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12 スパイ気取りの人のこの先の人生、ちょっとだけ付き合ってみてもいいかもしれない。
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二人で細く長い階段を見上げる。
これ、上るの?
「ここまで来て帰るってないよね。」
「当たり前です。行きましょう。」
ひるんだ自分の心にも活を入れて、手をつないで上り始めた。
歩きやすい靴で来た。
藤井さんも一度部屋に戻ってそれらしいスタイルだから大丈夫。
二人で手をつないで本物の御利益をもらいに行こうとお寺に来た。
海が見えて、空が見えて、きっと階段を上った先には綺麗な景色が見えるだろう、そうに違いない、そう思わないと足が重くなりそう。
ひたすら足元を見て上った。
二人とも無口なのはしょうがない。
都会の会社員は駅でもエスカレーターがあり、ひたすら平地のアスファルトを移動して、高い階で働いていたとしてもエレベーターがある。
体力は自分で努力しないと落ちるしかないのだ。
そう言えば昨日も『つかれた・・・・・きゅうけい・・・・。』と息絶え絶えだった藤井さん。
同じくらい疲れてた私だけど、やっぱりちょっと年上な分体力はすり減ってるかも。
「なに?・・・・・、おじいさんになった僕の手を取って・・・・・デートに行ったところを、めぐってる・・・・・数十年後でも・・・・・想像してくれた・・・・・?」
やっぱり息が上がってるみたいだけど、そんな時でも都合よくストーリーを作りたいらしい。
もはや最初の『なに?』は要らないくらい。
やっと頂上にたどり着いた。大きく深呼吸する。
二歩遅れて藤井さん。
「しんどい・・・・・。」
二人とも、ゆっくり息を整えた。
「藤井さん、体力がないです。昨日もそう思いましたが、やっぱり運動不足ですよ。」
「昨日?何で?いつ?」
そう聞かれると困る。
「あ・・・・・・・、酷いなあ、あれは有希さんが無理させるから。もう有希さんのために頑張ってるんだから、毎回毎回全力、文字通り精一杯励んでるんだよ。」
知らない。聞こえない。もういい。
明らかに例えの出し方とタイミングを間違った。
「でも満足してないなら、体力つけよう。持久力と精力か・・・・。頑張ろう。」
せっかく上がったと思ったのに、おまけの階段がまだあった。
それでも端の方にベンチがたくさんあって人が海の方を見てる。
手をつないだままブツブツ言ってる藤井さんを連れて行く。
「藤井さん、いい眺めですね。良かったです、ご褒美ですよ。」
先に見てた人はパラパラと動いて行く。
さっきの階段横にちょっとした食べ物が売ってる。
一組の集団だったらしく、お互い誘い合って一気に人がいなくなった。
「ご褒美が景色っておかしくない?もっと褒めてくれるとか、色っぽく答えてくれる方が嬉しいのに。」
「今夜はそうしてね。」
「話題は変ってます。階段を頑張って上ったご褒美です。分かってるんですから、普通に反応してください。」
「もう、分かりにくいよ~。」
冗談だろう。
無視した。
今日も泊まるの?一緒にいるの?
今日こそ疲れた足をソファに投げ出したいかもしれないのに。
出来ないじゃない。
「嘘嘘、分かりやすい。ちゃんと分ってる。だって、ね。ちゃんと・・・・もんね。」
何がですか?冷たい目で見た。
「分かってるって。でもあえてあと一歩踏み込んだ反応が欲しいなあ~。ね。」
丸ごと無視。まだ話題の転換をしたくないらしい。
一人で考えててください。
「後少しですね。体力は戻りましたか?」
ニッコリ笑ってそう言ったら、じっと見つめられて、いきなりキスされた。
「さっきから人をおじさん扱いしてる。」
やっと分かってくれたらしい。
だからと言ってなんでキスする。
「有希さんも同じくらい疲れてるのを誤魔化してるくせに。階段上り切ったご褒美は今ので我慢して。」
バレてたか。
ご褒美がソレとは、景色よりはレアじゃないけど、まあ、文句は言うまい。
今度は手を引かれて大人しくオマケの階段も上った。
振り向いたけど海の景色が見えずらくなった。
きちんと二人で手を合わせて、ご利益をお願いする。
隣でブツブツと欲張ってるような気がする藤井さん。
いろいろは藤井さんに任せることにして、二人が元気でいれるようにと控えめなお願いにした。
長めの合掌がやっと終わった藤井さんの手を引いて、次の人のために場所を空けた。
またオマケの階段を降りて海を見下ろす。
「何をお願いしたの?」
「二人の健康を。」
「それだけ?」
「だって藤井さんが欲張っていろいろお願いしてそうだったから。私はシンプルにしました。」
「だってそのために来たんだから。本気でお願いしたからね。」
「何をお願いしたんですか?」
「二人の明るい未来。」
「政治家のポスターの標語みたいです。」
「そう?本当にご利益あるといいよね。」
「そうですね。」
「心から、そう思ってくれてる?」
「はい。」
そう答えた。珍しく真面目な顔に。
一転うれしそうな笑顔になったから、今度は私がご褒美をあげた。
長い階段を上ったご褒美が一つとは限らないから、いいよね。
景色と、ソレ。
「早速ご利益が。何と言って報告したらいいか分からない。どうしよう。」
「『都市伝説はやっぱり正しいかも。』そんなくらいでいいです。何で詳しく教えたいんですか?」
「その方がリアルだから広まるよね。」
「広めたいんですか?」
「それはもちろん地の底から宇宙の端っこまで、広く深く知らしめたい!」
「・・・・。」
勘弁してほしい。
こんな時こそお得意の作り話でもいいのに、そんな時だけリアルを求めないで欲しい。
階段を下りて随分歩いた。
細い住宅街に来ていた。
この場所を選んだのは藤井さん。どこか目的があるんだろう。
手を引かれてついて行くだけ。
本当に緑の奥に広い素敵なお家と広い庭が見えた。
「あああ・・・・・、そうか、季節を考えないといけないのか・・・・・。」
「どうしたんですか?」
「ここのバラの庭がいい雰囲気だから、そう思ってたのに、全然だった。」
「春か秋でしょうか?」
「ごめん、でも建物の中は見れるから。」
そう言って正面の入り口に向かう。
小さな歴史のありそうな建築物は文学館で中では『昭和の文学』の書などが展示されていた。
国語の教科書で聞いたタイトルと作者名。
内容についてはまったく知識がない。
連れてきた藤井さんからも特に詳しく語られることもなく、庭に出た。
勾配があり、上からだったら四角に切り取られたバラ園が俯瞰気味に見えたんだろう。
隣でため息をついた藤井さんがすごく残念そうだ。
バラの季節でもないし、人はいない。
空いてるベンチに座った。
「じゃあ、今度はまたバラの季節にですね。」
落ち込んだ隣の人に言ってみた。
「そうだね。」
「いい散歩です。お腹空きそうです。」
「うん、そうだね。」
しばらく緑の葉っぱと茎を見てから立ち上がって、背伸びして歩き出した。
駅に近いお店で見つけたレストランでパスタを食べて満足して、地元に戻った。
またしても私の部屋への電車へ。
洗濯物は乾いていて、最低限の着替えはあるだろうけど。
本当に最低限。
さすがに途中の量販店で服と着替えを買ってきた。
「パジャマは要らなかったんですか?」
「うん、寒くなる頃考えるからいい。」
それは随分先です。
嬉しそうに膨らんだ買い物袋を振っている。
振り過ぎて他の人にぶつけないようにしてくださいね。
そう思った。
部屋に戻って値札やシールをはがしている。
「藤井さん、今までの彼女とはどうして別れたんですか?振りましたか?振られましたか?」
「振られました、が多いなあ。女の人は・・・・・よくわからない。」
冗談で聞いてもいいことじゃない、真面目な顔で聞いてみた。
真面目な顔で答えてくれた。
ちょっとでも嫌になると、すべてが鬱陶しいと思うだろうか。
そんな感じは分かるかもしれない。
あえて楽しめる今はまだいいけど、楽しめなくなったら・・・・そうかも。
「もしかして毎回強引に部屋に押しかけたり、トランプを持ちこんだり、嘘の話をして気を惹きつけたりしてるって思ってる?」
「まあまあ思ってます。」
「あのトランプはバッグに入ってたんだよ。もう何年も使ってなかったあのバッグに。旅行に行くこともなかったんだ。出張はあったけど、それには使わないし。ね、旅行も無し、トランプも無しだったんだよ。」
「スパイの話は?」
「あれはあの時の処女作にして最高傑作だったから、あの場限りのものだし。」
「あの都市伝説はいつから知ってたんですか?」
「入社して割とすぐ、もう何年も語り継がれてるんだよ。会社の周りの人にしか広がってないのが不思議なくらいだけど、やっぱりちょっと試そうって感じの場所じゃないのかな?もっと駅が近かったり、他にも何かついでがあったら人気のスポットになったかもしれないけど、知らないと分かりにくいしね。」
そんなに詳しく語られたら質問の焦点がぼける。
だって、聞きたかったのは・・・・・。
「今まで、あそこで待ち合わせをした人はいたんですか?」
「あ、それが聞きたかったの?いないよ。それはいない。今回が初めて。だから昼でもいいのかどうなのか、知らなかったじゃない。」
「分かりました。」
「うん。」
何かが分かったんだろう、自分。
どんなことだって、一人で真剣に考えても自分がわかる範囲なんてちょっとだけだから。
また行くかもしれないバラの季節、パジャマが必要なくらいの寒い時期になってもここにいるかもしれない藤井さん、本当におじいちゃんの藤井さんの手を引いて一緒に一歩一歩階段を上ってるかもしれない私。
分からないことは分からない。
どこかの古い映画に本当に靴磨きの椅子で暗号をやり取りしてるスパイがいたかもしれない。映画じゃなくても本当にいたかもしれない。
それも分からない。
試したくなったら試せばいい。
出来ない事はないかも。
「あ、すっかりこっちに来たけど、僕の部屋にも荷物があったんだよね。寂しがってないかなあ。明日からちゃんと毎日お休みを言って寝るようにするね。せめて一人寝の時は声をかけてやろう。安心していいよ。可愛がるから。」
「結構です!!」
開けるなと言ってあるのに。ついでに触るな!もうバッグごと!!
もう、やっぱり全然分からないじゃない。
ちょっと先の展開も見えないんだから。
でも面白いかも。まだまだうんざりは・・・・・我慢できるレベルだから。
ちょっと鬱陶しい時もあるけど黙殺できるレベルだから。
それで良ければどうぞ、お気のすむまでふざけてください。
まだまだ二週目だしね・・・・・。
お互い呆れるのには、まだまだ早いよね。
これ、上るの?
「ここまで来て帰るってないよね。」
「当たり前です。行きましょう。」
ひるんだ自分の心にも活を入れて、手をつないで上り始めた。
歩きやすい靴で来た。
藤井さんも一度部屋に戻ってそれらしいスタイルだから大丈夫。
二人で手をつないで本物の御利益をもらいに行こうとお寺に来た。
海が見えて、空が見えて、きっと階段を上った先には綺麗な景色が見えるだろう、そうに違いない、そう思わないと足が重くなりそう。
ひたすら足元を見て上った。
二人とも無口なのはしょうがない。
都会の会社員は駅でもエスカレーターがあり、ひたすら平地のアスファルトを移動して、高い階で働いていたとしてもエレベーターがある。
体力は自分で努力しないと落ちるしかないのだ。
そう言えば昨日も『つかれた・・・・・きゅうけい・・・・。』と息絶え絶えだった藤井さん。
同じくらい疲れてた私だけど、やっぱりちょっと年上な分体力はすり減ってるかも。
「なに?・・・・・、おじいさんになった僕の手を取って・・・・・デートに行ったところを、めぐってる・・・・・数十年後でも・・・・・想像してくれた・・・・・?」
やっぱり息が上がってるみたいだけど、そんな時でも都合よくストーリーを作りたいらしい。
もはや最初の『なに?』は要らないくらい。
やっと頂上にたどり着いた。大きく深呼吸する。
二歩遅れて藤井さん。
「しんどい・・・・・。」
二人とも、ゆっくり息を整えた。
「藤井さん、体力がないです。昨日もそう思いましたが、やっぱり運動不足ですよ。」
「昨日?何で?いつ?」
そう聞かれると困る。
「あ・・・・・・・、酷いなあ、あれは有希さんが無理させるから。もう有希さんのために頑張ってるんだから、毎回毎回全力、文字通り精一杯励んでるんだよ。」
知らない。聞こえない。もういい。
明らかに例えの出し方とタイミングを間違った。
「でも満足してないなら、体力つけよう。持久力と精力か・・・・。頑張ろう。」
せっかく上がったと思ったのに、おまけの階段がまだあった。
それでも端の方にベンチがたくさんあって人が海の方を見てる。
手をつないだままブツブツ言ってる藤井さんを連れて行く。
「藤井さん、いい眺めですね。良かったです、ご褒美ですよ。」
先に見てた人はパラパラと動いて行く。
さっきの階段横にちょっとした食べ物が売ってる。
一組の集団だったらしく、お互い誘い合って一気に人がいなくなった。
「ご褒美が景色っておかしくない?もっと褒めてくれるとか、色っぽく答えてくれる方が嬉しいのに。」
「今夜はそうしてね。」
「話題は変ってます。階段を頑張って上ったご褒美です。分かってるんですから、普通に反応してください。」
「もう、分かりにくいよ~。」
冗談だろう。
無視した。
今日も泊まるの?一緒にいるの?
今日こそ疲れた足をソファに投げ出したいかもしれないのに。
出来ないじゃない。
「嘘嘘、分かりやすい。ちゃんと分ってる。だって、ね。ちゃんと・・・・もんね。」
何がですか?冷たい目で見た。
「分かってるって。でもあえてあと一歩踏み込んだ反応が欲しいなあ~。ね。」
丸ごと無視。まだ話題の転換をしたくないらしい。
一人で考えててください。
「後少しですね。体力は戻りましたか?」
ニッコリ笑ってそう言ったら、じっと見つめられて、いきなりキスされた。
「さっきから人をおじさん扱いしてる。」
やっと分かってくれたらしい。
だからと言ってなんでキスする。
「有希さんも同じくらい疲れてるのを誤魔化してるくせに。階段上り切ったご褒美は今ので我慢して。」
バレてたか。
ご褒美がソレとは、景色よりはレアじゃないけど、まあ、文句は言うまい。
今度は手を引かれて大人しくオマケの階段も上った。
振り向いたけど海の景色が見えずらくなった。
きちんと二人で手を合わせて、ご利益をお願いする。
隣でブツブツと欲張ってるような気がする藤井さん。
いろいろは藤井さんに任せることにして、二人が元気でいれるようにと控えめなお願いにした。
長めの合掌がやっと終わった藤井さんの手を引いて、次の人のために場所を空けた。
またオマケの階段を降りて海を見下ろす。
「何をお願いしたの?」
「二人の健康を。」
「それだけ?」
「だって藤井さんが欲張っていろいろお願いしてそうだったから。私はシンプルにしました。」
「だってそのために来たんだから。本気でお願いしたからね。」
「何をお願いしたんですか?」
「二人の明るい未来。」
「政治家のポスターの標語みたいです。」
「そう?本当にご利益あるといいよね。」
「そうですね。」
「心から、そう思ってくれてる?」
「はい。」
そう答えた。珍しく真面目な顔に。
一転うれしそうな笑顔になったから、今度は私がご褒美をあげた。
長い階段を上ったご褒美が一つとは限らないから、いいよね。
景色と、ソレ。
「早速ご利益が。何と言って報告したらいいか分からない。どうしよう。」
「『都市伝説はやっぱり正しいかも。』そんなくらいでいいです。何で詳しく教えたいんですか?」
「その方がリアルだから広まるよね。」
「広めたいんですか?」
「それはもちろん地の底から宇宙の端っこまで、広く深く知らしめたい!」
「・・・・。」
勘弁してほしい。
こんな時こそお得意の作り話でもいいのに、そんな時だけリアルを求めないで欲しい。
階段を下りて随分歩いた。
細い住宅街に来ていた。
この場所を選んだのは藤井さん。どこか目的があるんだろう。
手を引かれてついて行くだけ。
本当に緑の奥に広い素敵なお家と広い庭が見えた。
「あああ・・・・・、そうか、季節を考えないといけないのか・・・・・。」
「どうしたんですか?」
「ここのバラの庭がいい雰囲気だから、そう思ってたのに、全然だった。」
「春か秋でしょうか?」
「ごめん、でも建物の中は見れるから。」
そう言って正面の入り口に向かう。
小さな歴史のありそうな建築物は文学館で中では『昭和の文学』の書などが展示されていた。
国語の教科書で聞いたタイトルと作者名。
内容についてはまったく知識がない。
連れてきた藤井さんからも特に詳しく語られることもなく、庭に出た。
勾配があり、上からだったら四角に切り取られたバラ園が俯瞰気味に見えたんだろう。
隣でため息をついた藤井さんがすごく残念そうだ。
バラの季節でもないし、人はいない。
空いてるベンチに座った。
「じゃあ、今度はまたバラの季節にですね。」
落ち込んだ隣の人に言ってみた。
「そうだね。」
「いい散歩です。お腹空きそうです。」
「うん、そうだね。」
しばらく緑の葉っぱと茎を見てから立ち上がって、背伸びして歩き出した。
駅に近いお店で見つけたレストランでパスタを食べて満足して、地元に戻った。
またしても私の部屋への電車へ。
洗濯物は乾いていて、最低限の着替えはあるだろうけど。
本当に最低限。
さすがに途中の量販店で服と着替えを買ってきた。
「パジャマは要らなかったんですか?」
「うん、寒くなる頃考えるからいい。」
それは随分先です。
嬉しそうに膨らんだ買い物袋を振っている。
振り過ぎて他の人にぶつけないようにしてくださいね。
そう思った。
部屋に戻って値札やシールをはがしている。
「藤井さん、今までの彼女とはどうして別れたんですか?振りましたか?振られましたか?」
「振られました、が多いなあ。女の人は・・・・・よくわからない。」
冗談で聞いてもいいことじゃない、真面目な顔で聞いてみた。
真面目な顔で答えてくれた。
ちょっとでも嫌になると、すべてが鬱陶しいと思うだろうか。
そんな感じは分かるかもしれない。
あえて楽しめる今はまだいいけど、楽しめなくなったら・・・・そうかも。
「もしかして毎回強引に部屋に押しかけたり、トランプを持ちこんだり、嘘の話をして気を惹きつけたりしてるって思ってる?」
「まあまあ思ってます。」
「あのトランプはバッグに入ってたんだよ。もう何年も使ってなかったあのバッグに。旅行に行くこともなかったんだ。出張はあったけど、それには使わないし。ね、旅行も無し、トランプも無しだったんだよ。」
「スパイの話は?」
「あれはあの時の処女作にして最高傑作だったから、あの場限りのものだし。」
「あの都市伝説はいつから知ってたんですか?」
「入社して割とすぐ、もう何年も語り継がれてるんだよ。会社の周りの人にしか広がってないのが不思議なくらいだけど、やっぱりちょっと試そうって感じの場所じゃないのかな?もっと駅が近かったり、他にも何かついでがあったら人気のスポットになったかもしれないけど、知らないと分かりにくいしね。」
そんなに詳しく語られたら質問の焦点がぼける。
だって、聞きたかったのは・・・・・。
「今まで、あそこで待ち合わせをした人はいたんですか?」
「あ、それが聞きたかったの?いないよ。それはいない。今回が初めて。だから昼でもいいのかどうなのか、知らなかったじゃない。」
「分かりました。」
「うん。」
何かが分かったんだろう、自分。
どんなことだって、一人で真剣に考えても自分がわかる範囲なんてちょっとだけだから。
また行くかもしれないバラの季節、パジャマが必要なくらいの寒い時期になってもここにいるかもしれない藤井さん、本当におじいちゃんの藤井さんの手を引いて一緒に一歩一歩階段を上ってるかもしれない私。
分からないことは分からない。
どこかの古い映画に本当に靴磨きの椅子で暗号をやり取りしてるスパイがいたかもしれない。映画じゃなくても本当にいたかもしれない。
それも分からない。
試したくなったら試せばいい。
出来ない事はないかも。
「あ、すっかりこっちに来たけど、僕の部屋にも荷物があったんだよね。寂しがってないかなあ。明日からちゃんと毎日お休みを言って寝るようにするね。せめて一人寝の時は声をかけてやろう。安心していいよ。可愛がるから。」
「結構です!!」
開けるなと言ってあるのに。ついでに触るな!もうバッグごと!!
もう、やっぱり全然分からないじゃない。
ちょっと先の展開も見えないんだから。
でも面白いかも。まだまだうんざりは・・・・・我慢できるレベルだから。
ちょっと鬱陶しい時もあるけど黙殺できるレベルだから。
それで良ければどうぞ、お気のすむまでふざけてください。
まだまだ二週目だしね・・・・・。
お互い呆れるのには、まだまだ早いよね。
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