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2 いきなりの悲劇と不可解な出来事 ~友田のどんよりした一日

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天気も良くて気持ちがいい穏やかなはずの土曜日の午後。

なのに二日酔いが酷い。
昨日同期の金子に飲まされた。
二人分じゃないだろうと思うほど次々と酒を注文して、なんだったんだ?
途中色々言われた。部下がどうとかこうとか。
覚えてない。
具体的な名前も出たはず…そんな気もするのに。

よく自宅に帰りついたもんだ。
気がついたらちゃんとベッドに寝ていた。
ただ恐ろしい乱れぶり。
ネクタイもスーツも脱ぎ散らかした状態。

ゾンビのように起きだして頭を抱えて、うなりながら、キッチンへ行った。
目を閉じててもまっすぐ行けばいいから問題ないはずだった。
途中何かにぶつかり音がしても・・・。
そのあと何かを踏んづけても、とりあえずまっすぐに歩いて水道へ。


水を飲んでトイレに行き、改めて部屋を見たら被害は明らかに増えていた。
さっきぶつかった分、書類と本が落ちたから。
ただよく見ようとメガネを探す。
いつも置くような場所を、それ以外の場所も。
どこに置いたのか、見当たらず。

とりあえず服を集めてハンガーにかけたり、洗濯機にいれたり。
落としたものをそろえて元に戻そうとしたときに出てきたのが、まさに探していたメガネで。

そういえばさっきちょっとした破壊音がしたかもしれない。
しなかったかもしれない。
ただ確かに何かを踏んづけた感覚があったから、鈍い脳でも音を追加したのかも。

レンズが割れていたらまだ良かったのに。
破壊されていたのはツルのほうで。
そして華奢なデザインを選んだのも自分だった。

あぁぁぁぁ・・・・・・壊れてる。


現実を認識して、理解した。

買いに行かねば、しばらく壊れた眼鏡を手にしながら、時間をかけて思いついた。
今日は休みだから行ける。

それからノロノロとコーヒーを飲み、顔を洗い着替えをして。

いくらか落ち着いて部屋を出た。
息は酒臭くないだろうか?
ミントガムを噛みながら時々自分で臭ってみる。
自分じゃ分からない。

当然メガネはないので視力が怪しい。

のんびりと来た電車に乗ったら、ひたすらゆっくりと進んだ。
まあ、いい。焦るまい。

ただ途中でトラブルがあったらしく、しばらく停止して更に遅くなる。
まあ、いい、明日も休みだ。

結局動き出したのは大分経ってからで。

やっとたどり着いたと思ったのは・・・・職場の駅で。

やはり脳はまだ寝てるんだろう。
ついいつもの習慣でここまでのんびりしてしまったらしい。
何でもっと早く気が付かなかったのか?
眼鏡屋に向かっていたはずなのに。
途中降りることなく最後まで乗ってしまったのだ。

肩を落とし引き返す。
トロトロと進む電車。
さっきのトラブルの影響もあるらしい。
しばらくして、今度はちゃんと目的の駅で降りた。

眼鏡屋へ行き、壊した眼鏡を差し出して相談する。
さすがに修理するのは無理で、新しく買うしかないらしい。

同じようなデザインでもっと柔軟性のある素材を選んで買う。
フレームに合わせるとレンズは又新しく作り直さないといけなくて。

とんだ出費だ。

全部金子のせいだと思えてしまう。
この際電車が遅れたのも、職場まで乗り過ごしたことも。
全部。

お店の人に引渡しには2時間かかると言われた。
いったん引き換え伝票を受け取り外に出る。

人混みにまぎれて大きな通りを歩いて、どこかで食事でもと考えていた。
少しはおなかが空いた気がするし、コーヒーを飲みたい。

ぼんやりとした視界の中で半分寝てる脳をそのままに歩く。

いきなり向こうから小さい塊がやってきた。
正面に立ち止まられて、見上げられて。

「友田先輩、あのお付き合いしてもらえませんか?」

何だ?誰だ?
言われてることが分かっても理解したい気も起きなくて。

「どこにだよ?」

酷く冷たい声で返したら、真っ赤な顔が一気に表情を消したかもしれない。
なんとなくそう思っただけで、実はよく見えてない。
大体誰だかもわからない。女の子だ。美人局か?何のキャッチだ?
ぼんやりしたシルエットにすら見覚えがない。

待てよ、先輩と言われたから会社の後輩か?
取りあえず覚えもないし、無理だ。
週末に話をするような知り合いはいない、知らない。

それでも立ち去らない影に、見覚えがあるかと、さらに目を細めて焦点を合わそうとした。
見えない・・・。
本当に分からない。

相手は一歩下がるとお辞儀をして、すみませんでしたと去っていった。

何なんだ? 何だったんだ?

その背中はあっという間に見えなくなった。
目を細めるのにも限界があって。
疲れてオフフォーカスにしたら眉間のしわも緩んだ。
すごい顔になってたかもしれない。


結局誰が何の用だったのか。
しょうがない。
二日酔いと裸眼。
今日はいつもより情報処理が遅いんだ。


又歩き出した。
いよいよおなかも空いてきた。


地下道に入り適当な店でカレーを食べて、デパートに入りぶらぶらしようと思ったが、目が疲れる。
カレーは重すぎただろうか?体の重みが増した気がする。
そうなると気分もすぐれず。


視力は変わってなかったが、あんまり裸眼で歩くことはない。
見えないというものはこんなに疲れるものなんだろうか。

さっさとお店に戻って自分の番号が光るのを待った。

メガネを受け取り戻る頃には正体不明の後輩らしい塊のことなんかすっかり忘れていた。









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