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31 スパイの最終報告
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鈴木さんの告白から一週間がたった。
本人が言った通りだんだん普通に話をするようになり、週末には前と変わらないくらいになったと思う。
自分が構えることも・・・・ない。
そんなある週末目前の金曜日。
課内のいつものメンバーで飲みに行こうという話になった。
どうしよう、先週は断ったけど、そう毎回断るのもなあと思ってた。
「町野君、久しぶりに飲みに行くよ。あと麻美さんも行こう。」
鈴木さんが二人まとめて誘う。
「どうしようかなあ?」
ゆっくり彼女の方を見るとびっくりした顔のまま、緊張も張り付いている。
「行こう、町野君も私も話がしたいし、ね?」
そう言われて断れるわけもなく。
軽くうなずいた彼女。
当然自分も行くことになった。
「予約するよ。」
枝野も少しびっくりしただろうけど人数を言って予約をしている。
まあ、大体お店は決まってる。
仕事が終わって皆で移動する。
鈴木さんと彼女と三人で話ながら歩き、奥の席に座った。
少しづつ慣れて行ってくれればいいなあって思ってる。
随分雰囲気は慣れてきた気がするんだけど。
そうしたらランチも一緒にとれたりするし。
鈴木さんが誘ってくれることもあるだろうか?
鈴木さんと彼女が横並び、自分の隣には後輩の本田君。
本田君、『使命感』に忠実過ぎる、もしくはスパイ業が気に入ってる?
多分今日の事も報告が行くんだろう。
半面、可哀想にいつまでスパイ役やってるんだろうとは思う。
こうなったら本人に言ってあげたい。
バレた日には絶対言おう。そう思った。
いつか、その日が来たらと。
「でもさあ、町野君が結構エロいって想像できなかったなあ。」
何の話?
鈴木さんがぼんやりした後つぶやいた。
でもその声は大きくて、四人以外にも聞こえたらしい。
敏感に枝野が食いついてきた。
「何のことだよ、町野のエロって。」
「なんだか大人しそうな見かけなのにエロいらしいの。」
「町野、彼女が出来たからって。何、鈴木に報告してんだよ・・・・馬鹿か?」
最後のは本気だ。目が怖い。
「してないよ、鈴木さんが勝手に言ってるんだよ。」
「違うよ、彼女に聞いたんだから。」
しーん。爆弾発言。
それは誰だって話になるだろうし?彼女の方を向けない。
本田君の最終レポートが目に浮かぶ。
『浮かれてエロい毎日らしいです。』
そんな報告書が回ってくるのか?
誰も発言せずにそのまま場が静まったまま。
「誰ですか?」
スパイ役ははっきり聞きたいらしい。
さすがに三年務めてる義務感か。
「まあ、その内にね。」鈴木さんが答えた。
とりあえず暴露はそこまでで終わった、今は。
エロいという話は飛んでくれただろうか?
鈴木さんはともかく一応後二人後輩の女の子もいるのに。
変な目で見られるじゃないか・・・・。
『普通です。』そんな宣言、さすがに出来ない。
普通だと思ってる自分。
ただ彼女は比較ができる対象がいない。
それは良かった‥のか?
悪かったのでは・・・・。
「あ~あ、私も頑張ろう。枝野君、頑張ろうね。まさか町野君に後れを取ったなんて。」
一瞬微妙な空気が流れたけど枝野が吹き飛ばす。
「鈴木に紹介したい奴がいるんだけど。誘われてたんだ、今度一緒に飲みに行こう。」
「・・・・・マジ?」
「ああ、いい奴だし。友達から付き合ってみれば。性格がいいのは保証する。」
「マジっ?」
すごくうれしそうにする鈴木さん。
もしそれが本当ならうれしい。いや、さっきの今でその誘い、嘘はないだろう。
同期の奴だろうか?誰だろう?
こっそり彼女と目線を合わせて会話する。
良かったよね、と。
話題はよそのメンバーの恋愛話に移った。
本田君が席を立った時に枝野が隣に来た。
厄介な・・・。
「お前、やりやがったな。」
「何のことだよ。」
「・・・・・じゃあ何で今日彼女が参加してくれた?」
視線が彼女を指した。
バレた。
「マジかよ。何だよ。結局すっごく美人をゲットしたのかよ。」
小さい声ですごく近くでしゃべられる。
気を遣ってるらしい。
「うらやましい。本当にうらやましい。」
うっとうしいくらい耳元で泣き事を言う枝野。
肩に置かれた手に力がこもってる気がする、痛い。
手は離れたが軽く突き飛ばされたような気さえする、気のせいだと思おう。
「小路さん、一緒に飲むの初めてだね。」
「・・・・はい、お邪魔してます。」
すっかり怯えた顔の彼女。
気が付いただろう。
何かバラされると思ってるだろう。
「いや~、こっちがお邪魔してるかも。」
そう言いながら振りかぶった手で俺の肩を叩いた。やっぱり痛い。
「町野、いいなあ、美人の彼女。」
声が大きいんだ。
「美人とは限らないだろう。一言もそんな事教えてないし。」
さっきの手で肩を掴まれた。
「美人じゃないと?二人の時はかわいいとか言うのか?」
他のメンバーの注目も集めた。静かになったのは隣のテーブルも。
ご迷惑をおかけしております。
「声がでかい。枝野、お前、勝手に話作るな。」
「悔しいよ~。町野に負けた~。俺だって美人だと思ってたのに。」
最後は小声にはなってくれた。
「無理無理。三年前から目をつけて片思いしてたんだから。よその女とハッピーに過ごしてた枝野君とは違う。」
鈴木さん、そろそろ飲み過ぎです。
見ると本当に目が据わってる。
「あさ・・・小路さん、鈴木さんに飲ませないで、止めてくれる。」
「はい。」返事が良かった。
「うううううう・・・・・。俺も・・・・・・。」
「枝野、もしかして何かあったのか?」
「ない、何もない。ここんとこ、本当に何もない。」
「お前ならすぐできるだろう。ちょっとくらい独り身を味わえばいいよ。」
「その先にあんな美人が待ってる保証があるならな。」
美人美人って三年もかかったし、大変だったんだから。
想像つかないのか、予想以上に大変な思いをしたんだから。
手探りで距離を縮めたあの日々を思い出す。
まあ、一度乗り越えたらものすごくラブラブ中だけど。
つい彼女を見ていた。
「にやけやがって。」
急いで浮かべた記憶映像を消して顔を戻す。
「枝野君、頑張ろう。」
鈴木さんと枝野、同志感があふれだす。
「ああ、俺たちは同期だ。町野はハブろう。」
何でだよ。
なんとかバレるのは最小限に抑えられた。
そう思って安心していた。
お開きになり二次会はパスして二人で帰った。
交代でシャワーを浴びてリラックスする。
「どうだった?疲れた?」
「大丈夫です。鈴木さんの秘密の暴露にドキドキしました。枝野さんにもバレたんですよね。」
「うん、意外に鋭い。でも最小限の同期だけにとどまって良かった。一安心。」
彼女に笑いかけたら微妙な顔をされた。
「どうしたの?」
携帯を差し出された。
スパイの本田君からの転送メールだった。
報告が素早い!
タイトルが『バレたのかな?』
『お疲れ様。おなじみ町野さん情報です。美人の彼女とエロい毎日のようです。はっきりにやけてることが多いです。この間からの報告が本当に残念報告だったらと思ってたけど、依頼主は小路さんかな?そして町野さんの彼女も小路さんじゃないかと思ってます。じっくりと今日観察してほぼ確信してるんだけど。依頼主もそうだとしたらスルッと納得。残念報告じゃなくて、ものすごく役に立ってたんだったらうれしいです。一人が失恋したっぽいけど乗り越えたらしいし、あと1人にはバレたようです。僕を入れて三人かな。続報どうします? 追記、小路さん、町野さんの顔が面白いです。良かったね。お礼はいつでもいいよ。ほぼ確信してるスパイ担当本田でした。』
三人。本当にそれだけか?
今更不安になった。
本田君は仕方ないか。役に立ったんだろうから。
今度奢ってやろう。
「ねえ、僕の顔が面白いって・・・・。エロい毎日って、正直だから否定できないなあ。」
睨まれた。
「誰のせいって、麻美さんが鈴木さんに正直に答えるからだよ。エロいって聞かれて普通って答えたらそんな事は言われなかったのに。僕が誤解されてるんだって。やだなあ、今までゲイなんて疑われてたのにいきなりそうなって。」
困った顔を作って聞く。
「どうする?」
「何をですか?」
「禁欲的に過ごしたらにやけないで仕事できるかな?」
「無理じゃないですか?」
「僕が・・・?それとも?」
・・・・・・・知りません。 小さい声だったけど否定はされず。
「今週どうする?」
「今まで通りでお願いします。」
キスをしながら笑顔になる。
「ねえ。」
「はい?」
「実家に猫に会いに帰るかどうか聞いたんだけど。」
「意地悪なタイミングでそんなふうにわざと質問しないでください。」
「勝手に誤解しないでください。お互いに無理だろうってさっき言ったじゃない。」
「言ってません。」
「そう?」
「明日の事は明日考えよう。」
「会いたいです。」
「じゃあ、行こうか?」
「はい。」
すっかり実家にもなじんでる。意外に順調なのだ。
誰のおかげか?
それはとぼけた両親と猫のおかげです。
帰るのを待ち構えて自分の幼少期の揶揄いネタを披露する母親。
とぼける父親。
まるでコントのように練られた台本で。
彼女を笑顔にするためなのか、息子の幸せを願ってなのか?
「ねえ、2人でいる時はかわいいのかって?」
「枝野さんの冗談でしょう?はっきりとこっち見てましたよね。」
「視線合った?」
「恥ずかしいので俯いてましたよ。」
「美人だって褒めてた。枝野が小声で話す奴だったら教えてあげても良かったけど。」
「何をですか?」
「二人の時はね・・・・・・って。」
キッと睨まれた。
目つきの悪い猫程に可愛い。
「今日はご機嫌だし、別に平気だもんね。あとで謝るから許しくれるよね。」
「一人で実家に帰りますか?」
「いいの?会わなくていいの?可愛いかな?生意気かな?グリグリしてやるもんね。お土産次第で喉をならして喜んだりしてくれるかな?いいの?動画撮ってきてあげようか?」
「牙がなくて本当に残念です。」
「うん、欲しいね。甘噛みされたいし。」
「本気で喰らいつきます。」
「どうぞどうぞ、お好きなところを。」
「疲れます。」
「まだまだ。」
「でもさあ、誰だろう、鈴木さんを気にいってる奴って。楽しみだよね。」
「同期の人ですかね?」
「どうだろう、枝野と仲がいい奴だろう。同期かもね。」
「うっすらと町野さんと鈴木さんの噂があったから、枝野さんも鈴木さんの気持ち知ってたし、紹介できなかったんじゃないですか?」
「枝野も僕に確認してくれれば済んだ話なのになあ。」
「鈍すぎてどうにも相手にされなかったんでしょうね。」
「イジメたい?さっきの仕返し?」
「本当の事です。」
「またみんなと飲みに行く?」
「向かいの席にいてくれますか?」
「もちろん。隣でもいいよ。さりげなく手をつなぐ?」
「何を考えてるんですか?いいです。女子と座ります。」
「喋れる?楽しい?寂しくない?」
「大丈夫になります。」
「うん。楽しみ。」
笑顔で応援した。
「町野さん。やっぱり優しいです。」
意地悪でエロいけどと付け加えられた言葉すら讃辞に聞こえる。
最近個人授業も結果を出し、自信をつけてきた。
あのデザイン部と営業合併話が出てくることはないが。
自分にはそれなりに役に立ってる。
言われた部分をその場で手直しできるくらいにはなった。
本当に食堂に『恋愛成就ホッケ定食』と書いておきたいくらい。
相変わらずにやけた日々を送っている。
本人が言った通りだんだん普通に話をするようになり、週末には前と変わらないくらいになったと思う。
自分が構えることも・・・・ない。
そんなある週末目前の金曜日。
課内のいつものメンバーで飲みに行こうという話になった。
どうしよう、先週は断ったけど、そう毎回断るのもなあと思ってた。
「町野君、久しぶりに飲みに行くよ。あと麻美さんも行こう。」
鈴木さんが二人まとめて誘う。
「どうしようかなあ?」
ゆっくり彼女の方を見るとびっくりした顔のまま、緊張も張り付いている。
「行こう、町野君も私も話がしたいし、ね?」
そう言われて断れるわけもなく。
軽くうなずいた彼女。
当然自分も行くことになった。
「予約するよ。」
枝野も少しびっくりしただろうけど人数を言って予約をしている。
まあ、大体お店は決まってる。
仕事が終わって皆で移動する。
鈴木さんと彼女と三人で話ながら歩き、奥の席に座った。
少しづつ慣れて行ってくれればいいなあって思ってる。
随分雰囲気は慣れてきた気がするんだけど。
そうしたらランチも一緒にとれたりするし。
鈴木さんが誘ってくれることもあるだろうか?
鈴木さんと彼女が横並び、自分の隣には後輩の本田君。
本田君、『使命感』に忠実過ぎる、もしくはスパイ業が気に入ってる?
多分今日の事も報告が行くんだろう。
半面、可哀想にいつまでスパイ役やってるんだろうとは思う。
こうなったら本人に言ってあげたい。
バレた日には絶対言おう。そう思った。
いつか、その日が来たらと。
「でもさあ、町野君が結構エロいって想像できなかったなあ。」
何の話?
鈴木さんがぼんやりした後つぶやいた。
でもその声は大きくて、四人以外にも聞こえたらしい。
敏感に枝野が食いついてきた。
「何のことだよ、町野のエロって。」
「なんだか大人しそうな見かけなのにエロいらしいの。」
「町野、彼女が出来たからって。何、鈴木に報告してんだよ・・・・馬鹿か?」
最後のは本気だ。目が怖い。
「してないよ、鈴木さんが勝手に言ってるんだよ。」
「違うよ、彼女に聞いたんだから。」
しーん。爆弾発言。
それは誰だって話になるだろうし?彼女の方を向けない。
本田君の最終レポートが目に浮かぶ。
『浮かれてエロい毎日らしいです。』
そんな報告書が回ってくるのか?
誰も発言せずにそのまま場が静まったまま。
「誰ですか?」
スパイ役ははっきり聞きたいらしい。
さすがに三年務めてる義務感か。
「まあ、その内にね。」鈴木さんが答えた。
とりあえず暴露はそこまでで終わった、今は。
エロいという話は飛んでくれただろうか?
鈴木さんはともかく一応後二人後輩の女の子もいるのに。
変な目で見られるじゃないか・・・・。
『普通です。』そんな宣言、さすがに出来ない。
普通だと思ってる自分。
ただ彼女は比較ができる対象がいない。
それは良かった‥のか?
悪かったのでは・・・・。
「あ~あ、私も頑張ろう。枝野君、頑張ろうね。まさか町野君に後れを取ったなんて。」
一瞬微妙な空気が流れたけど枝野が吹き飛ばす。
「鈴木に紹介したい奴がいるんだけど。誘われてたんだ、今度一緒に飲みに行こう。」
「・・・・・マジ?」
「ああ、いい奴だし。友達から付き合ってみれば。性格がいいのは保証する。」
「マジっ?」
すごくうれしそうにする鈴木さん。
もしそれが本当ならうれしい。いや、さっきの今でその誘い、嘘はないだろう。
同期の奴だろうか?誰だろう?
こっそり彼女と目線を合わせて会話する。
良かったよね、と。
話題はよそのメンバーの恋愛話に移った。
本田君が席を立った時に枝野が隣に来た。
厄介な・・・。
「お前、やりやがったな。」
「何のことだよ。」
「・・・・・じゃあ何で今日彼女が参加してくれた?」
視線が彼女を指した。
バレた。
「マジかよ。何だよ。結局すっごく美人をゲットしたのかよ。」
小さい声ですごく近くでしゃべられる。
気を遣ってるらしい。
「うらやましい。本当にうらやましい。」
うっとうしいくらい耳元で泣き事を言う枝野。
肩に置かれた手に力がこもってる気がする、痛い。
手は離れたが軽く突き飛ばされたような気さえする、気のせいだと思おう。
「小路さん、一緒に飲むの初めてだね。」
「・・・・はい、お邪魔してます。」
すっかり怯えた顔の彼女。
気が付いただろう。
何かバラされると思ってるだろう。
「いや~、こっちがお邪魔してるかも。」
そう言いながら振りかぶった手で俺の肩を叩いた。やっぱり痛い。
「町野、いいなあ、美人の彼女。」
声が大きいんだ。
「美人とは限らないだろう。一言もそんな事教えてないし。」
さっきの手で肩を掴まれた。
「美人じゃないと?二人の時はかわいいとか言うのか?」
他のメンバーの注目も集めた。静かになったのは隣のテーブルも。
ご迷惑をおかけしております。
「声がでかい。枝野、お前、勝手に話作るな。」
「悔しいよ~。町野に負けた~。俺だって美人だと思ってたのに。」
最後は小声にはなってくれた。
「無理無理。三年前から目をつけて片思いしてたんだから。よその女とハッピーに過ごしてた枝野君とは違う。」
鈴木さん、そろそろ飲み過ぎです。
見ると本当に目が据わってる。
「あさ・・・小路さん、鈴木さんに飲ませないで、止めてくれる。」
「はい。」返事が良かった。
「うううううう・・・・・。俺も・・・・・・。」
「枝野、もしかして何かあったのか?」
「ない、何もない。ここんとこ、本当に何もない。」
「お前ならすぐできるだろう。ちょっとくらい独り身を味わえばいいよ。」
「その先にあんな美人が待ってる保証があるならな。」
美人美人って三年もかかったし、大変だったんだから。
想像つかないのか、予想以上に大変な思いをしたんだから。
手探りで距離を縮めたあの日々を思い出す。
まあ、一度乗り越えたらものすごくラブラブ中だけど。
つい彼女を見ていた。
「にやけやがって。」
急いで浮かべた記憶映像を消して顔を戻す。
「枝野君、頑張ろう。」
鈴木さんと枝野、同志感があふれだす。
「ああ、俺たちは同期だ。町野はハブろう。」
何でだよ。
なんとかバレるのは最小限に抑えられた。
そう思って安心していた。
お開きになり二次会はパスして二人で帰った。
交代でシャワーを浴びてリラックスする。
「どうだった?疲れた?」
「大丈夫です。鈴木さんの秘密の暴露にドキドキしました。枝野さんにもバレたんですよね。」
「うん、意外に鋭い。でも最小限の同期だけにとどまって良かった。一安心。」
彼女に笑いかけたら微妙な顔をされた。
「どうしたの?」
携帯を差し出された。
スパイの本田君からの転送メールだった。
報告が素早い!
タイトルが『バレたのかな?』
『お疲れ様。おなじみ町野さん情報です。美人の彼女とエロい毎日のようです。はっきりにやけてることが多いです。この間からの報告が本当に残念報告だったらと思ってたけど、依頼主は小路さんかな?そして町野さんの彼女も小路さんじゃないかと思ってます。じっくりと今日観察してほぼ確信してるんだけど。依頼主もそうだとしたらスルッと納得。残念報告じゃなくて、ものすごく役に立ってたんだったらうれしいです。一人が失恋したっぽいけど乗り越えたらしいし、あと1人にはバレたようです。僕を入れて三人かな。続報どうします? 追記、小路さん、町野さんの顔が面白いです。良かったね。お礼はいつでもいいよ。ほぼ確信してるスパイ担当本田でした。』
三人。本当にそれだけか?
今更不安になった。
本田君は仕方ないか。役に立ったんだろうから。
今度奢ってやろう。
「ねえ、僕の顔が面白いって・・・・。エロい毎日って、正直だから否定できないなあ。」
睨まれた。
「誰のせいって、麻美さんが鈴木さんに正直に答えるからだよ。エロいって聞かれて普通って答えたらそんな事は言われなかったのに。僕が誤解されてるんだって。やだなあ、今までゲイなんて疑われてたのにいきなりそうなって。」
困った顔を作って聞く。
「どうする?」
「何をですか?」
「禁欲的に過ごしたらにやけないで仕事できるかな?」
「無理じゃないですか?」
「僕が・・・?それとも?」
・・・・・・・知りません。 小さい声だったけど否定はされず。
「今週どうする?」
「今まで通りでお願いします。」
キスをしながら笑顔になる。
「ねえ。」
「はい?」
「実家に猫に会いに帰るかどうか聞いたんだけど。」
「意地悪なタイミングでそんなふうにわざと質問しないでください。」
「勝手に誤解しないでください。お互いに無理だろうってさっき言ったじゃない。」
「言ってません。」
「そう?」
「明日の事は明日考えよう。」
「会いたいです。」
「じゃあ、行こうか?」
「はい。」
すっかり実家にもなじんでる。意外に順調なのだ。
誰のおかげか?
それはとぼけた両親と猫のおかげです。
帰るのを待ち構えて自分の幼少期の揶揄いネタを披露する母親。
とぼける父親。
まるでコントのように練られた台本で。
彼女を笑顔にするためなのか、息子の幸せを願ってなのか?
「ねえ、2人でいる時はかわいいのかって?」
「枝野さんの冗談でしょう?はっきりとこっち見てましたよね。」
「視線合った?」
「恥ずかしいので俯いてましたよ。」
「美人だって褒めてた。枝野が小声で話す奴だったら教えてあげても良かったけど。」
「何をですか?」
「二人の時はね・・・・・・って。」
キッと睨まれた。
目つきの悪い猫程に可愛い。
「今日はご機嫌だし、別に平気だもんね。あとで謝るから許しくれるよね。」
「一人で実家に帰りますか?」
「いいの?会わなくていいの?可愛いかな?生意気かな?グリグリしてやるもんね。お土産次第で喉をならして喜んだりしてくれるかな?いいの?動画撮ってきてあげようか?」
「牙がなくて本当に残念です。」
「うん、欲しいね。甘噛みされたいし。」
「本気で喰らいつきます。」
「どうぞどうぞ、お好きなところを。」
「疲れます。」
「まだまだ。」
「でもさあ、誰だろう、鈴木さんを気にいってる奴って。楽しみだよね。」
「同期の人ですかね?」
「どうだろう、枝野と仲がいい奴だろう。同期かもね。」
「うっすらと町野さんと鈴木さんの噂があったから、枝野さんも鈴木さんの気持ち知ってたし、紹介できなかったんじゃないですか?」
「枝野も僕に確認してくれれば済んだ話なのになあ。」
「鈍すぎてどうにも相手にされなかったんでしょうね。」
「イジメたい?さっきの仕返し?」
「本当の事です。」
「またみんなと飲みに行く?」
「向かいの席にいてくれますか?」
「もちろん。隣でもいいよ。さりげなく手をつなぐ?」
「何を考えてるんですか?いいです。女子と座ります。」
「喋れる?楽しい?寂しくない?」
「大丈夫になります。」
「うん。楽しみ。」
笑顔で応援した。
「町野さん。やっぱり優しいです。」
意地悪でエロいけどと付け加えられた言葉すら讃辞に聞こえる。
最近個人授業も結果を出し、自信をつけてきた。
あのデザイン部と営業合併話が出てくることはないが。
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