで行った。
別に特別に嫌いなんじゃない。
通勤にも外回りにも便利で楽だからパンツスーツなのだ。
TPOと効率重視というやつだ。

それぞれが近況報告をする。
大学の頃から同じ相手と付き合ってる子からは彼の愚痴を聞く。
それでも明るい未来が見えていそうだった。
絶賛恋愛中の子もいて、出会いから今日までのまだまだラブラブなエピソードが披露されて。

「そういえば紬君、元気?彼女まだできてないよね?」

「もちろん元気、相変わらず買い物も付き合ってくれてるから、多分彼女はいなそう。」

紬は彼女が出来てないかと心配され、私のことは何も聞かれない。
前に紬には会ったことがある皆。紬が大学生になりたての頃だった。
私が自慢げに披露していた写真よりも実際の方が可愛いいと褒めてくれた。

当たり前だ、紬は今も昔もずっと可愛いんだから。
それに性格も抜群にいいんだから。

でも、それとは別に、一応礼儀として私のことも聞いてくれてもよくない?

「何で私のことは聞いてくれないの?」

本当に皆が紬の情報で満足していそうで一応言ってみた。

「何?やっと千歳も報告したいことが出来たの?聞く聞く、初めてのビッグニュース。」

別に披露することがあるかどうかと聞いてほしいだけであって、うれしいニュースがあるからと披露したいわけじゃない。
もちろんあったら隠さずに披露したいけど、ないのだから。

「この間会社の創立祭にきた来賓のチビデブ禿げオヤジにお尻を触られた。終わった後はわざと赤ワインを胸元にこぼされて、ハンカチで胸を拭かれそうになった。」

明らかにシーンとした一瞬、期待した浮かれた報告はないのだと分かったらしい。
さすがにそれでも盛り上がれる話題ではあったらしい。
そしてセクハラまがいはどこでもあるらしい。
まだ一万円払ってもらい、二度と会わなくて済むと分かってるだけ良かったらしい。
確かに社内の人だったら、さすがに・・・・・訴える!・・・・は現実的に無理みたいだ。
我慢するしかないらしい。
なんて女性に厳しい社会なんだ。

「で、助けてくれた人とお酒を飲んで?」

「それだけ。金曜日のことだけど。」

「なんだか本当に初めてのうれしい報告を聞けそうじゃない?次回に期待するよ。」

「別に、彼女と別れたばかりで誰かと飲みたかっただけじゃない?」

「わざわざフリー宣言されたんでしょう?」

それは話の流れだろう。

「ねえねえ、来週、偶然のふりしてバッタリ会ってみたりして、話をして仲良くなれば?」

どこで?そんな偶然ないでしょう?

「別に・・・・、あんまり必要がないかなって。」

「千歳、本当に千年生きる気だとしても、若いのは今だけだよ。永遠じゃないんだよ。楽しもう。ね、もしまた誘われたら行こう。喜んで笑顔で行こう。」

「そんな誘われないよ。私はよくは知らないけど、人気があるらしいし、フリーになったって噂が広まったら近寄って行く人がいるかも。」

「え~、負けないでよ。そんなの、千歳も近寄ってみればいいじゃない。」

「そんな事言って、勝手に期待しないでよ。」

「するってば~。」

このチームの女子に限れば、話をしていても暖かいものは暖かい内に、冷たいものは溶けない内にきちんと食べる子ばかりだ。
喋る口と食べる口が違うかのようだけど。
美味しい食事を食べながら、そんなに何でも面白いように動いたら、世の中幸せが溢れてるだろうにって思った。
食事を終えて、紅茶のおかわりをもらい、美味しい物や芸能人の話やそのほかいろいろと話題を変えながら満喫して、終わりになった。

「千歳、本当に、何かいいことがあるといいね。ちゃんと見つけるんだよ。」

私だけが最後に心配されて終わった。

帰りにクリーニング終わりのブラウスを引き取った。
見事に染みは消えていたのをその場でお店の人と確認した。
うれしかった。
思わず恩田さんに報告したいとも思ったけど、そんな必要もないかと思い直した。
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