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14 動物園にはいないけど、ヒンヤリ寝てるマンモス気分。
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月曜日、隣からの視線はうっすらと躱した。
コンビニで時間を調整して、ギリギリちょっと前に滑り込んだから。
それでも先週に引き続き『探し物』の言い訳は使えなくて、一緒にランチに行った。
「先週は残念だった。せっかくサジーと美味しいお店をたくさん見つけてるんだから。優、今週は?」
私がダメだったからキャンセルになったの?
「ねえ、そんなに佐島君と仲がいいの?」
外だったけど、ちょっとだけ声を落とした。
「うん、いい奴だよ。いろいろ面倒がらずに付き合ってくれるし相性もいいみたい。」
それは特別な事?
別に照れるでもなく普通に聞かされたら、ますます聞けないし、分からない。
「優、だから今週の予定だってば。」
「ごめん、ちょっとわからない。ねえ、ダメだったら他の人を誘ってもいいよ。村山君も一緒に飲みたがってたよ。佐島君に頼んだらって言ったけど。」
「優はさ、家族仲がいいから『愛情慣れ』してるんじゃない?もっと寂しいって思うことが多かったら、普通に考えられる事なのに。」
何を?
寂しく空と話をして週末の時間を使ってました。
大好きな家族といてもそう思うことはあるよ。
「ねえ、電話かかってきた?」
マコトが聞いてきたことは、本当に聖も初耳だったみたい。
一言で説明されてる。
『聞かれたから教えた。どうやら謝りたかったらしい。』
「かかってきたよ。もう私が謝られてどうするの。謝るのは私だから、気を付けるってまた言ったんだから。」
冗談のように言う。
「矢田っちは何て?」
聖は矢田君もそう呼ぶことにしたらしい。
本人にもそう呼び掛けそう。
やっぱり『サジー』も『矢田っち』も同じ距離?
ちょっとだけ羨ましいとさえ思う。
愛情慣れって何よ、そんな事言ってる聖の方が器用でいいじゃない。
マコトは何も言わない。
満足したよね?
「もう、だから今週今週!!」
聖が思い出してまた聞いてきた。
「やめとこうかな・・・・・。」
「意気地なし。」
マコトが小さく呟いた気がした。
聖は気がついてない。隣の私にだけ聞こえたかもしれない。
どうして私が友達にそんなことを言われるの?
でも気がつかないふりをした。
ガッカリした聖の表情。
「ごめんなさい。」
小心者の私は謝った。
「ねえ、一体どうなってるの?誰が一番分かってるの?」
「誰も分かってない。闇の中。」
私は分かってる。言われたことは、ちゃんと起きてたし、酔ってもなかったし。
だから分かってるよ。
聖がため息をついた。
私もマコトも、諦めた聖もランチを黙々と食べた。
なんだかお通夜気分。
『美味しい』の言葉もない時間になったじゃない。
マコトはもう探ってこない。
元気になったはずの私は普通に仕事も出来てる。
疲れた以外のため息はついてない、はず。
「先に帰るね。」
無言なのも苦痛で、隣のマコトにそう言って仕事を終わりにした。
「お疲れ。また明日。」
答えてくれたマコトも普通だった。ちょっと安心。
笑顔を見せてお疲れを返して、席を離れた。
気まずいのは嫌だから。
今日は何を食べたいだろう。
早いから私が作ってもいい。
でも昨日たくさん買い込んで、今日のメニューも決まってたはずだ。
家に帰らないと分からない。
改札が見えてきた、本当に駅は目の前。
「赤城さん。」
最近呼ばれ慣れた気分。
先週から随分声を聞いてる気分だし。
でも、今聞きたいかと言ったら、そうでもないと思う。
振り返ったら矢田君がいた。
矢田っちと呼ばれてるの知ってるかな?
その顔を見てそう思った。関係ないけど。
「お疲れ様、赤城さん。」
「お疲れ様、矢田君。今日も早かったんだね。」
「僕はまだ仕事途中。ちょっとだけ話がしたくて。」
また?ちょっとだけを、また?
先週の月曜日とは違う。
まったくうれしいとも思えない。
でも、お願いされた、そんな表情の矢田君だった。
二人立ち止まってるのも変で、「はい。」そう答えた。
歩きだした矢田君の背中について行く。
確かに手ぶらだ。
たまたま廊下で私の帰る姿を見かけて仕事を中断してきたんだろうか?
会社の中では休憩室に行かない限り他の課の人と話をすることもない。
ランチもビル内のレストランが多いから、その中で本当にたまに知ってる顔を見つけるだけ。
外に行くことが多いと会うことはない。
先週はそうしてたし。
隣のビルに入った。初めてだった。
何かあるのだろうか?
エレベーターに乗って上の階へ行った。
あんまり知られてないのだろう、人は少ない、数人がいるだけ。
でも一度来たら教えたくなる場所ではある。
コーヒーを持って適当にぼんやりするにはいい。
緑があり、ガラスの外に出ると空も見えて、でも屋根はあるから雨の日もまあまあ大丈夫そう。
思わずホッとするくらい。
先に歩いていた背中がくるりと回った。
「この間、失礼なことを言ったから、それを謝りたい。電話じゃなかなか伝わらなくて。」
「大丈夫、伝わったよ。気にしないで。」
そう言えた。
この間も言ったのに。
「迷惑なんて思ってない、あの最初の時も、二度目も。誰もそんなこと思ってない。びっくりと面白い酔いの癖だなあって思ったくらいで。外野は思いっきり楽しんでるし。」
被害者以外はそうだろう。
「でも、酔わないで欲しいとは思った。」
ほら、被害者の本音はそうだって。
迷惑じゃないってさっき言ったのに、また否定して、もうやめて欲しいのに。
分かったから。反省してるのに。
「俺の前以外では、やめて欲しい、酔わないで欲しい、本当はそう思ってる。」
逆だよ。それじゃあ全く意味がないかもしれないじゃない。
それにもう飲むこともないのに。
今週だって断ったから。
違う人が一緒に行くことになるよ、その内そんなメンバーに固定されたりするかも。
心ではずっと返事してるのに、声には出てない。
「ねえ、顔をあげて欲しい。」
顔をあげた。
一歩進んで緑を抜けた柵を掴んだ。
「ここいいね。気持ちいいね。知らなかった、こんな場所。」
そう言って顔をあげた。
「聞いたじゃない、一族の呪い。もうお父さんからお兄ちゃんにってそう思ってたのに、私にも降りかかってきて。残念。だからお酒はやめようと思ってるの。ノンアルコールカクテルも美味しいし、飲むより食べる方を楽しんでもいいなあって思ったし。」
「さっき言った意味が伝わってない?それとも本当に無視したい?」
「何?」
そういえば、最近はこんな疑問が多いと思う。
誰もが私に『理解しろ!』という。
『考えろ!』ともいう。
「俺は気にしない。酔って背中にもたれたかったらもたれればいい、手を握りたかったらどうぞ、お兄さんみたいになっても別にいい。他の誰かに、それが同期の村山でも・・・・そんなのを見るのは嫌だと思う。だから隣にいるから、飲めばいいよ。それなら安心って思ってくれるなら、呆れたりもしないし。それでいい。」
「それはおかしいよ。やっぱり変な癖だよ。びっくりするし、自分でも何が起こるか分からない、だから気を付けようって思ってるし。」
「お父さんとお兄さん、違うと言えば、二人はちゃんと好きな人の隣で飲んでたんだよね。俺は、今まで普通に話しかけたら普通に返してくれて、確かにそんな特別には見てくれてるわけじゃないと思ってた。だから背後霊になられた時はびっくりした。佐島が赤城さんだよって教えてくれて・・・・すぐにバレた。」
「まさかただ酔っぱらって、誰でも良かった、なんて返事になるとは思ってなかった。あの場ではしょうがなくても、本当のところはって勝手に喜んだし、期待したのに。他のメンバーはまだまだ期待してるけど。一人以外はまだまだ期待してる、俺も期待されてる。だから今日も『帰るみたいだよ。』って連絡をもらえた。」
ん?もしかしてマコトが教えた?
お疲れを言った後すぐに連絡したの?
だって偶然だなんて、そんなにないタイミングだと思う。
今日のランチの時の説明じゃ全然だったらしい。
また明日聞かれるんだろうか?
「金曜日、何も用事がなかったら飲みに行かない?ちゃんと隣で見てるから、飲めばいいよ。メンバーは後は佐島しかいないと思うけど。すごく楽しみにしてるんだよ、いろんな意味で。」
それが言いたかった事?
他のメンバーも楽しみにしてるのに、私がうんと言うまでなかなか実現されないから。
ついでにちょっと飲ませて皆の娯楽のネタに・・・・。そういうこと?
「絶対村山は呼ばないよ。いいよね。」
すごく近くで言われた。
顔も声も怖いけど。
「さっき言ったけど、返事はないけど、いいよね。今まで他の人にあんなことしたことないんでしょう?じゃあ、いいよね。」
強引に言われた。
「週末は出かけよう。二人で。お酒は無しで。」
「天気になるといいね。」
「ごめん、仕事に戻らなきゃ。夜電話するから。」
続きはその時に・・・・そう言って手をつながれた。
エレベーターに向かう。
本当に私は何も言えてない。
何?どうなった?
エレベーターを降りたら手を離された。
今度も私からじゃないから。
大丈夫、迷惑はかけてない。
隣のビルから出てきた二人。
そこで「じゃあ、夜に。」そう言われて手を振られた。
「気をつけて。」そう言われて。
ただ、頷いて背中を向けた。
結局無言状態。
何?
村山君、何度も出てきた。どうして?
やっぱり一番高い所から采配してたのはマコトでしょう。
一番分かってるのもマコトでしょう。
でも聞いてやらない。
教えるもんか・・・隣のビルにあんな素敵な場所があるなんて。
二度目の駅前、改札を通りいつもの電車に。
日常の流れに乗れた。
ちょっとだけ寄り道したけど、お母さんに連絡する必要ないくらい、夕食は普通に食べれる。
家に帰って一番乗り。
いつものように洗濯物を取り込んで、一山を作った中から自分の分を持って。
残りの山を綺麗に畳んで、いくつかの綺麗な山を作って、それぞれ所定の場所に置く。
四人分が三人分になった時に少なくなったと思ったけど、これが二人分になるともっと少なくて、毎日じゃなくてもいいかもね。
冷蔵庫の前に行ったら今日のメニューの予定が書かれてた。
それに従って下ごしらえをして。
ああ、あの時に矢田君に謙遜しなくても、それなりに出来るんだから。
もっと堂々としてればよかった・・・・って思って、さっきのことも思い出した。
『俺』・・・・なんて言うんだ
そんな事をしみじみ思って、さっきの内容はあんまり考えないようにしていた。
分かりにくい。だって全然はっきり伝えられてない。
それなのに『伝わってないの?』なんて聞かれても。
もっとお兄ちゃんは分かりやすかった。
酔ってても大好き!結城さん!!って言葉も態度も手も目も・・・鬱陶しいくらいだった。
分かりやすくて、間違えない、疑わない、がっかりすることもない。
今までだってそんな事感じたことないし。
何で急にそんな事になるの?
マコトの暗躍のせいだとしか思えないくらい。
何を言ったの?
それとも聖?
小出しにし過ぎる、時間がないならもっとスパッと言いたいことを言えばいいのに!!
結局なんだかはっきりしないまま、また電話じゃない。
電話じゃ伝わらないって言いながら、直接会っても伝わらないんだから。
そこはどうよ!!
つい、包丁を突き出していた。
「優、危ないんだけど、誰に包丁向けてるの?」
お母さんが帰ってきたらしい、声をかけられてビックリ!!
「お母さん、急に帰ってこないで。ただ今って言われれば、お帰りなさいは言ってるじゃない。」
「あら、いつも通り声をかけたのに、誰かの独り言が大きくて消されたのよ。誰にお説教してたの?後輩君にそんなに偉そうにしてるの?」
「まさかっ! 違うよ。」
そんな事してないし、するほど接点もない。挨拶だけだし。
「じゃあ、誰だろう。お兄ちゃんのことも言ってたから、お兄ちゃん以外の誰かね。包丁はやめてね。ちゃんとまな板の上で動かしてね。」
声に出てただろうか?
確かに声をかけられてビックリした。自分が包丁を突き出してたなんて。
危ないじゃない・・・・・。
そして、まな板の上には切りかけの野菜があった。
切りやすいように折りたたんでいたはずのキャベツは広がっていて、途中まできれいに切っていた千切りもバラバラに崩れてた。
もう一度丁寧に折りたたんで続きをする。
具だくさんコールスローサラダもどき。
とりあえずキャベツを丸ごと買ったら作るメニューの中の一つ。
「ああ、お父さんダメだって。遅いって。先にどうぞだって。」
「そうなんだ。」
お母さんにそのままキッチンのセンターを譲る。
下味をつけておいていたロース肉をくるくるとシソ巻きにして、フライパンの上に。
その間大根をおろしておく私。
梅干しも種をとって、さらに小さく切って。
ねえ、やっぱりちゃんとやれそうじゃない。
下働きみたいな手伝いだけど、やれると思う。
「ねえ、お母さん、私料理も何とかなるよね?ちゃんと手伝えてるよね。」
「そうね、自慢したい相手がいるなら披露してみれば。それから考えましょう。」
「ちゃんとやれてるよ。自分で考えたメニューだったらちゃんと段取りもつけてただろうし。」
「誰かに聞かれたの?」
「うん。みんな一人暮らしだから、私がついつい謙遜して洗濯係だって言ったらちょっと間が空いたんだけど。それ以外もいけると思うけどなあ。」
「珍しく可愛い悩みね。さっきも元気な独り言が楽しそうだったし、ちょっと安心。」
「独り言が楽しいって何?包丁を持ってたのに。」
「電話があるなら直接その人に聞いたら?」
そう言われてびっくりした。
いつから聞いてたの?
「・・・・今日は早く帰ってこれたんだね。」
「昨日お買い物を手伝ってもらえたしね。」
なるほど・・・・・。
ほとんど聞かれてたかもしれない。
でもそれ以上は聞かれなかった。
夕飯を二人で食べて、お母さんがお風呂に入る間片づけをして、お母さんはお風呂掃除をして。やっぱり分業で家事はうまくやれてると思う。
遅くなった人の分も、具合が悪くなった時も。
お父さんが帰ってきたら小さいビールを出して、食事の間は一緒にいて、いつものドラマを見て、部屋に行った。
携帯は部屋に置いていた。
すぐに確認したけど着信はなかった。
本を持ってベッドにゴロンとなる。
最近気に入って買ったのは鍾乳洞と洞窟の写真集だった。
あくまでも水分たっぷりの鍾乳洞が好みだ。
綺麗な水色や白、だけじゃなくてもっと土色みたいなところもある。
洞窟もカラフルなのが海外にはあるらしい。
氷+何かの成分のつららがたくさんあって、不思議な生き物のような生命力を感じる。
ヒンヤリと涼しいらしい。もっと寒いところもあるらしい。
光の届かない場所もあるし、もっと先に小さいスコープでしかのぞけないくらいの細い隙間で通じてる綺麗な場所があるかもしれない。
長い時間をかけて出来た場所だから、ひょっとしたら恐竜とかマンモスとか、もっと全然知らない生き物が冷凍保存されて寝てるかもしれない。
永い眠りの中にいるのかもしれない。
そんな事を思いながら見ていた写真集。
まさか本当に寝ていたなんて、恐竜気分だったのか、マンモス気分だったのか、それ以外の未知の生命体かも。
ヒンヤリと気持ちいい眠りを妨げたのは現代の文明で。
携帯が音を立てていた。
その瞬間思い出した!!
忘れてた?
とりあえず寝てたのは確か。
急いで手を伸ばして携帯を手にする。
見知らぬ番号、そうだと思って急いで出た。
それで力尽きてゴロンと横になった。
まだ体が目覚めてない。
写真集はとっくに床に落ちていた。
「はい・・・・・赤城です。」
『矢田です。時間大丈夫だったかな?』
「はい。大丈夫です。」
とりあえず長く待たせなかったよね、息をついた。
『寝てた?』
何でバレた?寝てたけど、目は覚めたし。
それでも起き上がりベッドの端に座り、本を拾う。
「大丈夫です。」
『今、起き上がったよね?』
間が空いたのが良くなかったらしい。お見通しだ。
『そんなところも可愛いって思うよ、想像できる。』
何で急に褒められるの?反応できないじゃない。
ひとり顔が赤くなる。
『直接見たいなあ、そんな場面。』
『ねえ、金曜日、飲みに行こう、あのメンバーで。』
『あの』が『どの』メンバーだか、だって一度だけだよ、一緒に飲んだの。
それに・・・・。
「矢田君は私の説得係なの?」
そんな疑問が先に言葉に出た。
大きな息が聞こえた。
『俺が誘わないと来てくれないって、いろんな意味で皆が判断しただけ。勿論一緒に飲みたいって、俺が一番そう思ってるし、他の奴が気を回さなくても席順は隣だって決めてる。』
『今日のあの場所でもっと具体的に言うほど場馴れしてないから。はっきりまだ伝わってない?そんなことないよね。俺が赤城さんを誘いたい、一緒に皆で飲んで、週末は二人で過ごしたい。あ、もちろんどちらかの昼間にデートしたいって事だけどね。』
『ただの飲み仲間は今度の金曜日が最後で、次の日から特別な存在で、付き合って欲しい。』
『あの変な癖も自分に向いてる限りは気にしない。』
付け加えられたけど、お酒の場面で二度だけなのに。
お酒がなかったら普通で癖のない私なのに。
関係ない思考に逃げる。
『もしもし・・・・・・起きてるよね?』
無反応な私にそう聞いてきた矢田君。
「起きてます。聞いてます。」
『それでも、返事はまだなの?・・・・・・もしかして、本当に村山?』
ちょいちょいと登場するけど、何で出て来るの?
「どうして村山君が出て来るのか分からない。村山君はマコトだと思うのに。」
『何で?一緒に帰りながら誘われてたのに、全く気がついてなかったよね。』
『まさか『佐島君に言えばいいよ。』なんて、本当に分かってないなあって、安心するよりも逆に気の毒に思ったくらいだったけど。』
『佐島には一人で誘うって言ってたよ、誘われたんだよね?』
あの金曜日のこと?ちょうどいいタイミングだって、言われたけど。
何か用があるんだと思ってた。
だってほとんど知らない人だよ。
『誘われたんだ、やっぱり。』
無言で考えてる間に勝手に答えを出したらしい。
『一緒に飲みながら、言われなかった?それともやっぱり気がつかなかった?』
「飲んでない。用があって断ったから。それからは別に見かけてもいないし、誘われてもいないし。だから気のせいだと思う。」
『そんな訳ないけど、そうだったら安心するから、いい。』
『それでこの電話までの間に考えてくれたの?金曜日はともかく、週末の誘いはどうしようか、そもそもの告白にどう答えようかって。』
包丁を持って愚痴ってただけだった。
『・・・・本当に考えてくれてないんだ。もしくはまだ答えが出ない、どっちだろう?伝えにくい答えが出たって聞かされると俺だって金曜日は行かないけど。その時は村山でも雫井でも、希望する方を佐島に推薦しておくよ。』
「それは、別にいいです。」
『だとは思ってる。』
自信があるみたい。
それはあの『変な癖』のせいだろう。
「金曜日は飲みに行きます。」
『あえて金曜日限定の返事なんだ。』
「週末もどちらも空いてます。」
『それはすごく楽しみにしてくれるって事でいいの?それとも暇つぶし?』
自信があるみたいにさっき言ったのに。
「・・・楽しみです。」
『顔を見て返事が聞きたい、本当に電話じゃ伝わらない。考え事をしてぼんやりしてる顔もいいけど、いつも話をする時は笑顔だったと思うのに。今その顔をしてくれてるのかは自信がない。』
「そんなに今まで話をした記憶はないです。」
『俺はこの間楢野(ならの)さんに連絡先を教えてもらうまで、赤城さん以外の女子に自分から話かけた記憶はない。』
マコトのことだ。
つい最近のことじゃない。
確かに他の子もそんな場面の記憶がないって言い合った。
でも私もないけど。
『飲み物を配る時は必ず最後にしてたけど。そうするとちょっとは話が出来るし、不自然にも思われてないんなら成功だけど、少しも記憶に残ってないとしたらがっかりだ。』
笑ってる雰囲気だ。いや、呆れてるだろうか?
「だって飲み会がそんなにないじゃない。」
『佐島があんなに北畑さんと意気投合して、しかもノリノリで幹事をするタイプだったなんて知らなかったから。知ってたらさり気なく頼んだと思うよ。』
『二人でリストアップしてたお店はたくさんあるから、モヤモヤの状態だとずっと誘われると思うよ。いっそ二人ならどこまでも飲んでいいし、変な癖も内緒にしてやるよ。その方がのびのびと楽しい時間だと思うけど。』
「お店の人がビックリするから。」
『そんなのはただ甘えたい彼女と甘えさせたい彼氏なんだろうなあって、世間に言われるバカップルがここにもいるなあって思われるくらいだよ。二度と行けなくてもお店なら数限りなくあるし、俺の部屋でもいいよ。夕方までに正気に戻れば送って行くし。』
正気・・・・・?????
戻るまでの状態は何と言われるの?
そこまで酷い?
『あ、ごめん。言葉を間違えた。何て言えばいいんだろう?まあ、普通に酔いが醒めればってことで。ちゃんとお水を飲ませるから、そこは責任持つから、実家だしね。』
『とりあえず金曜日の事はこの後佐島に返事しておくよ。後はまた明日。週末の予定を決めよう。本当に真剣に考えてもらえる?本当は笑顔で返事してくれるのが嬉しいんだけど。』
笑顔で答える時点で返事は決まってるって思ってる。
『ごめんね、無理。』なんて笑顔では言わない。
「はい。考えます。」
マジ・・・・そうつぶやかれた。
「考えます。」
言い切った。
『分かった、お休み。また明日、このくらいの時間に連絡するから、寝てても起きてくれるならいいよ。』
『起きて待ってます。おやすみなさい。』
そう言ってお互いちょっとの間を置いて通話を終わりにした。
携帯はすごく熱く熱を持ってる。
いろいろと言われたことが多すぎて。
いつも端の席にいて飲み物係だと思ってた。
そんな係を喜んで引き受けてるいい人だと思ってた。
どんなに飲んでても注文の記憶は出来るらしいし、あの席から動いてるのも見たことがない。
端を見るといつもそこにいた、確かに。
熱くて放り投げた携帯がまた着信を知らせる。
『金曜日、楽しく飲もうね。』
聖からだった。
素早い矢田君と佐島君。
予約より先に聖に連絡しただろう佐島君。
私が役に立ってる?
ちょっと聞きたい。
だってなんだかんだ矢田君は気がついてない感じじゃない?
急に張り切ってる佐島君を、ただの友達思いって考えてるみたい。
残念でした、そう言いたい。
いつか言いたい。
その時は思いっきり笑顔だし、唖然とする顔も見たい。
ちょっとはがっかりするかな?
笑顔になった。
聖にはどうせ明日聞かれるし、返事はしない。
佐島君と打ち合わせをどうぞ。
喉が渇いて下に降りた。
夜のニュースを二人で見てる。
「お母さん、金曜日の夜は皆で飲むから。週末もどっちかは出かけるかも。」
「あら、楽しい予定が出来たのね。包丁が必要なくて良かった事、平和が一番、素直が一番。」
一番が二個じゃない。
それに絶対お父さんに後で教えるでしょう?
いろいろ想像をつなぎ合わせて、まあまあ正しい答えにたどりついて教えるでしょう?
内緒事が難しい。
これで部屋飲みしてうっかり遅くなったら・・・・それは大変。
言い訳しなくてもいいのにしそうになる、絶対赤くなる、気を付ける・・・・じゃあ、飲めないの?
最近の悩みはお酒の事。
そんな人生の今は幸せなのかもしれない。
あれから夜にちょっとだけ電話で話をして、週末の予定をワクワクしながら決めた。
電話でもワクワクが伝わったらしくて、満足してくれたらしい。
何も言われない。
そして聖もマコトも大人しい。
どうなってる?情報はどうなってる?
私の頭上を言葉が飛び交ってるイメージだ。
そしてドキドキとワクワクと心臓が忙しく動いた夜に、ヒンヤリと鍾乳洞の写真で涼をとり、マンモスの気持ちになって目を閉じる夜。
よく眠れる。
あれはいい!
コンビニで時間を調整して、ギリギリちょっと前に滑り込んだから。
それでも先週に引き続き『探し物』の言い訳は使えなくて、一緒にランチに行った。
「先週は残念だった。せっかくサジーと美味しいお店をたくさん見つけてるんだから。優、今週は?」
私がダメだったからキャンセルになったの?
「ねえ、そんなに佐島君と仲がいいの?」
外だったけど、ちょっとだけ声を落とした。
「うん、いい奴だよ。いろいろ面倒がらずに付き合ってくれるし相性もいいみたい。」
それは特別な事?
別に照れるでもなく普通に聞かされたら、ますます聞けないし、分からない。
「優、だから今週の予定だってば。」
「ごめん、ちょっとわからない。ねえ、ダメだったら他の人を誘ってもいいよ。村山君も一緒に飲みたがってたよ。佐島君に頼んだらって言ったけど。」
「優はさ、家族仲がいいから『愛情慣れ』してるんじゃない?もっと寂しいって思うことが多かったら、普通に考えられる事なのに。」
何を?
寂しく空と話をして週末の時間を使ってました。
大好きな家族といてもそう思うことはあるよ。
「ねえ、電話かかってきた?」
マコトが聞いてきたことは、本当に聖も初耳だったみたい。
一言で説明されてる。
『聞かれたから教えた。どうやら謝りたかったらしい。』
「かかってきたよ。もう私が謝られてどうするの。謝るのは私だから、気を付けるってまた言ったんだから。」
冗談のように言う。
「矢田っちは何て?」
聖は矢田君もそう呼ぶことにしたらしい。
本人にもそう呼び掛けそう。
やっぱり『サジー』も『矢田っち』も同じ距離?
ちょっとだけ羨ましいとさえ思う。
愛情慣れって何よ、そんな事言ってる聖の方が器用でいいじゃない。
マコトは何も言わない。
満足したよね?
「もう、だから今週今週!!」
聖が思い出してまた聞いてきた。
「やめとこうかな・・・・・。」
「意気地なし。」
マコトが小さく呟いた気がした。
聖は気がついてない。隣の私にだけ聞こえたかもしれない。
どうして私が友達にそんなことを言われるの?
でも気がつかないふりをした。
ガッカリした聖の表情。
「ごめんなさい。」
小心者の私は謝った。
「ねえ、一体どうなってるの?誰が一番分かってるの?」
「誰も分かってない。闇の中。」
私は分かってる。言われたことは、ちゃんと起きてたし、酔ってもなかったし。
だから分かってるよ。
聖がため息をついた。
私もマコトも、諦めた聖もランチを黙々と食べた。
なんだかお通夜気分。
『美味しい』の言葉もない時間になったじゃない。
マコトはもう探ってこない。
元気になったはずの私は普通に仕事も出来てる。
疲れた以外のため息はついてない、はず。
「先に帰るね。」
無言なのも苦痛で、隣のマコトにそう言って仕事を終わりにした。
「お疲れ。また明日。」
答えてくれたマコトも普通だった。ちょっと安心。
笑顔を見せてお疲れを返して、席を離れた。
気まずいのは嫌だから。
今日は何を食べたいだろう。
早いから私が作ってもいい。
でも昨日たくさん買い込んで、今日のメニューも決まってたはずだ。
家に帰らないと分からない。
改札が見えてきた、本当に駅は目の前。
「赤城さん。」
最近呼ばれ慣れた気分。
先週から随分声を聞いてる気分だし。
でも、今聞きたいかと言ったら、そうでもないと思う。
振り返ったら矢田君がいた。
矢田っちと呼ばれてるの知ってるかな?
その顔を見てそう思った。関係ないけど。
「お疲れ様、赤城さん。」
「お疲れ様、矢田君。今日も早かったんだね。」
「僕はまだ仕事途中。ちょっとだけ話がしたくて。」
また?ちょっとだけを、また?
先週の月曜日とは違う。
まったくうれしいとも思えない。
でも、お願いされた、そんな表情の矢田君だった。
二人立ち止まってるのも変で、「はい。」そう答えた。
歩きだした矢田君の背中について行く。
確かに手ぶらだ。
たまたま廊下で私の帰る姿を見かけて仕事を中断してきたんだろうか?
会社の中では休憩室に行かない限り他の課の人と話をすることもない。
ランチもビル内のレストランが多いから、その中で本当にたまに知ってる顔を見つけるだけ。
外に行くことが多いと会うことはない。
先週はそうしてたし。
隣のビルに入った。初めてだった。
何かあるのだろうか?
エレベーターに乗って上の階へ行った。
あんまり知られてないのだろう、人は少ない、数人がいるだけ。
でも一度来たら教えたくなる場所ではある。
コーヒーを持って適当にぼんやりするにはいい。
緑があり、ガラスの外に出ると空も見えて、でも屋根はあるから雨の日もまあまあ大丈夫そう。
思わずホッとするくらい。
先に歩いていた背中がくるりと回った。
「この間、失礼なことを言ったから、それを謝りたい。電話じゃなかなか伝わらなくて。」
「大丈夫、伝わったよ。気にしないで。」
そう言えた。
この間も言ったのに。
「迷惑なんて思ってない、あの最初の時も、二度目も。誰もそんなこと思ってない。びっくりと面白い酔いの癖だなあって思ったくらいで。外野は思いっきり楽しんでるし。」
被害者以外はそうだろう。
「でも、酔わないで欲しいとは思った。」
ほら、被害者の本音はそうだって。
迷惑じゃないってさっき言ったのに、また否定して、もうやめて欲しいのに。
分かったから。反省してるのに。
「俺の前以外では、やめて欲しい、酔わないで欲しい、本当はそう思ってる。」
逆だよ。それじゃあ全く意味がないかもしれないじゃない。
それにもう飲むこともないのに。
今週だって断ったから。
違う人が一緒に行くことになるよ、その内そんなメンバーに固定されたりするかも。
心ではずっと返事してるのに、声には出てない。
「ねえ、顔をあげて欲しい。」
顔をあげた。
一歩進んで緑を抜けた柵を掴んだ。
「ここいいね。気持ちいいね。知らなかった、こんな場所。」
そう言って顔をあげた。
「聞いたじゃない、一族の呪い。もうお父さんからお兄ちゃんにってそう思ってたのに、私にも降りかかってきて。残念。だからお酒はやめようと思ってるの。ノンアルコールカクテルも美味しいし、飲むより食べる方を楽しんでもいいなあって思ったし。」
「さっき言った意味が伝わってない?それとも本当に無視したい?」
「何?」
そういえば、最近はこんな疑問が多いと思う。
誰もが私に『理解しろ!』という。
『考えろ!』ともいう。
「俺は気にしない。酔って背中にもたれたかったらもたれればいい、手を握りたかったらどうぞ、お兄さんみたいになっても別にいい。他の誰かに、それが同期の村山でも・・・・そんなのを見るのは嫌だと思う。だから隣にいるから、飲めばいいよ。それなら安心って思ってくれるなら、呆れたりもしないし。それでいい。」
「それはおかしいよ。やっぱり変な癖だよ。びっくりするし、自分でも何が起こるか分からない、だから気を付けようって思ってるし。」
「お父さんとお兄さん、違うと言えば、二人はちゃんと好きな人の隣で飲んでたんだよね。俺は、今まで普通に話しかけたら普通に返してくれて、確かにそんな特別には見てくれてるわけじゃないと思ってた。だから背後霊になられた時はびっくりした。佐島が赤城さんだよって教えてくれて・・・・すぐにバレた。」
「まさかただ酔っぱらって、誰でも良かった、なんて返事になるとは思ってなかった。あの場ではしょうがなくても、本当のところはって勝手に喜んだし、期待したのに。他のメンバーはまだまだ期待してるけど。一人以外はまだまだ期待してる、俺も期待されてる。だから今日も『帰るみたいだよ。』って連絡をもらえた。」
ん?もしかしてマコトが教えた?
お疲れを言った後すぐに連絡したの?
だって偶然だなんて、そんなにないタイミングだと思う。
今日のランチの時の説明じゃ全然だったらしい。
また明日聞かれるんだろうか?
「金曜日、何も用事がなかったら飲みに行かない?ちゃんと隣で見てるから、飲めばいいよ。メンバーは後は佐島しかいないと思うけど。すごく楽しみにしてるんだよ、いろんな意味で。」
それが言いたかった事?
他のメンバーも楽しみにしてるのに、私がうんと言うまでなかなか実現されないから。
ついでにちょっと飲ませて皆の娯楽のネタに・・・・。そういうこと?
「絶対村山は呼ばないよ。いいよね。」
すごく近くで言われた。
顔も声も怖いけど。
「さっき言ったけど、返事はないけど、いいよね。今まで他の人にあんなことしたことないんでしょう?じゃあ、いいよね。」
強引に言われた。
「週末は出かけよう。二人で。お酒は無しで。」
「天気になるといいね。」
「ごめん、仕事に戻らなきゃ。夜電話するから。」
続きはその時に・・・・そう言って手をつながれた。
エレベーターに向かう。
本当に私は何も言えてない。
何?どうなった?
エレベーターを降りたら手を離された。
今度も私からじゃないから。
大丈夫、迷惑はかけてない。
隣のビルから出てきた二人。
そこで「じゃあ、夜に。」そう言われて手を振られた。
「気をつけて。」そう言われて。
ただ、頷いて背中を向けた。
結局無言状態。
何?
村山君、何度も出てきた。どうして?
やっぱり一番高い所から采配してたのはマコトでしょう。
一番分かってるのもマコトでしょう。
でも聞いてやらない。
教えるもんか・・・隣のビルにあんな素敵な場所があるなんて。
二度目の駅前、改札を通りいつもの電車に。
日常の流れに乗れた。
ちょっとだけ寄り道したけど、お母さんに連絡する必要ないくらい、夕食は普通に食べれる。
家に帰って一番乗り。
いつものように洗濯物を取り込んで、一山を作った中から自分の分を持って。
残りの山を綺麗に畳んで、いくつかの綺麗な山を作って、それぞれ所定の場所に置く。
四人分が三人分になった時に少なくなったと思ったけど、これが二人分になるともっと少なくて、毎日じゃなくてもいいかもね。
冷蔵庫の前に行ったら今日のメニューの予定が書かれてた。
それに従って下ごしらえをして。
ああ、あの時に矢田君に謙遜しなくても、それなりに出来るんだから。
もっと堂々としてればよかった・・・・って思って、さっきのことも思い出した。
『俺』・・・・なんて言うんだ
そんな事をしみじみ思って、さっきの内容はあんまり考えないようにしていた。
分かりにくい。だって全然はっきり伝えられてない。
それなのに『伝わってないの?』なんて聞かれても。
もっとお兄ちゃんは分かりやすかった。
酔ってても大好き!結城さん!!って言葉も態度も手も目も・・・鬱陶しいくらいだった。
分かりやすくて、間違えない、疑わない、がっかりすることもない。
今までだってそんな事感じたことないし。
何で急にそんな事になるの?
マコトの暗躍のせいだとしか思えないくらい。
何を言ったの?
それとも聖?
小出しにし過ぎる、時間がないならもっとスパッと言いたいことを言えばいいのに!!
結局なんだかはっきりしないまま、また電話じゃない。
電話じゃ伝わらないって言いながら、直接会っても伝わらないんだから。
そこはどうよ!!
つい、包丁を突き出していた。
「優、危ないんだけど、誰に包丁向けてるの?」
お母さんが帰ってきたらしい、声をかけられてビックリ!!
「お母さん、急に帰ってこないで。ただ今って言われれば、お帰りなさいは言ってるじゃない。」
「あら、いつも通り声をかけたのに、誰かの独り言が大きくて消されたのよ。誰にお説教してたの?後輩君にそんなに偉そうにしてるの?」
「まさかっ! 違うよ。」
そんな事してないし、するほど接点もない。挨拶だけだし。
「じゃあ、誰だろう。お兄ちゃんのことも言ってたから、お兄ちゃん以外の誰かね。包丁はやめてね。ちゃんとまな板の上で動かしてね。」
声に出てただろうか?
確かに声をかけられてビックリした。自分が包丁を突き出してたなんて。
危ないじゃない・・・・・。
そして、まな板の上には切りかけの野菜があった。
切りやすいように折りたたんでいたはずのキャベツは広がっていて、途中まできれいに切っていた千切りもバラバラに崩れてた。
もう一度丁寧に折りたたんで続きをする。
具だくさんコールスローサラダもどき。
とりあえずキャベツを丸ごと買ったら作るメニューの中の一つ。
「ああ、お父さんダメだって。遅いって。先にどうぞだって。」
「そうなんだ。」
お母さんにそのままキッチンのセンターを譲る。
下味をつけておいていたロース肉をくるくるとシソ巻きにして、フライパンの上に。
その間大根をおろしておく私。
梅干しも種をとって、さらに小さく切って。
ねえ、やっぱりちゃんとやれそうじゃない。
下働きみたいな手伝いだけど、やれると思う。
「ねえ、お母さん、私料理も何とかなるよね?ちゃんと手伝えてるよね。」
「そうね、自慢したい相手がいるなら披露してみれば。それから考えましょう。」
「ちゃんとやれてるよ。自分で考えたメニューだったらちゃんと段取りもつけてただろうし。」
「誰かに聞かれたの?」
「うん。みんな一人暮らしだから、私がついつい謙遜して洗濯係だって言ったらちょっと間が空いたんだけど。それ以外もいけると思うけどなあ。」
「珍しく可愛い悩みね。さっきも元気な独り言が楽しそうだったし、ちょっと安心。」
「独り言が楽しいって何?包丁を持ってたのに。」
「電話があるなら直接その人に聞いたら?」
そう言われてびっくりした。
いつから聞いてたの?
「・・・・今日は早く帰ってこれたんだね。」
「昨日お買い物を手伝ってもらえたしね。」
なるほど・・・・・。
ほとんど聞かれてたかもしれない。
でもそれ以上は聞かれなかった。
夕飯を二人で食べて、お母さんがお風呂に入る間片づけをして、お母さんはお風呂掃除をして。やっぱり分業で家事はうまくやれてると思う。
遅くなった人の分も、具合が悪くなった時も。
お父さんが帰ってきたら小さいビールを出して、食事の間は一緒にいて、いつものドラマを見て、部屋に行った。
携帯は部屋に置いていた。
すぐに確認したけど着信はなかった。
本を持ってベッドにゴロンとなる。
最近気に入って買ったのは鍾乳洞と洞窟の写真集だった。
あくまでも水分たっぷりの鍾乳洞が好みだ。
綺麗な水色や白、だけじゃなくてもっと土色みたいなところもある。
洞窟もカラフルなのが海外にはあるらしい。
氷+何かの成分のつららがたくさんあって、不思議な生き物のような生命力を感じる。
ヒンヤリと涼しいらしい。もっと寒いところもあるらしい。
光の届かない場所もあるし、もっと先に小さいスコープでしかのぞけないくらいの細い隙間で通じてる綺麗な場所があるかもしれない。
長い時間をかけて出来た場所だから、ひょっとしたら恐竜とかマンモスとか、もっと全然知らない生き物が冷凍保存されて寝てるかもしれない。
永い眠りの中にいるのかもしれない。
そんな事を思いながら見ていた写真集。
まさか本当に寝ていたなんて、恐竜気分だったのか、マンモス気分だったのか、それ以外の未知の生命体かも。
ヒンヤリと気持ちいい眠りを妨げたのは現代の文明で。
携帯が音を立てていた。
その瞬間思い出した!!
忘れてた?
とりあえず寝てたのは確か。
急いで手を伸ばして携帯を手にする。
見知らぬ番号、そうだと思って急いで出た。
それで力尽きてゴロンと横になった。
まだ体が目覚めてない。
写真集はとっくに床に落ちていた。
「はい・・・・・赤城です。」
『矢田です。時間大丈夫だったかな?』
「はい。大丈夫です。」
とりあえず長く待たせなかったよね、息をついた。
『寝てた?』
何でバレた?寝てたけど、目は覚めたし。
それでも起き上がりベッドの端に座り、本を拾う。
「大丈夫です。」
『今、起き上がったよね?』
間が空いたのが良くなかったらしい。お見通しだ。
『そんなところも可愛いって思うよ、想像できる。』
何で急に褒められるの?反応できないじゃない。
ひとり顔が赤くなる。
『直接見たいなあ、そんな場面。』
『ねえ、金曜日、飲みに行こう、あのメンバーで。』
『あの』が『どの』メンバーだか、だって一度だけだよ、一緒に飲んだの。
それに・・・・。
「矢田君は私の説得係なの?」
そんな疑問が先に言葉に出た。
大きな息が聞こえた。
『俺が誘わないと来てくれないって、いろんな意味で皆が判断しただけ。勿論一緒に飲みたいって、俺が一番そう思ってるし、他の奴が気を回さなくても席順は隣だって決めてる。』
『今日のあの場所でもっと具体的に言うほど場馴れしてないから。はっきりまだ伝わってない?そんなことないよね。俺が赤城さんを誘いたい、一緒に皆で飲んで、週末は二人で過ごしたい。あ、もちろんどちらかの昼間にデートしたいって事だけどね。』
『ただの飲み仲間は今度の金曜日が最後で、次の日から特別な存在で、付き合って欲しい。』
『あの変な癖も自分に向いてる限りは気にしない。』
付け加えられたけど、お酒の場面で二度だけなのに。
お酒がなかったら普通で癖のない私なのに。
関係ない思考に逃げる。
『もしもし・・・・・・起きてるよね?』
無反応な私にそう聞いてきた矢田君。
「起きてます。聞いてます。」
『それでも、返事はまだなの?・・・・・・もしかして、本当に村山?』
ちょいちょいと登場するけど、何で出て来るの?
「どうして村山君が出て来るのか分からない。村山君はマコトだと思うのに。」
『何で?一緒に帰りながら誘われてたのに、全く気がついてなかったよね。』
『まさか『佐島君に言えばいいよ。』なんて、本当に分かってないなあって、安心するよりも逆に気の毒に思ったくらいだったけど。』
『佐島には一人で誘うって言ってたよ、誘われたんだよね?』
あの金曜日のこと?ちょうどいいタイミングだって、言われたけど。
何か用があるんだと思ってた。
だってほとんど知らない人だよ。
『誘われたんだ、やっぱり。』
無言で考えてる間に勝手に答えを出したらしい。
『一緒に飲みながら、言われなかった?それともやっぱり気がつかなかった?』
「飲んでない。用があって断ったから。それからは別に見かけてもいないし、誘われてもいないし。だから気のせいだと思う。」
『そんな訳ないけど、そうだったら安心するから、いい。』
『それでこの電話までの間に考えてくれたの?金曜日はともかく、週末の誘いはどうしようか、そもそもの告白にどう答えようかって。』
包丁を持って愚痴ってただけだった。
『・・・・本当に考えてくれてないんだ。もしくはまだ答えが出ない、どっちだろう?伝えにくい答えが出たって聞かされると俺だって金曜日は行かないけど。その時は村山でも雫井でも、希望する方を佐島に推薦しておくよ。』
「それは、別にいいです。」
『だとは思ってる。』
自信があるみたい。
それはあの『変な癖』のせいだろう。
「金曜日は飲みに行きます。」
『あえて金曜日限定の返事なんだ。』
「週末もどちらも空いてます。」
『それはすごく楽しみにしてくれるって事でいいの?それとも暇つぶし?』
自信があるみたいにさっき言ったのに。
「・・・楽しみです。」
『顔を見て返事が聞きたい、本当に電話じゃ伝わらない。考え事をしてぼんやりしてる顔もいいけど、いつも話をする時は笑顔だったと思うのに。今その顔をしてくれてるのかは自信がない。』
「そんなに今まで話をした記憶はないです。」
『俺はこの間楢野(ならの)さんに連絡先を教えてもらうまで、赤城さん以外の女子に自分から話かけた記憶はない。』
マコトのことだ。
つい最近のことじゃない。
確かに他の子もそんな場面の記憶がないって言い合った。
でも私もないけど。
『飲み物を配る時は必ず最後にしてたけど。そうするとちょっとは話が出来るし、不自然にも思われてないんなら成功だけど、少しも記憶に残ってないとしたらがっかりだ。』
笑ってる雰囲気だ。いや、呆れてるだろうか?
「だって飲み会がそんなにないじゃない。」
『佐島があんなに北畑さんと意気投合して、しかもノリノリで幹事をするタイプだったなんて知らなかったから。知ってたらさり気なく頼んだと思うよ。』
『二人でリストアップしてたお店はたくさんあるから、モヤモヤの状態だとずっと誘われると思うよ。いっそ二人ならどこまでも飲んでいいし、変な癖も内緒にしてやるよ。その方がのびのびと楽しい時間だと思うけど。』
「お店の人がビックリするから。」
『そんなのはただ甘えたい彼女と甘えさせたい彼氏なんだろうなあって、世間に言われるバカップルがここにもいるなあって思われるくらいだよ。二度と行けなくてもお店なら数限りなくあるし、俺の部屋でもいいよ。夕方までに正気に戻れば送って行くし。』
正気・・・・・?????
戻るまでの状態は何と言われるの?
そこまで酷い?
『あ、ごめん。言葉を間違えた。何て言えばいいんだろう?まあ、普通に酔いが醒めればってことで。ちゃんとお水を飲ませるから、そこは責任持つから、実家だしね。』
『とりあえず金曜日の事はこの後佐島に返事しておくよ。後はまた明日。週末の予定を決めよう。本当に真剣に考えてもらえる?本当は笑顔で返事してくれるのが嬉しいんだけど。』
笑顔で答える時点で返事は決まってるって思ってる。
『ごめんね、無理。』なんて笑顔では言わない。
「はい。考えます。」
マジ・・・・そうつぶやかれた。
「考えます。」
言い切った。
『分かった、お休み。また明日、このくらいの時間に連絡するから、寝てても起きてくれるならいいよ。』
『起きて待ってます。おやすみなさい。』
そう言ってお互いちょっとの間を置いて通話を終わりにした。
携帯はすごく熱く熱を持ってる。
いろいろと言われたことが多すぎて。
いつも端の席にいて飲み物係だと思ってた。
そんな係を喜んで引き受けてるいい人だと思ってた。
どんなに飲んでても注文の記憶は出来るらしいし、あの席から動いてるのも見たことがない。
端を見るといつもそこにいた、確かに。
熱くて放り投げた携帯がまた着信を知らせる。
『金曜日、楽しく飲もうね。』
聖からだった。
素早い矢田君と佐島君。
予約より先に聖に連絡しただろう佐島君。
私が役に立ってる?
ちょっと聞きたい。
だってなんだかんだ矢田君は気がついてない感じじゃない?
急に張り切ってる佐島君を、ただの友達思いって考えてるみたい。
残念でした、そう言いたい。
いつか言いたい。
その時は思いっきり笑顔だし、唖然とする顔も見たい。
ちょっとはがっかりするかな?
笑顔になった。
聖にはどうせ明日聞かれるし、返事はしない。
佐島君と打ち合わせをどうぞ。
喉が渇いて下に降りた。
夜のニュースを二人で見てる。
「お母さん、金曜日の夜は皆で飲むから。週末もどっちかは出かけるかも。」
「あら、楽しい予定が出来たのね。包丁が必要なくて良かった事、平和が一番、素直が一番。」
一番が二個じゃない。
それに絶対お父さんに後で教えるでしょう?
いろいろ想像をつなぎ合わせて、まあまあ正しい答えにたどりついて教えるでしょう?
内緒事が難しい。
これで部屋飲みしてうっかり遅くなったら・・・・それは大変。
言い訳しなくてもいいのにしそうになる、絶対赤くなる、気を付ける・・・・じゃあ、飲めないの?
最近の悩みはお酒の事。
そんな人生の今は幸せなのかもしれない。
あれから夜にちょっとだけ電話で話をして、週末の予定をワクワクしながら決めた。
電話でもワクワクが伝わったらしくて、満足してくれたらしい。
何も言われない。
そして聖もマコトも大人しい。
どうなってる?情報はどうなってる?
私の頭上を言葉が飛び交ってるイメージだ。
そしてドキドキとワクワクと心臓が忙しく動いた夜に、ヒンヤリと鍾乳洞の写真で涼をとり、マンモスの気持ちになって目を閉じる夜。
よく眠れる。
あれはいい!
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