抱きついて癒されたい!私の大好きなコアラ。

羽月☆

文字の大きさ
10 / 11

10 信じてるという私を信じて。

しおりを挟む
そういえば担当さんの新しい女の子は来なかった。
会いたかったような、会いたくなかったような。

そう考えてたら謎の女性が浮かんできた。


ちょっとだけ憮然とした顔になっていたかもしれない。
部屋に戻ってすぐにソファに座った私。

「お疲れ様。ありがとう、百合ちゃん。」

ソファの脇に荷物を置いて隣に座って顔を覗き込んでくる。

「聞きたいよね。」

その状態のまま、すぐにそう聞かれた。

「何を?」

視線は合わせずに答えた。

「名前はね、工藤 加奈さんだよ。」

別に名前を教えてもらっても・・・・。

「ねえ、話したいんだけど。ちゃんと説明したいんだけど、聞いてくれるよね。」

そう言って勝手に桂馬が話を始める。



増田さんに担当していてもらった時に、体調を壊して入院することになって代理の担当さんをつけてくれたんだ。
それが彼女だったんだけど。
一応二カ月くらいって言われてた。
打合せとかは終わってて、定期的に課題と文章をもらって、見本を送ってOKが出たら本描きするっていう、決まったパターンが出来上がっていて。


「あのさ、これ読んで、本気で心配してるから。何かあったら相談して。社内の人間にも注意しておくように頼んだから。」

最初なんのことか分からなくて。
そう言われて渡されたレポート用紙に結構な注意書きが書いてあって。

・工藤と2人で外で会わない。
・いついかなる場合も、自宅にはあげない。
・どんな内容の話を聞かされてもほだされない。

それに過去の事例まで挙げて書いてあって。
まとめると工藤さんに気をつけろと、そう言うことだった。

どうやら担当した人や、社内の人と何度もトラブル寸前までいってるらしい。
それでもやめさせられたり処罰されないのは、上の人の彼女だと言うことで、それも不倫だと言うことらしいと。

断定ではなかったから、いろんな話を伝聞状態で書いてあったんだ。

だってトラブルと言っても、好みなんてものはあるわけだしね。

別に何とも思ってなかったんだ。

実際に慣れないからと打ち合わせを三回連続でお願いされたんだ。
自宅に伺うと言われたから、言いつけ通りに断って、用事があるから、それが終わったら会社の方へ伺いますって言って。
それでもわざわざ会社の外に場所を移されてしまって。
そんな事が三回連続であったけど、それだけだったから。

まあ、そんなもんだろうって思ってた。

でも実際に彼女がいない時に電話に出た人からは、油断するなって言われたりして。

「今日は外回りをしてるんです。すみませんが、外で時間を決めてでいいですか?」

「はい。何時頃だと大丈夫ですか。」

「私の方が遅いかもしれません。夕方、5時近くになりそうなんです。」

「大丈夫です。場所はどちらへ。」

周りが心配し過ぎだよって思ったし、そんなやり取りがあって、ホテルのロビーを指定されても普通に待ち合わせたんだ。

「もしかしたら、私の事何か聞かれてますか?増田さんに何か言われました?」

そうストレートに聞かれて。
ちょっと誤魔化すのが無理だったと思う。

でも何と答えていいか分からなくて。

「いいんです。大体わかってます。」

そう言って上を向いてため息をついたんだ。

「誤解なんです。全部とは言いませんが。多分私が偉い人と特別な関係ってことになってると思います。確かに特別ではあるんです、身内です。叔父がいるんです。だから、コネ入社なんです。不倫と思われるのと、コネ入社って思われるのとどっちがいいんだろうって思います。もっと私に実力があれば、今更コネ入社だと分かってもそんなに肩身が狭くはないんですが。今はあんまり仕事を任せてもらえてなくて。だからなんの成果もないし、コネって分かったら、皆がなるほどって思うくらいです。」


そう言われて、半分だけ信じたんだけど。
あとの半分は保留。

別に関係ないしなって思ってた。
担当が病欠の間の二か月の間の仕事で、それ以上膨らみようもない仕事だから、自分と関わって成果を出そうとか思わないだろうし。
でも彼女はそうは言わなくて。

「だから、この仕事も頑張りたいんです。絶対。増田さんが担当してた時よりもっと。」

そう聞かされても、冷静に彼女を見てたんだ。
だって本当にどうしようもないんだからって。
ただ彼女はもっと違う風にとったらしくて、すごく怒りだしたんだ。

「そんな風に見るんです。誰もが。馬鹿にするか呆れるか、そう、目が言ってます。まさか・・・桂馬さんだけは違うと思ってましたが、やっぱり、そうだったんですね。」
そう言って席を立って、いなくなったんだ。

なんだったんだろう?まだ渡すべきものを渡してもいないのに。
今日中じゃなくてもいいんだけど、どうしようとか思って。
名前で呼ばれたのも初めてだったんだけど、彼女の事より、せっかく渡すはずのイラストはどうしたらいいんだろうって思ってたんだ。

増田さんに連絡したら、社内の残ってる人と連絡とってくれて、折り返し電話をくれたんだ。

「会社にしばらく残ってる奴に渡して欲しい。事情は話したから、伊地知っていう奴だから。後、来週には退院するから、もうこれ以上連絡とらなくていいから。そう彼女にも伝えておく。来週頭にまた連絡する。悪かった。」

そう謝られて。

取りあえず仕事の縁はそのまま切れたから、結局どこまでが本当の話で、どこまでが誤解だったのか分からないんだけど。
そのまま話を聞かされることもなかったから、今日まで忘れてたくらいの存在だった。

たまたま近くを通ったって言ってたんだ。
名前を見て思い出したって、それで来てくれたみたい。

会社は辞めたらしい。今何してるかは知らない。
もしかしたら幸せかもしれない。

以上。それだけだから。

そう言って話を締めくくった。

ただの担当代理で、しかも途中で仕事を投げ出した人。
社内の評判が悪かった人。


息をついた。
それだけ。まあ、あんまり懐かしい感じもなかったし。

「わざわざ外に行ったでしょう?あそこにいたら紹介したのに。婚約者だって紹介できたのに。」

「何か言われたの?彼女がいるのかとか、聞かれたの?」

「ううん、幸せそうな画ばかりだって言われたから、幸せだよって答えただけ。」

「また来るって言ってた?」

「またどこかで名前を目にしたら思い出す、って言われた。」

「何それ?」

「さあ。」

「安心した?」

「心配してない。」

「そう?」

「してない。」

「何だ。ちょっとくらい心がザワザワしてくれてもよくない?」

「信じてる。」

「ありがとう。せめてこっちを向いて言ってくれたら、その言葉も信じられるのに。」

そう言われたのでちゃんと向き合って言った。

「桂馬を信じてる。でもちゃんと話をして。信じててても・・・嫌だから。」

「勿論。だから聞いてもらった。」

「増田さんとバッタリ会わなくて良かったかもね。」

「そうだね。ビックリしただろうね、お互い。」

「ねえ、新しい担当の子は来ないの?」

「来たよ。」

「いつ?」

「昨日。葉書を買って行ってくれた。ちょうど百合ちゃんが帰った後だったかも。」

そっちも上手いタイミングだったんじゃない。


「疲れたね。お腹空かない?」

「空いた。適当でいい?」

「勿論。今日までお休みで、明日から真面目に描く。」

そう言ったのに、荷物からノートを出してさらさらと何か書いている。

そうなると集中するから。

その間に夕食の準備をする。

冷凍食品に残り野菜を足して、適当に作る。

皿に移してテーブルに運ぶ。

しばらくすると終わったのかノートを閉じた。

「ああ、ごめんね。すっかり頭から振りだしてたから。」

どんな動物が、どんな会話をしてたのか。
よくある事なので慣れている。
その癖はあの頃から変わらないから。

「大丈夫。食べよう。」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月 瑠々奈
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

処理中です...