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15 鍾乳洞の湿度にも勝る二人の声のしっとり感、それが安心の元だから。
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新人君が男の子だったために、私達二年目が楽してることはある。
ちょいちょい届く荷物の分配、資材の管理、会議にまつわる準備など。
重たいもの、大きいものを目にすると、ついつい探してしまう。
その辺は心得たもので、宅急便の台車の音がすると出て来てくれるし、私たちに頼まれた事でも率先して手伝いを申し出てくれる。
すごくいい後輩君なのだ。
午後の偉い人の会議の準備をしていた。
言われた通りに机を並べて、イスを並べて、美しく整えて。
あとはペットボトルを並べて資料を並べて。
「こんな感じかな?」
「そうですね。」
「本当にいつもありがとう。すごく助かってる。」
「赤城先輩達は女性三人だったんですよね。」
「そう、だから今年は男の人だったのかも。一人より女子でも誰かいた方が良かったよね。」
「そうですね。他のところは割と複数配属なんです。でも、いいです。皆優しいので困ることはないです。」
部活動もサークルもガッツリな方の運動部だったらしい。
一筋じゃなくて、野球、合気道と柔道、砲丸投げ、山岳部といろんなことをやったらしい。
そんなに簡単にやれるものなの?
「今は太極拳を近くで習っていて、演舞をやりたいと思ってます。まだまだ基本の動きのレベルなんですが来年には。」
よくわからない。
「体を動かしたい方なんだ。」
「そうですね。演武は本当にテレビで見てやりたいと思ったんです。仕事をしながらだからゆっくり長くやるつもりです。」
「ごめんね、まったく知らないの。太極拳ならなんとか想像できるけど。」
「あれの戦うバージョンです。多分イメージはスローですよね?それよりも実際に剣を持って戦う形に動くんです、勢いもあります。実際は舞用の剣ですし、動きはやっぱり決まってるんで力強く美しく舞うということを目指します。」
「体もガッチリしてるし、力強さはありそうだね。」
「そこは自慢しないと今まで鍛えてきたのが無駄になります。」
「お酒飲めそうだね。運動部の人はすごく飲むイメージだから。」
「まあ、そうかもしれません。赤城先輩は飲んだら面白いって楢野(ならの)先輩が教えてくれました。」
マコト・・・・何を教えた・・・・。
「力が抜けるんだよね。マコトも聖も全然変わらないよ。」
「楢野先輩は強いんですか?」
「私に比べたら普通に飲んでる。どのくらい飲むんだかは分からない。」
あれ?聖のことは聞かれない??
なんだか満足そうな笑顔だけど。
今度こそ間違ってないかな?
でもさすがに『じゃあ・・・』って簡単には言えない。
しばらく様子を見よう。
確信が持てたら聖に放り投げよう。
何度も勘違いを披露するわけにはいかない。
夜になると電話がかかってくる。
ちゃんと登録したから誰だかすぐわかるようになった。
最初の頃より落ち着いたトーンで話をしてくれてて、それはやっぱり懐かしい気もするし、心地よくて、電話を待ってドキドキしてても、終わるころには眠くなってくるといういい感じの声だった。
まさかの鍾乳洞写真集代わりにもなるなんて、便利便利・・・・なんて絶対言えないけど。
金曜日、『あのメンバー』とは本当に五人だった。
本人が言った通り隣に座られた。反対にマコトがいる。
向かいに幹事二人・・・変じゃない?
元気よく乾杯をするけど、ノンアルコールです。
観察されてると思うと一層飲みにくい。
しかも隣からは軽い監視が入ってると思う。
お互いフレッシュな新人の話になる。
「いい子だよね、新藤君。力仕事を嫌がらずに自分から手伝ってくれるから、楽してる。」
「うん、体力は今まで鍛えてきたから自慢だって。いろんなスポーツしてきたみたいで今もやってるみたい。太極拳の踊る系。」
「踊る系?」
「あ、戦う系?」
「分からない、そんなのあるの?」
「演武だよ。」
マコトが代わりに教えてくれた。多分合ってる、そんな単語だった・・・・。
「そうそう、そう言ってたかな?剣を持って力強く美しくだって。」
「優、せっかく教えてもらったんだからちゃんと覚えないと可哀想だよ。」
「だって全然知らないんだもん。」
「もっと興味を持って調べてあげてって・・・・そんなことしたら誰かに睨まれるから・・・少し位でいいけど。」
「マコトは知ってた?」
「うん、演武は知ってる。大学でサークルがあったから学際で見たよ。」
「そんなメジャーなんだ・・・・。」
「矢田っちのところの新人は?」
矢田っちと呼ばれても、普通に応える矢田君。
「普通の奴。運動って感じじゃないなあ。汗かかなそうだし。どちらかというとインドア派で本を読んでるって言ってた。」
「サジーのところもインドア派だよね。」
「究極だよ、ゲーム好きだから。本当にもやしみたいな奴だな。」
「いろいろだね。」
「うちのところは多少は皆その気があるんだけどね。」
「佐島君もゲーム好きなの?」
「まあね。時間があったらずっとやってる。」
隣を見た。
「何?」
「矢田君は?あんまりイメージないけど。」
「携帯で暇つぶしにするくらい。部屋ではやらない、どちらかというと本かも。」
「運動は?」
「体が怠けない程度に。」
「やってるの?」
「ジムで走ってるくらいだよ。」
偉い。
私が空と話をしてる間走ってるなんて。
お父さんとのんびりしてる間走ってるなんて。
それに、洗濯物が増えるじゃない、私の仕事が・・・・。
「偉いねえ、矢田っち。なかなかに出来ないよね。まず優には無理だなあ。優、自転車乗れるの?」
「当たり前です。」
乗ってないけど、必要ないから持ってないけど、昔は普通に乗ってた。中学生の頃は乗ってた。
「じゃあ、矢田っちの伴走は出来るんじゃない?」
バンソウ?
「走る矢田君の隣で自転車でゆっくり進むの。」
ここでもマコトが丁寧に教えてくれた。『伴走』らしい。
「必要?」
矢田君に聞いた。
「いらない。」
「だよね。良かった。」
それは本心だった。
「で、明日どこにデートに行くの?」
続けて聞かれた。後輩の話が終わった後の話題だったらしい。
別に隠すつもりもないらしい・・・まあそうだろう。
「映画見るつもり。」
「そうなんだ、何見るの?」
シリーズもの第三弾だった。ちょっとサスペンスとアクションとスリル。
「矢田の趣味でいいの?」
「私が好きなの。」
そう言ったら驚かれた。
「面白いよ、見てない?」
「見てるけど。意外だと思っただけ。」
「そこもありなんだ、知らなかった。」
マコトも言う。
マコトと行く美術の趣味は確かに宮廷画や神話が多い、近代絵画よりはもっと古いものだ。
でも映画は別。
思いっきり現実ではないシチュエーションでいい。スカッとしたい。
「じゃあ、行く?」
佐島君が聖に聞いた。
「そうだね。明後日にしよう。バッタリ会ったら邪魔だから。」
「別に。」
普通に答えた矢田君。
知ってたの?
驚いてないよ?
で、そうなってたの?
いつから?
何で誰もビックリしない?
やっぱり私だけ知らなかった?
酷い・・・・。
でも言えない。この話題はお終いにしよう。
後で誰かに聞こう。
ちゃんと教えてもらおう。
「マコトも誘われればいいのに。今日も仲良くお話してたじゃない。」
何?
「マコトの手伝いをしたいがために、ついでに私たちの手伝いもしてくれてる感じだよね。」
何?新藤君でいいの?
マコトを見た。
クールな横顔だけど、色っぽい気がする。
「まあ、その内に。」
やっぱりそうだったんだ。当たり!
笑顔になった。
そのまま隣を向いたら矢田君にギョッとされた。
何?今笑顔だったよ、お望みの笑顔だったよ。
あ、さっきの戦う太極拳の話だって直接聞いてたんじゃないの?
学際で見たなんて言ってたけど、もしかしてちゃんと調べたんじゃないの?
そうかそうか、そうだったのか。危うく騙されるところだった。
私だって気がついたんだから。
やっぱりわかりやすいよね、年下。
「顔が面白い。何考えてるの?」
隣の矢田君に言われた。
「別に。明日も天気だといいなあって。」
適当にそう言ったら周りが静かになった。
聞いた本人さえも。
「何?」
「別にいいよ。」
本当に気分だけちょっと酔ったみたいで。
でも優しくも美しいお酒もどきは私にいたずらはしなかった。
それを残念に思う外野がいたとしても、そこは慎重に。
被害者からの告発は私一人で背負わないといけないのだから。
ご機嫌に家に帰って、いつものように二人にちょっとだけ話をした。
それはもちろん後輩君とマコトの話。
「もう、分かりやすいくらいにご機嫌ね。順番がズレたら寂しいところだったわね。」
「何?」
そう聞く自分の顔も笑顔。
「何でもない。明日起こした方がいい?」
「ううん、大丈夫、ちゃんと起きるよ。お休みなさい。」
二人に言って部屋に戻った。
映画のデート、楽しみだなあ。
美味しいランチを食べて、ちょっとだけのんびりと・・・・何かをして。
何するんだろう?
今日の飲み会ではお酒は飲まず、『正気』を保ったまま伝説も作らず、呪いも披露せず。だからだろうか、眠気が来ない。
明日は寝坊したくないのに、眠れない。
マンモスはやめて恐竜気分になってみたのに、ひたすら群れの中で歩いていて、氷河期が来ない。
電気をつけて下をのぞくとまだ起きてる両親。
下に降りてみた。
「明日はどこにデート?」
お母さんに聞かれた。
全然隠せてないらしい。眠れない理由も見透かされそうだ。
「食事をして、映画を見ることにした。」
お父さんの横に座り、見上げた。
まだまだ寂しそうな顔はしてない。
「お父さん、小さいころ鍾乳洞に行ったよね。」
そんな写真はある。
雨合羽を着た子供二人と両親とおじいちゃんおばあちゃん。
お父さんの実家の近くにあるところだろう。
「行ったね。暑かったからちょっとヒンヤリしようと言い出して行ったら、優が一番興奮して楽しそうだったよ。」
「うん、最近写真集を買ったの。綺麗だし、ヒンヤリとしてて見てると眠くなるよ。」
「また行きたいなあ。」
目を閉じたら眠れそうだった。
やっぱりお父さんの横は落ち着くみたい。
すぐに眠気が来る。
ああ、そうか、姿形大きさの問題じゃなくて、声の湿り気が似てるんだ。
だから何となく安心できるんだなあ・・・・。
そうかそうか。
最近の電話でもそんな感じだったから写真集の代わりで良く眠れたんだ。
そうそう。大きさとか何とかじゃない、もっと個性的なもの。
だから他の人にはいかないんだなあ。
でも、そんな理由はうれしいだろうか?
眠れそうだったから目を開けて部屋に行った。
お休み~、お母さんの声に手を振って小さく答えた。
やっぱりお父さんは偉大だった。
まだまだ安心度は鍾乳洞にも負けないらしいから。
ぐっすり眠れた朝。
もう寝坊なんてするわけないじゃない!!
ちゃんと起きていつも通りに動いてるはずなのに。
やっぱり隠しきれない、自分には。
洋服はもうずっと前に決めていた。
天気もいいし、変更なしでいい。
ゆっくり朝ご飯で、お昼の映画を見て、ランチをゆっくり食べる。
そこまで決めていた。
朝ごはんはいつもの通り食べた。だってお昼が遅いじゃない。
いつもより二時間も遅い。
おなかが鳴ったら大変。
でも隣に聞こえるくらいの音って相当だと思う。
カーアクションの音を飛び越えて、空腹を知らせたら、絶対バラされる。
そんな事のないように、いつものように朝ごはんを一緒に食べる、いつもの週末の朝のように。
「優、夜ご飯は食べるの?一緒に食べないの?」
「別に言われてないよ。もしかしてお父さんとお出かけ?」
「ううん、そうじゃないけど、明日も休みだからゆっくりのんびりデートして来てもいいのに。」
「聞いてみる。決まったら連絡するね。」
「どっちでもいいよ。」
「はい。」
お母さんは大変。本当に週末はみんなの食事の面倒を見る。
でもお父さんがいる限りそうだよね。私が外で済ませようが、家に帰ってこようが、お父さんの分は作るから。
じゃあ、お父さんがもっと出かければいいのか。
そうは言ってもお父さんも家中派みたい。
もうずっとそうだったからお母さんも諦めてるかな?
着替えて出かける。
「行ってきます。」
元気に声をかけて。
「望んだとおりにいい天気だったな。」
矢田君がそこにいた。
ワクワクして待ちながら、時々深呼吸して落ち着いて、でもまた笑顔になってワクワクドキドキだった。何度か繰り返してるうちに疲れてきて。
いきなり声をかけられてビックリした。
「待ってました。」
「そうだったけどまったく探すそぶりもしてなくて、待ち合わせだって忘れてるかと思った。」
「だったら何でこんなところで一人で立ってるの。」
「さあ、まだ知らないだけでそんな癖もあるかと思って。」
「ない。すごく待ってたよ。」
「何時に来た?そんなに早めについた?」
「時間じゃなくて・・・・・・。」気持ち的なものです。
「時間じゃなくて、何?」
「忘れた。・・・・映画映画。」
腕を引いて向きを変えた。
沢山の販売マシーンから映画を選んで席も選んで。
お昼前だからポップコーンセットは諦めた。
匂いがお腹を刺激する、唾液腺まで刺激する。
「朝ごはん食べてなかった?」
「食べた。食べたけど、ね、そこはまた違うし。」
「美味しいランチを食べたいだろう。我慢我慢、今度な。」
「分かりました、我慢します。」
「ああ、そういえば今日の予定は?」
忘れないうちに聞いてみた。
「映画とランチだけど。なに?どこか行きたいところが見つかったのなら付き合うけど。」
「お母さんが夕飯はどうするのって。明日休みだからゆっくりして来ていいって。」
そう言ったら、何も言われなくて。
見つめ合ったまま。
「じゃあ、ゆっくり遅めの夕方帰りにする?」
「夕飯は?」
「一緒に食べるって言えばいい。それでいいのなら。」
「うん、連絡する。」
携帯でちょちょちょっと連絡した。
映画の間はびっくりするほど映画に集中した。
終わった後、背もたれに背中をつけて、息を吐いた。
隣から手が伸びてきてビックリしそうになった、それは何とか堪えた。
「よっぽど楽しんだんだ。」
何かの確信を持って聞かれてるだろうか?
「うん、これやっぱりどんどん面白くなるし。」
エンドロールが流れる中、気の早い人は席を立つ。
後ろの真ん中で、そのまま席にもたれたままだった。
重ねられた手をポンポンとされて立ち上がられた。
「お腹空いたんじゃない?」
「ああ、空いた空いた。急に空いてきた。」
やっぱり手をつながれて歩き出した。
明るくなった劇場で人はどんどん出ていく列を作る。
騒がしい外に出ると一気に創作の世界から現実の世界へ。
「付き合ってくれてありがとう。」
「ああ、いいよ。楽しんだから。」
そう言ってもらえた。まあまあ男の人なら大丈夫だろう。
甘すぎる恋愛映画に誘われるよりはずっと良かっただろう。
さすがにそこは気を遣いますし。
ランチは前もって決めてたらしい。遅れた時間で予約もなく入れた。
心配したようなお腹の爆音も響かず、それでも本当にお腹空いた。
よく考えると何もかもが初めての二人きり。
でもそんな事を意識してもいい事なんてない。
気にしないで食事をする。
「ポップコーンを止めた俺に感謝して良くない?」
「矢田君、ありがとう。美味しそうだし、全力で楽しめる。」
「これで映画が退屈だったら途中で買いに行くんじゃないかと期待してたけど。本当に集中しててこっちを一度も見ないくらいで。隣に誰がいたのか分かってた?」
「え、誰かいたの?有名人?」
知らない。だって・・・・・どんな人がいた?
矢田君の方ばっかり最初から気にしてたし、始まったら映画を楽しんだし。
「俺がいたけど。」
ふぇ?
「他には?」
「他にも誰かと待ち合わせしてたとは、それはびっくりだ。まったく気がつかなかった。」
は?
「何だ・・・・矢田君だけだよね、そうだよね。もう、当たり前じゃない。」
「まあ、いい。そこまでは分かってたんなら、いい。」
お酒はなしで、料理が運ばれてきた。
ランチコースはデザートもついてお得価格。
遅めのお昼でも間に合ってよかった。
「この後は何する?」
「普通何するんだろう?あ・・・・ねえ、知ってたの?聖の事。」
「何?」
「聖と佐島君が仲がいいこと。」
「そりゃあ見ればわかる。」
「もっと具体的にいつからとか、聞いてた?報告受けてたの?」
「知らないよ。他人のことに構ってる余裕はなかったし。」
だから、どこまで知ってて何を知らないのよって、聞きたいのに。
もういいやと諦めた。
所詮男女の興味の深さには違いがある。
私たちは根掘り葉掘り・・・・自分のことは隠したくても他人のことは知りたいから。
マコトにも聖にも、二人とも直接聞いてやる!!
「で?」
「いい、直接聞くから。」
「何を?」
「聖とサジー。新人君とマコト。」
「今、食事した後、何するって話をしてなかった?」
「ん?そう?そういえば、そんな話してた?」
「そりゃするだろう、夕方越えても時間があるんだから、まずは考えるだろう。」
「う~ん、何したい?」
「任せてくれるなら考える。」
「じゃあ、考えて。任せる。」
いい案がないって早々に諦めて丸投げした。
何となくバレてる気がするけど、よろしくって気持ちを込めて見返した、おまけに笑顔もつけた。
小さなデザートと、紅茶を最後に楽しんで。
ああ、やっぱりセットにするとデザートが小さいんだよなあ。
別腹なのに、あと二倍・・・まではいかなくてももう少しのせて欲しい。
だいたい美味しそうって目を輝かせたのに、矢田君が普通に自分の分を食べて。
お父さんなら『優、足りるか?』って聞いてくれるのに。
ちょっとくらい気がついて欲しかったなあ。
足りないよう、あと一口くらい食べたかった。
それでも紅茶を飲み終わるとお腹がいっぱいな事に気がつく。
満足満足。
お店を出て、先行く背中について行く。
距離があるけど手はつながれている。
なんだか自分の歩きが遅いらしい。
振り返られたから、まず言ってみた。
「お腹いっぱい。」
「なるほど。」
そう言われた。
何が分かったの?体がお重くてこの後買い物もだるいし、ちょっと座ってだらだら系でもいいよね、歩くのは面倒だなあって思ったんだけど。
単純に『だるいのか。』って思ったでしょう。
食べ過ぎだろうって思ったでしょう?
もしかして、ポップコーンは止めて正解って自分を褒めた?
まあ、いいけど。
のんびりと歩く二人になった。
それでも目的が決められてるのは明らかなようで、改札に入り電車に乗り、知らない駅で降りた。
大きくない駅だけど、何があるんだろう?
それでも全然脇目も振らずにまっすぐに歩く。
途中コンビニに入った矢田君。
さすがにトイレじゃなかった、買い物だった。
ゴンゴンと籠にお酒を入れていく。
「飲みたいの、選んでいいよ。好きなだけ。」
奢りらしいけど、どこで飲むの?
全部詰めたらボコボコしたお酒の袋。
一番上にアイスが乗った。
最後にレジに並ぶ列でつい籠に入れた。
おつまみにもならない。
しかも溶けるから食べる時間に猶予無し。
まさかこんな袋を下げて出かけるなんてことないから、やっぱりそうだよね。
ちょいちょい届く荷物の分配、資材の管理、会議にまつわる準備など。
重たいもの、大きいものを目にすると、ついつい探してしまう。
その辺は心得たもので、宅急便の台車の音がすると出て来てくれるし、私たちに頼まれた事でも率先して手伝いを申し出てくれる。
すごくいい後輩君なのだ。
午後の偉い人の会議の準備をしていた。
言われた通りに机を並べて、イスを並べて、美しく整えて。
あとはペットボトルを並べて資料を並べて。
「こんな感じかな?」
「そうですね。」
「本当にいつもありがとう。すごく助かってる。」
「赤城先輩達は女性三人だったんですよね。」
「そう、だから今年は男の人だったのかも。一人より女子でも誰かいた方が良かったよね。」
「そうですね。他のところは割と複数配属なんです。でも、いいです。皆優しいので困ることはないです。」
部活動もサークルもガッツリな方の運動部だったらしい。
一筋じゃなくて、野球、合気道と柔道、砲丸投げ、山岳部といろんなことをやったらしい。
そんなに簡単にやれるものなの?
「今は太極拳を近くで習っていて、演舞をやりたいと思ってます。まだまだ基本の動きのレベルなんですが来年には。」
よくわからない。
「体を動かしたい方なんだ。」
「そうですね。演武は本当にテレビで見てやりたいと思ったんです。仕事をしながらだからゆっくり長くやるつもりです。」
「ごめんね、まったく知らないの。太極拳ならなんとか想像できるけど。」
「あれの戦うバージョンです。多分イメージはスローですよね?それよりも実際に剣を持って戦う形に動くんです、勢いもあります。実際は舞用の剣ですし、動きはやっぱり決まってるんで力強く美しく舞うということを目指します。」
「体もガッチリしてるし、力強さはありそうだね。」
「そこは自慢しないと今まで鍛えてきたのが無駄になります。」
「お酒飲めそうだね。運動部の人はすごく飲むイメージだから。」
「まあ、そうかもしれません。赤城先輩は飲んだら面白いって楢野(ならの)先輩が教えてくれました。」
マコト・・・・何を教えた・・・・。
「力が抜けるんだよね。マコトも聖も全然変わらないよ。」
「楢野先輩は強いんですか?」
「私に比べたら普通に飲んでる。どのくらい飲むんだかは分からない。」
あれ?聖のことは聞かれない??
なんだか満足そうな笑顔だけど。
今度こそ間違ってないかな?
でもさすがに『じゃあ・・・』って簡単には言えない。
しばらく様子を見よう。
確信が持てたら聖に放り投げよう。
何度も勘違いを披露するわけにはいかない。
夜になると電話がかかってくる。
ちゃんと登録したから誰だかすぐわかるようになった。
最初の頃より落ち着いたトーンで話をしてくれてて、それはやっぱり懐かしい気もするし、心地よくて、電話を待ってドキドキしてても、終わるころには眠くなってくるといういい感じの声だった。
まさかの鍾乳洞写真集代わりにもなるなんて、便利便利・・・・なんて絶対言えないけど。
金曜日、『あのメンバー』とは本当に五人だった。
本人が言った通り隣に座られた。反対にマコトがいる。
向かいに幹事二人・・・変じゃない?
元気よく乾杯をするけど、ノンアルコールです。
観察されてると思うと一層飲みにくい。
しかも隣からは軽い監視が入ってると思う。
お互いフレッシュな新人の話になる。
「いい子だよね、新藤君。力仕事を嫌がらずに自分から手伝ってくれるから、楽してる。」
「うん、体力は今まで鍛えてきたから自慢だって。いろんなスポーツしてきたみたいで今もやってるみたい。太極拳の踊る系。」
「踊る系?」
「あ、戦う系?」
「分からない、そんなのあるの?」
「演武だよ。」
マコトが代わりに教えてくれた。多分合ってる、そんな単語だった・・・・。
「そうそう、そう言ってたかな?剣を持って力強く美しくだって。」
「優、せっかく教えてもらったんだからちゃんと覚えないと可哀想だよ。」
「だって全然知らないんだもん。」
「もっと興味を持って調べてあげてって・・・・そんなことしたら誰かに睨まれるから・・・少し位でいいけど。」
「マコトは知ってた?」
「うん、演武は知ってる。大学でサークルがあったから学際で見たよ。」
「そんなメジャーなんだ・・・・。」
「矢田っちのところの新人は?」
矢田っちと呼ばれても、普通に応える矢田君。
「普通の奴。運動って感じじゃないなあ。汗かかなそうだし。どちらかというとインドア派で本を読んでるって言ってた。」
「サジーのところもインドア派だよね。」
「究極だよ、ゲーム好きだから。本当にもやしみたいな奴だな。」
「いろいろだね。」
「うちのところは多少は皆その気があるんだけどね。」
「佐島君もゲーム好きなの?」
「まあね。時間があったらずっとやってる。」
隣を見た。
「何?」
「矢田君は?あんまりイメージないけど。」
「携帯で暇つぶしにするくらい。部屋ではやらない、どちらかというと本かも。」
「運動は?」
「体が怠けない程度に。」
「やってるの?」
「ジムで走ってるくらいだよ。」
偉い。
私が空と話をしてる間走ってるなんて。
お父さんとのんびりしてる間走ってるなんて。
それに、洗濯物が増えるじゃない、私の仕事が・・・・。
「偉いねえ、矢田っち。なかなかに出来ないよね。まず優には無理だなあ。優、自転車乗れるの?」
「当たり前です。」
乗ってないけど、必要ないから持ってないけど、昔は普通に乗ってた。中学生の頃は乗ってた。
「じゃあ、矢田っちの伴走は出来るんじゃない?」
バンソウ?
「走る矢田君の隣で自転車でゆっくり進むの。」
ここでもマコトが丁寧に教えてくれた。『伴走』らしい。
「必要?」
矢田君に聞いた。
「いらない。」
「だよね。良かった。」
それは本心だった。
「で、明日どこにデートに行くの?」
続けて聞かれた。後輩の話が終わった後の話題だったらしい。
別に隠すつもりもないらしい・・・まあそうだろう。
「映画見るつもり。」
「そうなんだ、何見るの?」
シリーズもの第三弾だった。ちょっとサスペンスとアクションとスリル。
「矢田の趣味でいいの?」
「私が好きなの。」
そう言ったら驚かれた。
「面白いよ、見てない?」
「見てるけど。意外だと思っただけ。」
「そこもありなんだ、知らなかった。」
マコトも言う。
マコトと行く美術の趣味は確かに宮廷画や神話が多い、近代絵画よりはもっと古いものだ。
でも映画は別。
思いっきり現実ではないシチュエーションでいい。スカッとしたい。
「じゃあ、行く?」
佐島君が聖に聞いた。
「そうだね。明後日にしよう。バッタリ会ったら邪魔だから。」
「別に。」
普通に答えた矢田君。
知ってたの?
驚いてないよ?
で、そうなってたの?
いつから?
何で誰もビックリしない?
やっぱり私だけ知らなかった?
酷い・・・・。
でも言えない。この話題はお終いにしよう。
後で誰かに聞こう。
ちゃんと教えてもらおう。
「マコトも誘われればいいのに。今日も仲良くお話してたじゃない。」
何?
「マコトの手伝いをしたいがために、ついでに私たちの手伝いもしてくれてる感じだよね。」
何?新藤君でいいの?
マコトを見た。
クールな横顔だけど、色っぽい気がする。
「まあ、その内に。」
やっぱりそうだったんだ。当たり!
笑顔になった。
そのまま隣を向いたら矢田君にギョッとされた。
何?今笑顔だったよ、お望みの笑顔だったよ。
あ、さっきの戦う太極拳の話だって直接聞いてたんじゃないの?
学際で見たなんて言ってたけど、もしかしてちゃんと調べたんじゃないの?
そうかそうか、そうだったのか。危うく騙されるところだった。
私だって気がついたんだから。
やっぱりわかりやすいよね、年下。
「顔が面白い。何考えてるの?」
隣の矢田君に言われた。
「別に。明日も天気だといいなあって。」
適当にそう言ったら周りが静かになった。
聞いた本人さえも。
「何?」
「別にいいよ。」
本当に気分だけちょっと酔ったみたいで。
でも優しくも美しいお酒もどきは私にいたずらはしなかった。
それを残念に思う外野がいたとしても、そこは慎重に。
被害者からの告発は私一人で背負わないといけないのだから。
ご機嫌に家に帰って、いつものように二人にちょっとだけ話をした。
それはもちろん後輩君とマコトの話。
「もう、分かりやすいくらいにご機嫌ね。順番がズレたら寂しいところだったわね。」
「何?」
そう聞く自分の顔も笑顔。
「何でもない。明日起こした方がいい?」
「ううん、大丈夫、ちゃんと起きるよ。お休みなさい。」
二人に言って部屋に戻った。
映画のデート、楽しみだなあ。
美味しいランチを食べて、ちょっとだけのんびりと・・・・何かをして。
何するんだろう?
今日の飲み会ではお酒は飲まず、『正気』を保ったまま伝説も作らず、呪いも披露せず。だからだろうか、眠気が来ない。
明日は寝坊したくないのに、眠れない。
マンモスはやめて恐竜気分になってみたのに、ひたすら群れの中で歩いていて、氷河期が来ない。
電気をつけて下をのぞくとまだ起きてる両親。
下に降りてみた。
「明日はどこにデート?」
お母さんに聞かれた。
全然隠せてないらしい。眠れない理由も見透かされそうだ。
「食事をして、映画を見ることにした。」
お父さんの横に座り、見上げた。
まだまだ寂しそうな顔はしてない。
「お父さん、小さいころ鍾乳洞に行ったよね。」
そんな写真はある。
雨合羽を着た子供二人と両親とおじいちゃんおばあちゃん。
お父さんの実家の近くにあるところだろう。
「行ったね。暑かったからちょっとヒンヤリしようと言い出して行ったら、優が一番興奮して楽しそうだったよ。」
「うん、最近写真集を買ったの。綺麗だし、ヒンヤリとしてて見てると眠くなるよ。」
「また行きたいなあ。」
目を閉じたら眠れそうだった。
やっぱりお父さんの横は落ち着くみたい。
すぐに眠気が来る。
ああ、そうか、姿形大きさの問題じゃなくて、声の湿り気が似てるんだ。
だから何となく安心できるんだなあ・・・・。
そうかそうか。
最近の電話でもそんな感じだったから写真集の代わりで良く眠れたんだ。
そうそう。大きさとか何とかじゃない、もっと個性的なもの。
だから他の人にはいかないんだなあ。
でも、そんな理由はうれしいだろうか?
眠れそうだったから目を開けて部屋に行った。
お休み~、お母さんの声に手を振って小さく答えた。
やっぱりお父さんは偉大だった。
まだまだ安心度は鍾乳洞にも負けないらしいから。
ぐっすり眠れた朝。
もう寝坊なんてするわけないじゃない!!
ちゃんと起きていつも通りに動いてるはずなのに。
やっぱり隠しきれない、自分には。
洋服はもうずっと前に決めていた。
天気もいいし、変更なしでいい。
ゆっくり朝ご飯で、お昼の映画を見て、ランチをゆっくり食べる。
そこまで決めていた。
朝ごはんはいつもの通り食べた。だってお昼が遅いじゃない。
いつもより二時間も遅い。
おなかが鳴ったら大変。
でも隣に聞こえるくらいの音って相当だと思う。
カーアクションの音を飛び越えて、空腹を知らせたら、絶対バラされる。
そんな事のないように、いつものように朝ごはんを一緒に食べる、いつもの週末の朝のように。
「優、夜ご飯は食べるの?一緒に食べないの?」
「別に言われてないよ。もしかしてお父さんとお出かけ?」
「ううん、そうじゃないけど、明日も休みだからゆっくりのんびりデートして来てもいいのに。」
「聞いてみる。決まったら連絡するね。」
「どっちでもいいよ。」
「はい。」
お母さんは大変。本当に週末はみんなの食事の面倒を見る。
でもお父さんがいる限りそうだよね。私が外で済ませようが、家に帰ってこようが、お父さんの分は作るから。
じゃあ、お父さんがもっと出かければいいのか。
そうは言ってもお父さんも家中派みたい。
もうずっとそうだったからお母さんも諦めてるかな?
着替えて出かける。
「行ってきます。」
元気に声をかけて。
「望んだとおりにいい天気だったな。」
矢田君がそこにいた。
ワクワクして待ちながら、時々深呼吸して落ち着いて、でもまた笑顔になってワクワクドキドキだった。何度か繰り返してるうちに疲れてきて。
いきなり声をかけられてビックリした。
「待ってました。」
「そうだったけどまったく探すそぶりもしてなくて、待ち合わせだって忘れてるかと思った。」
「だったら何でこんなところで一人で立ってるの。」
「さあ、まだ知らないだけでそんな癖もあるかと思って。」
「ない。すごく待ってたよ。」
「何時に来た?そんなに早めについた?」
「時間じゃなくて・・・・・・。」気持ち的なものです。
「時間じゃなくて、何?」
「忘れた。・・・・映画映画。」
腕を引いて向きを変えた。
沢山の販売マシーンから映画を選んで席も選んで。
お昼前だからポップコーンセットは諦めた。
匂いがお腹を刺激する、唾液腺まで刺激する。
「朝ごはん食べてなかった?」
「食べた。食べたけど、ね、そこはまた違うし。」
「美味しいランチを食べたいだろう。我慢我慢、今度な。」
「分かりました、我慢します。」
「ああ、そういえば今日の予定は?」
忘れないうちに聞いてみた。
「映画とランチだけど。なに?どこか行きたいところが見つかったのなら付き合うけど。」
「お母さんが夕飯はどうするのって。明日休みだからゆっくりして来ていいって。」
そう言ったら、何も言われなくて。
見つめ合ったまま。
「じゃあ、ゆっくり遅めの夕方帰りにする?」
「夕飯は?」
「一緒に食べるって言えばいい。それでいいのなら。」
「うん、連絡する。」
携帯でちょちょちょっと連絡した。
映画の間はびっくりするほど映画に集中した。
終わった後、背もたれに背中をつけて、息を吐いた。
隣から手が伸びてきてビックリしそうになった、それは何とか堪えた。
「よっぽど楽しんだんだ。」
何かの確信を持って聞かれてるだろうか?
「うん、これやっぱりどんどん面白くなるし。」
エンドロールが流れる中、気の早い人は席を立つ。
後ろの真ん中で、そのまま席にもたれたままだった。
重ねられた手をポンポンとされて立ち上がられた。
「お腹空いたんじゃない?」
「ああ、空いた空いた。急に空いてきた。」
やっぱり手をつながれて歩き出した。
明るくなった劇場で人はどんどん出ていく列を作る。
騒がしい外に出ると一気に創作の世界から現実の世界へ。
「付き合ってくれてありがとう。」
「ああ、いいよ。楽しんだから。」
そう言ってもらえた。まあまあ男の人なら大丈夫だろう。
甘すぎる恋愛映画に誘われるよりはずっと良かっただろう。
さすがにそこは気を遣いますし。
ランチは前もって決めてたらしい。遅れた時間で予約もなく入れた。
心配したようなお腹の爆音も響かず、それでも本当にお腹空いた。
よく考えると何もかもが初めての二人きり。
でもそんな事を意識してもいい事なんてない。
気にしないで食事をする。
「ポップコーンを止めた俺に感謝して良くない?」
「矢田君、ありがとう。美味しそうだし、全力で楽しめる。」
「これで映画が退屈だったら途中で買いに行くんじゃないかと期待してたけど。本当に集中しててこっちを一度も見ないくらいで。隣に誰がいたのか分かってた?」
「え、誰かいたの?有名人?」
知らない。だって・・・・・どんな人がいた?
矢田君の方ばっかり最初から気にしてたし、始まったら映画を楽しんだし。
「俺がいたけど。」
ふぇ?
「他には?」
「他にも誰かと待ち合わせしてたとは、それはびっくりだ。まったく気がつかなかった。」
は?
「何だ・・・・矢田君だけだよね、そうだよね。もう、当たり前じゃない。」
「まあ、いい。そこまでは分かってたんなら、いい。」
お酒はなしで、料理が運ばれてきた。
ランチコースはデザートもついてお得価格。
遅めのお昼でも間に合ってよかった。
「この後は何する?」
「普通何するんだろう?あ・・・・ねえ、知ってたの?聖の事。」
「何?」
「聖と佐島君が仲がいいこと。」
「そりゃあ見ればわかる。」
「もっと具体的にいつからとか、聞いてた?報告受けてたの?」
「知らないよ。他人のことに構ってる余裕はなかったし。」
だから、どこまで知ってて何を知らないのよって、聞きたいのに。
もういいやと諦めた。
所詮男女の興味の深さには違いがある。
私たちは根掘り葉掘り・・・・自分のことは隠したくても他人のことは知りたいから。
マコトにも聖にも、二人とも直接聞いてやる!!
「で?」
「いい、直接聞くから。」
「何を?」
「聖とサジー。新人君とマコト。」
「今、食事した後、何するって話をしてなかった?」
「ん?そう?そういえば、そんな話してた?」
「そりゃするだろう、夕方越えても時間があるんだから、まずは考えるだろう。」
「う~ん、何したい?」
「任せてくれるなら考える。」
「じゃあ、考えて。任せる。」
いい案がないって早々に諦めて丸投げした。
何となくバレてる気がするけど、よろしくって気持ちを込めて見返した、おまけに笑顔もつけた。
小さなデザートと、紅茶を最後に楽しんで。
ああ、やっぱりセットにするとデザートが小さいんだよなあ。
別腹なのに、あと二倍・・・まではいかなくてももう少しのせて欲しい。
だいたい美味しそうって目を輝かせたのに、矢田君が普通に自分の分を食べて。
お父さんなら『優、足りるか?』って聞いてくれるのに。
ちょっとくらい気がついて欲しかったなあ。
足りないよう、あと一口くらい食べたかった。
それでも紅茶を飲み終わるとお腹がいっぱいな事に気がつく。
満足満足。
お店を出て、先行く背中について行く。
距離があるけど手はつながれている。
なんだか自分の歩きが遅いらしい。
振り返られたから、まず言ってみた。
「お腹いっぱい。」
「なるほど。」
そう言われた。
何が分かったの?体がお重くてこの後買い物もだるいし、ちょっと座ってだらだら系でもいいよね、歩くのは面倒だなあって思ったんだけど。
単純に『だるいのか。』って思ったでしょう。
食べ過ぎだろうって思ったでしょう?
もしかして、ポップコーンは止めて正解って自分を褒めた?
まあ、いいけど。
のんびりと歩く二人になった。
それでも目的が決められてるのは明らかなようで、改札に入り電車に乗り、知らない駅で降りた。
大きくない駅だけど、何があるんだろう?
それでも全然脇目も振らずにまっすぐに歩く。
途中コンビニに入った矢田君。
さすがにトイレじゃなかった、買い物だった。
ゴンゴンと籠にお酒を入れていく。
「飲みたいの、選んでいいよ。好きなだけ。」
奢りらしいけど、どこで飲むの?
全部詰めたらボコボコしたお酒の袋。
一番上にアイスが乗った。
最後にレジに並ぶ列でつい籠に入れた。
おつまみにもならない。
しかも溶けるから食べる時間に猶予無し。
まさかこんな袋を下げて出かけるなんてことないから、やっぱりそうだよね。
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