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6 研修が終わりちょっとだけ思い出したこと。
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楽しみにしていた。
一緒に飲みに行くなんて、仲良くなったって証拠だよね。
それに話をあんまりしたことない男の子もいる。
そしてこっそり言われたこと。
意識しないようにしても無理だと思う。
その人のことが見れないと思う。
何で内緒にしてくれなかったのよ・・・・・、なんて。
そんなことを思って視線を下げると、不機嫌そうなナナオと視線が合うような気がする。
さすがにファスナーで首を絞めそうになったのを怒ったのか、今日はスーツのポケットに入れて欲しいと言われた。
そういって短いマドラーのような棒にくっついた狐になった。
見た目はポケットからのぞく犬・・・・狐のブローチみたいだ。
ずいぶん化けるのも上手になったんじゃない。
いつもお昼の時間にポケットにゴツゴツと入っていたから、こっちの方がずっとスリムでいい。
ちょっと可愛いかななんて思ったりして。
ただ、何で胸のポケットに入ったの?
取り出して見つめた。
「いつものようにこっちのポケットでもいいじゃん。」
当然腰のポケットに入れ替えた。
不満の声は聞かれなかった。
それでもなんとなく表情が不機嫌なまま。
「何でそんなに不機嫌なの?」
ペット感覚の同居狐とはいえ仲良くしたほうが楽しいと思ってるのに。
「誰かさんが夕方のことばっかり楽しみにしてて、全然だからさっ。」
「あ、ナナオ、やきもち?寂しかった?一緒につれてくのに。置いていかないよ。」
ぐりぐりとあごの辺りを撫でてやる。
固い感触しかないのが残念だった。
普通のペットの手触りの時もあるのに。
やっぱりマドラーに変化中は無理なのか。
ポケットに入れて部屋を出た。
「そんなに楽しみなんだ、食事とお酒。」
「うん、だって仲良くしたいし、友達も仲間も欲しい。」
「彼氏も欲しいんだろう。」
「そりゃ、もちろん。いたほうが楽しいじゃん。」
「ふ~ん。」
「邪魔にはしないよ。大丈夫だよ。ナナオの研修終るまでは付き合ってあげるし。」
「・・・・・・」
新人研修は相変わらずあんまり楽しくない。
それでも少しはしゃべる人が増えてきてると思う。
仕事を始めたら、こんな日々も良かったなあなんて思ったりするんだろうか?
グループワーク。
毎日組み合わせが変わるから名前と顔が一致する人が増えた。
少し話をして、でも必要なことくらい。
それでも一部の女子とは仲良くしゃべれるようになったかもしれない。
そして一週間の研修も終った。
皆で感想を言い合って、まとめて、発表までした。
こんなときに他の人をまとめてリーダーになるタイプの人はすぐに分かる。
そんな器用な人はいる。
楽しく盛り上がってるグループもある。
個性だよね。
無意識にポケットのナナオの頭を撫でながらそんなことを思った。
「犬がすきなの?」
狐だ!!
ポケットから抗議の声が聞こえた気がした。
「うん、そう。」
隣に座った浅川君の視線が私の手元にあったみたい。
でもそれ以上何も言われることなく。
ただの犬好きってことになった。
恥ずかしいので手を離した。
そう言えば・・・・忘れてた。
昨日ナナオが隣の人のところまで転がって、そのときに言われた言葉。
ちょっとだけ気になってたのに・・・・・。
他のグループにいるのを見つけた。
偶然だろうか?
狐には見えない、犬に見えると思う。
だから・・・でも・・・・・弟犬さんって・・・・・。
懐かしく呼んでいたあの頃を思い出した。
ずっと見てたら視線を感じたのか、こっちを向いたその人と目が合ってしまった。
恥ずかしくてすぐに逸らした。
偶然だろう。
犬はもともと序列をつける生き物だから、小さくて幼く見えたんだろう。
だってナナオはあの頃から小さいまま、性格はちょっと偉そうに生意気になってるかもしれないけど、見た目は大きくなってない、小さいままだ。
最初は本当に同じくらいの年みたいな感覚だったと思うのに、今、部屋では同等か、もしかして私より偉そう?
そこは狐だから犬とは違うんだろうか?
思わずナナオの頭をギュッと挟んでやった。
いきなりの仕打ちにギョエッって聞こえた声は空耳だと思う。
グループの発表が終わり研修は終った。
疲れた~、やっぱり緊張するし。
背伸びをして立ち上がり、きょろきょろする。
あちこちで話が盛り上がってる人もあり、早々に帰り支度をする人もあり。
「千早ちゃん、トイレに行ってから行こう。」
愛瑠ちゃんにそう言われてトイレに言って化粧直しまでした。
仲間三人揃って、誘われた男子のところに行った。
飲み会飲み会、楽しい飲み会!
意識してない振りでも、心の中では期待してた、当然期待してた。
それなのに・・・・・あれれ?????
気にしていた男の子石井君とは少しもしゃべってない。
だって隣の愛瑠ちゃんとばっかり喋ってる。
ほぼ二人で。
残りの四人で話をしてるけど、ちょっとおかしいなって思ってた。
もしかして、勘違いだったんじゃないの?
途中誰もが視線で二人をチラ見する。
それでもマイペースに二人の世界を作ってる。
最初の最初でそれはどうよ・・・別に特別な理由からそう思うんじゃない・・・・・。
普通です。普通の感覚です。
隠せないイラッとした感情をまたポケットのナナオにぶつけてしまう。
さっきから耳をピンピンとはじいたり、頭をグリグリしたり。
うめき声のようなものが聞こえてきて、手を止める。
まさかナナオもポケットに入ってついてきて、こんな仕打ちを受けるとは思ってないだろう。
それでもそれなりに楽しく残りの四人で話ができた。
だって楽しみにしてたし、食事も美味しいし、お酒も美味しいし。
一部屋にまとめられた研修は今日で終わりだけど、来週からはグループで実際に各部署を回ることになっている。
それが一週間つづ、希望する部署を数人で回る。それがしばらく続く。
本当は足手まといな感じだと思う。
でも毎年繰り返されてるみたいだし、色んな課の仕事も見たい。
それはそれで緊張するけど楽しみだったりする。
小さなグループで三週間くらい過ごすことになる。
もっともっと仲良くなれそう。
残念だけどその中に今いる友達は入ってない。
それでもそれなりに無難に過ごせそうだった。
来週のグループにあの人がいる。
今日の最後の時間に思い出したあの人がいる。
少し話をして仲良くなったら聞けるかもしれない。
もしかしたら家で犬を飼っていて、弟みたいに小さい頃からかわいがってるだけとか。
そうなのかもしれない。
モヤッとした気分はそのうちに忘れて楽しくお疲れ様会が出来た。
ああ、やっと一週間終った~。お疲れ様~。
その夜愛瑠ちゃんには謝られた。
別にいいのに。そんな・・・・改まってはいいのに。
『愛瑠ちゃんとしか話してなかったね。こっちは残り四人でも楽しかったよ。また飲みに行きたいね。お疲れ様、お休み。」
そう送った。
部屋に帰ってきてからナナオはすぐに変化を解いていつもの狐に戻った。
頭をつい見てしまう。
赤くもなってない?禿げてもいない?たんこぶとか出来てない?
てっきり文句を言われると思ったのに、そうじゃなかった。
「なあなあ、千早目当ての男なんていた?」
ああ、嫌な事を聞いてくる。
「いませんでした。愛瑠ちゃんの勘違いです。」
「えええ~、そうなの?残念だなあ~、やっぱり・・・・って思ったりもしたけど、
そうだよなあ。だってさあ、別に目立つほどでもないのに、いきなり・・・・フゴッ。」
うるさいので口を挟んでやった。
ちょっとひんやりした感じだったのが意外だった。
見た目は普通の犬だし、喋るペットのようだと思ってたのに、食事も必要としないナナオはやっぱり違った。
そう思って手が緩んだら逃げられた。
前足で毛並みを整えてる。
「ナナオも疲れたでしょう?二日間はのんびりしよう。週末だし、ゆっくり休みたい。」
そう言ってお風呂に入り、言葉通りのんびりした。
「ねえ、ナナオの研修っていつまでって決まってるの?」
「決まってない。」
「じゃあ、誰が終わりだって判断するの?」
「さあ。」
そんなゴールも曖昧なの?
「まあ、それは達成感とか成果評価じゃないの?」
「だって基準があるでしょう?協力しようか?何かできる?」
そう言ったらじっと見上げられた。
「千早も半人前なのに・・・・・いい。自分のことに集中していいから。」
「だって評価のポイントくらい教わったら協力できるのに。」
「いらない。」
「そうですか。じゃあ頑張ってね。」
半分つんとした態度になったかもしれない。
何だろう?
お互いに。
ナナオは寂しかったりしないだろうか?
いきなり緑豊かなところからこんな狭いところに来て、人間の中で過ごして。
あの景色を思い出すとおじいちゃんとおばあちゃんの事も思い出す。
パパが再婚して、妹が出来て、手紙は出すけど本当に会いに行ってない。
向こうにあの頃遊んだ子供は残ってるのだろうか?
みんな町へ出て働いてるかもしれない。
すごく寂しいところになってるかもしれない。
二人が元気なうちに私だけでも行っていいのに。
ナナオと一緒に行ってもいいのに。
週末ゴロゴロとしながらも月曜日を思うとちょっと緊張もしてきた。
希望の部署を三箇所回ることになっていた。
「三個もない人はどうすればいいんだろう?」
無理して書かなくてもいいと言われてる。
だからといって一つだと完全に浮いてしまいそうだった。
三週間かけて三箇所を回る。
先輩たちの邪魔をしながら、ひよこのようにあとを追うんだろう。
「またポケットがいいなあ。」
すっかり気に入ったのか、やっぱりついてくる気満々のナナオ。
「ねえ、楽しい?」
「当たり前じゃん。」
「もしかして研修って人間社会のお勉強とか?」
「それもあるし色々。」
「でもさあ、あの森の中にまた戻るのよね?あそこで必要?」
「必要だからここにいるんだから。」
「他の仲間も誰かのところに行って研修するの?」
「そうじゃない?知らない。」
「何だかあんまり知らないのね。」
正直な感想だった。
ただの寂しがり甘えたがりのペットと変わらない。
言葉をしゃべれるだけ。
それでも食べない、鳴かない、おトイレしないというのは手がかからない。
時々不機嫌になるだけ。
難しい年頃なのか、ちょっとご機嫌斜めが多い。
今はうどんを食べている私の目の前に座ってこっちを見てる。
「何だか食べにくい。」
「気にするなよ。本当にうまそうだな。」
食べる必要がないのと食べれないのとは違うと思うのに、欲しいと言われればあげるのに。
何度か誘ってもいらないと言われた。
それでも鼻がヒクヒクと動いてる。
うどんの上に甘い揚げを乗せている。
ナナオが大好きだと一番にあげたものだ。
私も大好きで市販のものをさらにちょっとスープで煮る。
ナナオ、とうとう口が開いてるけど、正直間抜けな顔だけど。
「食べれるの?」
「多分意味はない。見てるだけ、匂いは最高。」
そう言うから気を遣って小口で揚げは齧り、麺から食べて、最後に残った揚げを食べた。
「はふ~、ご馳走様でした。」
かたずけをしてお茶を入れて座ると電話が鳴った。
「お母さんだ。」
「うん。大丈夫。友達も出来たし、今のところ問題ないよ。・・・・皆元気?・・・・うん、連休かな。お土産買って帰るからね。」
お茶が飲み頃になるのを待ってズズズッと飲む。
「ナナオがいなかったら寂しかったかなあ?」
「・・・そうだろ?」
「分からないなあ。いなかったら友達と遊んだかもしれないし。」
「誰からも誘われてなくない?」
「自分から誘うもん。」
こっちを見上げてくるナナオ。
「でもいてくれて良かったと思ってあげる。私は優しいからね。」
「・・・・初めて知ったかも。」
「ねえ、おじいちゃんとおばあちゃんは変わりないかな?」
「ああ、元気だよ。・・・・・会いに行ったら喜ぶのに。」
「じゃあ、ナナオ一緒に行こうよ。」
「やっぱ一人は寂しいんだろう。」
「違うの。小さい頃の記憶しかないから、道案内してもらうと楽じゃない。私の役に立つじゃない。もしかして研修ポイント稼げるかもよ。」
「はいはい。」
部屋の中ではたいていナナオとしゃべってる。
そうじゃないときも寝姿を見たり、頭を撫でたり。
私が触れないような質量のないときもあるけど、眠ってても、起きてても、私が触ろうと思ったときはちゃんとそこに『在る』ようにしていてくれる。
詳しくは分からないけどその辺りは器用に出来てるみたいだった。
たとえば肩に乗っかられても重さを感じないときや尻尾がチクチクしないときもある。
反対に頭に乗っかってずっしりと感じるときもある。
便利でいいかも。
不機嫌でなければ手のかからない可愛いペットだから。
おしゃべりもできるなんて、本当に最強だ。
一緒に飲みに行くなんて、仲良くなったって証拠だよね。
それに話をあんまりしたことない男の子もいる。
そしてこっそり言われたこと。
意識しないようにしても無理だと思う。
その人のことが見れないと思う。
何で内緒にしてくれなかったのよ・・・・・、なんて。
そんなことを思って視線を下げると、不機嫌そうなナナオと視線が合うような気がする。
さすがにファスナーで首を絞めそうになったのを怒ったのか、今日はスーツのポケットに入れて欲しいと言われた。
そういって短いマドラーのような棒にくっついた狐になった。
見た目はポケットからのぞく犬・・・・狐のブローチみたいだ。
ずいぶん化けるのも上手になったんじゃない。
いつもお昼の時間にポケットにゴツゴツと入っていたから、こっちの方がずっとスリムでいい。
ちょっと可愛いかななんて思ったりして。
ただ、何で胸のポケットに入ったの?
取り出して見つめた。
「いつものようにこっちのポケットでもいいじゃん。」
当然腰のポケットに入れ替えた。
不満の声は聞かれなかった。
それでもなんとなく表情が不機嫌なまま。
「何でそんなに不機嫌なの?」
ペット感覚の同居狐とはいえ仲良くしたほうが楽しいと思ってるのに。
「誰かさんが夕方のことばっかり楽しみにしてて、全然だからさっ。」
「あ、ナナオ、やきもち?寂しかった?一緒につれてくのに。置いていかないよ。」
ぐりぐりとあごの辺りを撫でてやる。
固い感触しかないのが残念だった。
普通のペットの手触りの時もあるのに。
やっぱりマドラーに変化中は無理なのか。
ポケットに入れて部屋を出た。
「そんなに楽しみなんだ、食事とお酒。」
「うん、だって仲良くしたいし、友達も仲間も欲しい。」
「彼氏も欲しいんだろう。」
「そりゃ、もちろん。いたほうが楽しいじゃん。」
「ふ~ん。」
「邪魔にはしないよ。大丈夫だよ。ナナオの研修終るまでは付き合ってあげるし。」
「・・・・・・」
新人研修は相変わらずあんまり楽しくない。
それでも少しはしゃべる人が増えてきてると思う。
仕事を始めたら、こんな日々も良かったなあなんて思ったりするんだろうか?
グループワーク。
毎日組み合わせが変わるから名前と顔が一致する人が増えた。
少し話をして、でも必要なことくらい。
それでも一部の女子とは仲良くしゃべれるようになったかもしれない。
そして一週間の研修も終った。
皆で感想を言い合って、まとめて、発表までした。
こんなときに他の人をまとめてリーダーになるタイプの人はすぐに分かる。
そんな器用な人はいる。
楽しく盛り上がってるグループもある。
個性だよね。
無意識にポケットのナナオの頭を撫でながらそんなことを思った。
「犬がすきなの?」
狐だ!!
ポケットから抗議の声が聞こえた気がした。
「うん、そう。」
隣に座った浅川君の視線が私の手元にあったみたい。
でもそれ以上何も言われることなく。
ただの犬好きってことになった。
恥ずかしいので手を離した。
そう言えば・・・・忘れてた。
昨日ナナオが隣の人のところまで転がって、そのときに言われた言葉。
ちょっとだけ気になってたのに・・・・・。
他のグループにいるのを見つけた。
偶然だろうか?
狐には見えない、犬に見えると思う。
だから・・・でも・・・・・弟犬さんって・・・・・。
懐かしく呼んでいたあの頃を思い出した。
ずっと見てたら視線を感じたのか、こっちを向いたその人と目が合ってしまった。
恥ずかしくてすぐに逸らした。
偶然だろう。
犬はもともと序列をつける生き物だから、小さくて幼く見えたんだろう。
だってナナオはあの頃から小さいまま、性格はちょっと偉そうに生意気になってるかもしれないけど、見た目は大きくなってない、小さいままだ。
最初は本当に同じくらいの年みたいな感覚だったと思うのに、今、部屋では同等か、もしかして私より偉そう?
そこは狐だから犬とは違うんだろうか?
思わずナナオの頭をギュッと挟んでやった。
いきなりの仕打ちにギョエッって聞こえた声は空耳だと思う。
グループの発表が終わり研修は終った。
疲れた~、やっぱり緊張するし。
背伸びをして立ち上がり、きょろきょろする。
あちこちで話が盛り上がってる人もあり、早々に帰り支度をする人もあり。
「千早ちゃん、トイレに行ってから行こう。」
愛瑠ちゃんにそう言われてトイレに言って化粧直しまでした。
仲間三人揃って、誘われた男子のところに行った。
飲み会飲み会、楽しい飲み会!
意識してない振りでも、心の中では期待してた、当然期待してた。
それなのに・・・・・あれれ?????
気にしていた男の子石井君とは少しもしゃべってない。
だって隣の愛瑠ちゃんとばっかり喋ってる。
ほぼ二人で。
残りの四人で話をしてるけど、ちょっとおかしいなって思ってた。
もしかして、勘違いだったんじゃないの?
途中誰もが視線で二人をチラ見する。
それでもマイペースに二人の世界を作ってる。
最初の最初でそれはどうよ・・・別に特別な理由からそう思うんじゃない・・・・・。
普通です。普通の感覚です。
隠せないイラッとした感情をまたポケットのナナオにぶつけてしまう。
さっきから耳をピンピンとはじいたり、頭をグリグリしたり。
うめき声のようなものが聞こえてきて、手を止める。
まさかナナオもポケットに入ってついてきて、こんな仕打ちを受けるとは思ってないだろう。
それでもそれなりに楽しく残りの四人で話ができた。
だって楽しみにしてたし、食事も美味しいし、お酒も美味しいし。
一部屋にまとめられた研修は今日で終わりだけど、来週からはグループで実際に各部署を回ることになっている。
それが一週間つづ、希望する部署を数人で回る。それがしばらく続く。
本当は足手まといな感じだと思う。
でも毎年繰り返されてるみたいだし、色んな課の仕事も見たい。
それはそれで緊張するけど楽しみだったりする。
小さなグループで三週間くらい過ごすことになる。
もっともっと仲良くなれそう。
残念だけどその中に今いる友達は入ってない。
それでもそれなりに無難に過ごせそうだった。
来週のグループにあの人がいる。
今日の最後の時間に思い出したあの人がいる。
少し話をして仲良くなったら聞けるかもしれない。
もしかしたら家で犬を飼っていて、弟みたいに小さい頃からかわいがってるだけとか。
そうなのかもしれない。
モヤッとした気分はそのうちに忘れて楽しくお疲れ様会が出来た。
ああ、やっと一週間終った~。お疲れ様~。
その夜愛瑠ちゃんには謝られた。
別にいいのに。そんな・・・・改まってはいいのに。
『愛瑠ちゃんとしか話してなかったね。こっちは残り四人でも楽しかったよ。また飲みに行きたいね。お疲れ様、お休み。」
そう送った。
部屋に帰ってきてからナナオはすぐに変化を解いていつもの狐に戻った。
頭をつい見てしまう。
赤くもなってない?禿げてもいない?たんこぶとか出来てない?
てっきり文句を言われると思ったのに、そうじゃなかった。
「なあなあ、千早目当ての男なんていた?」
ああ、嫌な事を聞いてくる。
「いませんでした。愛瑠ちゃんの勘違いです。」
「えええ~、そうなの?残念だなあ~、やっぱり・・・・って思ったりもしたけど、
そうだよなあ。だってさあ、別に目立つほどでもないのに、いきなり・・・・フゴッ。」
うるさいので口を挟んでやった。
ちょっとひんやりした感じだったのが意外だった。
見た目は普通の犬だし、喋るペットのようだと思ってたのに、食事も必要としないナナオはやっぱり違った。
そう思って手が緩んだら逃げられた。
前足で毛並みを整えてる。
「ナナオも疲れたでしょう?二日間はのんびりしよう。週末だし、ゆっくり休みたい。」
そう言ってお風呂に入り、言葉通りのんびりした。
「ねえ、ナナオの研修っていつまでって決まってるの?」
「決まってない。」
「じゃあ、誰が終わりだって判断するの?」
「さあ。」
そんなゴールも曖昧なの?
「まあ、それは達成感とか成果評価じゃないの?」
「だって基準があるでしょう?協力しようか?何かできる?」
そう言ったらじっと見上げられた。
「千早も半人前なのに・・・・・いい。自分のことに集中していいから。」
「だって評価のポイントくらい教わったら協力できるのに。」
「いらない。」
「そうですか。じゃあ頑張ってね。」
半分つんとした態度になったかもしれない。
何だろう?
お互いに。
ナナオは寂しかったりしないだろうか?
いきなり緑豊かなところからこんな狭いところに来て、人間の中で過ごして。
あの景色を思い出すとおじいちゃんとおばあちゃんの事も思い出す。
パパが再婚して、妹が出来て、手紙は出すけど本当に会いに行ってない。
向こうにあの頃遊んだ子供は残ってるのだろうか?
みんな町へ出て働いてるかもしれない。
すごく寂しいところになってるかもしれない。
二人が元気なうちに私だけでも行っていいのに。
ナナオと一緒に行ってもいいのに。
週末ゴロゴロとしながらも月曜日を思うとちょっと緊張もしてきた。
希望の部署を三箇所回ることになっていた。
「三個もない人はどうすればいいんだろう?」
無理して書かなくてもいいと言われてる。
だからといって一つだと完全に浮いてしまいそうだった。
三週間かけて三箇所を回る。
先輩たちの邪魔をしながら、ひよこのようにあとを追うんだろう。
「またポケットがいいなあ。」
すっかり気に入ったのか、やっぱりついてくる気満々のナナオ。
「ねえ、楽しい?」
「当たり前じゃん。」
「もしかして研修って人間社会のお勉強とか?」
「それもあるし色々。」
「でもさあ、あの森の中にまた戻るのよね?あそこで必要?」
「必要だからここにいるんだから。」
「他の仲間も誰かのところに行って研修するの?」
「そうじゃない?知らない。」
「何だかあんまり知らないのね。」
正直な感想だった。
ただの寂しがり甘えたがりのペットと変わらない。
言葉をしゃべれるだけ。
それでも食べない、鳴かない、おトイレしないというのは手がかからない。
時々不機嫌になるだけ。
難しい年頃なのか、ちょっとご機嫌斜めが多い。
今はうどんを食べている私の目の前に座ってこっちを見てる。
「何だか食べにくい。」
「気にするなよ。本当にうまそうだな。」
食べる必要がないのと食べれないのとは違うと思うのに、欲しいと言われればあげるのに。
何度か誘ってもいらないと言われた。
それでも鼻がヒクヒクと動いてる。
うどんの上に甘い揚げを乗せている。
ナナオが大好きだと一番にあげたものだ。
私も大好きで市販のものをさらにちょっとスープで煮る。
ナナオ、とうとう口が開いてるけど、正直間抜けな顔だけど。
「食べれるの?」
「多分意味はない。見てるだけ、匂いは最高。」
そう言うから気を遣って小口で揚げは齧り、麺から食べて、最後に残った揚げを食べた。
「はふ~、ご馳走様でした。」
かたずけをしてお茶を入れて座ると電話が鳴った。
「お母さんだ。」
「うん。大丈夫。友達も出来たし、今のところ問題ないよ。・・・・皆元気?・・・・うん、連休かな。お土産買って帰るからね。」
お茶が飲み頃になるのを待ってズズズッと飲む。
「ナナオがいなかったら寂しかったかなあ?」
「・・・そうだろ?」
「分からないなあ。いなかったら友達と遊んだかもしれないし。」
「誰からも誘われてなくない?」
「自分から誘うもん。」
こっちを見上げてくるナナオ。
「でもいてくれて良かったと思ってあげる。私は優しいからね。」
「・・・・初めて知ったかも。」
「ねえ、おじいちゃんとおばあちゃんは変わりないかな?」
「ああ、元気だよ。・・・・・会いに行ったら喜ぶのに。」
「じゃあ、ナナオ一緒に行こうよ。」
「やっぱ一人は寂しいんだろう。」
「違うの。小さい頃の記憶しかないから、道案内してもらうと楽じゃない。私の役に立つじゃない。もしかして研修ポイント稼げるかもよ。」
「はいはい。」
部屋の中ではたいていナナオとしゃべってる。
そうじゃないときも寝姿を見たり、頭を撫でたり。
私が触れないような質量のないときもあるけど、眠ってても、起きてても、私が触ろうと思ったときはちゃんとそこに『在る』ようにしていてくれる。
詳しくは分からないけどその辺りは器用に出来てるみたいだった。
たとえば肩に乗っかられても重さを感じないときや尻尾がチクチクしないときもある。
反対に頭に乗っかってずっしりと感じるときもある。
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不機嫌でなければ手のかからない可愛いペットだから。
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