やられたらやり返す…主義でしたが、笑顔でお礼を言えそうです。

羽月☆

文字の大きさ
10 / 25

10 言いたいことも上手く伝えられない相手と出会った征四郎。

しおりを挟む
愚痴は遠慮もなく、表現も控えることなく、思いっきりハゲ呼ばわり。
本当に碌な大人じゃない!と力が入ってる。
昨日と同じつぶやきがお酒の力に煽られてパワーアップした感じだろうか?
やはり無感動そうな表情ながらも眉間には嫌悪をはっきり知らせるシワ。
その深さが余計なアクセントになって・・・怖いくらいだ。

仕事終わりの金曜日、お酒の勢いのまま、昨日の記憶を共有するふたり。
そこには思ったより壁がない気もする。
実際自分が連れて来たお店もそんな感じだった。
二人の作る距離感と、照度。
いい雰囲気ではある、話の内容はともかくとして。

ひとしきり吐き出したらしくお酒を煽るように喉を潤し、心を静めたらしい。
そして心配するまでもなくお酒は強そうだ。
次のお酒を頼んでメニューを閉じた。
パタンと閉じたメニュー表の風に綺麗な前髪が揺れた。

「スッキリした?でもそんな正直なとこがギャップがあって可愛い・・・ってあの彼氏も、そう思うんだろうね。」
ちょっと言葉を間違えそうになって慌てた。
ただ自分の言葉に、やっと緩んだ眉間のシワがまた現れた。


「ちょっと前のことだけど、相手の買い物を待っててぼんやりしてたら、目の前に仲良くじゃれあう二人がいて。ビックリしたよ、知ってる顔のはずなのに、なかなか記憶の中の顔と結びつかなくて。」


「会社でもあんな感じてもいいのにって余計なお世話だな。ちゃんと縦横仕事も問題なくやれてるし、それこそ余分な男を引き寄せるだけかもしれないしね。」

「二人でじゃれ合ってるのも馬鹿っぽいはずだけど、そうは見えなかったよ。」

そんな相手がいることも知ってるから、構えなくても大丈夫だよと・・・・言いたかった気がした。だから最後まで一気に言った。

ちらりと見ると
照れるでもなく、相変わらずの無感動な顔だった。
眉間は少し緩んだらしい。


「それは弟です。いつも買い物に付き合ってもらって、ご褒美になにか買ってあげてます。仲良しで一緒にいると確かに彼氏彼女に間違えられます。」

しばらくしてそう言われた。

「この間は私が彼氏で弟が彼女に間違えられました。」

「身長は私のほうが高いですし、弟の髪は私より少し長いくらいで、姉の私が見ても、可愛いんです。」


弟・・・・?
確かにそう言われると、恋人のじゃれ合いにありがちな何かドロリとした濃いものはなかったかもしれない。そう、そんな二人だった。
じゃあ、カラッと爽やかな感じだったのも当然だったのか?

その後の自分の腕に纏わりついたものと比べてしまい、鬱陶しいとまで思ったのに。
初めて、ちょっとだけ反省した。

「きっとその時は恩田さんも同じくらいの笑顔をしてたんじゃないですか。本当の彼女ならそれ以上です。」

別にその時に彼女と一緒だったとは言ってないが。
さすがにそう思っただろうか?
男友達より、彼女と一緒にいたと。

それでも自分に笑顔はないと思う。
あの時、単純に羨ましかったのだ。
自然に距離を詰めて笑い合っている二人が。


急に自分が嫌になったのだ。
自分にまとわり付いていたものも丸ごと。


やっぱり碌な大人じゃないんだ、俺だって。
あのエロ親父のことは何も言えない。


「あの日、すぐに・・・・別れたんだ。」

「むしろ自分は向いてないんだと思うんだ、そういうのに。」

何の告白だ。

『好きでもない適当な女と付き合い、やっぱり鬱陶しいと思った途端捨てた。』
それだけのことなのに。
反省してるようで、ただただ誤魔化してるだけじゃないか。

「じゃあ、きっと、相手が、違ったんです。もしくは二人のバランスがちょっとだけ偏ってただけです。」

慰めてる言葉だろう、彼女自身そんな思いをしたことがあるのかもしれない。

「そうだといいけど。ずっとボッチでいろとか言われないだけいいか。」

彼女の言葉を使いわざと言い返すようにして、雰囲気を緩める。

「言いません、そんな失礼なことは。助けてもらった人です。」

その顔は怒っているようにも、いつもの無感動のままにも見える。
それが普通なんだと、あの顔を知らなきゃ思うけど。



じっとその顔を見ていたら、話を振られた。

「恩田さんは兄弟は?」

「姉が一人いるよ。」

「仲いいですか?」

「大人としての挨拶程度、買い物に付き合ったことはないよ。」

あんなじゃれ合いはもちろんない。

「小さい頃からずっと小さくて弱くて、私が守って来たんです。強くて頼りになる姉が私の役割でした。今更弟がいなくなって困るのはきっと私です。もし彼女のほうが大切だって言われたら、絶対寂しいです。」

眉間も表情もそのままでも、その定まらない視線が本音だと言ってる気がする。

「好きな人は?」

「さあ、聞いてません。いつ電話しても出てくれるし、週末も前もってお願いすればいつでも付き合ってくれます。」

好きな人・・・今、弟の好きな人はどうでもいいのに。
言い方が曖昧だったらしい。
でも、彼氏も、彼氏候補もいないみたいだ。

「俺で良かったら付き合うよ、買い物でも、何でも、いつでも。」

思わず口にしたセリフ。
何の目的で?そう思われるだろうに。

「じゃれ合いたいんですか?」

そう思われたのだろう、冗談のように返されて。

「あぁ、そうだなぁ。」

そのままの雰囲気で冗談のように返す。

「ありがとうございます。」

淡々としたやり取りに少しは意味を持たせたいけど、そっと見た顔は、やはり変わりなかった。
むしろ冗談のように言い返した分、弟離れできなくて気を遣わせましたね、とお礼を言われたんだろうか?
普通に提案してみたんだけど。
無理だったか、気がつかなかったか。

その差は大きい、知りたいけど、同じようには聞けない、言えない、今は。


「一人でも行けます。」

大分時間がたってから言われた。

やっぱりハッキリ断られたらしい。
まあ、そうだよな。
初めて話をする先輩とじゃれ合うことは考えられないだろう。
ただ、買い物に付き合って、食事をするくらいだと思うのだが。
それも考えてはもらえないんだろうか?

考えてもらいたいと思ってる自分を意識する。
グラスを手にして視線を落とした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染に10年片想いしてたら、冷酷御曹司にプロポーズされました

ほーみ
恋愛
 春の匂いが、駅前の並木道をくすぐる。満開の桜の下、私はひとり歩いていた。駅までの道は、高校時代、彼とよく歩いた道だ。  制服姿の学生が笑いながらすれ違っていくのを横目に、私はスマホを見下ろした。  「今日、伝えるって決めたんじゃなかったの?」  送信したきり返信のないメッセージ。画面には「既読」の文字があるだけだった。  ――渡瀬 湊。私が10年間片想いをしている、幼馴染。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。

翼 うみ
恋愛
父の会社を立て直す交換条件のため、ほぼ家族に身売りされた形で関東最大級の極道・桜花組の次期組長に嫁入りしたジェシカ。しかし母を亡くして以降、義母と義妹に虐げられていたジェシカは実家を出られるなら、と前向きだった。夫となる和仁には「君を愛することはない」と冷たく突き放される。それでもジェシカは傷つくことはなく、自分にできることを探して楽しんでいた。 和仁には辛い過去がありそれ故に誰のことも愛さないと決めていたが、純真で健気なジェシカに段々と惹かれてゆき――。 政略結婚から始まる溺愛シンデレラストーリー。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

処理中です...