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20 ダイエットが終わる理由
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こんなはずじゃなかったのに。
いつもより少しリアルがかった『勝手に失恋』のはずだったのに。
立ち直りかけては引き戻されて・・・・。
手を洗い、目元に力をこめて、うっかり出そうな涙を引っ込める。
席に戻るとちらりと見られた。
「少し外を歩かない?」
何で?
「ごめんね、会計しちゃったんだ。ちょっと歩きながら話をしようか?」
返事もしない私に構わず立ち上がり、上着を着る。
見慣れないトレンチコート。
声は覚えてるのに、顔にも姿にも、まだ慣れない。
ゆっくり立ち上がり自分もコートに腕を通す。
外に出て後ろをついて歩く。
「反対口に行くから。」
駅ではあらゆる方向から歩いてくる人が行きかう。
ぶつからないように気を付けて、背中を追う。
同じような恰好の人はあちこちにいて。
うっかり視線を外すこともできない。
後ろ髪も随分短くなっている。
顎のラインより上の、耳へ続くラインも初めて見た。
斜め後ろから見える顔を見てたら、いきなり振り向かれた。
手を出されて軽く触れるように重ねた。
無言で、今度は重なった手を見ながら歩く。
駅の中を抜けて、涼しい大通りを渡り建物に入る。
エレベーターで上へ行く間も、軽くつないだ手はそのままで。
何人かが同じ階で降りた。
外に出るとさっき通り抜けてきた駅が見下ろせる。
そんなに高い階じゃない。
後ろにも横にも、もっと高いビルがそびえる。
上を見ると眩暈がしそう。
手を引かれて端に行きつく。
同じ階を降りた人もそうやって柵に張り付いてる。
サラリと手が離された。
「まだ・・・犬の彼氏が忘れられないなら、待つ・・・・・よ。」
いつも話が突然で。
川瀬さんのことはハッキリ知り合いだって言ったのに。
何でそうなってるんだろう。
ぼんやり見上げる。
「後輩の子も知らなかったみたいだよね。だから自分がダイエットさせて拒食症みたいになったんじゃないかって心配してた。理由は違うんじゃないかなって思ったけど、さすがに僕が言うわけにはいかないから。」
「・・・その話の流れで『すず先輩を食事に誘ってください。』ってお願いされたかな。もしかしたら自分が今度は誤解してたのかな?少しは喜んでくれるのかなって思って誘ったんだけど、まあ、いつも声をかけるたびに、喜びとは程遠い感じだったなあ。」
「最初は単なる興味でもいいかなって思ってたし。」
「『お前に興味を示す女性が今まで社内にいたのかよ。』って兵頭には言われるし。」
ほんの少しだけ見慣れてきた顔が、覚えのある声でしゃべる。
見えてる姿のイメージが、少しずつ七尾さんという人物になる。
その内昔のボサボサを思い出せなくなるんだろうか?
それも少し寂しいかもしれない。
「何で急に髪を切ったり、格好を変えたりしたんですか?」
転職のためだと思ってた。
今度の職場はそんなスタイルにする必要があるんだと。
「だって、顔が見えないと誘われる理由が分からないって言ったでしょう?」
それは私が言った。
顎先しか見えない、視線も合ってるのか分からない。
そもそも誘われる理由が分からなくて。
「髪型変えたついでに服装も変えてみた。これはこれで楽だね。シャツだけ取り替えればいいから。社内ではジャケットは脱いでるし。ネクタイはさすがにしたくなくて。でもコートと靴はおかしいかなって思って買ったんだ。」
確かにジャケットにダッフルコートは・・・ないかな?
でも・・・・。
「そんなつもりじゃなかったんです。ただ・・・・・。」
「ただ?」
「何で誘われるんだろうって思って。それは沙良ちゃんのせいだって、分かりましたから。」
「じゃあ、平さんは、逆にそうやって頼まれたら誰かと飲みに行く?僕がシステムの後輩と飲みに行ってくれないって頼んだら行く?」
「行きません。知らない人と、そんな・・・・・何とも思ってない人に誘いをかけたりしませんし、誘われたりもしません。」
「僕もそうだとは思ってくれないの?あの後輩の子だってよく知らないよ、3、4回くらい一緒に飲んだことがあるだけ。兵頭と仲がいい後輩の子の一人。それだけの相手に頼まれたからって・・・・・、一緒になったら話はするけど、個人的に誘うと思う?」
「何度も言ってるつもりだけど。僕が誘ってるのは平さんだし、一緒に過ごしたいと思うくらい好きで、だから誘ったんだけど。今はまだ、と言われるなら、忘れるまで待つって言ったよね。なかなかストレートには言えないから伝わらなかった?きっかけは名前だったけど、ずっと気になってた。何度か仕事でお邪魔したら声を拾って、話に耳を傾けるくらいには。あの日は偶然だったけど、すぐに気が付いたのは僕だったよね。」
「週末、別に予定がないなら、一緒に僕と出掛けない?もちろんデートの誘いだけど。あと、もちろん妹は無しで。」
何で?
そう何度も思った。
今も本当は思ってる。
でもこれ以上聞いたら・・・・。
いろいろと説明してくれた気もする。
それで満足しないのって本当に呆れられそう。
「私も言いました。川瀬さんは彼氏ではありません。ダイエットが終わってからは会ってもいません。」
「そうは聞いたけど、なんだか『勝手に失恋』を繰り返すってあの後輩が言ってたから。意味はよく分からないけど。彼氏じゃなくても、忘れられないパターンはあるかもしれないし。」
「それは、・・・・いました。子供までいて、まさか結婚してたんだなんて思いもしなくて、好きになっても無理な人だって気が付いて、その時になって初めてその人を好きだったと気が付いて、諦めなきゃいけない人で、諦めたくて、でも難しくて・・・・。」
「・・・・・そう。」
「でも、一人暮らしだって聞いて、じゃあ離婚したのかもって考えたりして、それでも大切な家族だって何度も聞かされて、いろいろ考えて。・・・・そしたら妹だって。そんなの絶対分からないです。それなのに誤解してたの?よく間違えられるけど、なんて笑ってて。喜んでいいはずなのに、結局何も変わらないんだと思って。」
「・・・・それって僕のこと?」
「他に誰がいるんですか?そんな子供と間違えるくらいの年の離れた妹がいる人の方が珍しいです。珍しくなかったら、そもそも誤解しません。」
「今のが返事でいいのかな?」
「せめて顔を見せて、どんな顔をしてるのか見えないと、ほら、分からないから。」
同じことを言われた。
顔をあげて振りかえる。
いつのまにかすぐ後ろにくっつくようにいたらしくて、向きを変える隙間もないくらいだった。
少し後ろに下がってくれて、振り返り、やっと向き合えた。
肩に手を置かれた。
「ずっと好きでした。実際に私がお世話になったのは二回だけでしたが。すごく不安な時に助けてもらって。愛想もない人だと思ってたのに優しい気遣いの言葉をもらった気がして。沙良ちゃんの最初のパソコン設定の時には違うシステムの人が来て、がっかりしました。」
時々見かける、いっそだらしないと言える風貌の猫背の変な人。
でも目の前にいるのは・・・・。
本当はちょっとだけイケメンだったらしい。
顎先だけじゃわからなかった。
それに優しい顔をしてくれる。
予想外に沢山の笑顔も。
不愛想だと思ってたのに。全然で。
それも意外だった。
初めて視線をきっちりと合わせて、見つめ合ったまま。
くるりと体を回されて、また同じ方向を見る。
後ろから柵に手を置いて、狭いスペースに囲まれた。
「平さん。」
「顔をこっちに向けて。」
体は動かないからゆっくり顔だけ動かす。
それでも横を向くだけ。
そんなにクルッと首だけ後ろを向くなんて器用じゃない。
横から顔が見えて、ちょっとだけ目が合って、キスをしてくれた。
さっきの体勢でも良かったのに。
なんで向きを変えられたんだろう。
軽く唇の端に触れあって離れた。
見渡す限り柵に張り付いてるのは私たちだけ。
手を外してもらって、強引に押すようにして後ろを向いて向き合った。
腰に抱きついて背伸びをして自分から近づいた。
それでもあと少しは届かないから。
最後は顔を寄せてもらった。
「週末のデートは?」
「お願いします。」
腰の手をきつくして上半身もくっついた。
ボタンのかけられてなかったトレンチコートの間にすっぽり入った。
「小鈴ちゃんって、なんだか慣れないね。鈴の方が小さいし、すず先輩って聞き慣れてるし。」
『すず』でいいです、とは言えない。ややこしいから。
「『リン』ちゃんは?誰かそう呼ぶ?」
「いいえ。」
「じゃあ、そうする。『コリン』でもいいけど。」
「『リン』でお願いします。」
「ねえ、最初のパスワード、そうだった?」
「・・・・そうです。」
最初のパソコンの設定でパスワードと言われて『rinn』でいれた。
よく覚えてる。
それよりパスワード見てたの?
いいの?
そう思って見上げた。
「たまたま。ちょっと興味があって。」
そう言われた。
妹と似た名前だと言うだけで?
本当に大切な妹なんじゃない。
「週末、妹の鈴ちゃんとは、遊ばないんですか?」
「うん、今のところ特に連絡はないけど。一応聞いてみる。いつでも暇って思われてるけど、突然言われても困るから。事前予約制にするように言う。」
「何でって聞かれませんか?」
「大人の事情って答える。」
「・・・両親に言われますよ。」
「別にいいよ。」
そうですか。
ぎゅっと腕に力をこめて抱きついた。
頭にキスされたかもしれない。
撫でられてキスされて。
「人前でもキスするんですか?想像つかなかったです。」
「だからバレないようにわざわざ向きを変えたのに、こっちを向いたのはリンちゃんでしょう。」
「だって並びに誰もいないのは確認しました。」
「後ろにたくさん人がいたかもよ」
そんな気配も探ったけどいなかった・・・・と思いたい。
頭を撫でていた手が顎に来てゆっくり上を向いた。
本当に誰もいないと思う。
もうダイエットもおしまい。
きっと食べれる。
元気じゃない理由がないから。
さすがに冷えてきたから、手をつないでエレベーターに戻る。
やっぱり人はいなかった。
冷たい手を握り合って暖かくなるのを感じる。
つないだままトレンチコートのポケットにしまわれた。
ふたりの距離も近くなる。
ポケットの中で指を組み合わせてつなぎ直して。
来るときはあんなに頼りなくつながれた手だったのに。
今はしっかりとつながれている。
もう元気になる理由しかない。
連絡先を交換して別れた。
明日の夜までに行きたいところを考えててと言われた。
きっと、今夜にでも考えるから。
いつもより少しリアルがかった『勝手に失恋』のはずだったのに。
立ち直りかけては引き戻されて・・・・。
手を洗い、目元に力をこめて、うっかり出そうな涙を引っ込める。
席に戻るとちらりと見られた。
「少し外を歩かない?」
何で?
「ごめんね、会計しちゃったんだ。ちょっと歩きながら話をしようか?」
返事もしない私に構わず立ち上がり、上着を着る。
見慣れないトレンチコート。
声は覚えてるのに、顔にも姿にも、まだ慣れない。
ゆっくり立ち上がり自分もコートに腕を通す。
外に出て後ろをついて歩く。
「反対口に行くから。」
駅ではあらゆる方向から歩いてくる人が行きかう。
ぶつからないように気を付けて、背中を追う。
同じような恰好の人はあちこちにいて。
うっかり視線を外すこともできない。
後ろ髪も随分短くなっている。
顎のラインより上の、耳へ続くラインも初めて見た。
斜め後ろから見える顔を見てたら、いきなり振り向かれた。
手を出されて軽く触れるように重ねた。
無言で、今度は重なった手を見ながら歩く。
駅の中を抜けて、涼しい大通りを渡り建物に入る。
エレベーターで上へ行く間も、軽くつないだ手はそのままで。
何人かが同じ階で降りた。
外に出るとさっき通り抜けてきた駅が見下ろせる。
そんなに高い階じゃない。
後ろにも横にも、もっと高いビルがそびえる。
上を見ると眩暈がしそう。
手を引かれて端に行きつく。
同じ階を降りた人もそうやって柵に張り付いてる。
サラリと手が離された。
「まだ・・・犬の彼氏が忘れられないなら、待つ・・・・・よ。」
いつも話が突然で。
川瀬さんのことはハッキリ知り合いだって言ったのに。
何でそうなってるんだろう。
ぼんやり見上げる。
「後輩の子も知らなかったみたいだよね。だから自分がダイエットさせて拒食症みたいになったんじゃないかって心配してた。理由は違うんじゃないかなって思ったけど、さすがに僕が言うわけにはいかないから。」
「・・・その話の流れで『すず先輩を食事に誘ってください。』ってお願いされたかな。もしかしたら自分が今度は誤解してたのかな?少しは喜んでくれるのかなって思って誘ったんだけど、まあ、いつも声をかけるたびに、喜びとは程遠い感じだったなあ。」
「最初は単なる興味でもいいかなって思ってたし。」
「『お前に興味を示す女性が今まで社内にいたのかよ。』って兵頭には言われるし。」
ほんの少しだけ見慣れてきた顔が、覚えのある声でしゃべる。
見えてる姿のイメージが、少しずつ七尾さんという人物になる。
その内昔のボサボサを思い出せなくなるんだろうか?
それも少し寂しいかもしれない。
「何で急に髪を切ったり、格好を変えたりしたんですか?」
転職のためだと思ってた。
今度の職場はそんなスタイルにする必要があるんだと。
「だって、顔が見えないと誘われる理由が分からないって言ったでしょう?」
それは私が言った。
顎先しか見えない、視線も合ってるのか分からない。
そもそも誘われる理由が分からなくて。
「髪型変えたついでに服装も変えてみた。これはこれで楽だね。シャツだけ取り替えればいいから。社内ではジャケットは脱いでるし。ネクタイはさすがにしたくなくて。でもコートと靴はおかしいかなって思って買ったんだ。」
確かにジャケットにダッフルコートは・・・ないかな?
でも・・・・。
「そんなつもりじゃなかったんです。ただ・・・・・。」
「ただ?」
「何で誘われるんだろうって思って。それは沙良ちゃんのせいだって、分かりましたから。」
「じゃあ、平さんは、逆にそうやって頼まれたら誰かと飲みに行く?僕がシステムの後輩と飲みに行ってくれないって頼んだら行く?」
「行きません。知らない人と、そんな・・・・・何とも思ってない人に誘いをかけたりしませんし、誘われたりもしません。」
「僕もそうだとは思ってくれないの?あの後輩の子だってよく知らないよ、3、4回くらい一緒に飲んだことがあるだけ。兵頭と仲がいい後輩の子の一人。それだけの相手に頼まれたからって・・・・・、一緒になったら話はするけど、個人的に誘うと思う?」
「何度も言ってるつもりだけど。僕が誘ってるのは平さんだし、一緒に過ごしたいと思うくらい好きで、だから誘ったんだけど。今はまだ、と言われるなら、忘れるまで待つって言ったよね。なかなかストレートには言えないから伝わらなかった?きっかけは名前だったけど、ずっと気になってた。何度か仕事でお邪魔したら声を拾って、話に耳を傾けるくらいには。あの日は偶然だったけど、すぐに気が付いたのは僕だったよね。」
「週末、別に予定がないなら、一緒に僕と出掛けない?もちろんデートの誘いだけど。あと、もちろん妹は無しで。」
何で?
そう何度も思った。
今も本当は思ってる。
でもこれ以上聞いたら・・・・。
いろいろと説明してくれた気もする。
それで満足しないのって本当に呆れられそう。
「私も言いました。川瀬さんは彼氏ではありません。ダイエットが終わってからは会ってもいません。」
「そうは聞いたけど、なんだか『勝手に失恋』を繰り返すってあの後輩が言ってたから。意味はよく分からないけど。彼氏じゃなくても、忘れられないパターンはあるかもしれないし。」
「それは、・・・・いました。子供までいて、まさか結婚してたんだなんて思いもしなくて、好きになっても無理な人だって気が付いて、その時になって初めてその人を好きだったと気が付いて、諦めなきゃいけない人で、諦めたくて、でも難しくて・・・・。」
「・・・・・そう。」
「でも、一人暮らしだって聞いて、じゃあ離婚したのかもって考えたりして、それでも大切な家族だって何度も聞かされて、いろいろ考えて。・・・・そしたら妹だって。そんなの絶対分からないです。それなのに誤解してたの?よく間違えられるけど、なんて笑ってて。喜んでいいはずなのに、結局何も変わらないんだと思って。」
「・・・・それって僕のこと?」
「他に誰がいるんですか?そんな子供と間違えるくらいの年の離れた妹がいる人の方が珍しいです。珍しくなかったら、そもそも誤解しません。」
「今のが返事でいいのかな?」
「せめて顔を見せて、どんな顔をしてるのか見えないと、ほら、分からないから。」
同じことを言われた。
顔をあげて振りかえる。
いつのまにかすぐ後ろにくっつくようにいたらしくて、向きを変える隙間もないくらいだった。
少し後ろに下がってくれて、振り返り、やっと向き合えた。
肩に手を置かれた。
「ずっと好きでした。実際に私がお世話になったのは二回だけでしたが。すごく不安な時に助けてもらって。愛想もない人だと思ってたのに優しい気遣いの言葉をもらった気がして。沙良ちゃんの最初のパソコン設定の時には違うシステムの人が来て、がっかりしました。」
時々見かける、いっそだらしないと言える風貌の猫背の変な人。
でも目の前にいるのは・・・・。
本当はちょっとだけイケメンだったらしい。
顎先だけじゃわからなかった。
それに優しい顔をしてくれる。
予想外に沢山の笑顔も。
不愛想だと思ってたのに。全然で。
それも意外だった。
初めて視線をきっちりと合わせて、見つめ合ったまま。
くるりと体を回されて、また同じ方向を見る。
後ろから柵に手を置いて、狭いスペースに囲まれた。
「平さん。」
「顔をこっちに向けて。」
体は動かないからゆっくり顔だけ動かす。
それでも横を向くだけ。
そんなにクルッと首だけ後ろを向くなんて器用じゃない。
横から顔が見えて、ちょっとだけ目が合って、キスをしてくれた。
さっきの体勢でも良かったのに。
なんで向きを変えられたんだろう。
軽く唇の端に触れあって離れた。
見渡す限り柵に張り付いてるのは私たちだけ。
手を外してもらって、強引に押すようにして後ろを向いて向き合った。
腰に抱きついて背伸びをして自分から近づいた。
それでもあと少しは届かないから。
最後は顔を寄せてもらった。
「週末のデートは?」
「お願いします。」
腰の手をきつくして上半身もくっついた。
ボタンのかけられてなかったトレンチコートの間にすっぽり入った。
「小鈴ちゃんって、なんだか慣れないね。鈴の方が小さいし、すず先輩って聞き慣れてるし。」
『すず』でいいです、とは言えない。ややこしいから。
「『リン』ちゃんは?誰かそう呼ぶ?」
「いいえ。」
「じゃあ、そうする。『コリン』でもいいけど。」
「『リン』でお願いします。」
「ねえ、最初のパスワード、そうだった?」
「・・・・そうです。」
最初のパソコンの設定でパスワードと言われて『rinn』でいれた。
よく覚えてる。
それよりパスワード見てたの?
いいの?
そう思って見上げた。
「たまたま。ちょっと興味があって。」
そう言われた。
妹と似た名前だと言うだけで?
本当に大切な妹なんじゃない。
「週末、妹の鈴ちゃんとは、遊ばないんですか?」
「うん、今のところ特に連絡はないけど。一応聞いてみる。いつでも暇って思われてるけど、突然言われても困るから。事前予約制にするように言う。」
「何でって聞かれませんか?」
「大人の事情って答える。」
「・・・両親に言われますよ。」
「別にいいよ。」
そうですか。
ぎゅっと腕に力をこめて抱きついた。
頭にキスされたかもしれない。
撫でられてキスされて。
「人前でもキスするんですか?想像つかなかったです。」
「だからバレないようにわざわざ向きを変えたのに、こっちを向いたのはリンちゃんでしょう。」
「だって並びに誰もいないのは確認しました。」
「後ろにたくさん人がいたかもよ」
そんな気配も探ったけどいなかった・・・・と思いたい。
頭を撫でていた手が顎に来てゆっくり上を向いた。
本当に誰もいないと思う。
もうダイエットもおしまい。
きっと食べれる。
元気じゃない理由がないから。
さすがに冷えてきたから、手をつないでエレベーターに戻る。
やっぱり人はいなかった。
冷たい手を握り合って暖かくなるのを感じる。
つないだままトレンチコートのポケットにしまわれた。
ふたりの距離も近くなる。
ポケットの中で指を組み合わせてつなぎ直して。
来るときはあんなに頼りなくつながれた手だったのに。
今はしっかりとつながれている。
もう元気になる理由しかない。
連絡先を交換して別れた。
明日の夜までに行きたいところを考えててと言われた。
きっと、今夜にでも考えるから。
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