抱きついて癒されたい!私の大好きなコアラ。

羽月☆

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11 あなたを好きな私をずっとずっと側にいさせて。

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あえて忘れたふりをしていた。

個展が終わり、作品が全部戻ってきた。
葉書は追加注文かけるくらい売れたのだが、原画は無理だった。

でも、私はちょっとだけ、こっそりホッとしてる。

運ばれてきた作品を玄関に置いて、順に運び入れるのを手伝う。

「ねえ、桂馬は原画が売れた方が嬉しいよね?」

「うん・・・・、まあね。でも寂しいからなあ。全部戻って来て、それはそれでホッとしてる。」

「そうだよね。私も実はうれしい。それに、ねえ、あのうさぎとドーナッツの画は非売品なんだ。」

「うん、そうだよ。あれは売らない。」

「でも葉書の中では一番人気だったんじゃない?」

「そうだね。同じうさぎなのに、やっぱりあれが一番褒めてもらえる。」

「すごく可愛いもんね。」

「自画自賛?あれも百合ちゃんなのに。」

「いいの、すごく可愛いの。大好きな作品。一番好きかも、何も知らない人も一番って思ってくれるんだから。」






「個展は終わったからさあ、一緒に実家に行ってくれるよね。来週はどうかな?うちの親はいつでもいいって。姉夫婦も。」

姉夫婦・・・・、話は聞いてるけど、勿論会ったことはない。

「百合ちゃん、どう?」

「・・・・はい。よろしくお願いします。」

やっぱり忘れたふりは出来なかった。
当たり前だ。忘れたいわけじゃないから。
ただ・・・・・。

「じゃあ、連絡してみる、どっちでもいい?」

うなずく。

緊張してくる。
好奇心旺盛なのは自分が覗いてる世界だけだから。


すぐそこで桂馬が実家に電話するのを聞いている。
すっかり話はしてあったので『例の挨拶』で話は進んで、曜日も時間もどちらでもいいと言うことだった。

そのあとお姉さん夫婦に連絡をしてる。
こちらも『例の挨拶』で済んでる。
日曜日のお昼に実家に集合、それで決まったらしい。
もう一度実家に電話をする間、動けず。
報告だけして、お昼をみんなでとるということが決まり、あっさり終了。

「百合ちゃん、じゃあ、日曜日のお昼によろしく。」

「ねえ、桂馬、個展をしてたとか、そんな話はいいの?」

「そんなの今度でいいよ。」

そんなのって・・・・・・。
たぶんみんな気にしてると思うのに。
たぶんうちの親なら気にすると思う。
あんまり理解できない自営業だし、芸術分野。

実は個展案内の葉書をバッグの中に一枚入れている。
あの葉書で実家に連絡をしようと思った。
あの画を見てくれれば、どんな人かは分かると思う。
安心すると思う。

「ねえ、うちの後は、百合ちゃんのところだよ。そっちはお願します。連れてってね。」

なんの気負いもなく言う。
だって聞かれると思うのに。
経済的な事。
今心配事があるならそれだけだ。
私だって仕事を続けると言っても、きっとそれだけでは両親は納得しない。
遠慮しながらも、結局は知りたいことのトップだと思う。

「うん、桂馬のところが無事に終わったらね。」

「来週以外だったらいつでも。」

「そう言えばね、画集を出そうかって話になってるんだ。売れてしまった作品があるし、ここで一度試しに出してみようって。今回葉書を作るのに画像を集めたし、今までのもあるから。」

「欲しい!買う。!!」

「百合ちゃんは僕のがあるからいいでしょう?」

「自分で買う。いつ出来上がるの?」

「まだわからない。意外に時間かかるよ。他にもうれしい仕事が来そうなんだ。ちゃんと決まったら教えるね。原画は売れなかったけど、サイトへのアクセスも伸びてるし、そんな新しい仕事の依頼があったりしたら、大成功だよ。百合ちゃんが呼び込んでくれたからすごく人も来てくれたんだよ。まさか大通りまで行ってくれるなんて思わなかったから。平日に来た人の何人かは、その時の人かもしれないよ。」

「うん、そうだと嬉しいな。」

その間大切にあの葉書を持っていてくれたって事だもん。



一週間は何事もなく過ぎ。
相変わらず隣が騒がしいけど、自分の事で手いっぱい。

私がいない時間に画廊に来てくれた子は分かった。
葉書も買ってくれて気に入ってくれたらしい。

桂馬の事をさりげなく観察していたようで。

「優しそう。なんだかあの画を見たら納得。どの絵も本当に可愛いし、癒される。」

「ありがとう。来てくれて、褒めてくれて。」

「どのくらい話は進んでるの?」

「今週日曜日に向こうのご両親とお姉さん夫婦に挨拶に行くことになってる。」

「やめないよね?」

「勿論、辞めない。」

「良かった。でもいいね、すごく優しそうだって話じゃない。羨ましい。」

優しそうとしかでないのはいいとしよう。
可愛いタイプでもないし、かっこいいタイプでもない。


そしてその週末に。
いつもは待ち遠しいのに、今週は待つほどもなく、早かった。


「百合先輩、いよいよ週末ですね。百合先輩なら大丈夫です。一見とってもお上品で素敵です。余所行きで行けば絶対気に入られます。私が保証します。」

トゲトゲと小さな棘を出しながらも励ましてくれる緑ちゃん。
本当に・・・いい子、趣味悪くても、きっと悪意はないから、・・・・いい子。

「ありがとう。緑ちゃんも楽しい週末を過ごしてね。」

「はい、勿論です。」

「じゃあ、コアラさんにもよろしくです。行ってらっしゃい。」

明るく手を振って帰って行った。隣の筋肉馬鹿と一緒に。

もはや隠してはいないらしい。

そこ抜けにそこ抜けた感じで、いっそ天晴。

正直私だって気に入られないなんて思ってない。
それくらいの大人しめの演出は出来る。
ただただ緊張するだけだ。
やっぱり、それは緊張する。
でも桂馬だってぼんやりしてるから、私を逃したら次はいつ?ってご家族も思うだろう・・・・って考えたり。

は~。
明日は手土産を買いに行く予定。

当日だけ緊張すればいいのに、意外に繊細だったらしい。
決してチキンというわけではない。
いずれは通り抜ける儀式だから。
よし。

パソコンを元気いっぱい閉じて席を立って帰ることにした。


はやく桂馬に抱きついて、緑ちゃんが一応元気づけてくれたことを報告したい。
きっと『百合ちゃんも緊張するんだね~。』なんて呑気に言いそう。
出会いのストーリーはきちんと打ち合わせをして、落とし物をきっかけに話をしたと言うことにしよう。そのあたりはきちんとね。

段取りを考えてたらそっちに集中できていいみたい。

来るなら来い、日曜日!!

私は『小和田 百合』になるのだ!!


なんて当日はちょっとだけ大人しいと桂馬に言われた。
しょうがない。
緊張して本当にいつもは好奇心に揺れる長い耳もしょんぼりと傾いてたと思う。
鼻もちょっとだけ乾いてたかも。




しばらくして見せられた画。

『一人で見る自分の影はちょっとだけ怖い。』

夕日に伸びた影をじっと見つめる白うさぎ。
オレンジに染まりそうな体と、寂しそうな細い影。
パッと見たら寂しそうな画だけど、手には犬のブレスレットがあった。

それは影にもちゃんと写し取られてる。

桂馬が私と自分を絵の世界に入れる時、何故か犬になるらしい。
コアラなんて思ってる私には気がついてない?
緑ちゃんにコアラさんって呼ばれてることも。



夕日が沈む前に帰ろう、私の大切な人のところへ。

そうしたらきっと、新しい朝陽をいつも一緒に見られるから。
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