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12 振り回された男が手放したもの。
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研修の時から話をしてて、だんだん個性が分かって来て。
一緒にいたから、その流れで飲みの席も一緒にいて。
一番先に仲良くなって、いなくなられたら困るみたいなことまで言われて。
喜ばせるような、期待させるようなこと言って。
何度か近くにいてくれるから、てっきり少しは気に入ってもらえたと思ったのに、だんだん仕事の話しかしてこなくなって、うっすら変だと思い始めたよ。
エレベーターを降りた時、絶対こっちを見てるけど、微妙に視線が合わないし。
ひどくがっかりした顔で目が合うし。
何だろうって思ってた。
まさか周りまですっかり騙されてたよ。
飯田も遠くにいた権堂も、そして砂原までも煽るように言ってきて。
そうなのかなって思わないでもないけど、やっぱり違うなって会うたびに思った。
やっと個人的にというか四人で飲みに行ったのに、全然つまらなそうにしてるし。
まさかなあ、そんな痴漢まで登場してるとは、相手が自分の先輩だとはなあ。
まあ、飯田とか権堂が目的でしたって言われるよりはいいけど。
とうとう近くにも来なくなって、一番遠い席に行って。
何もそこまで離れなくても、何かしたか?
ずっとそう思ってたよ。
こっちだって誤解しないように気を付けてたし、適度に距離をとってたのに、いきなりだよな。
砂原には変なことを聞かれて、訳わからないし。
・・・・疲れた。
だから先輩に誘われた時に一緒に誘ってみた。
結果は明らかだった。砂原もビックリして聞いてくるくらいに。
あっさり彼女がいることまで暴露させられてたから、ドキドキしたけど、それでも楽しそうだし、落ち込みからはすぐ復活してたし。
やっぱりわからないままだよ。
その後もさっぱりだ。
先輩の思い出話を永遠に聞かされるのかと思いきや、何の愚痴だか分からない愚痴を聞かされて。
だってそうだろうよ、また誤解させるのか?
あそこで責任とれって言ったよな。
何かあったら責任とれって。
そんな無理強いすると思ったのか?
そんな男だと。
失恋したばかりの同僚を頼まれもしないのに抱くとか?
ないな。
「もう寝ろよ。お休み。」
「明日は自由で。」
ずっと顔に白い塊を当てたまま、寝てないよな?
恥ずかしいぞ・・・・。
時々手が動いてるから聞いてただろう。
疲れたから、正直もう寝たい。
考えたくない。
今が何かのチャンスなのかどうなのか、そんな事を考えるほど楽観的じゃない。
もう何度もそう思って、裏切られた。
理解しようとしてまともに相手にすると、ただ振り回された。疲れる。
ひとり寝室に引き上げた。
それでも扉を閉める瞬間リビングの様子をうかがう様に耳を澄ました。
毛布をかぶったらしいが泣き声が聞こえる。
あの女優のように流した綺麗な涙には、本当にみんなが騙された。
今はグチャグチャな顔をしてた。
大丈夫だろうか?
明日の顔が心配だ。
起きたらいなくなってるだろう。
出て行きやすいようにそう言った。『明日は自由で。』と。
最後まで閉められない扉のまま、そこに立ち尽くす。
先に『普通の話し相手』をやめたのは俺じゃないのに。
一人で勝手に恨み言を言う。
一体どんな奴なんだ?
本当に落ち着かない奴だ。それは確実、分かってる。
盛大に鼻をかむ音もした。
ゴミ箱も置いてあげればよかったかもしれない。
かなりの量ゴミが出てるはずだが、どうしてただろう?
まさかパジャマのポケットが膨らんでるとか?
ソファの下に転がってるとか?
開いたままのドアをもう一度空けてリビングに行った。
起き上がってゴミを持ってキョロキョロしている。
ポケットは空の様だ。
つい見てしまったら、うっすら胸のふくらみが分かる気がして視線を逸らす。
ゴミ箱を持ってソファの近くに行った。
「ありがとう。」
本当に大量のゴミが手の中に丸まっていた。
ゴミ箱を置いて、隣に座った。
「ごめんなさい。」
「何が?」
「いろいろ。」
「だから、何が?」
「先輩の情報を教えてもらおうとしたこと。だって権堂君には近寄れなかったから。営業だって分かって、すぐに顔が浮かんだから。」
「で、ラッキーとか思ったんだ。一番聞きやすい奴の先輩でラッキーとかって。」
「うううう・・・・ん、そう思った。」
「他には?何か謝るべき『いろいろ』があるんだろう?」
「ずっと私が近くにいて甘えてたから、彼女たちは近くに来れなかったんだと思う。夏越君が話しかけるチャンスも作ってあげれないほど、私がずっと近くにいたから。だから、邪魔してごめんなさい。」
「それはどうでもいい。勘違いだろう、知らない。」
「他には?」
「おじさんとぶつからないようにしてくれたのに、お礼も言えなくて。」
「他には?」
「思い出せないけど、迷惑をかけたみたいだから、ごめんなさい。」
「肝心の事は何も言わないんだな。」
「・・・・・。」
「別にいいけど。」
今度こそ寝室に行った。
ドアも閉めて、こっちも毛布をかぶって暗がりで強く目を閉じて寝た。
眠ってたと思う。
少しだけだったかもしれないけど、意識は手放した。
カチャっという音に気がついて、足音もして。
あいつがいたんだと、思い出さなきゃ泥棒かと思う。
毛布を剥いで、起き上がる。
「何してるの?」
「責任はとらなくていい。そんな人だなんて思ってない。浅田さんの事はお礼をきちんと言えるチャンスを作ってくれてありがとうって、感謝の気持ちしかない。」
「だから、朝まで隣にいていい?」
「だから、何で?」
「ただ、そばにいたいから。」
「また中途半端なことをするの?」
「だって、じゃあ、抱いてって言ったら抱いてくれるの?責任とって彼女にしてくれるの?」
「嫌だ。どっちも嫌だ。」
「だから、責任なんかじゃなくて、ただ近くにいてもらいたい。最後だから。後は、明日は自由にって言ったじゃない、私はもう近くにはいないって決めたから。最後に、朝までだけ、お願い。ちゃんと目が覚めたら帰るから。」
「それで、先輩に大人彼氏を紹介してもらうんだ。さっきも嬉しそうに言ってたよな。どの口で近くにいたいとか言うわけ?」
「来れば? 責任は持たないし、とらない。それで良ければ、ご自由に。狭いけど。」
そう言ったら出て行った。
腹が立つ。
こっちが泣き事を言いたい。
てっきりソファで大人しく寝るかと思ったら、まさかだ、毛布を抱えて戻ってきた。
は?来たの?
壁に背中がつくくらい端に寄ったのに、ベットの端に腕と顔を乗せて、ベッド脇に座り込んだ。
毛布をマントのように背中に広げて目を閉じてないか?
「何してるの?」
「側にいる。」
「明日、足と腕がしびれて立てないよ。首も痛いよ」
それでも動かない。
「こんなに端に寝てる俺が変な期待してたみたいじゃないか?」
それでも動かない。
「何てめんどうな奴なんだよ。」
抱きかかえるようにして、ベッドに引き上げた。
結構重い。
そのまま腕をゆるめて二人で狭いスペースを使った。
寝れるなら寝てみろ。
そう思ったのに。
まさか本当に寝るとは、自分も彼女も、お互い消耗したんだろう。
変な一日だった、というか夜だった。
気がついたのはまだ夜中と言っていい時間。
人の毛布を引っ張ったらしい。
涙の浸み込んだ毛布は蹴飛ばして、一つの毛布の中にかろうじて入ってた。
どうしろというんだ。
イライラしてきた。
何で自分だけ試されてるんだ、しかも何度も。
それでも、距離を詰めて腕の中に抱えるようにしてもう一回眠った。
朝、目が覚めたらいないかもしれない。
そのことに怯えてる自分と期待してる自分の顔が交互に浮かぶ。
これからこの厄介な荷物を持つ覚悟なんてない。
さっさと手放した方が楽なのは明らかだ。
でも、そうできるならとっくにしてるかもしれない。
何で連れてきたんだろう?
浅田先輩に言われた。
『久松さんだろう。』
そう言われて何がと言うより先に顔が赤くなった気がした。
『紹介するなんて律儀だなあ。』
彼女だと思ったのかもしれない。
そこは否定したのに。
でも気持ちはバレていただろう。
「なんか誤解してるみたいだけど。お前に好きな人がいるって勘違いしてるっぽい。自分は嫌われてるとか、少なくともタイプじゃないって思ってるし。」
それは砂原にも、飯田にも言われた。
お前たちの言うことは信じられない、そう言いたいのに。
何で俺が責められるんだ。
あの日、『落ち着いた子』がタイプだと言ったとたん飯田に足を蹴られた。
まあ、あれは分かりやすく、自分が圏外だと分かっただろうから。
確かにそれは気にしてるみたいだ。
自覚はあるらしい。
別に泣かせたいわけじゃない。
こいつだってハッキリしないんだ。
そこさえはっきりすれば、少しは認めるのに。
何度も聞いたのに。
抱き寄せる腕に力が入ったらしい。
彼女がうめくような声を出した。
少し力を抜いた。
小さい。
自分のパジャマはかなりぶかぶかだった。
頭を撫でるようにして、キスをする。
頭にならバレないだろう。
体を寄せたら、ズボンの捲れた膝下に彼女の足の先が触れた。
そっと足を挟み込んだ。
起きたらびっくりするだろう。
そのまま帰らないでいてくれる可能性はどのくらいだろうか?
撫でるようにしてキスを繰り返して。名前を呼んで。
胸にその小さな頭を抱えて眠った。
次に目が覚めた時、ベッドの端に寝ていたはずなのに、堂々と真ん中で寝ていた。
そして、一人だった。
いつの間に目を覚ましたんだろうか?
全く気がつかなかった。
時計を見て起き上がる。
部屋の外に耳を澄ますがなんの音もしない。
ゆっくり立ち上がり、寝室のドアを開けた。
玄関に向かう。
靴がなかった。
『明日は自由に。』
そう言ったから帰ったのだろう。
リビングに行くとテーブルの上に紙が置いてあった。
謝罪とお礼の言葉が短く、それだけだった。
ソファの上には畳まれた毛布が置かれていた。
ソファに座りながら、その毛布を抱きしめた。
『今後近くにはいないと決めたから、朝までそばにいたい。』
何度も思った、何で?と。
そばにいたい理由じゃない。
なんで今後は近くにいないようにすると決めてるんだ?
全てが何でと思う行動ばかりで。
それに振り回された。
ただ、それも終わりらしい。
しばらくぼんやりとしていた。
カーテンも開けず、暗い部屋で。
すっかり外は明るくなっている。
特に何も予定はないから。
まだ立ち上がって今日を始めるには心が何かを引きずってる。
重たくて、軽くて、面倒で、でも本当は手放したくない・・・・・何か。
一緒にいたから、その流れで飲みの席も一緒にいて。
一番先に仲良くなって、いなくなられたら困るみたいなことまで言われて。
喜ばせるような、期待させるようなこと言って。
何度か近くにいてくれるから、てっきり少しは気に入ってもらえたと思ったのに、だんだん仕事の話しかしてこなくなって、うっすら変だと思い始めたよ。
エレベーターを降りた時、絶対こっちを見てるけど、微妙に視線が合わないし。
ひどくがっかりした顔で目が合うし。
何だろうって思ってた。
まさか周りまですっかり騙されてたよ。
飯田も遠くにいた権堂も、そして砂原までも煽るように言ってきて。
そうなのかなって思わないでもないけど、やっぱり違うなって会うたびに思った。
やっと個人的にというか四人で飲みに行ったのに、全然つまらなそうにしてるし。
まさかなあ、そんな痴漢まで登場してるとは、相手が自分の先輩だとはなあ。
まあ、飯田とか権堂が目的でしたって言われるよりはいいけど。
とうとう近くにも来なくなって、一番遠い席に行って。
何もそこまで離れなくても、何かしたか?
ずっとそう思ってたよ。
こっちだって誤解しないように気を付けてたし、適度に距離をとってたのに、いきなりだよな。
砂原には変なことを聞かれて、訳わからないし。
・・・・疲れた。
だから先輩に誘われた時に一緒に誘ってみた。
結果は明らかだった。砂原もビックリして聞いてくるくらいに。
あっさり彼女がいることまで暴露させられてたから、ドキドキしたけど、それでも楽しそうだし、落ち込みからはすぐ復活してたし。
やっぱりわからないままだよ。
その後もさっぱりだ。
先輩の思い出話を永遠に聞かされるのかと思いきや、何の愚痴だか分からない愚痴を聞かされて。
だってそうだろうよ、また誤解させるのか?
あそこで責任とれって言ったよな。
何かあったら責任とれって。
そんな無理強いすると思ったのか?
そんな男だと。
失恋したばかりの同僚を頼まれもしないのに抱くとか?
ないな。
「もう寝ろよ。お休み。」
「明日は自由で。」
ずっと顔に白い塊を当てたまま、寝てないよな?
恥ずかしいぞ・・・・。
時々手が動いてるから聞いてただろう。
疲れたから、正直もう寝たい。
考えたくない。
今が何かのチャンスなのかどうなのか、そんな事を考えるほど楽観的じゃない。
もう何度もそう思って、裏切られた。
理解しようとしてまともに相手にすると、ただ振り回された。疲れる。
ひとり寝室に引き上げた。
それでも扉を閉める瞬間リビングの様子をうかがう様に耳を澄ました。
毛布をかぶったらしいが泣き声が聞こえる。
あの女優のように流した綺麗な涙には、本当にみんなが騙された。
今はグチャグチャな顔をしてた。
大丈夫だろうか?
明日の顔が心配だ。
起きたらいなくなってるだろう。
出て行きやすいようにそう言った。『明日は自由で。』と。
最後まで閉められない扉のまま、そこに立ち尽くす。
先に『普通の話し相手』をやめたのは俺じゃないのに。
一人で勝手に恨み言を言う。
一体どんな奴なんだ?
本当に落ち着かない奴だ。それは確実、分かってる。
盛大に鼻をかむ音もした。
ゴミ箱も置いてあげればよかったかもしれない。
かなりの量ゴミが出てるはずだが、どうしてただろう?
まさかパジャマのポケットが膨らんでるとか?
ソファの下に転がってるとか?
開いたままのドアをもう一度空けてリビングに行った。
起き上がってゴミを持ってキョロキョロしている。
ポケットは空の様だ。
つい見てしまったら、うっすら胸のふくらみが分かる気がして視線を逸らす。
ゴミ箱を持ってソファの近くに行った。
「ありがとう。」
本当に大量のゴミが手の中に丸まっていた。
ゴミ箱を置いて、隣に座った。
「ごめんなさい。」
「何が?」
「いろいろ。」
「だから、何が?」
「先輩の情報を教えてもらおうとしたこと。だって権堂君には近寄れなかったから。営業だって分かって、すぐに顔が浮かんだから。」
「で、ラッキーとか思ったんだ。一番聞きやすい奴の先輩でラッキーとかって。」
「うううう・・・・ん、そう思った。」
「他には?何か謝るべき『いろいろ』があるんだろう?」
「ずっと私が近くにいて甘えてたから、彼女たちは近くに来れなかったんだと思う。夏越君が話しかけるチャンスも作ってあげれないほど、私がずっと近くにいたから。だから、邪魔してごめんなさい。」
「それはどうでもいい。勘違いだろう、知らない。」
「他には?」
「おじさんとぶつからないようにしてくれたのに、お礼も言えなくて。」
「他には?」
「思い出せないけど、迷惑をかけたみたいだから、ごめんなさい。」
「肝心の事は何も言わないんだな。」
「・・・・・。」
「別にいいけど。」
今度こそ寝室に行った。
ドアも閉めて、こっちも毛布をかぶって暗がりで強く目を閉じて寝た。
眠ってたと思う。
少しだけだったかもしれないけど、意識は手放した。
カチャっという音に気がついて、足音もして。
あいつがいたんだと、思い出さなきゃ泥棒かと思う。
毛布を剥いで、起き上がる。
「何してるの?」
「責任はとらなくていい。そんな人だなんて思ってない。浅田さんの事はお礼をきちんと言えるチャンスを作ってくれてありがとうって、感謝の気持ちしかない。」
「だから、朝まで隣にいていい?」
「だから、何で?」
「ただ、そばにいたいから。」
「また中途半端なことをするの?」
「だって、じゃあ、抱いてって言ったら抱いてくれるの?責任とって彼女にしてくれるの?」
「嫌だ。どっちも嫌だ。」
「だから、責任なんかじゃなくて、ただ近くにいてもらいたい。最後だから。後は、明日は自由にって言ったじゃない、私はもう近くにはいないって決めたから。最後に、朝までだけ、お願い。ちゃんと目が覚めたら帰るから。」
「それで、先輩に大人彼氏を紹介してもらうんだ。さっきも嬉しそうに言ってたよな。どの口で近くにいたいとか言うわけ?」
「来れば? 責任は持たないし、とらない。それで良ければ、ご自由に。狭いけど。」
そう言ったら出て行った。
腹が立つ。
こっちが泣き事を言いたい。
てっきりソファで大人しく寝るかと思ったら、まさかだ、毛布を抱えて戻ってきた。
は?来たの?
壁に背中がつくくらい端に寄ったのに、ベットの端に腕と顔を乗せて、ベッド脇に座り込んだ。
毛布をマントのように背中に広げて目を閉じてないか?
「何してるの?」
「側にいる。」
「明日、足と腕がしびれて立てないよ。首も痛いよ」
それでも動かない。
「こんなに端に寝てる俺が変な期待してたみたいじゃないか?」
それでも動かない。
「何てめんどうな奴なんだよ。」
抱きかかえるようにして、ベッドに引き上げた。
結構重い。
そのまま腕をゆるめて二人で狭いスペースを使った。
寝れるなら寝てみろ。
そう思ったのに。
まさか本当に寝るとは、自分も彼女も、お互い消耗したんだろう。
変な一日だった、というか夜だった。
気がついたのはまだ夜中と言っていい時間。
人の毛布を引っ張ったらしい。
涙の浸み込んだ毛布は蹴飛ばして、一つの毛布の中にかろうじて入ってた。
どうしろというんだ。
イライラしてきた。
何で自分だけ試されてるんだ、しかも何度も。
それでも、距離を詰めて腕の中に抱えるようにしてもう一回眠った。
朝、目が覚めたらいないかもしれない。
そのことに怯えてる自分と期待してる自分の顔が交互に浮かぶ。
これからこの厄介な荷物を持つ覚悟なんてない。
さっさと手放した方が楽なのは明らかだ。
でも、そうできるならとっくにしてるかもしれない。
何で連れてきたんだろう?
浅田先輩に言われた。
『久松さんだろう。』
そう言われて何がと言うより先に顔が赤くなった気がした。
『紹介するなんて律儀だなあ。』
彼女だと思ったのかもしれない。
そこは否定したのに。
でも気持ちはバレていただろう。
「なんか誤解してるみたいだけど。お前に好きな人がいるって勘違いしてるっぽい。自分は嫌われてるとか、少なくともタイプじゃないって思ってるし。」
それは砂原にも、飯田にも言われた。
お前たちの言うことは信じられない、そう言いたいのに。
何で俺が責められるんだ。
あの日、『落ち着いた子』がタイプだと言ったとたん飯田に足を蹴られた。
まあ、あれは分かりやすく、自分が圏外だと分かっただろうから。
確かにそれは気にしてるみたいだ。
自覚はあるらしい。
別に泣かせたいわけじゃない。
こいつだってハッキリしないんだ。
そこさえはっきりすれば、少しは認めるのに。
何度も聞いたのに。
抱き寄せる腕に力が入ったらしい。
彼女がうめくような声を出した。
少し力を抜いた。
小さい。
自分のパジャマはかなりぶかぶかだった。
頭を撫でるようにして、キスをする。
頭にならバレないだろう。
体を寄せたら、ズボンの捲れた膝下に彼女の足の先が触れた。
そっと足を挟み込んだ。
起きたらびっくりするだろう。
そのまま帰らないでいてくれる可能性はどのくらいだろうか?
撫でるようにしてキスを繰り返して。名前を呼んで。
胸にその小さな頭を抱えて眠った。
次に目が覚めた時、ベッドの端に寝ていたはずなのに、堂々と真ん中で寝ていた。
そして、一人だった。
いつの間に目を覚ましたんだろうか?
全く気がつかなかった。
時計を見て起き上がる。
部屋の外に耳を澄ますがなんの音もしない。
ゆっくり立ち上がり、寝室のドアを開けた。
玄関に向かう。
靴がなかった。
『明日は自由に。』
そう言ったから帰ったのだろう。
リビングに行くとテーブルの上に紙が置いてあった。
謝罪とお礼の言葉が短く、それだけだった。
ソファの上には畳まれた毛布が置かれていた。
ソファに座りながら、その毛布を抱きしめた。
『今後近くにはいないと決めたから、朝までそばにいたい。』
何度も思った、何で?と。
そばにいたい理由じゃない。
なんで今後は近くにいないようにすると決めてるんだ?
全てが何でと思う行動ばかりで。
それに振り回された。
ただ、それも終わりらしい。
しばらくぼんやりとしていた。
カーテンも開けず、暗い部屋で。
すっかり外は明るくなっている。
特に何も予定はないから。
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