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9 元気のない理由に心当たりがあって、心苦しい思いのマシロ。
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今日はこの辺りでコタロとランチをするって教えられた。
だから近くにいたらいいじゃないですか?と。
「なんで?この間も実家に帰って話はしたよ。成美ちゃんとのことは手伝いはいらないなんて言うんだよ、本当に1人で出会えたような気になって、誰がお世話したと思ってるのよって、ね。」
そう言ったら悲しい顔をされた。
「もう、真白さんまで、世話が焼ける二人です!!いいですか、ランチが終わったら連絡するので、駅の辺りにいてください、分かりやすい所にいてください。」
そう言われた。
後輩成美ちゃんの言うとおりに、律義に駅ビルの中にいた。
ランチが終わったらしく連絡が来た。
『今終わりました。じゃあ、ちゃんとコタロさんを捕まえてくださいね。私は邪魔しませんよ。』
そんなメッセージが来た。
多分ここを通るのだろう、分かりやすいお店で、近いし、歩いてくるならとりあえずここを通るのだろう。
寄り道をして無駄な買い物を楽しむ方じゃないと思う。
ゆっくりと駅ビルのガラスのドアの内側から、目の前の通りを見た。
「なんなんだろう?おかしいよね?」
つい呟いた。
近くにいた人に聞こえたらしくちらりと視線をやられた。
待ち合わせの人が多くいる場所だった。
やっぱり・・・・。
通りから視線を外すようにしばらくお店の方を向いた。
どうしたいの?成美ちゃん。
コタロは気に入ってるのに、可愛い後輩の成美ちゃんを私が推薦したんだから、
間違ってないはずなのに。
コタロはダメだったの?
余計な事をしたみたいになった。
コタロがガッカリしてるかもしれない。
飲みに付き合うくらい、別にいい。
そう思って、また外を向いた。
そんな理由で通りを見たタイミングは、最悪にズレた瞬間だったらしい。
改札を入って行くコタロの横顔が見えた。
急いで外に出たけど、間に合わなかった。
せっかく飲みに行こうと思ったのに。
じゃあ電話する?いまならまだ間に合うけど・・・・・・。
結局改札の中、すぐに見えなくなった背中を見送った。
私は実家に行くでもなく、自分の部屋に向かった。
やっぱりおかしいんだよ。そうだよ。帰ろう。何してたんだろう・・・・・。
あれから本当に先輩のことは気にしてないらしい真麻ちゃん。
全く連絡もない。
それに仕事は最初に働きかけていたコタロの会社に負けた。
それはしょうがない。
柴田君の方がほとんど決まりかけてたらしいから。
覆せない遅れはある。
ただ、いつも先手が勝ちとは限らない。
仕事の話だ。違う事を思い出しそうになって首を振る。
あの日再会するまではまったく忘れてたのに、何でだろう?
ぼんやりしてる間に部屋にたどり着いた。
食事もせず、買い物もせず、ただ行って帰ってきただけだった。
成美ちゃんに乗せられて無駄な一往復をしただけだった。
その成美ちゃんもさっさとコタロを私に預けたつもりでスッキリしたのか、何も言ってこない。
じゃあ、もう知らない。
週末無駄に空回りして、気分はへとへとで月曜日、また一週間が始まった。
重たいビジネス用のバッグを持って、それでも颯爽と営業に出る自分は無理してる。
認めてもらいたい、褒めてもらいたいと思ってた上司は、今はいない。
上司の存在がモチベーションだったのに。
今はそこがぽっかりと寂しい空洞で、それでも手を抜いてるつもりはないから、そのまま進む。
遠い空の下、新しい環境で愛する人と笑ってるだろう顔が思い出される。
アップされた写真がそんな写真だった。
のびのびと楽しいって顔をしていた。
久しぶりに思い出した。
それでも随分時間が経っていたから、半分くらいぼんやりして、自分で想像で足してる気がする。一度しか見てない写真だから、それ以来サイトには行ってないし。
あんな感じは知らないし。
重い荷物が少し減って、一通り今日の仕事が終わった時間、コーヒーを飲んで休憩をする。
パソコンを出して仕事をする人も多い。
勉強をする人もいるだろう、たまに外人さんから語学を習ってる人もいるし、漫画を描いてる人までいる。
自室では集中できないのだろうか?
会社に戻るとぼんやりが出来ない。
だって出来るだけ早く帰りたいって思うし。
お腹空いた。温めてもらったスコーンはしっとりし過ぎて、甘すぎて。
早々に手から離して諦めた。
仕事のまとめも終わり、携帯を見たら美乃梨から連絡が来ていた。
『楽しい週末になったの?社内にいる日にランチしよう。連絡待ってる。』
別に普通です。もしかしたら普通以下なくらい。
つまらない週末を思い出して、そのまま携帯はポケットに仕舞い込んだ。
何の偶然だろうか、目の前に驚いた柴田君がいた。
すぐに思い出したんだから私も偉い!
コタロの友達、後輩の彼氏、柴田君。
「どうも。この間はありがとうございました。お世話になりました。」
礼儀正しくお礼を言われた。
「ああ、役に立ったならうれしいけど。」
「あの、ここいいですか?」
目の前の椅子は空いてる。
食事も仕事も終わったから、あと少しで帰る予定だし。
「どうぞ。」
そう言ったらバッグとトレーを置いて、予約プレートを置いた席から移ってきた。
「ありがとうございます。」
「真麻ちゃんから写真が送られてきたけど。『海辺の彼女』の写真。」
「ああ、はい。聞いてます。」
そう言ってぺりぺりとサンドイッチのフィルムをはがす。
「・・・・最近、虎太郎が元気なくて。」
「そうなの?難しい年頃なのかしら?」
「原因は誰でしょうか?」
「ああ、知ってるの?私が悪いことしたみたい・・・なのかな?はっきりとは聞いてないけど、コタロが言った条件にはぴったり合った子だと思ったんだけど。なかなかいい感じだったし、やり取りもしてるみたいだったし。」
そう言ったらサンドイッチを口にしたまま、顔をあげて止まった柴田君。
しばらく考えてる表情だった。
口が動き出し、飲み込んだ後聞かれた。
「虎太郎の初恋の人に心当たりはありますか?」
「さあ?知らない。あの頃から大人しくて男の子よりも女の子と一緒にいる方だったのよ。だからその中の誰かなのかな?」
「本当に真白さんじゃないんですか?」
「さあ?私に聞かれても。確かに幼稚園に入ったころは一番一緒にいたかもしれないけどね。そんな仲良しを初恋って言うの?コタロはそんな事思ってないと思うよ。だから、せめて小学生の頃とかじゃないの?」
「多分違いますよ。いつも一緒にいたって言ってた気がします。」
「そう?どうかな?」
いまさらそんなことを言われてもね、私は分からないし。
多分コタロも否定すると思う。
違う誰かが相手だったと知るくらいなら、分からないままでいい。
もう昔の話だし。
「本当に弟みたいに面倒見てたんだけどね。小学生になったらあっさりそっちの友達を優先してしまって。あの頃は何とも思わなかったけど、私も結構薄情なのかもね。」
「やっぱり真白さんだと思います。」
どうしてもはっきりさせたいタイプらしい。
まるでそれが大切な事の様に。
「何?初恋の話?そうだとしても、そんなのはもう古い話だよ。思い出が美化されるってことあるかもね、それはお互いに。」
そう言ったけど納得はしてもらえてない感じだった。
「コタロは今は全くもてないの?結構家でゴロゴロしてるっておばさんが言ってたけど。」
「そうでしょうね。俺が誘った飲み会では全くつまらなそうでした。はっきり行きたくないって言われてたし。」
「・・・・そうなんだ。コタロの好みのタイプに一番ぴったりだと思った子だったけど、そこもダメだと、私の知り合いにも今はいないなあ。」
「今はそんな新しい出会いは望んでないと思いますよ。」
「そうか、そうかもね。もうしばらく時間を置いたほうがいいのかな。でも本当にいないなあ。」
「じゃあ、四人でまた飲みましょうよ。」
真麻ちゃんを入れてのことだろう。
「そうね。いろいろと話したいことがあるなら少しは聞きましょうか?」
「いえ、二人の思い出話でもいいです。」
「そんな古い話はいいわよ。じゃあ、お先に失礼するわね。」
「はい。お疲れ様でした。」
そう言われて軽く手を振って背を向けた。
そりゃあ落ち込んでるわよね。
やっぱりあの日に慰めが必要だったのかな?
でも、手伝いはいらないって、コタロが言ったんだよ・・・・。
会社に戻って、報告書を出した。
その席には前の人よりずっとベテランの先輩が座ってる。
新しい上司は私のモチベーションをあげてはくれない。
特別にはあげてはくれない、ただ現状維持。
「お願いします。」そう言って書類を提出すると、「お疲れ様。」そう一言をもらうだけ。
普通はそうだろう。別に文句はありません。ただ、最近ちょっとね。
それからやっと思い出してくれたのか、彼氏から聞いたのか、久しぶりに真麻ちゃんから連絡があった。
『相談がある。』そう言われたら『なに?』って思うよね。
すごいハッピーな報告にしてはタイミングが早いし、そうじゃない方は有り得るけど付き合えるほど体力と気力がないと言いたいのが本音。それに柴田君の態度でも違うだろうと否定できる。一緒に飲みに行こうなんて言ってたくらいだし。
『土曜日のランチは難しそうですか?』
そんな訳はない。
週末休みじゃない真麻ちゃんに比べたら何でもない。
『いいよ。空いてるから任せる。』
何とも暇な週末ですから、今回も後輩に任せてどうぞの気分で。
この間以上の無駄な時間になるとは思ってないし。
美味しいものが食べれるならちょっとくらいの惚気も聞いてあげよう。
そう思っていたら、翌日にはお礼とともに待ち合わせの時間と場所が送られてきた。
お店は決めてるんだろうか?
そこの情報は教えてもらえなかった。
今日も資料とサンプルの入ったバッグは重い。
それでも確実に反応があるから、まだいい。
上司が誰でも、仕事に注ぐしかない熱を感じる最近。
よく考えたら、本当にしばらく一人なのだ。
片想いからの失恋からの今日この頃。
なんで友達も誘ってくれないの?
あ、美乃梨には気のない返事をしたんだっけ。
でも他は?
夏だよ、もう目の前に夏が来てるよ。
車内の屋上ビアガーデンの広告が目に入ってくる。
そんな時期だ。
雑誌で花火特集が組まれ、夏休み向けのイベントの特集が組まれ、その頃ジタバタしても遅い。水着が本当の自己満足になる可能性。それすらない可能性。
どっちになるんだろう?
待ち合わせの土曜日。後輩の惚気を『お礼』という言葉と一緒に『報告』として聞かされる日。ついでに何か相談があると言われた日。
何も二人で来なくても・・・・。
この間会った柴田君もいた。
彼女の貴重な週末休みだもんね。
そうだよね、一緒だよね・・・・。
「お待たせ、お二人さん。」
「大丈夫です。あと一人が少し遅れるみたいで。」
「もしかして、誰?」
「虎太郎です。」
まあ、そうなるかな?
全然知らない男の子を用意したという気の遣い方じゃないらしい。
私と同じくらいコタロにもお礼が言いたいらしい、二人揃って言いたいらしい。
「今日は休み?」
「はい、そうです。」
「週末仕事は大変ね。柴田君と休みが合わないんじゃないの?」
「いえ、毎週どちらかは休みです。連休じゃないのは悲しいですが、だから大丈夫です。」
「そう、良かった。貴重な週末の休みを邪魔してると思うと心苦しい。」
一応気を遣って言ってみた。
「何でですか、誘ったのは私ですよ。」
「そうだよね~。」
真麻ちゃんと話をしていたら、柴田君のつぶやくのが聞こえた。
「あ、来た。」
三人でその方向を見る。
コタロが驚いてる。知らなかったのだろうか?
少しゆっくりになった歩き。
「ごめん、お待たせしました。電車がトラブって遅れたんだ。」
「大丈夫だよ、待ったのはちょっとだけだったし。」
「行きましょう。」
真麻ちゃんの声掛けで二人が先に歩く。
コタロと横並びでついて行く。
「コタロ、久しぶり。」
「・・・・そう?」
「・・・ああ、そうでもないか。」
成美ちゃんのことははっきりとは聞けないけど、どうなった?
やっぱりダメだった?
今週もゴロゴロダラダラだったの?
口に出来ないまま、黙って歩く。
「父さんが母さんを褒めてたよ。マシロから髪用の化粧品をもらったからって教えたんだ。」
「そう?おじさん気がついた?」
「多分、香りには気がつく。それでチラリとさりげなく褒めてた。あんまりそんな事もないから、想像してたより喜んでた。」
「よかった。うれしい。コタロのところには同じような商品ないの?」
「シャンプーとかはあるけど、そっちはないと思うよ。プレゼントしようと思ったことがないから買ったことがないんだ。」
「そうなの?じゃあ、今度お土産に持って行く。家の母親も気に入ってるし。」
「ありがとう。」
「コタロは週末出かけてることが多い?」
「ほとんど家にいるよ。」
「じゃあ、前もって連絡するかも。暇だったらご飯食べようよ。」
「いいよ。奢るよ。」
「やったね。じゃあ遠慮なく。」
「だって近所でいいんでしょう?ファミレスくらいじゃない。」
「いいよ。別に高いものを奢られようとは思ってないよ。」
「そう。じゃあ、たくさん食べていいよ。」
「優しいね、コタロ。」
前の二人を見ながら、そう思ったから、そう言った。
だから近くにいたらいいじゃないですか?と。
「なんで?この間も実家に帰って話はしたよ。成美ちゃんとのことは手伝いはいらないなんて言うんだよ、本当に1人で出会えたような気になって、誰がお世話したと思ってるのよって、ね。」
そう言ったら悲しい顔をされた。
「もう、真白さんまで、世話が焼ける二人です!!いいですか、ランチが終わったら連絡するので、駅の辺りにいてください、分かりやすい所にいてください。」
そう言われた。
後輩成美ちゃんの言うとおりに、律義に駅ビルの中にいた。
ランチが終わったらしく連絡が来た。
『今終わりました。じゃあ、ちゃんとコタロさんを捕まえてくださいね。私は邪魔しませんよ。』
そんなメッセージが来た。
多分ここを通るのだろう、分かりやすいお店で、近いし、歩いてくるならとりあえずここを通るのだろう。
寄り道をして無駄な買い物を楽しむ方じゃないと思う。
ゆっくりと駅ビルのガラスのドアの内側から、目の前の通りを見た。
「なんなんだろう?おかしいよね?」
つい呟いた。
近くにいた人に聞こえたらしくちらりと視線をやられた。
待ち合わせの人が多くいる場所だった。
やっぱり・・・・。
通りから視線を外すようにしばらくお店の方を向いた。
どうしたいの?成美ちゃん。
コタロは気に入ってるのに、可愛い後輩の成美ちゃんを私が推薦したんだから、
間違ってないはずなのに。
コタロはダメだったの?
余計な事をしたみたいになった。
コタロがガッカリしてるかもしれない。
飲みに付き合うくらい、別にいい。
そう思って、また外を向いた。
そんな理由で通りを見たタイミングは、最悪にズレた瞬間だったらしい。
改札を入って行くコタロの横顔が見えた。
急いで外に出たけど、間に合わなかった。
せっかく飲みに行こうと思ったのに。
じゃあ電話する?いまならまだ間に合うけど・・・・・・。
結局改札の中、すぐに見えなくなった背中を見送った。
私は実家に行くでもなく、自分の部屋に向かった。
やっぱりおかしいんだよ。そうだよ。帰ろう。何してたんだろう・・・・・。
あれから本当に先輩のことは気にしてないらしい真麻ちゃん。
全く連絡もない。
それに仕事は最初に働きかけていたコタロの会社に負けた。
それはしょうがない。
柴田君の方がほとんど決まりかけてたらしいから。
覆せない遅れはある。
ただ、いつも先手が勝ちとは限らない。
仕事の話だ。違う事を思い出しそうになって首を振る。
あの日再会するまではまったく忘れてたのに、何でだろう?
ぼんやりしてる間に部屋にたどり着いた。
食事もせず、買い物もせず、ただ行って帰ってきただけだった。
成美ちゃんに乗せられて無駄な一往復をしただけだった。
その成美ちゃんもさっさとコタロを私に預けたつもりでスッキリしたのか、何も言ってこない。
じゃあ、もう知らない。
週末無駄に空回りして、気分はへとへとで月曜日、また一週間が始まった。
重たいビジネス用のバッグを持って、それでも颯爽と営業に出る自分は無理してる。
認めてもらいたい、褒めてもらいたいと思ってた上司は、今はいない。
上司の存在がモチベーションだったのに。
今はそこがぽっかりと寂しい空洞で、それでも手を抜いてるつもりはないから、そのまま進む。
遠い空の下、新しい環境で愛する人と笑ってるだろう顔が思い出される。
アップされた写真がそんな写真だった。
のびのびと楽しいって顔をしていた。
久しぶりに思い出した。
それでも随分時間が経っていたから、半分くらいぼんやりして、自分で想像で足してる気がする。一度しか見てない写真だから、それ以来サイトには行ってないし。
あんな感じは知らないし。
重い荷物が少し減って、一通り今日の仕事が終わった時間、コーヒーを飲んで休憩をする。
パソコンを出して仕事をする人も多い。
勉強をする人もいるだろう、たまに外人さんから語学を習ってる人もいるし、漫画を描いてる人までいる。
自室では集中できないのだろうか?
会社に戻るとぼんやりが出来ない。
だって出来るだけ早く帰りたいって思うし。
お腹空いた。温めてもらったスコーンはしっとりし過ぎて、甘すぎて。
早々に手から離して諦めた。
仕事のまとめも終わり、携帯を見たら美乃梨から連絡が来ていた。
『楽しい週末になったの?社内にいる日にランチしよう。連絡待ってる。』
別に普通です。もしかしたら普通以下なくらい。
つまらない週末を思い出して、そのまま携帯はポケットに仕舞い込んだ。
何の偶然だろうか、目の前に驚いた柴田君がいた。
すぐに思い出したんだから私も偉い!
コタロの友達、後輩の彼氏、柴田君。
「どうも。この間はありがとうございました。お世話になりました。」
礼儀正しくお礼を言われた。
「ああ、役に立ったならうれしいけど。」
「あの、ここいいですか?」
目の前の椅子は空いてる。
食事も仕事も終わったから、あと少しで帰る予定だし。
「どうぞ。」
そう言ったらバッグとトレーを置いて、予約プレートを置いた席から移ってきた。
「ありがとうございます。」
「真麻ちゃんから写真が送られてきたけど。『海辺の彼女』の写真。」
「ああ、はい。聞いてます。」
そう言ってぺりぺりとサンドイッチのフィルムをはがす。
「・・・・最近、虎太郎が元気なくて。」
「そうなの?難しい年頃なのかしら?」
「原因は誰でしょうか?」
「ああ、知ってるの?私が悪いことしたみたい・・・なのかな?はっきりとは聞いてないけど、コタロが言った条件にはぴったり合った子だと思ったんだけど。なかなかいい感じだったし、やり取りもしてるみたいだったし。」
そう言ったらサンドイッチを口にしたまま、顔をあげて止まった柴田君。
しばらく考えてる表情だった。
口が動き出し、飲み込んだ後聞かれた。
「虎太郎の初恋の人に心当たりはありますか?」
「さあ?知らない。あの頃から大人しくて男の子よりも女の子と一緒にいる方だったのよ。だからその中の誰かなのかな?」
「本当に真白さんじゃないんですか?」
「さあ?私に聞かれても。確かに幼稚園に入ったころは一番一緒にいたかもしれないけどね。そんな仲良しを初恋って言うの?コタロはそんな事思ってないと思うよ。だから、せめて小学生の頃とかじゃないの?」
「多分違いますよ。いつも一緒にいたって言ってた気がします。」
「そう?どうかな?」
いまさらそんなことを言われてもね、私は分からないし。
多分コタロも否定すると思う。
違う誰かが相手だったと知るくらいなら、分からないままでいい。
もう昔の話だし。
「本当に弟みたいに面倒見てたんだけどね。小学生になったらあっさりそっちの友達を優先してしまって。あの頃は何とも思わなかったけど、私も結構薄情なのかもね。」
「やっぱり真白さんだと思います。」
どうしてもはっきりさせたいタイプらしい。
まるでそれが大切な事の様に。
「何?初恋の話?そうだとしても、そんなのはもう古い話だよ。思い出が美化されるってことあるかもね、それはお互いに。」
そう言ったけど納得はしてもらえてない感じだった。
「コタロは今は全くもてないの?結構家でゴロゴロしてるっておばさんが言ってたけど。」
「そうでしょうね。俺が誘った飲み会では全くつまらなそうでした。はっきり行きたくないって言われてたし。」
「・・・・そうなんだ。コタロの好みのタイプに一番ぴったりだと思った子だったけど、そこもダメだと、私の知り合いにも今はいないなあ。」
「今はそんな新しい出会いは望んでないと思いますよ。」
「そうか、そうかもね。もうしばらく時間を置いたほうがいいのかな。でも本当にいないなあ。」
「じゃあ、四人でまた飲みましょうよ。」
真麻ちゃんを入れてのことだろう。
「そうね。いろいろと話したいことがあるなら少しは聞きましょうか?」
「いえ、二人の思い出話でもいいです。」
「そんな古い話はいいわよ。じゃあ、お先に失礼するわね。」
「はい。お疲れ様でした。」
そう言われて軽く手を振って背を向けた。
そりゃあ落ち込んでるわよね。
やっぱりあの日に慰めが必要だったのかな?
でも、手伝いはいらないって、コタロが言ったんだよ・・・・。
会社に戻って、報告書を出した。
その席には前の人よりずっとベテランの先輩が座ってる。
新しい上司は私のモチベーションをあげてはくれない。
特別にはあげてはくれない、ただ現状維持。
「お願いします。」そう言って書類を提出すると、「お疲れ様。」そう一言をもらうだけ。
普通はそうだろう。別に文句はありません。ただ、最近ちょっとね。
それからやっと思い出してくれたのか、彼氏から聞いたのか、久しぶりに真麻ちゃんから連絡があった。
『相談がある。』そう言われたら『なに?』って思うよね。
すごいハッピーな報告にしてはタイミングが早いし、そうじゃない方は有り得るけど付き合えるほど体力と気力がないと言いたいのが本音。それに柴田君の態度でも違うだろうと否定できる。一緒に飲みに行こうなんて言ってたくらいだし。
『土曜日のランチは難しそうですか?』
そんな訳はない。
週末休みじゃない真麻ちゃんに比べたら何でもない。
『いいよ。空いてるから任せる。』
何とも暇な週末ですから、今回も後輩に任せてどうぞの気分で。
この間以上の無駄な時間になるとは思ってないし。
美味しいものが食べれるならちょっとくらいの惚気も聞いてあげよう。
そう思っていたら、翌日にはお礼とともに待ち合わせの時間と場所が送られてきた。
お店は決めてるんだろうか?
そこの情報は教えてもらえなかった。
今日も資料とサンプルの入ったバッグは重い。
それでも確実に反応があるから、まだいい。
上司が誰でも、仕事に注ぐしかない熱を感じる最近。
よく考えたら、本当にしばらく一人なのだ。
片想いからの失恋からの今日この頃。
なんで友達も誘ってくれないの?
あ、美乃梨には気のない返事をしたんだっけ。
でも他は?
夏だよ、もう目の前に夏が来てるよ。
車内の屋上ビアガーデンの広告が目に入ってくる。
そんな時期だ。
雑誌で花火特集が組まれ、夏休み向けのイベントの特集が組まれ、その頃ジタバタしても遅い。水着が本当の自己満足になる可能性。それすらない可能性。
どっちになるんだろう?
待ち合わせの土曜日。後輩の惚気を『お礼』という言葉と一緒に『報告』として聞かされる日。ついでに何か相談があると言われた日。
何も二人で来なくても・・・・。
この間会った柴田君もいた。
彼女の貴重な週末休みだもんね。
そうだよね、一緒だよね・・・・。
「お待たせ、お二人さん。」
「大丈夫です。あと一人が少し遅れるみたいで。」
「もしかして、誰?」
「虎太郎です。」
まあ、そうなるかな?
全然知らない男の子を用意したという気の遣い方じゃないらしい。
私と同じくらいコタロにもお礼が言いたいらしい、二人揃って言いたいらしい。
「今日は休み?」
「はい、そうです。」
「週末仕事は大変ね。柴田君と休みが合わないんじゃないの?」
「いえ、毎週どちらかは休みです。連休じゃないのは悲しいですが、だから大丈夫です。」
「そう、良かった。貴重な週末の休みを邪魔してると思うと心苦しい。」
一応気を遣って言ってみた。
「何でですか、誘ったのは私ですよ。」
「そうだよね~。」
真麻ちゃんと話をしていたら、柴田君のつぶやくのが聞こえた。
「あ、来た。」
三人でその方向を見る。
コタロが驚いてる。知らなかったのだろうか?
少しゆっくりになった歩き。
「ごめん、お待たせしました。電車がトラブって遅れたんだ。」
「大丈夫だよ、待ったのはちょっとだけだったし。」
「行きましょう。」
真麻ちゃんの声掛けで二人が先に歩く。
コタロと横並びでついて行く。
「コタロ、久しぶり。」
「・・・・そう?」
「・・・ああ、そうでもないか。」
成美ちゃんのことははっきりとは聞けないけど、どうなった?
やっぱりダメだった?
今週もゴロゴロダラダラだったの?
口に出来ないまま、黙って歩く。
「父さんが母さんを褒めてたよ。マシロから髪用の化粧品をもらったからって教えたんだ。」
「そう?おじさん気がついた?」
「多分、香りには気がつく。それでチラリとさりげなく褒めてた。あんまりそんな事もないから、想像してたより喜んでた。」
「よかった。うれしい。コタロのところには同じような商品ないの?」
「シャンプーとかはあるけど、そっちはないと思うよ。プレゼントしようと思ったことがないから買ったことがないんだ。」
「そうなの?じゃあ、今度お土産に持って行く。家の母親も気に入ってるし。」
「ありがとう。」
「コタロは週末出かけてることが多い?」
「ほとんど家にいるよ。」
「じゃあ、前もって連絡するかも。暇だったらご飯食べようよ。」
「いいよ。奢るよ。」
「やったね。じゃあ遠慮なく。」
「だって近所でいいんでしょう?ファミレスくらいじゃない。」
「いいよ。別に高いものを奢られようとは思ってないよ。」
「そう。じゃあ、たくさん食べていいよ。」
「優しいね、コタロ。」
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あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
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秘書課に異動してきた相沢結衣は、
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最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
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そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
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同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
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「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
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仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
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