毒を孕んだ身代わりオメガ〜復讐の代償は皇帝の寵愛だった〜

ひなた翠

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第五章:毒を喰らわば、愛の深淵まで

愛執の刻印

 しばらくの静寂の後、ヴァレンがふと口を開いた。

「——で?」
 その声は不意に質を変え、低く地を這うような響きを帯びた。

「詳しく聞かせてもらおうか?」
 リアンの背筋が、僅かに強張った。

「牢にいたモルセルと、お前が何をしたか」

 ヴァレンの声には、これまで聞いたことのない種類の、抑制された嫉妬が昏く滲んでいた。

 次の瞬間、リアンの身体はヴァレンの大きな手によって寝台に押し倒されていた。逞しい身体がリアンの上に跨り、逃げ場を塞ぐ。至近距離から見下ろす琥珀色の瞳が、獲物を射抜くような鋭さを秘めていた。

「陛下……」
 リアンの声が、僅かに震えた。

 ヴァレンの大きな手が、リアンの寝衣の襟元をゆっくりと割った。鎖骨の上、そして白皙の首筋——そこに残る、宰相が刻みつけた忌まわしい赤い痕が、午後の光の下に晒される。ヴァレンは、その痕を一つずつなぞるように、冷徹な眼差しで確かめていった。

 不意にヴァレンの指が、その痕の一つを強く圧した。

「痛っ……」
 リアンの口から、思わず小さな悲鳴が漏れた。

「ここにある痕は、俺がつけたものじゃない」
 ヴァレンの声が、さらに低く落ちた。

「その理由を、聞きたい」
「それは……」

 リアンの声が、消え入りそうに細くなる。

「リアンは、『俺だけ』だと、誓ったはずだ」

 そこには、嫉妬と、そして隠しきれない傷が滲んでいた。

「俺以外の痕が、お前の身体にあるのは、おかしいだろう」
 リアンは、たまらず目を伏せた。

 すべてを、告げなければならない。そう覚悟を決め、リアンは震える唇を開いた。

「兄様にしたことを、聞き出したくて……香に、媚薬と睡眠効果のあるものを、混ぜて使いました」

 リアンは、できる限り淡々と、事実だけを語り続けた。

「口移しで、毒入りのワインを飲ませて、意識が朦朧としている彼に、少しだけ……身体を許しました。でも、最後まではしてません。睡眠作用で寝たのを確認してから、牢を出ました」

「ほう……」
 ヴァレンの声が、不気味なほど穏やかになった。

「睡眠効果のある香を使うのは、よしとしよう。だが、なぜそこに、媚薬効果のあるものが必要だったんだ?」
「そういう……気分にならせて、ほしいなら、ちゃんと話して、と言うためです」

「するつもりだったと?」
「いいえ」

 リアンは、首を強く振った。

「話を引き延ばしながら、彼が眠りに落ちるのを待つつもりでした」
「どこまで、許したんだ?」

 ヴァレンの声が、深く、深く沈んだ。

「キスだけ、です」
 リアンは、消え入りそうな声で答えた。

「確認する」

 ヴァレンが、低く宣告した。
 リアンの身体に、嫌な予感が走る。

「あの夜着を、着てこい」
 その声には、有無を言わせない皇帝としての命令が宿っていた。

「陛下……それは」
「朝、約束しただろう。今夜、また着てほしいと。すぐに着れるように、そこに仕舞ってある」

 ヴァレンが、低く笑った。その笑みには、冷酷な嗜虐心が混じっている。

「俺の前で着替えろ」
 リアンは、震える指で寝衣を脱いだ。

 ヴァレンが寝台の脇の引き出しから取り出したのは、藤色のローブと薄絹の夜着だった。昨夜、宰相の前で身につけた、淫らな装い——ヴァレンは、朝の約束を、本気で果たすつもりでいたのだ。

 リアンは、震える指を操り、薄絹の夜着に袖を通した。

 胸元が深く抉れ、身体の輪郭を惜しげもなく透かす生地。あの夜と同じ姿が、午後の光の下に再現される。リアンの頬は、火に焼かれるように熱を帯びた。

 ヴァレンが、その姿を満足げに見下ろした。
 琥珀色の瞳が、薄絹を纏ったリアンの身体を、上から下までゆっくりと舐めるように見つめる。

「随分と、淫らだな」
 ヴァレンの声に、抑制された嫉妬と、隠し切れない情欲が混じり合う。

「これを着て、あいつの前に立ったのか」
「……はい」
「それから?」

 ヴァレンが、寝台の縁に腰掛けた。

 リアンは寝台の上で、震えながら立っていた。ヴァレンは傍らからガラスの瓶を取り上げる。深紅の葡萄酒が、午後の光を受けて艶やかに煌めいた。皇帝の蔵から持ち出された、最上の葡萄酒だ。

「酒を、口移しで、飲ませたんだろう?」
 ヴァレンが、淡々と告げた。

「あいつが、何度も強請ったとか」
 その声に不意に、子供のような不機嫌が混じった。

「俺は……一度も、リアンにしてもらったことがないぞ」
 ヴァレンが、微かに口を尖らせた。

 リアンは、思わず目を見開いた。

 あの威圧的な皇帝が、嫉妬に駆られ、口を尖らせている。その剥き出しの執着に、リアンの胸の奥が、切ないほどに温かくなった。

「陛下……」
「やってみろ」

 ヴァレンが、リアンに瓶を差し出した。

「あいつにしたのと、同じことを。俺に」
 リアンは震える指で瓶を受け取った。

 ヴァレンの隣に膝をつき、葡萄酒を口に含む。冷たく、芳醇な液体が舌の上で広がる。リアンは、ヴァレンの頬に手を添え、唇を重ねた。

 葡萄酒が、ヴァレンの口へと静かに注ぎ込まれていく。

 ヴァレンの大きな手が、リアンの腰を掴んだ。次の瞬間、リアンの身体はヴァレンの膝の上へと引き上げられていた。逞しい腿の上に跨る格好で、リアンはヴァレンの首に腕を絡めた。

 葡萄酒をすべて注ぎ終わっても、ヴァレンは唇を離してはくれなかった。

 舌が、深く絡み合う。あの夜、宰相に向けて演じた淫らな演技よりも、ずっと熱く、激しく、魂を削り取るような口づけ。リアンの理性が、徐々に溶けていく。

「……っ、ふ」
 リアンの喉から、堪えきれない甘い吐息が漏れた。

 ようやく唇が離れた時、二人の間には、銀色の糸が細く伸びていた。ヴァレンの琥珀色の瞳が、欲情と嫉妬で濁り、揺らいでいる。

「いやらしい寝着で、淫らなキスをして、こんな風にあいつに迫ったのか」
 ヴァレンが、低く尋ねた。

「今みたいに、膝の上に乗っていません……ああっん」
 ヴァレンが、足を僅かに動かした。

 その動きで、ヴァレンの腿が、薄絹越しのリアンの下腹部を強く刺激した。リアンの口から、抑えきれない甘い声が漏れる。

「じゃあ、どんな風に?」
 ヴァレンが、意地悪く笑った。

「同じようにしてみろ」
「陛下……」
「やれ」

 リアンは震える指で、ヴァレンの隣に座った。

 寝台の縁に、二人並んで腰掛ける形。これが、あの夜、宰相と並んだ姿勢だった。リアンは、もう一度葡萄酒を口に含み、ヴァレンの唇に注ぐ。

 ヴァレンが、深くそれを飲み下した。

「あいつは、これを、何度も強請ったのか」
「……はい」

 リアンは、たまらず目を伏せた。

「で? 次は、何をした?」
 ヴァレンの声が、低く響いた。

「上着の襟元を、指で……なぞりました」
 リアンは、震える声で告白した。

「そして……?」
「肩紐を、ずらされて……」

 リアンは、消え入りそうな声で答えた。

「実際にやれ」
 ヴァレンが、命じた。

 リアンは震える指で、ヴァレンの上着の襟元をなぞった。次に、自分の薄絹の夜着の肩紐を、ゆっくりと引き下ろす。白い肩が、午後の光に無防備に晒された。

「それから?」
「腰を、掴まれて……」
「こうか?」

 ヴァレンが、リアンの細い腰を強く掴んだ。

「はい……」
「次は?」
「首筋に、唇を……」

 ヴァレンが、リアンの首筋に唇を押し当てた。けれども、それは宰相のような汚らわしい接触ではなく、慈しむような熱い口づけだった。リアンの肌に、ヴァレンの愛の痕が、宰相の汚辱の痕の上に、上書きされていく。

「次は?」
「太腿を、撫でられて……」

 ヴァレンの大きな手が、リアンの薄絹の裾から滑り込み、剥き出しの太腿を、ゆっくりと撫で上げた。

「ああ……っ」
 リアンの喉から、甘い声が零れた。

「次は?」
「足を、開かれて……」

 ヴァレンが、リアンの華奢な身体を寝台に押し倒した。

 逞しい身体がリアンの上に跨る。ヴァレンが、リアンの両足をゆっくりと開かせた。薄絹の裾が大きくめくれ、白い肌が午後の光の下に晒される。あの夜、宰相が侵入しようとした、まさにその姿勢——けれども今、その上にいるのは、ヴァレンだ。

「それから?」

 ヴァレンが、リアンを見下ろしながら問うた。
 リアンは頬を真っ赤に染めた。震える唇を、ようやく開く。

「——これで、終わりです」
「は?」

 ヴァレンが、不機嫌そうに眉を顰めた。

「そんなわけ、ないだろう」
 ヴァレンが、再び口を尖らせた。

「ここまでしておいて、終わるわけがない」
「本当に、ここで終わりなんです。このまま、彼は寝たので」
「はあ?」

 ヴァレンの声に、信じられないという響きが混じった。

「こんな、いやらしい格好をした魅力的なリアンが、足を開いているんだぞ?」
 ヴァレンが、リアンの太腿を、すーっと撫で上げた。

「んっ、やぁ……」
 リアンの口から、堪えきれない甘い声が漏れた。

「いい眺めだな」
 ヴァレンが、低く呟いた。

「絶対、この状態で寝られるわけがないだろう」

「……部屋に入った際に、強い催眠効果のある香を、焚いていたので。ここで眠気には勝てなくなったと思います」

 リアンは、消え入りそうな声で告げた。

「ふぅん」
 ヴァレンの声に、僅かな安堵が混じった。

「これ以上は、してないんだな?」

「——はい。もう、聞きたいことは、全て聞き出せていたので。寝てしまった彼を、寝台の上から突き落として、帰りました」

 ヴァレンの瞳に、奇妙な笑みが浮かんだ。

 リアンは、ようやく解放されると思って身体を起こそうとした。けれども、ヴァレンの手がリアンの足首を強く掴んで、再び寝台へと引き戻した。

「じゃあ、この先は、俺としか経験してないんだな?」
 ヴァレンが、嬉しそうに微笑んだ。

 リアンが何かを答えようとした、その瞬間だった。
 ヴァレンの太く硬い熱が、濡れそぼったリアンの中へと、奥まで一気に挿入された。

「ああっ——!」
 リアンの口から、甘い悲鳴が上がった。

 華奢な身体が寝台の上で大きく跳ね、腰が浮く。ヴァレンの逞しい腰が、リアンの最奥を容赦なく貫いている。

「ここは、俺だけのリアンなんだな」
 ヴァレンが、低く呟いた。

 リアンの内壁が、ヴァレンの言葉を喜ぶように強く締めつけた。

「これから、お仕置きだ」
 ヴァレンが、低く告げた。

「死のうとしたこと。俺に黙っていたこと。別の男に、身体を触れさせたこと——お前の身体に、二度と忘れられぬほど、俺を刻み込んでやる」

 ヴァレンの腰が、ゆっくりと動き始めた。

 深く、深く、リアンの最奥を穿つ。逞しい腰の動きに合わせて、リアンの華奢な身体が寝台の上で揺さぶられる。

「あ、あっ……陛下、っ」

 リアンの口から、断続的な甘い声が漏れ続けた。

 ヴァレンの一突きごとに、身体の奥から、堪えきれない快感がせり上がってくる。お仕置きの罰として、リアンの身体を限界まで追い詰めていくつもりなのだ。下腹部の奥に、解放されていない熱が、徐々に蓄積されていった。

 やがて、その熱が限界に近づき始めた。

 リアンの内壁がヴァレンを強く締めつける。下腹部が震えながら、絶頂への坂を駆け上がっていく。リアンの瞳が、潤んだままヴァレンを見上げた。

「陛下、っ、もう……」
 リアンが、震える声で告げた。

 次の瞬間、ヴァレンの大きな手が、リアンの前の熱をしっかりと根元から握り込んだ。

「あっ……!」
 リアンの口から、絶望に近い悲鳴が漏れた。

 達する寸前で、すべての快楽が強引に堰き止められた。指先まで広がりかけていた絶頂の波が、解放されないまま、身体の中で行き場を失って暴れている。リアンは寝台の上で身体を仰け反らせ、必死に息を整えようとした。

「まだだ、リアン」
 ヴァレンが、低く笑った。

「お仕置きだと言っただろう」
「陛下、お願い、ですから……」

 リアンが、震える声で懇願した。

 けれども、ヴァレンの腰は止まらなかった。リアンの最奥を、再び深く貫き始める。今度はもっと激しく、もっと深く、リアンの感じる場所を執拗に刺激していく。

 リアンの身体が、再び絶頂への坂を駆け上がる。

「あ、あ、また、来ちゃう……っ」
 リアンが、震えながら告げた。

 その瞬間、ヴァレンが再び、リアンの前の熱を強く握り込んだ。寸前で、絶頂の波がまた堰き止められる。リアンの目尻から、堪えきれない涙が一筋、頬を伝って落ちた。

「ひっ……、お願い、いかせて、ください……」
 リアンの声が、嗚咽混じりに震えた。

「駄目だ」
 ヴァレンの声には、一切の容赦が感じられなかった。

「死のうとした罰だ。簡単には、許さない」
「陛下、もう、おかしく、なっちゃう……っ」

 リアンが、うわ言のように繰り返した。

 全身が、燃えるように熱かった。下腹部の奥に、解放されない熱が幾重にも層を成して蓄積し、内側から肌を焼いている。指先がシーツを強く握りしめる。汗が額から首筋へと幾筋も伝い落ちた。

 ヴァレンの腰の動きは、容赦がない。

 深く、浅く、緩やかに、激しく——リズムを変えながら、リアンの最奥を穿ち続ける。リアンの感じる場所を、ヴァレンは完璧に把握していた。少しでも触れればリアンが達してしまう、その一点を、ヴァレンは何度も狙いすまして突いてきた。

 リアンの身体が、何度目かわからない絶頂への坂を駆け上がる。

「あっ、ああっ、陛下、もう、許して……っ」
 リアンが、必死で訴えた。

 また、ヴァレンの大きな手が、リアンの前を強く握る。寸前で、絶頂が堰き止められる。三度目の絶望が、リアンの全身を貫いた。

「リ、アン……」
 ヴァレンが、不意に低く呟いた。

 その声に、リアンは霞む視界の中で、ヴァレンの顔を見上げた。琥珀色の瞳の奥に、お仕置きの冷たさだけではない、別の何かが揺れているのが見えた。

「ごめんなさい……陛下、ごめんなさい……」
 リアンの瞳から、涙が溢れた。

(僕が陛下を苦しめてしまったから――)

 ヴァレンにこれほどの傷を与えていたのだと、今、ようやく身体で理解した気がした。

 ヴァレンの腰の動きが、一段と激しさを増した。リアンの身体が、何度も寝台の上で跳ねる。汗と涙が、シーツに散らばっていく。

「駄目だ、まだ、許さない」
 ヴァレンが、低く呻いた。

「お前は、俺を、置いて死のうとした……っ」
 ヴァレンの声が、震えていた。

 リアンの胸の奥が、その声に深く突き刺された。

 どれほどの時間、焦らされ続けたのか、リアンには分からなかった。

 全身が、汗と涙でぐっしょりと濡れていた。下腹部の奥には、もはや解放できないまま積み重なった快楽が、暴力的なまでに膨れ上がっている。意識が、徐々に朦朧とし始めていた。

「陛下、もう、本当に……」

 リアンが、消え入りそうな声で訴えた。

 その時、ヴァレンが繋がったまま、リアンの背中に逞しい腕を回した。

 次の瞬間、リアンの華奢な身体は、軽々と引き起こされていた。覆い被さっていたヴァレンが寝台の上に座り直し、その逞しい腿の上にリアンを乗せ直す。対面座位の体勢になり、リアンの両足が、ヴァレンの腰を跨ぐ形で、深く繋がりが保たれた。

「あ……っ」

 体勢が変わった衝撃で、ヴァレンの熱がさらに深く、リアンの最奥へと食い込んだ。

 リアンの華奢な腕が、本能的にヴァレンの首にしがみついた。逞しい胸板に、汗で湿った胸が密着する。至近距離で、琥珀色の瞳がリアンの顔を真っ直ぐに見上げていた。

「リアン」
 ヴァレンが、低く名を呼んだ。

 その声には、これまでのお仕置きの冷たさは、もう消えていた。代わりに、愛する者を取り戻した男の、剥き出しの愛情だけが宿っていた。ヴァレンの大きな手が、リアンの白金の髪を耳にかけ、頬を慈しむように撫でた。

 ヴァレンの逞しい腰が、下から深く突き上げ始めた。

 対面で座った体勢では、重力でリアンの身体が深く沈み込み、ヴァレンの熱が最奥よりさらに奥へと届く。リアンの口から、堪えきれない甘い声が連続して漏れた。

「あ、ああっ、陛下、もう……」
 リアンが、震える声で訴えた。

「一緒にだ、リアン」
 ヴァレンが、低く呻いた。

 ヴァレンの片手が、リアンの白金の髪を掴み、もう片手が、リアンの前の熱をしっかりと握り込んだ。
 大きな手のひらが、ゆっくりと上下に動き始める。

 長時間焦らされ続け、限界まで張り詰めたリアンの前の熱を、ヴァレンの指が優しく扱き上げていく。親指が、敏感な先端をくるくると撫で、滲み出ていた雫を、慈しむように塗り広げた。リアンの腰が、堪えきれずヴァレンの手の中で跳ねる。

「ひっ、あ、っ、陛下……っ」
 リアンの喉から、これまで以上に高く、震える声が漏れた。

 ヴァレンの手の動きは、これまでの容赦のない焦らしとは正反対の、慈しむような愛撫だった。けれども、長く堰き止められていた快楽が、その優しい動きにすら過剰に反応する。リアンの全身が、燃えるように熱を持った。

 ヴァレンが、リアンの唇に深い口づけを落とした。

 舌が、深く、深く絡み合う。これまで宰相に向けて演じた口づけのどれよりも、これまで二人で交わした口づけのどれよりも、もっと深く、もっと濃厚な口づけ。汗と涙と唾液が、二人の間で混じり合っていく。リアンの意識が、その口づけの深さに、急速に溶けていった。

 ヴァレンの腰の動きが、最後の激しさを帯びた。

 深く、深く、リアンの最奥を続けざまに突き上げる。リアンの華奢な身体が、ヴァレンの腿の上で激しく揺さぶられた。互いの汗ばんだ肌が密着し、二つの鼓動が、一つに溶けていく。

「ん、っ、ふ、ぅ……っ」

 唇を塞がれたまま、リアンの喉から、堪えきれない嬌声が漏れた。

 ヴァレンの大きな手が、握り込んでいたリアンの前の熱を、ようやく解放するように撫で上げた。同時に、最奥への一突きが、深く、激しく、リアンを貫いた。

 次の瞬間、ヴァレンの熱が、リアンの最奥に勢いよく注ぎ込まれた。

 その瞬間、リアンの身体の奥で、限界まで溜め込まれていた快楽が、爆発するように解き放たれた。身体の最も奥の、これまで触れたことのない場所からの絶頂が、リアンの全身を一気に支配した。

 リアンは、声にならない悲鳴を、ヴァレンの口づけの中に落とした。

 ヴァレンの舌が、リアンの口内を慈しむように撫で続け、絶頂の余韻を分け合っていく。リアンの内壁が、何度も脈動しながら、ヴァレンの熱を最後の一滴まで搾り取った。前から達することの何倍もの強さで、深く、長く、絶頂が続いていく。

 視界が、白く飛んだ。意識の輪郭が、急速に溶けていく。それでも、ヴァレンの唇だけは、リアンの唇に深く重ねられたままだった。互いの吐息を分け合いながら、リアンの意識は、夢の中へと静かに沈み込んでいった。


     ◇◇◇


 どれほど眠っていたのか。

 ゆっくりと意識が浮上してくる。隣で、ヴァレンが規則正しい寝息を立てているのが聞こえた。逞しい腕が、リアンの華奢な身体をしっかりと抱き込んでいる。

 窓の外では、すでに夜の帳が下り始めていた。
 リアンは、ヴァレンの腕から、そっと抜け出そうとした。

(兄様の願いは、果たした。陛下の安全も、確保された。あとは、僕が静かに消えるだけ)

 汚れた身体で、これ以上ヴァレンの隣に立つ資格は、自分にはない。

 リアンが、寝台の縁に足を下ろそうとした、その瞬間だった。
 ヴァレンの大きな手が、リアンの腰を強引に引き戻した。

「お前はどうして、いつも寝ている間にどこかに行こうとするんだ!」
 ヴァレンの声が、低く、静かに響いた。

 眠っていたはずの男の声には、明確な覚醒が宿っていた。リアンの背筋が、瞬時に強張った。

「どこに、行こうとした?」
「陛下……」

「答えろ」
「僕は、もう、陛下のおそばには、いられないから……」

 リアンが、震える声で告げた。

「は?」
 ヴァレンが、リアンの身体を強引に向き直させた。

 琥珀色の瞳が、至近距離からリアンを見下ろしていた。

「何を言っている? リアンは、俺の妻になるんだろう?」
 ヴァレンの声には、有無を言わせぬ強さが宿っていた。

「そう、誓ったはずだ」
「僕は、罪を犯しました」

 リアンは、目を伏せた。

「ああ、不貞行為をな」
 ヴァレンが、低く笑った。

「宰相に、キスをされるなど、気分が悪い」
「だから——」
「その償いは、一生をかけて、俺を愛することだ」

 ヴァレンの声が、リアンの言葉を遮った。

 リアンは、目を見開いた。

「ずっと、俺の隣にいる。それが、お前の罪の、償い方だ」
「そんな、わけには……」

 リアンが、力なく抗おうとした。

「皇帝の命に、背くと?」
「——いえ」

 リアンは、震える声で答えた。

「さっそくだ」
 ヴァレンが、リアンの身体を再び寝台の上に押し倒した。

「リアン、罪を償ってもらおうか」

 ヴァレンの腰が、再びリアンの中へと深く沈み込んだ。

「お前が気絶したから、俺はまだ、すっきりしてないんだ」

 リアンの口から、甘い悲鳴が漏れた。ヴァレンの逞しい身体が、リアンの上で動き始める。今度は、お仕置きではない、ただの愛の交歓——リアンは、その熱を、これまでとは違う気持ちで受け止めた。

 窓の外の夜空に、星が瞬き始めていた。

 リアンは、もう泣かなかった。代わりに、ヴァレンの逞しい肩に腕を絡め、深く抱きついた。これから先の人生を、この男の隣で、罪の償いとして生きていく——その覚悟を、新しく胸に刻みながら。

 寝室には、規則正しい鼓動と、二人の吐息だけが、いつまでも響き続けていた。
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2023.9.19~完結一日目までBL1位、全ジャンル内でも20位以内継続。 2025.4.28にも1位に返り咲きました。 ありがとうございます! 美形アルファと平凡オメガのすれ違い結婚生活 (登場人物) 高梨天音:オメガ性の20歳。15歳の時、電車内で初めてのヒートを起こした。  高梨理人:アルファ性の20歳。天音の憧れの同級生だったが、天音のヒートに抗えずに番となってしまい、罪悪感と責任感から結婚を申し出た。 (あらすじ)*自己設定ありオメガバース 「事故番を対象とした番解消の投与薬がいよいよ完成しました」 ある朝流れたニュースに、オメガの天音の番で、夫でもあるアルファの理人は釘付けになった。 天音は理人が薬を欲しいのではと不安になる。二人は五年前、天音の突発的なヒートにより番となった事故番だからだ。 理人は夫として誠実で優しいが、番になってからの五年間、一度も愛を囁いてくれたこともなければ、発情期以外の性交は無く寝室も別。さらにはキスも、顔を見ながらの性交もしてくれたことがない。 天音は理人が罪悪感だけで結婚してくれたと思っており、嫌われたくないと苦手な家事も頑張ってきた。どうか理人が薬のことを考えないでいてくれるようにと願う。最近は理人の帰りが遅く、ますます距離ができているからなおさらだった。 しかしその夜、別のオメガの匂いを纏わりつけて帰宅した理人に乱暴に抱かれ、翌日には理人が他のオメガと抱き合ってキスする場面を見てしまう。天音ははっきりと感じた、彼は理人の「運命の番」だと。 ショックを受けた天音だが、理人の為には別れるしかないと考え、番解消薬について調べることにするが……。 表紙は天宮叶さん@amamiyakyo0217

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。