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1 あ~、久しぶりの事件です! ~つくしの衝動

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人生、たまに勢いがつくことはある。

子供の頃、大好きな男の子に教室でさよならのキスをしたこと。
小学校二年生の頃の事。
別に変な意味はない・・・・・。
大人びた子供でもない、素直にお父さんに行ってらっしゃいと言って、その当時にしていた事をしてただけ。
それが、バイバイの時で、たまたまクラスメートで・・・・。
あああ~、音がなくなった教室、皆、お願いだから忘れて欲しい、同窓会に行けない理由のその一つ。インパクトが大きすぎる・・・・。




中学の時の事。
好きな男の子に声を掛けられたのがうれしくて飛び切りの笑顔で話を聞いた。
その時に頼まれたのは友達へのキューピット役。
勿論笑顔は引きつりながらも断れずに引き受けた。
すぐに友達に電話をしてあげたら、勝手にそれなりになったと知るのは数日後。
だって、私はショックで酷い蕁麻疹が出て一睡もできず、次の日は学校を休んだ。
泣きながらお母さんに体を見せて、病院に言って薬を貰ったら落ち着いたから大人しく部屋にいた。

お母さんは仕事に行って、部屋にひとり。
衝動で自分で髪を切ったら取り返しがつかなくなり夜になってひどく叱られた。
次の日も学校を休んでお母さんのいつも行く美容室に行った。
何とかしてもらえたんだけど、短くなった髪に悲しくなって、泣きながら一人ドカ食いしてお腹を壊し、次の日もまた休み。

結局気持ちが立ち直るのに三日で済んだのも、この一連の悲惨な展開でそれどころじゃなかったから。

お母さんには学校には嘘の電話をしてもらったのに、何で髪の毛を自分で切ろうなんて思ったのか問いただされても、本当のことが言えず、隣でお父さんも気の毒そうな目で私を見ていた。

あれは大変だった。髪型も切った髪の毛の掃除も。
ケープを巻くなんて発想もなく。部屋で発見された時、お母さんが絶叫した。
ハサミに上半身黒い毛だらけの私。
ホラーです。貞子の変則バージョン。
動くなと言われた私、・・・・ハサミを片手に持っていたし。
そして美容院の人の視線も痛かった。
お母さんが美容院を変えた。ごめんなさい。
ただただそう思った。

蕁麻疹と腹痛で休んだ私が急に髪を短くしていった理由。
たしか、父親の趣味のものでよくわからない液体が頭に落ちて蕁麻疹を引き起こして、髪にもついたと嘘を言った。それだけで腹痛は探られなかった。
あの頃の写真は見たくない。
確か集合写真があるのだ、2週後くらいの遠足だったか何かの行事の写真。
消したい思い出は残酷にもしっかり証拠として残っている。



あとあと、犯罪ギリギリ・・・・だったのもある。
よく行っていたお店の男の店員さんにストーカーのような行動をしたこと。
ただいろいろ知りたかっただけ。それで満足したと思うのに。
行動がちぐはぐに不器用ですぐにばれた。
怖がられてしまって、さすがにもう行けなくなった。
・・・・あっさり終わり。



よく考えるとどれも消したい過去。


基本は臆病で地味でおとなしいタイプだから、本当に反動のような行動。
浅はかとしか言いようがないのは本当に不器用だから。


最後のイケメン店員さんの件は私が大学生のころの・・・・事件。


犯罪分野としても事件としてはそれが最高に痛い事件で、その後は何の事件も起こしてない。
大人になり落ち着いていた。
そりゃ、そうだ・・・・・って思ってたのに。



でも、久しぶりにやってしまった!




お休みの日、ふらふらと一人で買い物をしていた時に、向こうから歩いてくる憧れの人に気がついて。
立ち止まって見てるけど一人みたい。
誰も並んで歩いてる人はいない・・・、よし。
まっすぐ前を向いて歩いて来てくれるその姿、思わず見とれる。
やっぱり素敵です。
街中の人混みから浮き上がって見えますから!

何だかいつもと雰囲気が違うけど。
自分に向かってくるのを正面から待ち構えるように見ていた。
それでも気づかれなかったのはまだまだ結構遠かったから。

自分の視力の良さにびっくり。
こんな人混みでも見つけた自分、凄い!

思わず自分に感謝して感動して高揚した。
出会った二人、運命・・・なんて冗談のように思ったけど。
そんなことを冗談とは思わない自分の心の声が私を前進させた。
運命!!!

さっき隣に誰もいないと確信した時、はっきりと発車のゴングのようなベルが鳴った。明らかに見切り発車のフライング・・・・・。


ただ少しもこちらに気が付いてる感じがないのは残念・・・。
でもお互い1人なら、絶好のチャンスじゃない?
そう思ったら、もう私の足は勝手に走りだしていて、袖を掴んでいだ。


いきなり自分に向かってきた私に、本当に驚い顔をしたあこがれの先輩。
それでも素敵だったと思う。
そこまでは、まだ。




この春に就職したのは割と有名な会社で、長く苦しい就活が終わり、結果すごくいい結果だったと自画自賛で喜んだ。やるじゃん、私!
研修が終わり配属されたのは健康食品のお客様コールセンター。
ほぼ残業がない。時間で回線を閉じて自分のブースを片付ければ帰れるから。
最初はなかなか書類をさばけなくて回線を閉じてからの仕事もあったけど、だいぶん要領がよくなりました。
上司にも褒められてます。順調な社会人一年目です。
まだまだ初心者マークは外せませんが、頑張ってます。


私たちコールセンターのまとめ役、責任者は男の人で金子知宏さん。
かっこいいけど既婚者だ。
それでも人気があって、たまに突撃する人もいるとか、いないとか。
素敵で優しいし、いい先輩だ。尊敬してます。


そして・・・そのお友達も・・・・・・!!
金子さんの同期で社内でも並んでいるところを見ていた友田先輩がもうもうもう・・・、かっこいい!
メガネフェチの気があると改めて気が付いた自分。
そういえば・・・・そうだったかも。


細いフレームが知的で、あまり汗かかなそうな爽やかなイメージで。
ホントの一目惚れで始まった片思い。
誰にも相談できないくらい、非現実的な片思い。
せめて何かアクシデントがあれば。
いい方向のアクシデント。


ぶつかりたい・・・・。廊下で、どこかの出口で。
薄い恋愛経験ではそんな漫画のような出会いしか思いつかなくて。


ただ前に社内の人の話になった時、『素敵な先輩ランキング』にチラとも名前が出て来なかった。何故?金子先輩は6位にいたのに。
そこで名前を出したりしたらバレちゃうし、改めて注目してほしくもなくて。
圏外だったことにそっと安心した私。


ライバルは少ないのかと安心しながら、でもやっぱり非現実的って思ってた。
だいたい、なかなかぶつかるチャンスもないのだ。
廊下には角がない。一直線の廊下、遠くまで見渡せる。
しかも廊下を歩いてたりするのなんて滅多に見かけない。
金子さんの横に時々いるだけ。


なのに?だから?
突撃したんだろうか?


そして玉砕というかなんというか。
存在全否定。
見切り発車のまま衝突、破壊、完全な事故車両で廃車・・・・鉄くずに。
心までぺしゃんこになりました。事故です。完全な事故です。
・・・・事件にもならなかった。



全く視界に入ってなかったらしい。
それは単に身長の差というのではないんだろう、悲しいが女性として圏外。



金子さんが何度か声をかけてくれた時に、そこにいたのに。
話してないけど流石に見覚えあるはず。
それくらいは期待してたのに。
会社での雰囲気とそうは違いませんよ。メイクも服も。
でも、『あぁ・・・。』なんていう感じもなく、『お前は誰だ』って思ったみたい。
いぶかしげに見た視線が不審者を見るような、犯罪者を見るような。
別にナンパじゃないです。後輩です!!
いつも去り際に熱い視線を送ってたのに。
瞬間冷却されてましたか?
それとも強固なバリアでも張り巡らせてましたか?


真っ赤になった私の愛の告白をうれしいとも思ってくれなかった・・・・。
だいたい、『付き合って』って聞いて、『どこに?』って返事はあり?
冷静過ぎて、逆に悲しい。



こうして久しぶりの勢いついた行動は酷い結果になりました。
明日から俯いて過ごさなきゃ・・・・。


せっかくせっかく金子さんが・・・・・。


台無しにした私、すべて台無しにした。
金子さんの好意も、うれしいアクシデントからの可能性も。
もう何も始まらない、その可能性をつぶしたのは私。


金子さんの口約束は社交辞令だったと思おう。


はぁ~、やっぱり、衝動的行動はいい結果を生まない。
久しぶりに反省した自分でした。
さすがに蕁麻疹が出ても会社には行こう。
眠れなくても、むくんだ顔でも、心がいびつになってても。
それが大人の行動と責任、分かってます。


その日も次の日も蕁麻疹は出なかった。
仕事が出来ることを喜ぼう。
社会人だから。もう大人だから。





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