小さな鈴を見つけた日 

羽月☆

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13 向けられる背中は頼りなく

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世間で、変り種のウィルスがはやってると言うニュースを聞いても、何故か無防備なやつはいる。
明らかに怪しい添付文書を勝手に開いておたおたする間、ご丁寧にネットワークにつないだまま。
呼ばれて向かうまでそのままで。

まったく会社のパソコンで何のサイトを見てたんだか。
履歴をのぞくのはまったく興味からじゃない、必要だからだ。
このスマホの時代、自分の携帯で見ればすむことを。

今日は久しぶりに来たのだが、想像した明るい雰囲気はない。

依頼主の課長のパソコンを借りて、ウィルスを特定してやっつけている間、耳に聞こえた名前。


「すず先輩のこと、私のせいでしょうか?」

「沙良ちゃん、大丈夫よ。」

「だって私が痩せろって言ったから。痩せすぎだから、もう食べたほうがいいって言ったのに、すず先輩まったく食べてない気がします。どんどん元気なくなってきてるし。」

ムードメーカーの彼女・・・・名前は覚えてないが、後輩の子が静かなのだ。
あの7キロ減の彼女の姿はない。
体調が悪いらしいから、休みだろうか?



昨日帰るときに自分の前をとぼとぼと歩く女性に気がついて。
追い越そうとする少し前に、いきなりつまずくようにバランスを崩した。

声を出して、何につまずいたのか確かめるように振り向いたときに顔が見えた。
7キロ減の彼女だった。
後ろにいた自分と目が合って驚いたらしい。

たしかに細くなったかもしれない、体も、顔も。

あの時、立ち止まった彼女の横に立ち声をかけてみた。

「大丈夫?」

「大丈夫です。ちょっと躓いただけです。」

軽く支えるように出した手を、さりげなくかわすように動かされて、自分の手が止まる。

「そうは見えないが、体調悪いなら・・・・送るけど。」

つい、そう言っていた。
あの広場にいたんだから、さほど遠くはないだろう。

その言葉に自分でも驚いたが彼女もびっくりした顔をした。
だがすぐに顔を伏せた。

「大丈夫です。失礼します。」

そういって走って改札に向かっていった。

大丈夫ならいい、別に。

自分がこんなに親切な行動をとるとは。
自分でも意外だった。

しばらく後姿を見ていたが我に返って駅の改札を目指した。



やっぱり具合が悪かったのだろうか?
今日、休んだらしい。

「ねえ、先生に相談してみるように言うから。私たちより話しやすいかもしれないし。」

「沙良ちゃんも気にしないで、明日には来るんじゃない?きっと元気になってるわよ。」

「・・・・はい。」

そう言っても悲しそうな表情のままだ。

パソコン内でウィルス駆除が終ったらしい。

再起動させてみる。
特に問題はないようだ。

「何が原因でしょうか?」

本当に分からないと言う顔だ。

「まず、のぞいていたサイトからここまでたどられたらしいですね。関係ないメールにウィルスを仕込まれて、それを開いたからこうなりました。気をつけください。サイトの閲覧は制限がかかってるはずですが。あと添付文書の扱いを慎重に。異常を感じたらネットワーク接続はすぐにやめて連絡を頂きたい。」

毎度毎度、誰にでも同じ説明をしてるのに。
忘れた頃に同じことを繰り返す人がいる。

自宅のパソコンは大丈夫なのか?

とりあえず自分の席に戻って、一斉の警告メールを送信して注意してもらう以外にない。
今のところ二次感染の被害がないだけでもいい。
もうすぐアンチウィルスのソフトも配布できる。
そうなるとしばらくはこういった感染も未然に防げるだろう。

ただ、いたちごっこなのはしょうがない。
また新しいウィルスが姿を現したら同じことを繰り返すのみ。


静かなその課を離れて席に戻り、一斉メールを送信した。


時々携帯に鈴からのメッセージが届く。

遊びにつれて行って欲しいと言うおねだりから、買い物に一緒に行きたいと遠回しの買ってくれおねだりや、美味しいと聞いた遠くのお店のケーキを食べたいというおねだりや・・・・。
年が離れていると便利な財布の一つに認定されている。
両親を連れまわすには少し妙齢で、かつ二人とも仕事をしている。
生まれた時から自分も子育てに参加してたようなものだ。
可能な限り・・・ほぼ可能なのだが、お願いにも答えてる。
小学生のおねだりなんて距離も金額も可愛いものだ。

『ねえ、お母さんとお父さんの誕生日だよ。週末のお昼にケーキ買ってきて!!』

毎年のことだ。
両親の誕生日が近いのでそのあたりで二人まとめて誕生会をする。
外に出て食事するよりは自宅で。
最近は自分がケーキだけじゃなくて、料理も買ってくる。
さすがに本人に作らせるのは可哀想で。
お昼に一緒に過ごして、そのまま夕方は2人で出かければいい。
子どもは子供同士、鈴の面倒を夜まで見る。
一緒に出掛けてもいいし、自宅に一緒にいるだけでもいい。
これでも楽になったのだ。
最近は勉強を教えることも増えた。

少し尊敬されるようになった気がする。
さすがに小学生の勉強は見てあげれる。

『トニーには会えないかな?』

鈴はあの犬が気に入ったらしい。
何度か聞かれて、今度聞いてみると言っていた。
あの日に自分の態度が不自然だと気が付いたらしく、女性の方は会社の人だと教えた。

いつもの鈴の小さなお願いだったから、彼女に聞いてみたのだが。
彼女は教えてくれなかった。

「自分の飼い犬じゃない。」

そう言われた。
彼氏の犬じゃないか、散歩の様子くらい知ってるだろう。
週末なんだし。
ちょっとそう思ったが、返事をするときの顔つきを見るとなんだか聞いては行けなかったような気がして。
やはり微妙な時期だったか?
そして最近また痩せて元気がなかったという情報を知った後では、もう二度と聞くまいと思った。
仲が良さそうに見えたのだが。


『トニーのことはちょっと聞けてない。女性の方が具合が悪いらしい。会社でも滅多に会わない人だから。あの日の場所に行ったらその内偶然会えるかもな。』
そう返信した。
その時、犬と男性の横に彼女がいるかはわからないが。

『二人の都合を聞いて時間を決めて教えて。ケーキとご飯を買っていく。食べたいものがあったら一緒に教えて。』

結局は鈴のために家族がそろう日みたいな感じだ。
自分は就職をした三年後に家を出た。
それでも近くだ。
会社に近い所が良かったし、小学生になる鈴に部屋をあげた。
実家に置いてる荷物はほとんど処分した。
その辺はあっりしている。
あまり物にこだわらない自分の性分。
アルバムと・・・・それくらい?

さすがにずっと一人っ子で育ったのだ。
小さい頃からの画や成績表や賞状など取っておいてくれたのだが、はっきり言っていらない。
それでも親の手前、すべてを写真に収めて小さくデータにまとめた。
いらないとは言いながらも、昔の忘れていた思い出のページをめくる様にそれらを編集する作業は楽しかった。

小さい頃に書いた自分の家族の絵。
さすがに捨てることが出来ないものはあった。
データに取り込んで捨てたものもあるが、ひと箱分くらいは現物を天袋にしまった。
また見ることがあるかは微妙だが。

同時に鈴の分も少しづつデータにした。
捨てるのはずっと先でも取り込んだものは印をつけて箱に収めていく。

まだまだこれからいろんなものが増えるのだ。
可能性は無限だ。

8歳。未来は見通せなくても、光り輝くものであると願う。
そう導いていきたいし、手伝ってあげたい。

今のところきらりと光る才能の片鱗は見つからない。
勉強も普通、運動神経も普通。愛想はいい。器用ではある。
どこにでもいる小学生だ。




偶然、一度偶然出会って意識すると、引き合うんだろうか?
それとも今まで気が付かなかっただけで、あちこちですれ違ったり、同じ場所にいたりしたんだろうか?

それでも、なんとなく話しかけても、いつもすぐに背を向けられる。

「失礼します。」

今日もまた。

もう何度も背を向けられた。
細くなっただろう背中、ついその後ろ姿を見つめてしまう。

両親の誕生会の食事とケーキを見るつもりでデパ地下にいた。
お勧めのケーキ屋さんを相談したけど、何も教えてもらえなかった。
毎回毎回適当に買っていた。
そろそろ鈴もうるさくなるだろうか?
可愛い子供だましのケーキより、ちょっと大人っぽいきれいなケーキにしようか。

普段寄りつかないだけに、自分にはさっぱりわからない。
だから女性目線で教えて欲しかったのだが。

しょうがない、後は鈴の好みを聞いて参考にしよう。
ホールを買うなら注文した方がいいらしい。

鈴が買い物をしたかったら連れ来て選んでもいい。


向けられた背中を思い出し、鈴の笑顔にすり替えた。

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