それでもそばにいたい

ひなた翠

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第四話

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唯SIDE

三か月前。


『桜坂唯様』
――マッチング成立のお知らせ。


 仰々しい封筒が届いた。中身を数行ほど読んでから僕はすぐにゴミ箱に捨てる。
 いらない。僕は一人で生きていくと決めた。
 誰にも頼らない。甘えない。パートナーを作らない。
 僕のような淫乱な身体はもう……滅ぶべきだ。こんな身体、いらない。


「桜坂唯様ですね。以前より何度かご連絡を申し上げている弁護士の……」
 ぼろアパートの前に止まっていた一台の高級車を見てから、嫌な予感はしていた。

 僕の部屋の前で、いかにもブランド物だと言わんばかりの高級スーツに身を包んだ眼鏡の男が一枚の名刺を差し出しながら自己紹介を始める。

「お断りしますと何度も言っています。迷惑です」
「ですが……病院の検査結果で桜坂様が最も良い相手だと出ております」

「あなたの依頼人の目的はよりよい遺伝子を次の世代に残したい。それだけで選んだのでしょう? なら僕は不適合。ただ遺伝子の配列が合致しただけ。僕以外に第二、第三の候補がいるはず。そっちを選んでほしいとお返事しました」

 僕は弁護士を押しのけて玄関の鍵を開けると、睨みつけてから家の中に入った。

 何度来ても、僕の答えは同じ。

 勝手に病院のデータを使い、マッチングソフトにかけて調べて、一致したから番になれ……と命令してくる。
 アルファ様のやることは、昔も今も変わっていない。支配する側は、される側の気持ちも過去も全て無視する。

「もう……やめてほしい」
 僕のお腹にある四年前の古傷が、しくしくと痛みを訴えた。


   ※※※


「僕、異動……ですか?」

「会社が買収されて、経営者が代わったの。経営方針もすっかり変わって、桜坂さんは家事代行の仕事になったわ」

「ちょっと、個人宅は……困ります。僕はオメガだから代えのきく企業の清掃員がいいって入社前の面接で希望を伝えたのに」

 個人宅は嫌だ。発情期の際の休暇が取りづらくなる。

「上には掛け合ってみるから、今日はとりあえずここに行ってくれる?」

 一枚のメモ紙を上司から手渡される。

 最悪だ。個人宅での仕事を絶対に無いと思っていたのに。

――相手がアルファだったら?

 仕事がやりづらくなる。

「今日だけ……ですから」
 半ば諦めて、僕はメモ紙に書かれている住所を見つめた。

 きっと掛け合ってもこの異動は取り消してもらえない気がする。悪い勘は当たる率が高いんだ。

 嫌になるくらい。

 僕は小さいため息を会社に残して、メモ紙に書かれてある住所に向かった。
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