小さな鈴を見つけた日 

羽月☆

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22 ようやく重なった時間の始まり

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土曜日、昼間に彼女に会った。
結局自分が会社に行くのと変わらない格好になった。
どっちに寄せるのかと考えたら、ジーンズとパーカーよりはいいだろうと、シャツにパンツ、トレンチコート。
そうなった。
明日服を買いに行こう。


「まだ仕事用のスタイルも新鮮だから・・・。」

事情を話した自分にそう言った。


彼女は仕事よりは色を明るくしてるし、・・・・スカートが短い。
タイツに合わせてるから見逃しそうだけど、結構短い。

似合ってるから褒めたが、ちょっと気になった。
長めのガーディガンがコートのようで、なんとか隠してくれている。

・・・・・・。


彼女が秋バラを見に行きたいと言うので付き合った。

降りたこともない駅で降りて坂を上る。

入場料を2人分払ってもらい入る。

パンフレットを見るとひと昔前のお金持ちの邸宅だったらしい。
その建物や庭の設計が有名な人によるものだと。
なるほど。

その庭園を望むように高い所から見える。
人が多くてシンメトリーが美しいと言われる庭園もあまりよく見えないのは残念だが。

ゆっくり降りて行き歩く。
洋風の建物と庭園、だけど奥には日本庭園があった。

そっちの方が断然広い。
比較的高齢な人が多い気もする。

ゆっくり手をつないで歩く。
時々顔を見られるが、何だろう?


「前にも来たことがあるの?」

「はい、ずっと前に、一度だけ。建物好きな友達と来ました。」

デートではないらしい。

「写真ではすごく庭もきれいだね。人が多くて少し残念だけど。雪景色も良さそうだしね。」

「そうなんですよね。早い時間に来るといい感じかもしれません。雪の日にここまで登って来るのは危険ですね。滑りますよ。近くに住んでたら一度見てみたいです。」

鯉を眺めながら、鴨に声をかけながらゆっくり歩く。

「中も見れるんです。空いてたら少しお茶してもいいですか?」

「いいよ。」

窓から下の庭園が楽しめるようになっている。
二階もあったから上からだともっときれいなんだろう。

紅茶を飲みながらゆっくりと建物を見る。
今ではクラシックな感じに映るが、当時この建物に住むのはかなりハイカラな気分だっただろう。

彼女が初めてのデートにここを選んだのが意外なのかどうなのか。
ハッキリ言って分からない。

本当に何も知らない同士だ。

時間をかけた割にはお互いに探り合いの状態だ。
世話好きの同僚二人のおかげだとも思う、感謝しよう。


「退屈してないですか?」

「ううん、楽しんでるよ。」

「良かったです。」

「その友達とは他にもいろんな建物に行った?」

「はい、今でも一人で行くお気に入りの場所もあります。この建物を建てた人と同じ人が建ててます。きっと七尾さんも近くを通ってますよ。」

「そう?会社の近く?」

「はい。じゃあ、今度連れてって。」

「はい。」

今日は笑顔しか見てない気がする。
自分もつられて笑顔になるような笑顔。

「リンちゃん、明日の予定は?」

「特にないです。」

「じゃあ、買い物に付き合ってくれない?出かける服を買いたいんだけど、靴も。」

「はい。どのへんで買いますか?今のはどこで買ったんですか?」

「駅中のお店。でももう少し安い服でもいいなあ。」

「あんまり紳士服は分からないんですが。女性用と一緒に売ってるところだとそんなに高くはないですよね。大体そう言うところは子供服もあったりしますから。予算が余ったら鈴ちゃんとお揃いで買ったらどうですか?」

「お店知ってる?」

「はい。でも七尾さんの駅に近い店舗もあると思います。後で調べてみます。」

「お願い。いっそ僕の部屋の服を見てもらってから選んでもらおうかな、ねっ。」

そう言ったらじっと見られた。
何だろう?

「無理かな?」

「いえ・・・・。大丈夫です。」

「じゃあ、よろしくね。」


「こういうところでスケッチするような趣味もいいよね。才能あったら是非やりたい、憧れるなあ。」

「美術が得意なんですか?」

「ううん、まったくの才能無し。恐ろしいくらい。」

「絵は道具だけ揃えても上手くなりませんからね。」

「そうだよね。」


「リンちゃん、何が得意?」

「得意・・・・・一応料理と答えるところでしょうか?でも得意と言えるほどでもなく、普通です。得意なのは・・・・。苦手なモノなら言えます。」

「何?」

「早く動く運動と、球が小さい球技と、疲れても頑張らなくてはいけない競技です。」

「それは・・・勝負は放棄ってことだよね。逆に得意な運動はあるの?」

「ないです。早さを求めず、球を大きくしてもらって、疲れたら休めるルールにしてもらえたら・・・・。」

「分かった。ビニールのスイカボールのビーチバレーを少しって事かな?」

「暑いのはちょっと・・・・。」

「・・・小学生の玉入れはなんとかいける?今度、鈴の保護者として一緒に参加する?」

冗談でそう言うと、悔しそうな顔なのか、ちょっと複雑な表情をする。


「ダイエットした時期が良かったんだね。夏だったら無理だったでしょう?」

「はい。それにあの時は痩せたら沙良ちゃんに奢ってもらう約束もありましたから。」

「無事痩せれて良かったね。でも前の柔らかい雰囲気も好きだったけど。僕はぜんぜん普通だと思ってたけど。」

「よく知らないじゃないですか、・・・・そんな事言って。」

「『こすず先輩』から『すず先輩』になったいきさつも聞いてたよ。ちょうどその時お邪魔してたんだよ。」

「聞いてたんですか?」

「うん、聞こえるって。僕なんてほとんど気配殺して仕事してるし。気が付いてた?」

「はい・・・・。」

「本当に?普通にあの子と盛り上がってたよ。」

「多分・・・・。」


紅茶も飲み終わり移動することにした。
少し電車で動いて有名な商店街へ。
どこも大きい町は同じようなお店が並ぶけど、まだまだここは個人商店が残っている。
そんなところも外人に受けてるらしく日本人と同じくらいの人数を見る。
アジア人がいるから分かりにくいが半分くらいそうかもしれない。

小さなお店を見ながら時々買い物をしたりして。

路地裏をのぞき込んだり、レトロなお店を見ながら商店街へたどり着く。


「七尾さん、来たことありますか?」

「ない、初めて。」

「良かったです。夕方がきれいなのでどこかでゆっくりしたいです。」

そう言ってつないだ手を振られた。

「どこかでお昼を食べようか。」

「じゃあ、今度は違う通りをふらふらしましょう。何食べましょうか?」

「ゆっくりできれば、何でもいいよ。」

「少し時間がズレてるのでゆっくり出来そうです。毎回来るたびに有名なメンチカツに挑戦しようと思うのですが、いまだに未体験です。テレビでも良く取材されてますけど、見たことありますか?」

「ない・・・かな。」

「さっきお店はあって、何人か並んでました。間違いなく揚げたてですよ。」

「食べたいなら、お昼は軽くでもいいよ。」

「はい、夕方まで神社の方へ散歩してもいいです。歩くのは苦じゃないですから。」

「疲れたら休めばいいし、小さい球も使わないからね。ゆっくりでいいよ。」

「当然です。それが散歩の醍醐味です。」

「得意な事あったね。季節限定だけど。」

「いい天気で良かったです。雨が降ったら水族館とか美術館とかにしようと思ってました。」

「じゃあ、今度ね。」

視線は合わないのに、つながれた手がぶんぶんと振られた。

犬の尻尾並みの感情表現だとしたら嬉しい。

何だか鈴といるのと変わらない気がしてきて、少し変な気分になる。
言えないけど。


鈴には週末出かけることが多くなるから、用事がある時は早めに聞いてほしいと言った。
ビックリしたことにすぐに返事が来て、『恋人が出来たの?』と聞いてきた。
文字だけではつまんなく思ってるのか、喜んでくれてるのか分からない。
その後に『私が会ったことある人かな?』と続いた。
どういうことだ?
それでは限定される、ほぼ一人のみ。
返事もできず。

『読んだのバレてるよ、そうなんだね?やる~。』

喜んでくれてたらしい。
ただなんでバレたのかは不明。
子どもでも小さな女性なのだ。侮れない。

時間をおいて『おおむね正解。』そう送った。

『お母さんたちに言っていいの?』 

ちゃんと聞くところが偉い。

『まだまだ内緒でお願いします。』 

下手に出たら口止めのご褒美を催促された。

『何をおねだりするかは考えておきます。』

結局『了解。』とスタンプを送り終わりにした。


「せっかくなので昔ながらの喫茶店に入ってみますか?」

「いいよ。」

いきなりはちょっと勇気がないと言うので、口コミで調べて店内の様子の写真とメニューなどをチェックした。
本当に便利である。

評価もよく安心して入った。

外から見るより明るい店内だった。
高齢な夫婦が経営してるかと思いきや、若い二人がカウンターにいた。

メニューも半分は懐かしいテイストを残しつつ、甘そうなものには全力で今時の感じがあった。
世代交代があったのかも。

サンドイッチとナポリタンという定番そうなメニューを頼んでみた。

取り皿をもらおうとしたら半分に分けてくれると言われた。
親切だ。

「あんまり食べたことないです。ナポリタン。」

「そうかもね。ミートソースならなんとか。ナポリタンはないなあ。」

「初めてがたくさんですね。」

「そうだね。」

二つのメニューも時間差で出てきた。
本当にありがたい。
ゆっくり時間をかけて食べて。のんびりして。

食べ終わったら彼女が携帯を操作して、さっきの洋服のお店を検索してくれた。
近い店舗でいい。一緒に行くことになった。


神社まで散歩して、また商店街に戻る。念願のメンチカツを半分づつ食べる。
夕方になるころ、わらわらと人が階段に集まってきた。

野良猫を撫でてる人もいる。

夕日もそれなりにきれいに見えた。
皆が同じ方向を見て写真を撮っている。

さっき撮ればよかったのに何で考えつかなかったんだろうか?


「写真撮ってもらう?」

「暗くなってしまいました。」

「そうか。さっきの庭園で撮ればよかったね。」

じっと見られた。


「もしかして、言えなかった・・・とか?」

「はい。」


「また今度行こうか?」

「はい。」

薄暗くなってまた人がわらわらといなくなる。


「今日の予定は満足?」

「もちろんです。」

「じゃあ帰ろうか。」

「はい。」

近くの地下鉄の駅に入り地元を目指す。
6時頃には着くだろう。

「ねえ、うちに来れば車で送って行けるけど。」

「良ければ、どうかな?・・・・あと服を見てもらってもいいかな?」

ちょっとずるい誘い方だったかもしれないけど。
一緒に自分の部屋に向かう。

「さすがにお腹空かないね。」

「そうですね。」

駅に着いて部屋に戻る時に思い出して聞いてみた。

「ねえ、そのスカートは会社にも着て行ってる?」

「いいえ、ちょっと短いので。普段、長い上着の時に着るだけにしてます。」

「そう。」

今度は自分が手をぶんぶんと振ってしまった。
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