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7 かこちゃんがいよいよ形になる。
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2日休んで体力は戻った。お店の開店準備の前に2人にお詫びとお礼を言う。
「すみませんでした。2日も休んでしまいましてご迷惑かけました。」
「もう体調は大丈夫?」
「はい、大丈夫です。お見舞いまで頂いて助かりました。」
「お見舞いのバイト君は役に立った?」
「はい、いろいろと差し入れしていただきました。むしろお金を使わせてしまった気がします。」
「あら、そうなの?本人がやりたかったんだからいいんじゃない?」
今日子さんがさらりと言う。
今日子さんに佐野さんの気を遣わせてまで私を労わるのは止めて欲しいと、言おうと思ったのに、言えない。
「あ、真奈姉ちゃん、元気になったの?」さやかちゃんが駆け寄ってくる。
「うん、元気になったよ。さやかちゃんは元気そうだね。」
「うん、あのね、さやかもお手伝いしたの。お姉ちゃんがお休みの間にパンを並べたりお砂糖運んだり掃除したりしたんだよ。偉いでしょう?」
「そうなの?ありがとう。楽しかった?」
「うん、楽しかった。もっともっと大きくなったら手伝いできるようになるねって言われた。」
「そうだね。」
「さやか、行きなさい。バスに置いてかれるわよ。」
「は~い、行ってきます。」
さやかちゃんを見送り掃除を始める。
「さやかちゃんにも迷惑かけました。すみません。」
「大丈夫よ。喜んで手伝ってたし、カフェで遊ばせてたからおばあちゃんのところにいるより良かったかも。たまにはいいわよ。」
「でもお客さんが真奈ちゃんがいないってガッカリして帰るのよ、という訳で今日から頑張ってね。でも一番がっかりしてたのは佐野君だったかも。バイト頼まなくても喜んでお見舞いに行ったわよ。でも監視しないと勝手に部屋に上がり込んじゃうと佐野君でも男だからね。」
「・・・・そんなこと。」作り笑顔で答える。
佐野さんが急に帰った後、言われたことを何とか思い出してみた。
佐野さんが言った月曜日の昼の事、誰かに聞いたと。
何を?私が男の人と食事をしていた事を知ってるかのような言い方で。
そのあと会った時に元気がないと心配して送ってくれた。
あんな私の不自然な態度と結び付けてどう思っただろう。
それなのに怒りと嫉妬を覚えると。嫉妬・・・・。見せてくれるやさしさは区別していると、気がつかないのかと。気長に気がついてくれるまで待つと。ここに私に会いに来ると。それは特別な意味なのか、それとも佐野さんお得意の励ましの優しさなのか、まだ分からない。
今日子さんも思わせぶりに言ってくるけど。
言葉は難しい。音がした途端に形が崩れて、好きなようにとらえたくなるのに、2度と繰り返されないと分かると今度はとても頼りなく消えてしまう。何度も何度も繰り返し言われてやっと心に落ち着く。
そんなに一度では信じられないのかと思ってる反面、一度でも私を打ちのめすこともある。文字で伝わるなら・・・でも文字は文字で、同じことをメールで書かれてもリズムも温度もないものは頼りなくて。
狭い世界の中で生きてるのにこんなに周りの反応に臆病になる。
そんなこと思ってもなかった。
世界は小さな家の中で始まり、少しずつ広くなり・・・・ずっと、どこまでも広がっていくと思ったのに急に去年から小さくなった。
狭く小さな世界の中で息をするのもやっとで、とてもまだ一人で広い場所には出て行けない。
小さな自分自身を見失いそうな今は、特に。
「真奈ちゃん、大丈夫?まだあんまり無理しないで。お客さんがいないときは仕事してるふりでカフェスペースに座って休んでて。2日やって思ったけど1日立ってるのも疲れるのね。誰もいないときは休んでね。心苦しいだろうから座ってできる仕事を頼むからね。」
「はい、後はやります。大丈夫です。ちょっとぼうっとしてしまいました。」
棚やカフェテーブルを拭いてコーヒーメーカーを準備する。
袋やお釣り、テープやひも、自分のやりやすいように位置を調整する。
常連さんが早速顔を出す。
「おはようございます。いらっしゃいませ。」
「おはよう真奈ちゃん。風邪ひいて休んでたんだって?笑顔が見れなくて寂しかったよ。」
「あら、私の笑顔も捨てたもんじゃないはずですよ。」
今日子さんがパンを運んでくる。
焼きたてのいい香りが店内に漂う。
パンが並ぶまでカフェの椅子で大人しく待ってくれる常連の人たち。
朝ごはんにする人、レストランで使ってくれる人、だいたい同じものを買って行く人が多い。
私は顔ぶれを見ながら覚えているオーダーのものを袋に詰めていく。
「そういえばこの間駅向こうのレストランでデートしてたでしょう。なかなかのハンサム君と。」
自分の手が止まった。
「いいねえ、若いというのは。僕も若かったらデートに誘うのになあ。」
数人いるお得意さんの中に落とされた暴露話。しかも今日子さんもいる。
「ランチって言うのが清清しいね。」
「たまたま会ったのでお昼をご馳走になったんですよ。デートじゃないですよ。」
笑顔で否定できたと思う。
「え~、そうなの?じゃあ俺たちにもチャンスがあるなあ!」
「オジサンたちには全くないです。大切な真奈ちゃんを誘いたいなら私の審査を受けてからにしてくださいね。もちろん年齢制限もありますよ。」
今日子さんが言う。
「今日子さんは佐野ちゃん贔屓でなあ。佐野ちゃんだって真奈ちゃんとご飯食べてたよ。」
「あ、あれは今日子さんに頼まれたんですよ、佐野さんが。」
「そうそう、私が頼んだの。」
「おじさんだって楽しい夢が見たいのに。」
「あと30年もしないうちに夢の中に行けます。それまでは現実を生きてください。」
「おおお、今日子さん、厳しい。」
そんなやり取りがなされて私の話は消え失せた。
そう思ってたのに。
しばらく波が落ちついてぽっかり空いた時間。
「休憩しましょう。」
紅茶を入れてカフェスペースに移動してきた今日子さん。珍しく務さんも一緒だ。
椅子を動かして3人座る。
「ねえ、そろそろ次のシーズンの新作を考えてるんだけど、今度から真奈ちゃんにもアイデア出してもらおうかと思って。どう?絵が得意みたいだし楽しんで考えてみない?」
さやかちゃんと遊んでいて絵を描いてあげたことがある。
さらさらと描いた絵だけど自分でも大好きなことだから。
でも色を塗って可愛くなる絵とパンは違いそう。
作り方もあんまり知らない自分が出したアイデアが現実的なのかどうかは謎。
それでも役に立つなら考えてみたい。
「これ今までの季節ものと定番の写真なの。」
基本は形で責めるか、旬の材料で責めるか、素材の組み合わせで責めるか。
今からだと梅雨シーズンの売上アップ案と夏の暑さでも食べたくなるようなもの案を募集中。
「やっぱり梅雨だとカエルの形は作るんですね。」
「そうね、単純な形だし毎年作るわよ。」
「カエルも何か目新しいものがあれば試してみるけど。」
「目新しいとは違います。ただ最近カエルのお話を書いてて思い入れがあったのでパンになっても楽しいなあと。」
「なに、絵本作ってたの?見たい見たい。それで新しいヒントがあるかもしれないし。可愛かったら棚に貼ったり広告に使いたいし。どう?」
「あの、そんな絵本とかいうレベルじゃ全然ないです。さやかちゃんに書いてあげたレベルの絵にお話とセリフを付けたくらいのもので。そんな・・・・。」
「いい、見たい。本当にかわいい絵を描くじゃない。良かったら持ってきてね。あと、これ置いとくから時間のある時ここでいろいろ考えて、実際に絵を描いてもらえるとイメージわくから。」
「よろしくね。今まで使った材料と夏の旬のものを書き出してるから参考までに。」
「はい、頑張ってみます。」
「無理なら無理ってはっきり言うから、たくさん案は出してね。」
2人が裏に消えて私はアルバムをめくる。
私の知らない二人の歴史。
コメントで評判とか改善点とか、いろいろな書き込みがあった。
さやかちゃんの絵を起こしたものもあった。
自分が考えたものが形になると楽しそう。一生懸命売り込むのに。
カフェスペースももっと活用してもらいたい。
まずは一通りアルバムを見て、食材を見て。いろいろと考える。子供向けのパンは定番がある。大人向けのものはどうだろう?少しお酒を使ったりして。ワインとかは?
それからもいろいろと考えたりして午前中を終わった。
今日子さんと交代してランチへ。
携帯でいろんなパン屋さんの写真を見る。
夏なら冷やして食べるパンもありよね。冷やしあんパンとかクリームパンとかはやったし。
ランチが終わって今日子さんと交代。
「ねえ、真奈ちゃん、月曜日ランチに行ったのは彼氏?」
いきなり、忘れたころに直撃砲。
「いいえ、あの、よくここに買いに来て話をするサラリーマンの人です。ランチに誘われて。軽い気持ちで返事してしまって、ご一緒しただけで。もう行くこともないです。」
「そうなの?話の中で他のデートに誘われたりは?」
「いえ、連絡も一度もとってません。話もそんなに弾まなくて。」
「そう、ごめんね。嫌なことを聞いたのなら謝るわ。」
「いいえ、特には。」
「ただちょっと気まずくて。せっかくのお得意様なのにまた来てくれるかどうか。」
「もともと真奈ちゃん目当てだからしょうがないわ。気にしないで。ただちょっと噂は広まりやすいからねえ、商店街のおじさんたちは知ってると思ってもいいかも。」
「はい。佐野さんも知ってましたから。」
「へ?佐野君、何か言ったの?」
「・・・・いいえ、ただその日ランチから帰る途中偶然会って話をしたんですが、元気がないって心配してくれて。」
「なるほど、それで心配になってあの日に来たのか。1日空いてるのが微妙だけど。」
「ふ~ん。じゃあ、少し上に行ってくるからあとお願いね。」
「はい、ごゆっくり。」
「うん、務も上がるから何かあったら連絡してね。」
一人で留守番をする。
いくつか案を書き出してみたものが現実的か務さんに聞いてみた。
いくつかはすぐに無理と却下された、パン作りの行程的にとコスト的にと。
冷やしパンのアイデアは小さな冷蔵庫が必要と言われた。
今後飲み物を出すのに使えるかもしれないから考えると。
今までやってないから面白そうだとも言ってくれた。
やはりあの後及川さんはお店に来てくれない、勿論メールもない。
今日子さんには悪いけど私は会いたい気がしないのでほっとした。
いつものように残り物のパンを持って、お惣菜を買い、おまけをもらい帰る。
部屋でお惣菜を食べながら色塗り途中の画用紙を広げる。
話は最後まで書いている。色もほとんど塗り終えて自分ではかわいいかこちゃんを再現できたと思う。
これからパンを作るとしたら。
色黒カエルとビー玉風パン。白い生地に色のつくジャムを練り込んで3色ビー玉。紫黄赤。少し丸く。形を作る。串に刺したらおかしいからかわいいラッピングで。短期間だったらそれも手伝えると思う。クッキーでアジサイを作るとか。
テルテル坊主も作りやすい?リボンはリボンで。スカートの裾にカエルマークのクッキー。
考えるだけなら楽しい。
ノートに書いてカエルシリーズを終わりにする。
紙粘土をだしてカエルの形に、ビー玉も試作。うまく混ざり合う。パン生地よりは固いしコントラストもつきやすい、形も作りやすい。テルテル坊主とカエルのワッペン。
画用紙をそのまま粘土で作り出す。楽しい。これは乾いたら色を塗ってヘアゴムのキットをつけて期間中自分で着けてもいい。リボンもカエル型のものを色紙で切り出したり。
ラッピング案も出してみた。
短期間なら本当に自分でやりたい、材料も買ってくる。そう言ってみようか?
さやかちゃんが喜んでくれるなら他の子供も楽しんでくれるかもしれない。
パンを食べる時に使ってもらうシートにお話を簡単に書いたものをつけてもいい。
自分でもうれしいほどにどんどんかこちゃんの世界が広がる。
初対面は悲鳴上げそうなくらいだったのに。
別の意味で唖然とした佐野さんのあの時の姿。
携帯をちらりと見る。メールはない。
私から出してもいいのでは?昨日のお礼、ちゃんと言えなかった。
最後のつぶやきは聞こえたみたいに足を止めてくれたけど。
体を起こしたらあっという間に離れて帰っていったのが寂しかったなんて言えないけど。
画用紙に書かれたカエルの笑顔。
携帯を開いてメールを出した。
『佐野さん、昨日はお世話になりながら身勝手なことを言ってすみませんでした。何度もご迷惑かけてばかりで。今度こそ呆れられてるだろうなと思っても、また会うといつも優しくて。ほんとうに感謝してます。ありがとうございました。』
何とかお礼とお詫びは書いた。あと一言追加するとしたら。
『またバイト先で会える日を楽しみにしてます。』
送信。
恥ずかしくて携帯を伏せた。
また新作案を考える。アレンジしやすい焼きドーナッツって出来るのかな?
スイカ柄、どうもろこし、ココナッツ、チョコミント。
生地の形が変わりにくい分いろいろとできそうだし、もしかして短時間で出来る?
食べる前に冷やしてもよさそう、冷やし焼きドーナッツ。
クリームチーズと酒麹の冷やしパン。
お酒の香りが立つと大人向けに。
夏休みの子供のお昼パン。
トルティーヤ風の生地に子供がのせて食べるタイプ。
割れないようにちょっと柔らかく。ピタパンでもいいか。
冷凍して夏休みに解凍して食べれるように。
夢中になって書き出してると携帯が着信を知らせる。
ゆっくり画面を見ると佐野さんからだった。
『今日子さんからのメールで元気になったと聞いて安心してました。良かったです。またすぐに会いに行きます。』
短いメールだったけど最後の一文がうれしくて。
すぐっていつ?
メールを閉じて、開いていたノートも閉じて、寝ることにした。
かこちゃんの夢を見たのか、虫取り網の少年の夢を見たのか、ただ起きた時には夢の記憶は全くなかった。
昨日書き出したノートとイラストブックを持ってバイトに行く。
昨日の夜はいいと思った案も見返して冷静に考えると、そうでもないかと思える。
夜の方が気持ちが楽でいろいろ考えられるから。
敢えて見返さずに閉じた
乾かしていた粘土はまだ裏が湿っていた。それでも一応お菓子の箱に並べて持っていくことにした。
「おはようございます。」
「おはよう、真奈ちゃん。なんだかすっかり元気でうれしいわ。」
「はい、すっかり元気です。これ時間がある時に見てください。夜にいろいろ考えてみたんです。」
「そう、あとで休憩の時にみんなで見ましょう。」
「よろしくお願いします。」
掃除をしてパンを並べて、常連さんと会話しながら注文のパンを詰めて。
途中、今日子さんと務さんが出てきたので急いでバッグを持っていく。
「これがカエルの絵とお話です。ちょっと前に書いたものです。これがそれをパンにしたらと。こっちの粘土でイメージしてみたものを作りました。まだ乾いてないですが。」
ノートには自分で考えたことがイラスト付きでいろいろ書かれていた。
やたらとカエルに力が入ってる。そう見える。
なんだか自分の手と髪に付けられたカエルのゴムとかまでイラストにしてる。
あ・・・・・。
「すみません、もう自分の考えに酔ってしまって勝手に自分のコスプレとかラッピングまで書き出しました。カエルは定番だしと思って。」
務さんがびっくりしている目でイラストと私を見ている。
女の子の母親だから今日子さんは考えると思うけど、ちょっとしたコスプレ風というか。
イベント風に楽しんでます。
お客さんが来たのでレジに戻る。
良く来てくれる常連さん。さやかちゃんと同じくらいの女の子がいる。
「ねえ、香織さん、真奈ちゃんが新作案を出してくれたんだけど、子供を持つ母親として意見を聞いていい?」
香織さんが会計をしてカフェテーブルへ。
私はひたすら下を向いて商品を袋に入れる。
それでも耳がカフェ席で交わされる小さな意見も聞き洩らさないように血流が集中するようだった。
袋に詰めて香織さんのところに持っていく。
私ってばランチョンマット風にイラストを渡す案まで書いていたらしい。全力で恥ずかしい。
あ、ああ・・・・やっぱり朝に最後まで見直してから持ってくるべきだった。本当に楽しい図画工作に酔ってました。
結果的には全面的に任された小道具、試作を作ってくださいと。
パンの方は試してみると。
香織さんの意見も好意的だったので今日子さんも喜んでいた。
ちなみにコスプレ風の方はご自由にと。恥ずかしい。
カフェスペースの隅で粘土を乾かす。裏面にも空気が入るようにして。
さやかちゃんが帰ってきた。
「お帰り、さやかちゃん。」
「ただいま、真奈姉。」
さやかちゃんを送ってきた今日子さんのお母さん。二人が2階へ上がっていく。
しばらくして降りてきたさやかちゃん。今日子さんがやってきて私のかこちゃんストーリーを渡す。私はドキドキする。可愛いと思ってくれる?
「真奈姉、かわいい、かこちゃん可愛い。」
「さやか、これ真奈姉が作ってくれるって言ったらうれしい?」
乾かしている粘土を見てまたしてもかわいいと言ってくれるさやかちゃん。
「ありがとう。さやかちゃん。これは腕につけてもいいし髪の毛につけてもいいし。」
「さやかも欲しい。作って作って~。」
「いいんじゃない、評判で。たくさん作って全種類買ってくれた人にプレゼントにしてもいいし。その辺は任せるから。お金を取るわけにはいかないけどおまけみたいな感じで。」
「はい、頑張ります。」
夏休みの子供のためのサンドパンのアイデアは他のお客さんに聞いてから考えることに。ピタパンはできても、トルティーヤはトウモロコシの粉だということでいろいろ簡単にはいかない。焼きドーナッツは要検討。やるなら通年でもできそうだけど、家庭用で試してから検討。酒粕クリームチーズは似たようなものがあるからやろうと思えばできる、試作をして考えると。なんとなく役に立ったような気分になり楽しい。
午後休憩中に聞いてみた。
「今日子さん、もしかしてお店のバイトは私みたいな素人じゃなくてパン屋さんを目指してる人とか、職人見習みたいな人の方が役に立ちませんか?教えるほうも教え甲斐があるし。」
「そうかなあ?別に最初からレジ打ちと掃除のできる愛想のいい子を探してたのよ。ピッタリでしょう?作るのは務だけでいいし、私はサンドイッチくらい作れるし。さやかとの時間を作りたいためだから。何か気になる?あのアイデアの事なら大満足よ。こんな事ならもっと早くに相談するんだったって務も言ってたくらいだし。売り方というかイベントにしてしまうあたりが女の子目線なのよね。お話があると親近感があるし。おまけを喜んでもらえて売り上げが上がるならうれしいし。」
「そう言ってもらえるとうれしいです。あの、佐野さんは最初どんな手伝いをしてたんですか?」
「ビラ配りと開店初日から3日間のオープニングキャンペーン要員。整理券配りと、袋詰め。後はさやかの送り迎えとか。最初は本当に現物支給にちょっとしかバイト代も出せなかったから。懐かしなあ。あとは商店街に3人で出かけてお互いの仕事を褒め合って声かけまくったり。」
「どうしたの?」
今日子さんが懐かしい思い出を語る顔から不思議そうな表情になって聞いてくる。
「私はラッキーと思ってアルバイトの応募に申し込んだけど、もっと違う特技のある人を待ってたかなって思ったんです。初代アルバイトの佐野さんも器用だから。」
「器用かなあ?見てると思いっきり不器用に思えるけど。ただ誰とでも仲良くなれるのは特技かもね。人たらし。一度どん底まで落ち込んで優しさを手にして浮上してきたみたいね。でも真奈ちゃんが思ってるほど器用じゃないわよ。年の差分の経験値のせいよ。」
首をかしげる。
「そうでしょうか。」
「そうそう。今頃くしゃみしてるかもね。そしたら真奈ちゃんに風邪をうつされたって喜ぶからお見舞いに行ってあげてね。」
「私はうつしてません。どこに住んでるか知りませんし。」
「・・・・ああ、そうか。残念。本当に不器用で。じゃあ、後はお願いね。」
独り言のように言い今日子さんは早上がりする。
紙粘土の乾き具合を見てひっくり返す。この後色を付けてニスを塗る。ヘアゴムをつけて出来上がり。
月曜日 朝から洗濯掃除をして机の上の紙粘土の乾き具合を見る。
昨日の夜勢い込んでたくさん作ってみた。
カエルとビー玉とテルテル坊主とアジサイの花。
アジサイはたくさん作り葉っぱも作り大きなものになる予定。
少し立体的になるだろう。まあるい形に出来上がるのを想像するとうれしくなる。お話は小さなコマ割りにして色を塗り、切り取り、貼り付け、ランチョンマットサイズにする予定。コマをちょっと変化のあるカットにして花びらを貼り付けてみるとカフェでも使えるかも。
防水加工にすればカエル型のコースターとかできる?
余ったら自分で使えばいい。さやかちゃんに使ってもらえばいい。
ノートにメモする。
着替えて、軽く化粧して本を持って、あとノートも持って出かける。どこへ・・・ってあの公園のあのベンチに。
佐野さんに会う前からお気にいりの場所だった。
パンとコーヒーを持って行ってた。特別じゃない。
でも部屋を出る前にもう一つカップを持って行こうかと立ち止まり・・・慌ててドアを開けた。
いつも通りの公園、いつも1時間位ゆっくり食べながら本を読む場所。
小さな子供とお母さん、他少しの大人。
大きな木の陰のいつものベンチに座る。足下チェック、特に不審物無し。
このところ粘土やイラストですっかり本が進んでなかった。
短編連作のコミカルな探偵小説。やり取りのテンポがいいのでいつもならするすると読める。なのに、時々ため息が出る。
顔をあげて見える範囲の視界の中探してしまう。がっかりして顔を下げる。
だって普通仕事中でしょう?いや、サラリーマンでもない。いつが休みとは決まってない。だけど送り迎えは夕方だろうし、そうそう行方不明になるペットがいるとは思えない。他には・・・・
その時後ろから声がした。
「見つけた!ダメ、動かないでそのまま。すみません。そっと足を上げてもらえませんか?」
その声は誰だかわかる。足下に何もいないのも、だから足をあげる必要がないのも。
ゆっくりつま先だけあげる。よく考えたら前回よくこれで思いっきり足をあげたものだと思う。
もし上げなかったら、かこちゃんがジャンプしてきて悲鳴が公園中に響いたかもしれない。
後ろを振り向きたい衝動は前回同様堪えた。前回とは違って恐怖心がない、不審にも思わない、ただ会いたいという気持ちと、同じくらい恥ずかしいと思う気持ちと。
ゆっくり佐野さんが正面に来た。
「なんて、そんなにかこちゃんも脱走しないし、冗談です。」
少しあげていたつま先をゆっくり下ろす。緊張で震えそうだった。
「佐野さん、こんにちは。」
「真奈さん、ひさしぶりです。元気そうですね。」にっこりと笑う佐野さん。
「はい。」
目の前に立ったままの佐野さんと見つめ合う。
「あの日は、その前の前の日も、すみませんでした。」
謝罪にかこつけて視線を逸らすように頭を下げる。
「それはもういいですよ。」
顔をあげるとまた目が合う。
横に視線をそらして荷物をかき集める。
「ここ、どうぞ。」
顔をあげるとまた目が合う。ちょっと正面は耐えられない。
2人横並びで座れば公園の子供たちを見ながら話せる。
それなのにやたらとこっちを向いて話をする佐野さん。
内容は会えなかった日々の仕事のことなど。
私はまっすぐ向いたまま、時々横を向いてはまたすぐ前を向き直る。
「今日もパンとコーヒー持参ですか?」
「はい、大体月曜日はこんな感じです。」
「佐野さん、今日はお仕事は?」
「商店街のお掃除です。第一月曜日恒例です。いろいろお世話になってるので出来る限り参加してます。務さんとさやかちゃんもいましたよ。」
「知りませんでした。」
「まあ、そうですね。商店街会長の案です。きれいにして、いろいろな情報も交換して。皆でお茶飲んでお終い。僕はあとは夕方恒例のお迎え2件です。」
横顔を見る。その優しい横顔を。
またすぐに会いに行きますってメールにあったから1、2日は待った。
今日かな今日かなって。
あの『すぐ』が4日たってからなんて思ってもなかった。
そして諦めてた。あそこじゃないと確実には会えないから。
でも、忙しいのかもって。
期待してる自分とやっぱり違うなって思って落ち込む自分。
視線を前に戻す。
「すみませんでした。2日も休んでしまいましてご迷惑かけました。」
「もう体調は大丈夫?」
「はい、大丈夫です。お見舞いまで頂いて助かりました。」
「お見舞いのバイト君は役に立った?」
「はい、いろいろと差し入れしていただきました。むしろお金を使わせてしまった気がします。」
「あら、そうなの?本人がやりたかったんだからいいんじゃない?」
今日子さんがさらりと言う。
今日子さんに佐野さんの気を遣わせてまで私を労わるのは止めて欲しいと、言おうと思ったのに、言えない。
「あ、真奈姉ちゃん、元気になったの?」さやかちゃんが駆け寄ってくる。
「うん、元気になったよ。さやかちゃんは元気そうだね。」
「うん、あのね、さやかもお手伝いしたの。お姉ちゃんがお休みの間にパンを並べたりお砂糖運んだり掃除したりしたんだよ。偉いでしょう?」
「そうなの?ありがとう。楽しかった?」
「うん、楽しかった。もっともっと大きくなったら手伝いできるようになるねって言われた。」
「そうだね。」
「さやか、行きなさい。バスに置いてかれるわよ。」
「は~い、行ってきます。」
さやかちゃんを見送り掃除を始める。
「さやかちゃんにも迷惑かけました。すみません。」
「大丈夫よ。喜んで手伝ってたし、カフェで遊ばせてたからおばあちゃんのところにいるより良かったかも。たまにはいいわよ。」
「でもお客さんが真奈ちゃんがいないってガッカリして帰るのよ、という訳で今日から頑張ってね。でも一番がっかりしてたのは佐野君だったかも。バイト頼まなくても喜んでお見舞いに行ったわよ。でも監視しないと勝手に部屋に上がり込んじゃうと佐野君でも男だからね。」
「・・・・そんなこと。」作り笑顔で答える。
佐野さんが急に帰った後、言われたことを何とか思い出してみた。
佐野さんが言った月曜日の昼の事、誰かに聞いたと。
何を?私が男の人と食事をしていた事を知ってるかのような言い方で。
そのあと会った時に元気がないと心配して送ってくれた。
あんな私の不自然な態度と結び付けてどう思っただろう。
それなのに怒りと嫉妬を覚えると。嫉妬・・・・。見せてくれるやさしさは区別していると、気がつかないのかと。気長に気がついてくれるまで待つと。ここに私に会いに来ると。それは特別な意味なのか、それとも佐野さんお得意の励ましの優しさなのか、まだ分からない。
今日子さんも思わせぶりに言ってくるけど。
言葉は難しい。音がした途端に形が崩れて、好きなようにとらえたくなるのに、2度と繰り返されないと分かると今度はとても頼りなく消えてしまう。何度も何度も繰り返し言われてやっと心に落ち着く。
そんなに一度では信じられないのかと思ってる反面、一度でも私を打ちのめすこともある。文字で伝わるなら・・・でも文字は文字で、同じことをメールで書かれてもリズムも温度もないものは頼りなくて。
狭い世界の中で生きてるのにこんなに周りの反応に臆病になる。
そんなこと思ってもなかった。
世界は小さな家の中で始まり、少しずつ広くなり・・・・ずっと、どこまでも広がっていくと思ったのに急に去年から小さくなった。
狭く小さな世界の中で息をするのもやっとで、とてもまだ一人で広い場所には出て行けない。
小さな自分自身を見失いそうな今は、特に。
「真奈ちゃん、大丈夫?まだあんまり無理しないで。お客さんがいないときは仕事してるふりでカフェスペースに座って休んでて。2日やって思ったけど1日立ってるのも疲れるのね。誰もいないときは休んでね。心苦しいだろうから座ってできる仕事を頼むからね。」
「はい、後はやります。大丈夫です。ちょっとぼうっとしてしまいました。」
棚やカフェテーブルを拭いてコーヒーメーカーを準備する。
袋やお釣り、テープやひも、自分のやりやすいように位置を調整する。
常連さんが早速顔を出す。
「おはようございます。いらっしゃいませ。」
「おはよう真奈ちゃん。風邪ひいて休んでたんだって?笑顔が見れなくて寂しかったよ。」
「あら、私の笑顔も捨てたもんじゃないはずですよ。」
今日子さんがパンを運んでくる。
焼きたてのいい香りが店内に漂う。
パンが並ぶまでカフェの椅子で大人しく待ってくれる常連の人たち。
朝ごはんにする人、レストランで使ってくれる人、だいたい同じものを買って行く人が多い。
私は顔ぶれを見ながら覚えているオーダーのものを袋に詰めていく。
「そういえばこの間駅向こうのレストランでデートしてたでしょう。なかなかのハンサム君と。」
自分の手が止まった。
「いいねえ、若いというのは。僕も若かったらデートに誘うのになあ。」
数人いるお得意さんの中に落とされた暴露話。しかも今日子さんもいる。
「ランチって言うのが清清しいね。」
「たまたま会ったのでお昼をご馳走になったんですよ。デートじゃないですよ。」
笑顔で否定できたと思う。
「え~、そうなの?じゃあ俺たちにもチャンスがあるなあ!」
「オジサンたちには全くないです。大切な真奈ちゃんを誘いたいなら私の審査を受けてからにしてくださいね。もちろん年齢制限もありますよ。」
今日子さんが言う。
「今日子さんは佐野ちゃん贔屓でなあ。佐野ちゃんだって真奈ちゃんとご飯食べてたよ。」
「あ、あれは今日子さんに頼まれたんですよ、佐野さんが。」
「そうそう、私が頼んだの。」
「おじさんだって楽しい夢が見たいのに。」
「あと30年もしないうちに夢の中に行けます。それまでは現実を生きてください。」
「おおお、今日子さん、厳しい。」
そんなやり取りがなされて私の話は消え失せた。
そう思ってたのに。
しばらく波が落ちついてぽっかり空いた時間。
「休憩しましょう。」
紅茶を入れてカフェスペースに移動してきた今日子さん。珍しく務さんも一緒だ。
椅子を動かして3人座る。
「ねえ、そろそろ次のシーズンの新作を考えてるんだけど、今度から真奈ちゃんにもアイデア出してもらおうかと思って。どう?絵が得意みたいだし楽しんで考えてみない?」
さやかちゃんと遊んでいて絵を描いてあげたことがある。
さらさらと描いた絵だけど自分でも大好きなことだから。
でも色を塗って可愛くなる絵とパンは違いそう。
作り方もあんまり知らない自分が出したアイデアが現実的なのかどうかは謎。
それでも役に立つなら考えてみたい。
「これ今までの季節ものと定番の写真なの。」
基本は形で責めるか、旬の材料で責めるか、素材の組み合わせで責めるか。
今からだと梅雨シーズンの売上アップ案と夏の暑さでも食べたくなるようなもの案を募集中。
「やっぱり梅雨だとカエルの形は作るんですね。」
「そうね、単純な形だし毎年作るわよ。」
「カエルも何か目新しいものがあれば試してみるけど。」
「目新しいとは違います。ただ最近カエルのお話を書いてて思い入れがあったのでパンになっても楽しいなあと。」
「なに、絵本作ってたの?見たい見たい。それで新しいヒントがあるかもしれないし。可愛かったら棚に貼ったり広告に使いたいし。どう?」
「あの、そんな絵本とかいうレベルじゃ全然ないです。さやかちゃんに書いてあげたレベルの絵にお話とセリフを付けたくらいのもので。そんな・・・・。」
「いい、見たい。本当にかわいい絵を描くじゃない。良かったら持ってきてね。あと、これ置いとくから時間のある時ここでいろいろ考えて、実際に絵を描いてもらえるとイメージわくから。」
「よろしくね。今まで使った材料と夏の旬のものを書き出してるから参考までに。」
「はい、頑張ってみます。」
「無理なら無理ってはっきり言うから、たくさん案は出してね。」
2人が裏に消えて私はアルバムをめくる。
私の知らない二人の歴史。
コメントで評判とか改善点とか、いろいろな書き込みがあった。
さやかちゃんの絵を起こしたものもあった。
自分が考えたものが形になると楽しそう。一生懸命売り込むのに。
カフェスペースももっと活用してもらいたい。
まずは一通りアルバムを見て、食材を見て。いろいろと考える。子供向けのパンは定番がある。大人向けのものはどうだろう?少しお酒を使ったりして。ワインとかは?
それからもいろいろと考えたりして午前中を終わった。
今日子さんと交代してランチへ。
携帯でいろんなパン屋さんの写真を見る。
夏なら冷やして食べるパンもありよね。冷やしあんパンとかクリームパンとかはやったし。
ランチが終わって今日子さんと交代。
「ねえ、真奈ちゃん、月曜日ランチに行ったのは彼氏?」
いきなり、忘れたころに直撃砲。
「いいえ、あの、よくここに買いに来て話をするサラリーマンの人です。ランチに誘われて。軽い気持ちで返事してしまって、ご一緒しただけで。もう行くこともないです。」
「そうなの?話の中で他のデートに誘われたりは?」
「いえ、連絡も一度もとってません。話もそんなに弾まなくて。」
「そう、ごめんね。嫌なことを聞いたのなら謝るわ。」
「いいえ、特には。」
「ただちょっと気まずくて。せっかくのお得意様なのにまた来てくれるかどうか。」
「もともと真奈ちゃん目当てだからしょうがないわ。気にしないで。ただちょっと噂は広まりやすいからねえ、商店街のおじさんたちは知ってると思ってもいいかも。」
「はい。佐野さんも知ってましたから。」
「へ?佐野君、何か言ったの?」
「・・・・いいえ、ただその日ランチから帰る途中偶然会って話をしたんですが、元気がないって心配してくれて。」
「なるほど、それで心配になってあの日に来たのか。1日空いてるのが微妙だけど。」
「ふ~ん。じゃあ、少し上に行ってくるからあとお願いね。」
「はい、ごゆっくり。」
「うん、務も上がるから何かあったら連絡してね。」
一人で留守番をする。
いくつか案を書き出してみたものが現実的か務さんに聞いてみた。
いくつかはすぐに無理と却下された、パン作りの行程的にとコスト的にと。
冷やしパンのアイデアは小さな冷蔵庫が必要と言われた。
今後飲み物を出すのに使えるかもしれないから考えると。
今までやってないから面白そうだとも言ってくれた。
やはりあの後及川さんはお店に来てくれない、勿論メールもない。
今日子さんには悪いけど私は会いたい気がしないのでほっとした。
いつものように残り物のパンを持って、お惣菜を買い、おまけをもらい帰る。
部屋でお惣菜を食べながら色塗り途中の画用紙を広げる。
話は最後まで書いている。色もほとんど塗り終えて自分ではかわいいかこちゃんを再現できたと思う。
これからパンを作るとしたら。
色黒カエルとビー玉風パン。白い生地に色のつくジャムを練り込んで3色ビー玉。紫黄赤。少し丸く。形を作る。串に刺したらおかしいからかわいいラッピングで。短期間だったらそれも手伝えると思う。クッキーでアジサイを作るとか。
テルテル坊主も作りやすい?リボンはリボンで。スカートの裾にカエルマークのクッキー。
考えるだけなら楽しい。
ノートに書いてカエルシリーズを終わりにする。
紙粘土をだしてカエルの形に、ビー玉も試作。うまく混ざり合う。パン生地よりは固いしコントラストもつきやすい、形も作りやすい。テルテル坊主とカエルのワッペン。
画用紙をそのまま粘土で作り出す。楽しい。これは乾いたら色を塗ってヘアゴムのキットをつけて期間中自分で着けてもいい。リボンもカエル型のものを色紙で切り出したり。
ラッピング案も出してみた。
短期間なら本当に自分でやりたい、材料も買ってくる。そう言ってみようか?
さやかちゃんが喜んでくれるなら他の子供も楽しんでくれるかもしれない。
パンを食べる時に使ってもらうシートにお話を簡単に書いたものをつけてもいい。
自分でもうれしいほどにどんどんかこちゃんの世界が広がる。
初対面は悲鳴上げそうなくらいだったのに。
別の意味で唖然とした佐野さんのあの時の姿。
携帯をちらりと見る。メールはない。
私から出してもいいのでは?昨日のお礼、ちゃんと言えなかった。
最後のつぶやきは聞こえたみたいに足を止めてくれたけど。
体を起こしたらあっという間に離れて帰っていったのが寂しかったなんて言えないけど。
画用紙に書かれたカエルの笑顔。
携帯を開いてメールを出した。
『佐野さん、昨日はお世話になりながら身勝手なことを言ってすみませんでした。何度もご迷惑かけてばかりで。今度こそ呆れられてるだろうなと思っても、また会うといつも優しくて。ほんとうに感謝してます。ありがとうございました。』
何とかお礼とお詫びは書いた。あと一言追加するとしたら。
『またバイト先で会える日を楽しみにしてます。』
送信。
恥ずかしくて携帯を伏せた。
また新作案を考える。アレンジしやすい焼きドーナッツって出来るのかな?
スイカ柄、どうもろこし、ココナッツ、チョコミント。
生地の形が変わりにくい分いろいろとできそうだし、もしかして短時間で出来る?
食べる前に冷やしてもよさそう、冷やし焼きドーナッツ。
クリームチーズと酒麹の冷やしパン。
お酒の香りが立つと大人向けに。
夏休みの子供のお昼パン。
トルティーヤ風の生地に子供がのせて食べるタイプ。
割れないようにちょっと柔らかく。ピタパンでもいいか。
冷凍して夏休みに解凍して食べれるように。
夢中になって書き出してると携帯が着信を知らせる。
ゆっくり画面を見ると佐野さんからだった。
『今日子さんからのメールで元気になったと聞いて安心してました。良かったです。またすぐに会いに行きます。』
短いメールだったけど最後の一文がうれしくて。
すぐっていつ?
メールを閉じて、開いていたノートも閉じて、寝ることにした。
かこちゃんの夢を見たのか、虫取り網の少年の夢を見たのか、ただ起きた時には夢の記憶は全くなかった。
昨日書き出したノートとイラストブックを持ってバイトに行く。
昨日の夜はいいと思った案も見返して冷静に考えると、そうでもないかと思える。
夜の方が気持ちが楽でいろいろ考えられるから。
敢えて見返さずに閉じた
乾かしていた粘土はまだ裏が湿っていた。それでも一応お菓子の箱に並べて持っていくことにした。
「おはようございます。」
「おはよう、真奈ちゃん。なんだかすっかり元気でうれしいわ。」
「はい、すっかり元気です。これ時間がある時に見てください。夜にいろいろ考えてみたんです。」
「そう、あとで休憩の時にみんなで見ましょう。」
「よろしくお願いします。」
掃除をしてパンを並べて、常連さんと会話しながら注文のパンを詰めて。
途中、今日子さんと務さんが出てきたので急いでバッグを持っていく。
「これがカエルの絵とお話です。ちょっと前に書いたものです。これがそれをパンにしたらと。こっちの粘土でイメージしてみたものを作りました。まだ乾いてないですが。」
ノートには自分で考えたことがイラスト付きでいろいろ書かれていた。
やたらとカエルに力が入ってる。そう見える。
なんだか自分の手と髪に付けられたカエルのゴムとかまでイラストにしてる。
あ・・・・・。
「すみません、もう自分の考えに酔ってしまって勝手に自分のコスプレとかラッピングまで書き出しました。カエルは定番だしと思って。」
務さんがびっくりしている目でイラストと私を見ている。
女の子の母親だから今日子さんは考えると思うけど、ちょっとしたコスプレ風というか。
イベント風に楽しんでます。
お客さんが来たのでレジに戻る。
良く来てくれる常連さん。さやかちゃんと同じくらいの女の子がいる。
「ねえ、香織さん、真奈ちゃんが新作案を出してくれたんだけど、子供を持つ母親として意見を聞いていい?」
香織さんが会計をしてカフェテーブルへ。
私はひたすら下を向いて商品を袋に入れる。
それでも耳がカフェ席で交わされる小さな意見も聞き洩らさないように血流が集中するようだった。
袋に詰めて香織さんのところに持っていく。
私ってばランチョンマット風にイラストを渡す案まで書いていたらしい。全力で恥ずかしい。
あ、ああ・・・・やっぱり朝に最後まで見直してから持ってくるべきだった。本当に楽しい図画工作に酔ってました。
結果的には全面的に任された小道具、試作を作ってくださいと。
パンの方は試してみると。
香織さんの意見も好意的だったので今日子さんも喜んでいた。
ちなみにコスプレ風の方はご自由にと。恥ずかしい。
カフェスペースの隅で粘土を乾かす。裏面にも空気が入るようにして。
さやかちゃんが帰ってきた。
「お帰り、さやかちゃん。」
「ただいま、真奈姉。」
さやかちゃんを送ってきた今日子さんのお母さん。二人が2階へ上がっていく。
しばらくして降りてきたさやかちゃん。今日子さんがやってきて私のかこちゃんストーリーを渡す。私はドキドキする。可愛いと思ってくれる?
「真奈姉、かわいい、かこちゃん可愛い。」
「さやか、これ真奈姉が作ってくれるって言ったらうれしい?」
乾かしている粘土を見てまたしてもかわいいと言ってくれるさやかちゃん。
「ありがとう。さやかちゃん。これは腕につけてもいいし髪の毛につけてもいいし。」
「さやかも欲しい。作って作って~。」
「いいんじゃない、評判で。たくさん作って全種類買ってくれた人にプレゼントにしてもいいし。その辺は任せるから。お金を取るわけにはいかないけどおまけみたいな感じで。」
「はい、頑張ります。」
夏休みの子供のためのサンドパンのアイデアは他のお客さんに聞いてから考えることに。ピタパンはできても、トルティーヤはトウモロコシの粉だということでいろいろ簡単にはいかない。焼きドーナッツは要検討。やるなら通年でもできそうだけど、家庭用で試してから検討。酒粕クリームチーズは似たようなものがあるからやろうと思えばできる、試作をして考えると。なんとなく役に立ったような気分になり楽しい。
午後休憩中に聞いてみた。
「今日子さん、もしかしてお店のバイトは私みたいな素人じゃなくてパン屋さんを目指してる人とか、職人見習みたいな人の方が役に立ちませんか?教えるほうも教え甲斐があるし。」
「そうかなあ?別に最初からレジ打ちと掃除のできる愛想のいい子を探してたのよ。ピッタリでしょう?作るのは務だけでいいし、私はサンドイッチくらい作れるし。さやかとの時間を作りたいためだから。何か気になる?あのアイデアの事なら大満足よ。こんな事ならもっと早くに相談するんだったって務も言ってたくらいだし。売り方というかイベントにしてしまうあたりが女の子目線なのよね。お話があると親近感があるし。おまけを喜んでもらえて売り上げが上がるならうれしいし。」
「そう言ってもらえるとうれしいです。あの、佐野さんは最初どんな手伝いをしてたんですか?」
「ビラ配りと開店初日から3日間のオープニングキャンペーン要員。整理券配りと、袋詰め。後はさやかの送り迎えとか。最初は本当に現物支給にちょっとしかバイト代も出せなかったから。懐かしなあ。あとは商店街に3人で出かけてお互いの仕事を褒め合って声かけまくったり。」
「どうしたの?」
今日子さんが懐かしい思い出を語る顔から不思議そうな表情になって聞いてくる。
「私はラッキーと思ってアルバイトの応募に申し込んだけど、もっと違う特技のある人を待ってたかなって思ったんです。初代アルバイトの佐野さんも器用だから。」
「器用かなあ?見てると思いっきり不器用に思えるけど。ただ誰とでも仲良くなれるのは特技かもね。人たらし。一度どん底まで落ち込んで優しさを手にして浮上してきたみたいね。でも真奈ちゃんが思ってるほど器用じゃないわよ。年の差分の経験値のせいよ。」
首をかしげる。
「そうでしょうか。」
「そうそう。今頃くしゃみしてるかもね。そしたら真奈ちゃんに風邪をうつされたって喜ぶからお見舞いに行ってあげてね。」
「私はうつしてません。どこに住んでるか知りませんし。」
「・・・・ああ、そうか。残念。本当に不器用で。じゃあ、後はお願いね。」
独り言のように言い今日子さんは早上がりする。
紙粘土の乾き具合を見てひっくり返す。この後色を付けてニスを塗る。ヘアゴムをつけて出来上がり。
月曜日 朝から洗濯掃除をして机の上の紙粘土の乾き具合を見る。
昨日の夜勢い込んでたくさん作ってみた。
カエルとビー玉とテルテル坊主とアジサイの花。
アジサイはたくさん作り葉っぱも作り大きなものになる予定。
少し立体的になるだろう。まあるい形に出来上がるのを想像するとうれしくなる。お話は小さなコマ割りにして色を塗り、切り取り、貼り付け、ランチョンマットサイズにする予定。コマをちょっと変化のあるカットにして花びらを貼り付けてみるとカフェでも使えるかも。
防水加工にすればカエル型のコースターとかできる?
余ったら自分で使えばいい。さやかちゃんに使ってもらえばいい。
ノートにメモする。
着替えて、軽く化粧して本を持って、あとノートも持って出かける。どこへ・・・ってあの公園のあのベンチに。
佐野さんに会う前からお気にいりの場所だった。
パンとコーヒーを持って行ってた。特別じゃない。
でも部屋を出る前にもう一つカップを持って行こうかと立ち止まり・・・慌ててドアを開けた。
いつも通りの公園、いつも1時間位ゆっくり食べながら本を読む場所。
小さな子供とお母さん、他少しの大人。
大きな木の陰のいつものベンチに座る。足下チェック、特に不審物無し。
このところ粘土やイラストですっかり本が進んでなかった。
短編連作のコミカルな探偵小説。やり取りのテンポがいいのでいつもならするすると読める。なのに、時々ため息が出る。
顔をあげて見える範囲の視界の中探してしまう。がっかりして顔を下げる。
だって普通仕事中でしょう?いや、サラリーマンでもない。いつが休みとは決まってない。だけど送り迎えは夕方だろうし、そうそう行方不明になるペットがいるとは思えない。他には・・・・
その時後ろから声がした。
「見つけた!ダメ、動かないでそのまま。すみません。そっと足を上げてもらえませんか?」
その声は誰だかわかる。足下に何もいないのも、だから足をあげる必要がないのも。
ゆっくりつま先だけあげる。よく考えたら前回よくこれで思いっきり足をあげたものだと思う。
もし上げなかったら、かこちゃんがジャンプしてきて悲鳴が公園中に響いたかもしれない。
後ろを振り向きたい衝動は前回同様堪えた。前回とは違って恐怖心がない、不審にも思わない、ただ会いたいという気持ちと、同じくらい恥ずかしいと思う気持ちと。
ゆっくり佐野さんが正面に来た。
「なんて、そんなにかこちゃんも脱走しないし、冗談です。」
少しあげていたつま先をゆっくり下ろす。緊張で震えそうだった。
「佐野さん、こんにちは。」
「真奈さん、ひさしぶりです。元気そうですね。」にっこりと笑う佐野さん。
「はい。」
目の前に立ったままの佐野さんと見つめ合う。
「あの日は、その前の前の日も、すみませんでした。」
謝罪にかこつけて視線を逸らすように頭を下げる。
「それはもういいですよ。」
顔をあげるとまた目が合う。
横に視線をそらして荷物をかき集める。
「ここ、どうぞ。」
顔をあげるとまた目が合う。ちょっと正面は耐えられない。
2人横並びで座れば公園の子供たちを見ながら話せる。
それなのにやたらとこっちを向いて話をする佐野さん。
内容は会えなかった日々の仕事のことなど。
私はまっすぐ向いたまま、時々横を向いてはまたすぐ前を向き直る。
「今日もパンとコーヒー持参ですか?」
「はい、大体月曜日はこんな感じです。」
「佐野さん、今日はお仕事は?」
「商店街のお掃除です。第一月曜日恒例です。いろいろお世話になってるので出来る限り参加してます。務さんとさやかちゃんもいましたよ。」
「知りませんでした。」
「まあ、そうですね。商店街会長の案です。きれいにして、いろいろな情報も交換して。皆でお茶飲んでお終い。僕はあとは夕方恒例のお迎え2件です。」
横顔を見る。その優しい横顔を。
またすぐに会いに行きますってメールにあったから1、2日は待った。
今日かな今日かなって。
あの『すぐ』が4日たってからなんて思ってもなかった。
そして諦めてた。あそこじゃないと確実には会えないから。
でも、忙しいのかもって。
期待してる自分とやっぱり違うなって思って落ち込む自分。
視線を前に戻す。
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