キミの足が魅惑的だから

ひなた翠

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第三章 似た者同士

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「なんでまた私がっ!」

 ガンっと勢いよく保管庫のドアをあけると、暗い室内の電気を付けた。目の端に黒い影がうつり、視線を動かせば床に座り、壁に寄りかかって寝ている翔太がいた。

「え? あ……ごめっ」
 私は慌てて電気を消した。

「……んあ? ああ、いいよ。別に。電気つけて」
「寝てたんじゃ……」

「午後に向けて仮眠とってただけ。佐久間のせいで徹夜だったから」
「さ……くま……って係長の?」

 声が上ずってしまった。久しぶりに聞く元カレの名前だったから。そうだった。同じ営業課の人間だ。

「そう。発注ミスとかあり得ねえ……数の単位が違うから。損失のでかさがヤバい」
 はあ、とため息を零す彼の姿は昨日の夜とは全然違った。頭を抱えて、険しい顔をしていた。

「発注掛ける前に一度、俺に見せろって言ってあったのに。無視しして発注かけやがって。俺を陰で悪く言うのは構わねえけど、仕事はしっかりやってもらいてえんだよ」

 襟足をガシガシと掻いて、眠そうな目で顔をあげると悲しい笑顔を見せていた。

「で? さくらは何か資料でも探すの?」
「ううん。昨日戻した箱の中にしまい忘れてた書類があったって言われて」

「課長自ら、戻しに?」
「課長がどこにしまったのかわからないので、ってさ。朝比奈課長じゃないけど……陰でどんだけ私を馬鹿にしてもいいけど、仕事はきちんとやってもらいたい。とくに男性社員ね。女で秘書課の課長になれたのは朝比奈専務のおかげ、オンナを使って引き上げてもらっただけ。そう言われてるから。有名大学を卒業しているわけでもない。どっかの令嬢ってわけでもない女が上にいくって……男にはムカつくみたいね。私にはただ……仕事しか残ってないから……がむしゃらに生きてきただけなのに」

 氷の女なんて、一時期言われていたときもあったのを思い出して噴き出した。結婚するものだと思っていた男に二股かけられて、仕事しか残らなかった私には、感情を押し殺して仕事をしていくしかなかったから。
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