小さな鈴を見つけた日 

羽月☆

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23 知らないことはまだまだたくさんある

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あっさり部屋に誘われた。
車で送ってもくれると言う。

昼ごはんも遅かったし、メンチカツがお腹にどっしりと残ってる。

手をつないで知らない道を行く。
川沿いのあの広場は数駅向こう。
そのあたりに実家があるなら本当に近い。

駅からしばらく歩く。
多分10分は歩かない。

緊張するけど、あまり緊張するのも変かなって思い直し。
服を見るついでにちょっと寄るだけ。


途中私のスカートのことも聞かれた。
ニットの長めの上着に隠れてるが実は短いスカートだ。
あまり見えないからいいかと思ってる。
その代わりに上着が脱げない。


小さなマンションの前で立ち止まる。

「ここなんだ。」

そう言って入っていく。


古そうだけどシンプルなコンクリートの角のあるマンション。
コの字型で間に大きな木がある。
ぐるりとその木の下を通り真ん中から入り両脇にそれぞれ分かれてエレベーターがあるらしい・・・・残念、階段だった。

4階建てだから階段でもまあまあ。
七尾さんの部屋は2階だった。
・・・・階段でも楽勝。
大きな荷物の時は困るかなあ。

「エレベータに乗っても部屋が遠いだけなんだ。普通は階段を使ってる。」

あ・・・あったんだ、エレベーター。

きれいに掃除されていた。
丸い電球が同じ間隔で廊下を照らしている。

本当に奥の部屋だった。
カギを開けて入る。
どの部屋からも大きな木は見える。
二階だからモリモリとした葉の部分が見える。

さすがに4階の人は木のてっぺんくらいの高さだった。

「どうしたの?」

「いえ、大きい木だなあって思って。」

「そうだね、一年中緑だから、台風の次の日は掃除が大変そうだし、クリスマスの時期は少し電飾がつくし、雪の日は・・・見たことがない。クリスマスツリーに見えるかな?」

暗い部屋に入る。
次々に明かりがついてホッとする。

「座ってて。お茶いれる。」

そう言って薬缶をかけている。
玄関にコートを脱いで戻ってきた。

奥の部屋に明かりをつけてクローゼットを開ける音がする。

「ねえ、これこれ。」

呼ばれて入る。当然寝室だった。
そっちは見ないようにして、開けられたクローゼットを見る。

「こっちは先週買った仕事用のシャツ。」

薄い色目のシンプルなビジネスシャツが三枚かかっていた。
後はスーツ。

「こっちが普段着。・・・・酷いね。」

ハンガーにかけられるでもなく、くるくるときれいに丸められて突き刺さる様に入っているのはTシャツ。
長袖と半袖。
トレーナーとパーカーが積み重ねられている。
その下にジーンズが二本。

これで全部?

季節は?

ダッフルコートがハンガーにかかっていた。

本当に全部?

「・・・・・これで一年分ですか?」

「うん、そう・・・・。少ない?」

「・・・女性とは違うので・・・・・。」

シンプルだった。
確かに会社でもパーカー・・夏は記憶にない。

「斬新なしまい方ですが、きれいにしてるんですね。」

取りあえず褒める。
今、私の部屋はすごい。
あれこれと朝に悩んで合わせた服やタイツ、もろもろ畳まずに適当に半分折りして小山になっている。

いつもこうなんだ。
ものが少ないとこうなんだ。

クリアケースの中にうっすらと見えるのは下着や靴下だと思う。
それだって、うっすら見える限りでも綺麗。

意外・・・・きちんと整理整頓できたんだ。


ギャップだらけ。


「あ、お湯が沸いた。ちょっと見て記憶したらリビングに来てね。」

結局どういう格好をしたいんだろう?
マネキンのセット丸ごと三パターンくらい買った方がいいのでは。
それに合わせて小物も。

随分色落ちしたパーカー。
色が濃いのでそう思うけど、もともと?
一つTシャツを取り出してみる。
首元がだいぶん・・・・・・。

う~ん。

悩んでる顔をして立ち尽くす私の元に戻ってきた七尾さん。

「そんなに問題ありなんだ。」

「シンプル過ぎてびっくりです。」

仕事用の服を見る。普通。

さり気なくブランドを見る。
そこまでお金をかけなくてもカジュアルなラインだと揃うとは思う。

後は好み。

クローゼットを閉じて部屋を出た。
後ろで電気が消えた。

ソファに座ってお茶を頂く。

パソコンを持ってきてもらい、お店のホームページを出して商品を見ながら確認してもらう。

「近くに他のお店もあるし数軒回って気に入ったところで買うのもいいかと思います。どんな格好が好きなんですか?」

「どんなと言われても、特にないとしか。」

顔を見つめる。
細めの小さめの顔。
髪の量も思ったほど多くないらしい。
猫背も少し伸びて、普通。
やや痩せてる感じ、背の高さも普通。

だから個性が消えた。

こうなると平均的なかっこうなら何でも行ける。
突飛なデザインじゃなければいける。

色味が白グレー紺しかなかった。
もっと違う色を着せたい気もする。

元々のあの髪の毛が日よけになって色は白い方だろう。
ひげは濃くない。

明るい色でもいいでしょう、薄い色でもいいでしょう。

なんだか楽しくなった。
後はお値段。

楽しさが笑顔になったらしい。
ずっと見られて大人しくしてた七尾さんが動き出した。


「どうなった?」

「今までの白グレー紺は封印しませんか?」

「色・・・・、別にこだわらない。」

「似合います、きっと。明るい色にしましょう。」

ホームページを見てあれこれと提案してみた。

特に反対されるでもなく。
本当にこだわりがないらしい。


「七尾さん、もしかしてお母さんが服を買ってきて、それを着てた感じでした?」

「え・・・さすがに中学からは自分で買ってたけど。」

「そうですか。」

「なんだか含みがあるなあ。センスがないとはっきり言われた気がする。」

「あれではセンスをどうこう言うより、興味がないとしか言えないです。センス以前、シンプル過ぎます。」

「合わせるのを悩まなくて済むじゃない。」

「・・・・もっと楽しんでもいいです。鈴ちゃんに呆れられますよ。女の子はおしゃれが好きですから。」

「頼りにしてます。」

「私も楽しみです。たくさん試着しましょうね。」

頼まれ仕事はおしまい。

時計を見ると7時になっていた。
同じように時計を見た七尾さん。

「リンちゃん、泊ってもいいけど、帰りたい?」

もちろんです。
黙ってうなずいた。
そんな簡単に決められない。いろいろと心と・・・他にも準備が必要だし。

「でも、まだいいかな?」

「はい。」

返事をすると、立ち上がって音楽プレイヤーの電源を入れた七尾さん。

「そうか、鈴にも馬鹿にされるかな?」

馬鹿にされるとは言ってないはず・・・よね。


「え・・・どうでしょう?でもかっこいいお兄さんがいいですよね。髪を切ってから会ってないんですか?」

「あ、そうだね。」

「びっくりしますね、きっと。その短さはいつぶりですか?」

「ここまで短いのは・・・高校生卒業まで。」

「大学でも長めだったんですか?」

「そうだね、あ、就活の一年は短かった。」

「まあ、そうでしょうね。ちゃんと就活スーツ着てたんですよね。入社式と研修中も。」

「うん、そうだね、先輩も結構ラフな感じが多かったから、いいんだって思って楽なスタイルになったのに。すっかり自分だけになって。僕まで辞めて、とうとう皆真面目になった。」

「ネクタイはないですけどね。」

横並びで体ごと向かい合ってしゃべる。

七尾さんの手が伸びてきて足元の上着の前を合わされた。
その前の一瞬はめくられた。

「やっぱり短いね。」

自分でも隠す。
痩せて着れたシリーズ、だから去年とか、その前の頃の服。
長いブーツを合わせてたりすると短さも気にならなかったのに。

今はさすがに会社には着て行けないと思ってる。


「明日は何時がいい?」

「また、お昼くらいにしますか?脱ぎ着しやすい格好で来てくださいね。」

「そうなるとパーカーになるけど。」

笑って答えた七尾さん。

「今日、帰ったら何するの?」

「別に・・・何も。」

そう言いながらも、昨日と同じようにパックはする。
部分的に。美白と毛穴ケア。
鼻と顎だけででも。

後は今日出番のなかった服を畳んで仕舞い込み、明日の服を選んで。
気分は忙しい。
二日連続で誰かと約束するなんて久しぶりだし。


「リンちゃん、ちょっと・・・、遠くない?」

七尾さんが自分と私の距離を見て言う。

ソファの距離感。
どうなんだろう?
ちょっと、遠いかな?

少し動く。

困った顔をされた。

グンと距離を縮められて、抱きかかえられるように手を回された。

「ねえ、さっき聞いたから、大丈夫だから、緊張しなくてもいいよ。」

ポンポンと背中を叩かれた後ゆっくり撫でられて。
捲れたカーディガンの足元も隠された。

そんなつもりはなかったけど、やっぱり緊張していたから。
大きく息を吐く、静かに。
でもバレたと思う。
体に触れた手を押し返すくらいには背中が動いたかも。

肩から力を抜いてもたれる様にしながら、代わりに腰に腕を回して力をこめた。

また裾を直された。
やっぱり短いらしい。

背中の手が頭を撫でてくれる。
キスをされてるのも分かる。

顔をあげられなくて。
今あげたら目が合う。
ただ抱きつくだけにした。


「もう少ししたら送って行くから。車だときっと近いと思うよ。」

そうだと思う。バスが出てるかもしれない距離。

「楽しかったね、今日。」

うなずく。

「また、明日だね。」

うなずく。


今日一緒にいて改めて思った。
こんな人だったんだと。

微かな思いやりを見つけて好きになった気になっていたけど、本当は全力で優しい。

『変な人』 そう噂されるくらいの人。

そんなイメージなんて、今は全くない。
でも、それに気が付いたのは私が最初でも、その内みんな気が付く。

あんなに近寄るなオーラ出してた気がしたのに。
今は全く感じられない。

何だったんだろうと思う。

しばらくくっついて離れないまま。
静かに音楽だけが流れる空間。

「リンちゃん、寝てない?」

そう言われさすがに離れた。

「起きてます。」

「ならいいけど。寝たら、起こさないよ、お酒飲んじゃうよ。車運転できないよ。送れないよ。」

「寝ません。」

「了解。」

ゆっくりキスを繰り返して。
顔が離れたから目を開けた。

「送ろうか?」

「ありがとうございます。電車でも帰れますよ。」

「大丈夫、送るよ。」

「じゃあ、お願いします。」

車に乗り込んで、エンジンをかける前に。

「リンちゃん、今度泊まりに来て。」

そう言われた。

「はい。」

エンジンをかけてゆっくり車は動き出す。
すぐに止まり住所を入力する。

本当に近かった。

車を降りて、手を振る。

「気を付けて帰ってください。明日お昼に、また。」

そう言って見送った。

さてさてパックパック。
まずは、お風呂。
ちょっと・・・・緊張した体をほぐしたい。
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