出会い~静かに月を愛したい人のこと~

羽月☆

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1 華乃 ~幸運にも落ち着ける場所ができたこと~

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「梶原さん。」

街中で声をかけられて振り向く。
自分のことだと思った。
その声に覚えがなくても、もしかしたら、私の覚えてない誰かかもしれない。

でも振り向いて笑顔を向けてくれた人に、やはり覚えはなくて。

「偶然だね。一人?」

ここでナンパなんて思わないし、怪しいとも思わない。
知らない人に名前を呼ばれて声をかけられる、それは時々あった事。
ただ男性に限ってはたいてい間違ってる。

ここまではっきり決めつけられたんだから、同じ会社の人だろう。

答えずに見つめる私にちょっと怪訝な表情をする人。

「あれ?すみません・・・間違えましたか?」

すぐ気がついたほうだと思う。

「もしかして貴乃の知り合いの方でしょうか?」

「ああ、すみません。間違えてしまったようです。すごく似てらして。失礼しました。」

丁寧にお詫びをされた。

「よく間違えられるんです。慣れてます。」

「あ、あの・・・・」

「妹です。貴乃は姉です。」

そう言うと納得しながらも本当にじっと顔を見られた。
これもよくある反応。
本当に似てるとは思ってた。
あえて髪型も同じくらいの長さで差をつけることもせず。
私はそのままの黒い髪のまま。
雰囲気は違うと思うけど、あんまり知らない人は区別はつかないかも。
だって双子だから。
貴乃が双子の妹がいると言ってるとは思えない、双子ということは私も言わない。


「本当にすみませんでした、お二人に。」

「いえ、気にしないでください。本当によくある事です。」

そう言った。

「はい。あの、お姉さんの同僚の宮藤晶と言います。」

自己紹介されたけど、でも私は別にいいよねって思った。
少し待たれた気がした。
私が何か反応するのを。

でもこの先も私は何度か経験があるから。

「もし、お一人で、急いでなくて、よかったら、少しだけお付き合いしてもらえませんか?」

やっぱりそうだった。
双子の妹がいるって知らないくらいなのに、チャンスとばかりに私から貴乃に近づこうとする人。男の人。そんな人は本当に珍しくなかった。
だけど、貴乃から私へって、そんな人はいないみたいで。
貴乃から面白そうにそう言われたことはない。

昔はよく貴乃に文句を言った。
貴乃に言ってもしょうがないけど、ちょっと嫌だと思ったから、言っていた。
たいていそんな男は貴乃にも嫌われた。
少しだけいい気味だと思ったことは貴乃にもバレてると思う。
たいてい報告してくれたから。

でも今日は言わないかも。

内緒にしてあげる。

もうお揃いの制服を着ていた頃じゃない。
同じ学校にも通ってなかった四年間。
お互いの友達も知らない同士、それぞれ新しい事を楽しんでて、あの頃よりはずっと違いが出てるはずなのに。

・・・・もうお揃いじゃないのに。

「すみません、用事があって。だから失礼します。」

不機嫌さがこもらないように丁寧に思えるくらいの挨拶をして、少しだけ視線も合わせて。
向きを変えて歩き出した。
全然違う方向に。

特にどこに行きたいって思ってたわけじゃない。

少し買い物でもしようかと思ったくらいだから。

別にどこでもいい。

気が向いたら買うくらい、そんなものに出会ったら買うくらい。

一人で、時間もあって、用事もないけど、まったく知らない人の『よかったら』に応えられるほどいい人じゃない私。
貴乃のためになるかもしれなくても、そうとは思わなかっただけ。


前を向いていた視線も落ちる。

何で逆はないんだろう。
貴乃は私に間違えられることは少ない。

具合が悪い時だけ、両親もちょっと間違えそうになるって言う。
じゃあ、私は体調の悪い貴乃ってことになる。
私は最高潮の気分の時でも貴乃程に・・・・・じゃないらしい。

しょうがない。それが個性だ。

友達をみても分かりやすいくらいにタイプが分かれてた。
貴乃は貴乃らしい、私は私に似たタイプの子が周りに集まる。
それでも女の子は割とどっちでも仲良くなれる。
ただ、男の人はハッキリと好みに違いが出る。

ああ・・・・忘れてた思い出を思い出しかけてる。

首を振って振り返るのをやめた。


双子の宿命。

本当に『自分』のほうがいいのか。
『貴乃』になってみないと分からない。
そこまで根深くないはずなのに、完全に生き方が分かれてきた今になって、久しぶりにそんな事があるとちょっと心が騒ぐ。
こんな時は美味しいデザートでも楽しんで気分を変えよう。


今日、貴乃は何してるんだろう?

お互いに一人暮らしを始めて連絡を取ることが少なくなった。
ちょっと前はそれなりにいろいろと相談もしてたのに。
私が実家に戻って、落ち着いて、貴乃が安心したらちょっとだけ忘れられてるかもしれない。

さっきの人だって、名前は・・・・忘れたけど、スーツを着たら普通のサラリーマン。
どこからどう見てもしっかり仕事をしてる人だろう。
あんな人に混じって仕事をしてるらしい。
ちょっと羨ましくもある。
愚痴は聞いたことがあっても辞めたいとか言うセリフは聞いたことがない。
むしろ負けたくないと先輩に対抗してるように見えたくらい。

強い。
やっぱり強い。

さっさと負けた私とは違う。

何度か来たことのあるカフェの方へ向かう。
ビルの中にあるそこは時間をずらせばティータイムは空いているはずだ。
あ・・・・今日は休日だった。
いつも平日休みが多いからうっかりしていたけど。
休日はどの時間でも混んでるだろう。そうなると一人では入りにくい。

止めた。
何か買って帰ろう。

ゆっくり立ち止まり方向を変えた。
駅中のケーキ屋さんをめぐり、保冷剤をつけてもらって帰った。


電車はまだまだ空いてる時間だった。
携帯に連絡があったらしい。

『華乃、お仕事?お疲れ。来月の誕生会、お休みは?合わせられる?』

貴乃から連絡が来た。時間を見ると、ついさっきだった。
丁度いろいろと考えてた時間。
そんな事もよくある。ただの偶然かもしれないけど、よくある。

来月の週末のお休みは二回ある。
その日にちを知らせる。
私たち二人はもちろん、お父さんも同じ月に誕生日がある。
三人の誕生会を兼ねて、家族が集まり食事をすることにしている。
皆で近くのレストランに行くのだ。

お母さんだけが違う月で寂しいと毎回のように言う。

貴乃も私もお母さんは一人だけで主役になれるからいいじゃない、そう言って毎回宥めている。

ただ、お母さんは本当の年末に誕生日があり、ただただ慌ただしく、家事も山のようにあり、皆がそろってもなんとなく一番忙しい時期だ。
それは確かに残念かもしれない。

私が家に戻ったことで貴乃も安心してるし、両親も。
ちょっとだけ通勤に時間はかかっても前の職場よりはずっといい。


私が専門学校を卒業して入ったのは有名な会社の中のビューティー部門、その中の一つの店舗だった。お客様商売だからマナー講習もしっかりしていた。
ただ、やはりお客様はお客様。
いかに成績というか売り上げをあげるか、それが仕事だった。

心理作戦と言ってもいいようなシチュエーションごとの会話の練習、やり取りを繰り返す研修。

『営業が好きで自社製品を喜んで自信もって売り込みます!!そんな営業マンのような気持ちで・・・・。』

そう叩き込まれた。
そんな商品に対する自信と、相手の心を誘導するような駆け引きと一緒にすることに違和感はあった。

技術のブラッシュアップ研修もあるけど、現場に行っても朝からそんな作戦会議のような朝礼がされる。

確かに使ってる商品はどれも変なものじゃない。
価格は高いけど、それなりの成分が入っているから、気に入ってリピートしてくれる人もいる。

ただ、それだけじゃないから。

強気でいけない自分の心はどんどん重くなり、もともと向いてなかったのだと、気がつくのが遅かったのかもしれない。

綺麗なものが大好きで、おしゃれも好きで、華やかなだけじゃない、小さな個性を発揮するようなところに工夫するのが大好きだった。

同じ見た目、色違いの服、個性を出せるところはどこか。

そんな事を意識してなかった訳はない。
だからこうなったのかもしれない。

でも無理は続かなかった。悩んだ挙句にすっぱりと見切りをつけた。
同じく一緒に入った仲間でそんな人は多かった。
自分の業界に対する認識が少し甘かったと反省するばかりだった。
想像以上だったとしか言いようがない。

じゃあ、何が出来るのか。
商業主義じゃない所で自分の技術、知識で出来ること。

それは・・・・やはりあまりない。

実家に帰って、両親にお願いして少しだけ技術の習得という期間をもらった。
同時にいろんな人の話を出来るだけ聞いたりして、何とか生きていけそうなスペースはないかと探った。


ラッキーだったと思う。

一緒に研修をしていた人に誘われた。


新しい店舗のオープニングスタッフを募集していると聞いた。

最初は人が集まらないだろうから勉強しながらでいいと。
その代わりに技術の習得は確実にして欲しいと。

全てを話して、出来ることをチェックしてもらって、技術指導も受けて、数ヶ月後には3人の仲間と完全予約制の店舗としてオープン出来た。

まだまだ営業時間はその日の予約状況という状態。

それでも前みたいな追い込まれることもない。

当然キャンペーンはお勧めするけど、それは絶対お得になっていて、勧めるのに全く後ろめたさはない。
『本当にお得ですよ。』心から言える。
もちろんメニューは顔からボディーからパーツから、そのほかにいろいろあって、メニューによっては全然興味を見せないお客様もいる。
お知らせはしても興味ない部分だと思ったら、無理には勧めない。


交代で休みを取りながらで担当制というわけでもない。
だから競争心もさほどないと思う。
仲がいいと思う。

石黒 舞さん 26歳 斎藤 遥さん 25歳
それぞれ違うお店からやってきた、同じ年頃の女性。
私が23歳だから一番下っ端。一番経験がない。



『やっぱりどこも酷いグログロだよね。』

『太い客を捕まえたら絶対手放さない気で頑張ってた。』

『もうお客が人というよりお札にしか見えなくなる。』

『結構体もしんどいしね。』

『そんなんで仲がいい訳ないって。』

『店長は胃薬必需だった。』

『足の引っ張り合いがえげつなかったんだよね。契約書をシュレッダーにかけられた人はつかみ合いの喧嘩になっていた。』

などなど。
やっぱりすごい、あの後長くいてもそんな修羅場を目にするだけだったらしい。
むしろ研修中に身を引けた私はまだまだだったらしい。

個人同士、店舗同士、店長同士・・・・・。

女性の集まるところには何らかの競い合いが生まれる。
双子だって仲が良くてもそれなりに、それなりな部分もあったし、普通の姉妹だってきっと少しはあるから。クラスの中の友達だって、他のクラスの子とだって、それはどこにでも。
ただ、お金が関わって分かりやすいし比べやすくなったのだ。


振り返りながらも、仲良くして行こう、いい雰囲気で働きたい、それは三人の意見だったし願いだった。

仲がいいとお休みもそれなりに工夫できる。

私は今のところ週末の休みより平日休みでも十分だと思ってる。

「ありがとう。すごくうれしい。でも華乃ちゃん、彼氏できたら平等にしようね。その頃はこっちもラブラブが落ち着いてるかも。」

舞さんが言ってくれる。
今は新婚の舞さん。
仕事を新しく始める前にいろんなバタバタは終わらせて、まだまだ余裕のあるうちにゆったりとした新婚時期が送れてるらしい。

「舞さんがラブラブな内になんとか週休休みの仲間に入りたいんですが・・・。」

「予定は?全然ないって言ってたけど。」

遥さんが言う。

こっちもラブラブ真っ最中。
出来立ての彼氏が一名。
本人曰く史上最高にかっこいいらしい。
写真を見せてもらったけど本当にかっこよかった。

羨ましい限りだけど・・・・。

「全然です。まだまだ平日のお休みでいいです。」

当然それでは終わらなくて。

「どんな人がいいの?」

「落ち着いた人がいいです。」

「年上がいいの?」

「そうかもしれません。」

「可愛いからすぐに声かけられそうなのに。飲みに行こうって言ってるけどなかなか行けなくてごめんね。写真見せたら彼氏がすごく褒めてた。今度友達紹介するってすごい乗り気だから、待っててね。」

「なかなかうまくいかないんです。ちょっと苦手です、きっとガッカリされます。」

「そんなことないって。全然嫌なところ見えない。絶対おすすめできるから。」

「そうそう。もっと年上がいいなら旦那の友達もたくさんいるから。」

「ありがとうございます。その内に・・・・。」


本当に苦手だった。
接客をしてるわりに人見知りで。
特に男性には、分厚い壁を作ってしまう。
ガッカリされたら嫌だから、紹介すると言われてもあまり喜べなかったりする。
でもそれじゃあずっと一人。
それも寂しい。

『彼氏が出来ました。ちょっと年上。お母さんたちにはまだ内緒ね。』

今までも貴乃からは何度かそんな連絡が来た。
愚痴を聞いたこともあるし、別れました連絡ももらったことはある。
貴乃は私のことは聞いて来ない。

期待してない?

『おめでとう。その内写真見せてね。』

毎回そんな事を言う私。

貴乃とは好きになるタイプは違う。
どちらかというとすごく明るい人が好きらしい。
アクティブな人、物おじしない人。
だからすぐに告白してもらえて付き合うんだと思う。
そしてその分ぶつかることも多いのかもしれない。
勝手にそんな事を思ってた。

来月の誕生会には久しぶりに貴乃に会う。
今はどうなってるんだろう?

貴乃と彼氏の写真も見せてもらうのもちょっと楽しみなのだ。
ぼんやりとした写真だと自分と同じような顔だからちょっとした私の疑似恋愛。
タイプが違ってもそれくらい些細な問題。

その日の内には忘れるけど、数時間くらい、その間は楽しめる。


一日の終わり、日報を書く。
収支をきちんと合わせて、オーナーに報告する。
大分慣れてきて、自分達だけで対応できるようになったし、いろんな工夫が出来るようになった。
時間の空いたときには当然お互いにお肌やボディのトリートメントもやり合う。
技術の向上のためだけど、それでもやっぱりお得な感じもいい。


やっと自分が楽しめる居場所を見つけた。
そんな感じで満足だった。
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