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19 私がコントロール可能なのは色気レベルだけ。

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「弓削さ~ん、そろそろ起きる?」

久しぶりの声がした。

「ああ、卜部君、懐かしい声で目が覚めた。最近全然起こしてくれなかったから。」

伸びをして眠気もすっきり取れた。
うん、いつも通り。

でも思ったより静かなテーブル。
どうした?

「もう皆さん飲み過ぎですか?お腹いっぱいですか?」

「うん、もういいかな。」

卜部君がそう言った。

「まあ、久しぶりだけど、同じパターンだろうね。」

「どうする、もう少し飲む?」

「いいえ、もう美味しいお酒を堪能しました。お腹もいっぱいです。」

「じゃあお会計をお願いしようか。」

林さんがそう言ってお金を集める。
他のテーブルは女子トークで盛り上がってるみたいだ。

何だかここだけ静かだった。


だいたいやっぱり隣の葛城さんが静かなのだ。
二人とも知ってるんだから別にいいのに。
もっと構って欲しいとは言わないけど、もっと喋ってもいいのに。

本当に相変わらずだった。

もしかして私が寝ていた30分はよく喋ったのだろうか?

今日はもともと一緒に帰る予定だった。
二人になったら手をつないで、一緒に電車に揺られて、一緒に葛城さんの部屋に。
明日の昼までのんびりでいい。

週末はやっぱりいい。


お金を払ってエレベーターに乗る。
まだまだ盛り上がってる他の席では宴は続いている。

こんなに女子がいたんだから、卜部君の好みの人はどんな感じか聞いてみればよかった。
きっと優しい控えめな人なんだろう。


駅から近いビルの屋上だったから、すぐに二人と別れた。

手を振ったそのままの手を、葛城さんに絡めた。

ゆっくり歩きながら改札に入る。

あちこちで赤い顔をした会社員がぼんやりと電車を待つ。

葛城さんは今日も全く色なし、表情もついでになし。

「葛城さん、たくさん飲みましたか?」




「お前は本当に厄介だな。」

いつもなら『ああ』とかそのくらいの返事かと思ってたのに、思ってもいない反応だった。

「イエス・ノーで答えてもいい質問でしたが。」

「お前が飲み過ぎたのだけは知ってる。ただ卜部がやばいから早く酔いつぶして寝かそうとしたせいもある。」

なに?
次々とおかわりが来た気もした。
頼んでもないのに、そう言えば同じものを三杯くらい飲んだ気もする。

「帰ったら教えてやる。とても人前では口に出来ない醜態だぞ。」

そんな怖いことを言って黙った。

何?どんなやばい事を言った?した?
止めてくれれば良かったのに、なぜ卜部君頼りだったの?


コンビニで好きなものを買っていいと言われた。

「お酒ですか?」

「アホか・・・・しばらく禁酒しろ。明日の朝ご飯と昼ご飯と夜ご飯だ。」

「なんで全部コンビニ限定なんですか?」

ギロッと睨まれた。

はいはい。

大人しく適当にレトルトを買い込んだ。
美味しいものを食べに行く選択はないらしい。
楽しく外出する気分にならないらしい。

袋一杯に買い込んだものを手に、部屋に戻った。


腕を掴まれてソファに座らされた。


「卜部も林も、お前が思いを成就させたから、てっきり満足してるだろうから、もう飲ませても愚痴が出るなんて思ってなかったんだろう。油断だったと今頃反省してるかもしれない。」

「私はまた何か言いましたか?」

「ああ、言った言った。あれはこれはどうだこうだ、俺への不満を思いっきり言ってくれた。」


そんな・・・・・。

「『自分勝手に決めてついて来いって偉そうだと、聞かれるのはピラフかパスタの冷凍食品二択だけだと。』」

それはそうじゃないですか・・・・・、あ、だから・・・。

「別にそれは多分例えの一部です。コンビニでたくさん選ばせてもらいました、満足します。」

だいたいそんなのはどうでもいいと思ってるだろう。
なんで馬鹿正直に三食分も買わされたんだか。
お金は葛城さん持ちだから本当に選んだだけだけど。

「『ベッド以外でも褒めろと、何気ない時に好きだと、愛してると言えと。何でベッド以外で言ってくれないんだと。』」

思わず血液が沸騰するくらいの恥ずかしさを覚えた。
本当に『ベッド』と具体的に言ったの?二回も?

「『ぐったり疲れて、寝入る寸前しか頭を撫でてくれないと。そんなのは気持ち良くてすぐ寝るから覚えてない。』」

「普通に明るい所でも、服を着てる時でも、褒めてもらい、好きだと言ってもらい、頭を撫でてもらいたいらしい。お前のそんな愚痴を聞かされる二人の身になれ、そしてそんな暴露をされて独り耐える俺の身にもなれ。」

沸騰した血液はそのままぼこぼこと音を立てている。

「すみません。」


「しばらく俺と二人の時以外禁酒だ。分かったな。」

「はい。すみません。」



うなだれてしまう。確かに醜態だ。
恥ずかしい。本当にひたすら酒癖が悪いの一言だ。



ソファにどさりと体を預けた葛城さんの手が伸びてきた。
腕が巻き付いて体に寄せられた。
大人しく体を預けた。


「愛してる。お前がいいと言ってるのに。それにちょいちょい頭は撫でてるだろう。お前が寝つきが良すぎるから覚えてないだけだ。」


気持ちいい、確かにそうされると安心する。
短いまっすぐな毛並みを整えられると安心できる。

「おい!寝るな。」

目を開けた。

「満足してます。本当に分かってます。つい言っただけです。愚痴ってみたかっただけです。」



「目が座ってたし、二人に感想を聞きながらも指を指して責められたんだがな。」


「すみません。心にもない事を。全部、ちょっとしか思ってません。」


「分かってる。途中不満はないとは言ってた。それでも次々言い出すんだから、お前も本当に・・・・・支離滅裂な奴だな。本当に酒癖が悪い女なのか?俺の前だけだとしたら退屈はしない。せいぜい隠し事も出来ないだろうな。大人しく聞いてやる。」



許された・・・とは思わない。
やっぱりお酒は当分飲むなということだ。

「はい。」

しょうがない、自分でもおかしいと思う。
なんで反抗してしまうのか、いや普段しない分がたまりにたまってるのかもしれない。

あっ。

「そういえば、色気ないって、全然ないって言われました。」

「いいだろう、全開にした姿を知ってるんだから、それに比べたら本当にない。隠すのがうまいんだな。よしよし、褒めてやる。ゼロから百まで自由に表に出せるんだったら、そんなに器用なら偉い偉い。」

何か誤魔化してないか?それは褒めてるのか?

まあ、いい。必要な時に出せてると思ってやろう。


「ほら、シャワー浴びてこい。全開で戻って来てもいいぞ。」

お尻を叩かれた。

「痛いです。」

「ちょっとしたスキンシップだ。赤くなってたら、後で撫でてやるから。」

なんじゃそりゃあと言いたくなる。
本当に支離滅裂なのは誰だ。




私が選んだコンビニ商品は本当にすべて食べつくした。

日曜日、さすがに外に食べに行きたいと提案した。


二人で駅の方に歩いて行って、商店街の古そうなお店に入った。
よくある洋食屋さんだった。
オヤジサンとその息子さんがやっている感じのお店だった。


湯気の出る綺麗な色のご飯と歯ごたえのある新鮮野菜。
ガツガツと食べた。

「なんか、本当にえさを与えてる気分になる。なんで明るい顔で笑って一口づつ食べられないんだ?がっついてるぞ。」

「お腹空いたんです。半分くらいは勢いで食べさせてください。」


半分くらい食べてから、一度スプーンを置いた。


「美味しいです。」

「そうか、良かったな。」

珍しく普通に笑ってくれた。貴重な瞬間だ。


「葛城さんのも美味しいですか?」

そう言ったらすかさず皿が近寄って来た。

「一口なら食べていいぞ。」

「じゃあ、遠慮なく。」

ガツッとスプーンで掘り起こして食べた。


ビーフシチューだった。
肉の塊もあるけどほどけたお肉もたくさん入っていた。

「美味しいです。」

「やっぱり自由にゼロまで落とせるんだな。」

しばらくしてピンと来た。
色気レベルの話らしい。

「今、必要ですか?」

「普通それなりの相手が目の前にいるならにじみ出るくらいはあっていいと思うが、使い切ったのか?食い気しか見えない。」

葛城さんはどうなんだとじっと見る。

顔の前で力なくフォークが下を向いている。
表情は呆れた感じだろうか?
あるだろうか、それ? 
細めの指とか、唇とか、顎とか、肩の辺りから胸のあたりまで・・・・。
とりあえず『食い気』はない。
それよりはあるかもしれない、もしかしたら、目を閉じてる間の記憶の気配かもしれない。

「なに黙ってひとりで赤くなってるんだ?」

ニヤリと笑う。

「別に何も思い出してません。」


「自爆か。」

そう呟かれたけど無視した。

目の前のご飯に視線を落として、食べ始めた。


この問題は誰に相談すればいいんだろう。
林さんにも卜部君にもそう言われたも同然だ。
今度オーナーに相談しようか。
大人の女性の意見を聞きたい。

早く終わった時に行ってみよう。


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