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16 自分の成長を自覚するドラゴン。
しおりを挟む「なんだか逞しい顔になったぞ。」
実験室にこもって、区切りがついたときに椅子にもたれて休んでたら、高田さんに言われた。
目を開けて下から見上げるような形になって、急いでもたれた体を戻した。
「高田さん、びっくりしました。」
「少し休めば。残業無しで頑張っても、どうせ向こうの方が遅いだろう?」
確かにそうです。
自分は予定が立つのに皐月さんの方は本当にギリギリまで分からないから。
そしてその場合はたいてい他の人のせいで。
ブツブツと愚痴を言いながら、謝られるパターンが多い。
「あいつも少し部屋がきれいになったらしいし、お前もすくすくいい男に育ってるみたいだし。うまくいってるんだろう。」
真面目に聞かれると照れる。
前みたいに揶揄われて、異常に接近されることはなくなった。
なんであんなに最初の頃、迫られたんだろう・・・。
今となっては謎だ。過剰に揶揄われたのだろうか。
自分でも少し顔つきがしっかりしてきたと思いたい。
皐月さんにもそう言われることがある。
それでも残念そうに言われる。
「時々前の可愛いリュウがいないって思っちゃう。」
前みたいに肩に甘えることも少なくなってきたから。
でもその後に褒められる。
「すごく大人っぽい顔つきになった。目も違う。」
照れながらそう言ってくれるから誉めてくれるんだと分かる。
「まあ聞くまでもないか。」
高田さんの声がした。
つい、回想シーンにふけっていた。やばい。
「はい、楽しく過ごしてます。」
「まあ、頑張れ。」
「はい。」
呆れた顔で見つめられて、手を振って出て行った。
全力で頑張ってます。
部屋もきれいになったらしい。
行きたいと言っても絶対招待してくれない。
元カレたちが泊った部屋。
そんなところには行きたくはないから無理にはいいんだけど。
それに皐月さんが気にしてたガサツポイントも、今のところ分からない。
こまめに動くのを偉いと褒められて、床や水回りはもちろん、クローゼットや棚もきれいだと褒められて。さりげなく観察していて、褒められることがある。
物が少ないんだと思う。
女性に比べるとそれは圧倒的に。
熱く語れる趣味もない自分は特に。
だから気にしなくてもいいのに。
僕は気にしてないのに。
話をしてたように、先週の忙しさから一転、今週は頑張れば残業は少しだけだと。
30分くらいだと言われたら、大人しく待ちたい。
元々器用に自炊をする方じゃない。
一緒に分け合って食べれるなら、それでいい。
駅周辺で・・・・というわけにはいかないので最初にデートした分岐の駅周辺を開拓する。
毎日違うお店に行く。
学生が多いらしくチェーン店以外にもコスパのいい店ばかりで助かる。
一緒に選んだお店に行き、混んでたら違う店にという感じで。
「はぁ~、ねえ、毎回外食って、太りそう。」
「あぁ、すみません。」
「別に、そう言う意味じゃないよ。」
そう言って笑う笑顔は随分とリラックスしてる。
高田さんに見せる顔とも違う気がするし。
時々目線にドキッとしていろいろ思い出しそうになるから大変だけど、たいていはそんな緩んだ感じだった。
「皐月さん、自炊は?」
「・・・家事全般苦手なの。本当に情けないけど。」
「僕もあんまりしないです。もしよかったら僕の部屋で簡単に作ったら経済的でもあるし、野菜もたくさん食べれますけど。」
「味の保証が出来ない。」
「チンするものに野菜を足したり、ちょっとお惣菜を買ってきたりとか・・・・・。」
そう提案したのに返事はもらえず。
「なんだか生きてくのって大変だよね。衣食住すべてがエンドレスに繰り返されるね。食べてかたずけて、着て洗って、掃除して汚れて、また掃除して。少しでもサボるとどんどん落ちて行きそう。」
「でも美味しいものは食べたいし、おしゃれもしたいし、汚いよりきれいがいいし。きっと楽しい事です。」
「全くそうは思えないんだけど。美味しい物も勝手に出てくると嬉しいし、おしゃれもしたいけど、きれいな部屋がいいけど。簡単じゃない。なんだかダメだよね、そんな女。」
「今、誰かを思い出してるんですか?そんな皐月さんが嫌だと言って去っていた人を。」
「え?別に思い出してない。」首を振る皐月さん。
「最初はしょうがないなあって思ってくれても、最後は本当に嫌になるみたい。」
悲しそうに笑う。
まるで僕もそうなるよって言うみたいに。だから覚悟はしてるっていう風に。
「・・・・・やっぱり思い出してるじゃないですか。」
あえてそう言って話をずらした。
「残念ながら顔は思い出せないかも。ぼんやり存在だけ。」
そう言えば安心するって思ってるのだろうか?
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