握りしめた細い糸の先で見つけたのは。

羽月☆

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13 文字で残した謝罪と感謝。

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目が覚めた時にビックリした。

体が暖かい、重い。
それでも心地よさにうっすらと意識が浮上してきて、名前を呼ばれた。

何度も小さい声で。
『はるか』と呼ばれた。
一瞬誰?って思ったけど、ちゃんと覚えてる。

いろんなグチャグチャな状態でここに来て、こんな近くにいた。


ただ思ったより更に近くにいたのはびっくりだった。
自分の手は自分の体の近くにある。
抱きついたわけじゃない。
背中に置かれた手には力が入ってる。

そのままじっとして寝たふりをしていた。

背中の手の力が緩んだ、しばらくして寝息が聞こえてきて。
静かに、ゆっくりと離れた。


起こさないようにした。でも寝室を出る最後に振り返って見た。
寝ていた。

だからそのまま寝室を後にした。


顔を軽く洗って、ハンカチで拭いて、着替えをして。
借りたパジャマを畳んでおいて、ベッド下に落ちていた毛布もソファにおいた。

メモ用紙を取り出して、手紙を書く。

『いろいろ、ごめんなさい。たくさん、ありがとうございました。』

荷物を持って部屋を出た。

朝帰り、お互いに一人暮らしで、今日はお休みで。
それなのにこんな時間に朝帰り。

別に普通に出勤みたいに見えるかも。


マンションの前で立ち止まる。

化粧品も歯ブラシもそのままだった。
お金も払ってない。
鍵もかけてこなかった。

歩き出そうとしない自分に言い訳をするように、あの部屋での忘れ物を探す。

後ろからサラリーマンが出て行った。
休日に働く人はまっすぐに前を見て歩く。


その後ろ姿を見ながらぼんやりして、我に返ってグズグズして。
しばらくそこにいたけど、ゆっくり引き返した。


鍵をかけなかったドアはあっさり開いた。
静かに閉じて、勝手に上がった。

バッグを置いて、寝室の前に立つ。
物音がしない、いびきもかいてなかったし。

昨日は勝手に入った。

『何してるの?』って言われても、自分勝手な私に怒ってる夏越君でも、近くにいたくて。自分に与えられた毛布まで持ち込んで。
寝ているその横に勝手に座り込んだ自分。
夜のあの時間だからできたのかもしれない。

朝はあっさりと抜け出すことが出来たのに、また入るのにこんなに勇気がいるなんて思わなかった。
あのままずっと目を閉じて寝てれば良かったのに。
あんなに心地いい場所をこっそりと抜け出してしまって。

ドアに手を突いて俯く。

何をしてるんだろう、自分。

「何してるの?」

びっくりした。
また声に出したのかと思うようなタイミングで声をかけられた。
声はドアの向こうじゃなくて、暗いリビングから聞こえた。
そこに名越君が毛布を持って立っていた。

何をしてるのかと聞かれても、自分でも分からない。

「いいよ、帰ってきてくれたんだったら。」

手をひかれてソファに座る。

名越君はパジャマのまま。
電気もつけずに何してたのか分からない。

自分の部屋だからぼんやりすることもあるだろう。
動き出すまでそうやって時間を使う人もいるだろう。
私の置いたメモもテーブルにそのままある気がする。
読んでくれたんだろう。


「ごめんなさい。」

「よく謝るね。そんなに毎回怒ってるつもりはないし、そんなに悪いことしてるって思ってるの?」

「迷惑ばかりかけてる。そう思ってる。」

「昨日も聞いたけど、他にもあるの?昨日の夜からこっち、新しい反省点があった?」

「ベッド、狭かったよね。食事と化粧品の分のお金も払ってないし、
鍵もかけないで出て行った。紙切れだけのお礼で出て行って失礼だった。」

「全部、許す。・・・・・じゃあ、ありがとうは?」

「ありがとう。」

「違うよ、『たくさんのありがとう』は何?」

「わがままを聞いてくれてありがとう。一緒にいてくれて、抱きしめて、名前を呼んでくれて・・・・ありがとう。」

「起きてたの?」

「目が覚めた。」

「それで?」

「・・・・起きた。」




「時々・・・・本当に憎らしくなる。散々振り回してそれなのか、またなのかって。外側を全部剥ぎ取って本当に何を考えてるのか明るいところで覗き込んでみたくなる。俺をどうしたいんだって・・・・。」



「ここまで同じことを何度も繰り返されて、さすがに学習した。」


そう言って顔を寄せられた。



短く繰り返されるキスに音がついて来る。
とっくに目は閉じていた。

ゆっくり抱き寄せられても目は閉じたまま。


朝に感じた温もりの中に戻ったみたい。
自分の手も伸ばして抱きつく。
更に腕に力を込められた。




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