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第二章:大学生活・婚約と妊娠
出産と手術
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予定日の一ヶ月前に、定期検診で異常が見つかったと連絡があり、僕たちは病院を訪ねた。医師が超音波検査をしながら、真剣な表情で画面を見つめていた。
「少し気になる所見があります。子宮に腫瘍のようなものが見えますね。前回の検診のデータでは、気になる影はあったものの、それほど大きくなかったのですが――」
医師の言葉に、心臓が止まりそうになった。隣に座る拓海が、僕の手を強く握りしめた。
「詳しく検査が必要ですが、出産は帝王切開にして、同時に腫瘍を摘出することになると思います」
頭が真っ白になり、医師の説明が耳に入ってこなかった。
診察室を出て、病院の待合室の椅子に座り込んだ。拓海が隣に座り、僕の肩を抱いてくれたが、身体が震えて止まらなかった。
「先生、それはどのような手術になるんですか?」
「子宮を摘出する手術になります」
(子宮ごと――?)
僕は頭が真っ白になった。
後日、僕は精密検査を受けた。妊娠中もあり、いくつか受けられない検査もあったが、今できる範囲で調べた結果、医師からは子宮の全摘をすすめられた。
「先生、子宮を残す方法はないんですか」
「腫瘍の位置と大きさを考えると、部分的な摘出では再発のリスクが高いです。お母さんの身体のことを考えると、全摘出をお勧めします」
医師の言葉が、胸に突き刺さった。
「でも……子宮を取ったら、もう子供が産めなくなるんですよね。それなら――」
声が震えて、涙が溢れそうになった。
「お気持ちはわかります。ただ、今は目の前の出産を無事に終えることが最優先です。腫瘍が悪性だった場合のリスクも考慮しなければなりません」
医師の言葉に、僕は現実を受け止めきれなかった。
(今、お腹にいる子だけ――。僕はもう妊娠できない?)
でも腫瘍だけを取る手術をしてもらえば、また妊娠できるかもしれない。
僕は拓海に支えられながら、引っ越したばかりの新居に帰った。
家に帰り、リビングで二人で向かい合って座る。重苦しい沈黙が続き、時計の音だけが部屋に響いていた。
「悠斗、俺は先生の言う通りにした方がいいと思う」
拓海が口を開き、僕は拓海を見つめた。
「悠斗の健康が一番大事だから。たとえ子宮を取ることになっても――」
拓海の言葉に、胸が締め付けられた。
「簡単に言わないで」
声が震えて、涙が溢れた。
「子宮がないってことは子どもが産めない。もう二度と、拓海の赤ちゃんを産めなくなるんだよ」
拓海が僕の手を取ろうとしたが、僕は手を振り払った。
「この子に兄弟を作ってあげられなくなる。僕は拓海の子どもを、もっと産みたい……」
涙が止まらなくて、声が詰まった。
「悠斗……」
「子宮を取ったら、僕は拓海のオメガとして相応しくなくなる――」
拓海の表情が険しくなり、立ち上がった。
「何言ってるんだ!」
拓海が初めて大きな声を出し、僕は驚いて黙った。
「二人目よりもまずは悠斗の命だろ! 悠斗が死んだら、俺はどうすればいいんだよ!」
拓海の目から涙が溢れていて、声が震えていた。
「お腹の子だって、母親がいなくなったら悲しむんだぞ。なんで自分の命を軽く見るんだ」
拓海の言葉が、胸に突き刺さった。
「だって……」
「だってじゃない! 俺は悠斗を失いたくない。子供が何人いたって、悠斗がいなきゃ意味がないんだ」
拓海が僕の肩を掴み、強く抱きしめた。
「頼むから、自分の命を大切にしてくれ。たとえ子宮がくても、悠斗は悠斗だ。俺の最愛で、大切な人だ」
拓海の声が震えていて、肩が震えていた。僕も拓海にしがみつき、声を上げて泣いた。
「怖いよ……子宮を取るのが怖い」
「わかってる。怖いよな。でも俺がずっとそばにいるから」
拓海が僕の背中を撫で続けてくれて、少しずつ震えが収まっていった。
「悠斗が無事でいてくれることが、何よりも大事なんだ。わかってくれ」
拓海の言葉に、僕は頷いた。
拓海は僕を失いたくないから、子宮摘出を受け入れようとしている。子供が産めなくなることよりも、僕の命が大切だと言ってくれている。
「ごめん……拓海を困らせて」
「謝らないで。悠斗が不安なのは当たり前だから」
拓海が優しく髪を撫でてくれて、胸が温かくなった。
予定日が近づき、入院の日を迎えた。病室のベッドに横たわりながら、お腹を撫でた。もうすぐ赤ちゃんに会える。拓海が椅子に座り、僕の手を握っていてくれた。
「大丈夫。俺がずっとそばにいるから」
拓海の優しい声が、不安を和らげてくれた。
僕は陣痛を味わうことなく、計画的に帝王切開でお腹の子を産むことになった。精密検査で腫瘍があることはわかっていても、開いてみないと実際の大きさや形はわからないと医師から説明を受けた。
できるだけ子宮を温存する方向だが、無理な場合は全摘という方向性で決まった。
手術室に運ばれ、麻酔が打たれた。下半身の感覚が徐々になくなっていく。意識ははっきりしていて、お腹を切られているんだろうな……という先生たちの仕草はわかるのに、痛みが全くなかった。
どれくらいの時間が経ったのかわからないが、赤ちゃんの泣き声が聞こえて、僕は嬉しくて涙が溢れた。
(産まれた! 拓海と僕の子が)
「元気な男の子ですよ」
看護師が赤ちゃんを抱いて、僕の顔の近くに見せてくれた。小さくて、赤くて、大きな声で泣いている赤ちゃんを見て、涙が溢れた。
「良かったぁ……」
僕が安堵の声をあげると、麻酔科医の医師が「全身麻酔に切り替えますね」という声を最後に僕の意識が飛んだ。
誰かに強く叩かれ、「わかりますか? 名前を言ってください」という大声で、意識がぼんやりと戻ってくる。
天井のライトがやけに眩しく、喉が焼けるように痛い。次の瞬間、お腹が焼けるような痛みに声にならない悲鳴があがった。
「名前、言えますか?」
再度の問いかけに、僕はガラガラな声で『藤堂悠斗です』とやっと思いで声を出した。
「手術終わりました。もう大丈夫ですよ。よく頑張りましたね。病室に戻りますね」
看護師の声を聞きながら、天井が流れていく様を茫然と見つめる。手術室から、病室へと移動していく。
(――痛い。熱い……)
お腹の傷が、過去にないほどの痛みを訴えている。意識は朦朧としているのに、痛すぎて気を失うこともできない。
入院している個室に戻ってくると、拓海の心配そうな顔が視界に入ってきた。
「た、くっ……ぃ」
喉が痛すぎて声がうまく出せない。
拓海は「手術終わったわよ」と優しい声で言うと、僕の手を握りしめてくれた。
「大丈夫、大丈夫だから」
拓海が涙をぼろぼろと流しなら、僕の手を強く握る。
「赤ちゃん……は?」
「元気だよ。さっき会ってきたけど、ミルクをすごい勢いで飲んでたよ」
全身麻酔の直前に会った我が子の姿を思い出す。小さくて、可愛かった。
しばらくして、医師が病室に来た。
「手術は無事に終わりました。腫瘍が子宮全体に広がっていたため、摘出しました」
医師の言葉が、胸に突き刺さった。
「子宮……ない」
声が震えて、涙が溢れた。
「悠斗、大丈夫だから」
拓海の声が優しくて、余計に涙が止まらなくなった。
「産まれた赤ちゃんと悠斗がいれば十分だよ。もう他に何もいらない」
拓海の言葉が、胸に沁みた。
赤ちゃんが無事に生まれてくれたことが、何よりも大切だ。
(納得して、手術を受けたんだから)
開いて中を見なければ、どういう状況になっているかわからない、と。説明を受けていた。ただ予想よりも悪化してただけのこと――。
それでも、心の奥に暗い影が落ちていくのを感じた。もう二度と、拓海の子供を産むことができない。
僕はもう――拓海の子を産んであげられない。
◇◇◇
出産から三ヶ月が経ち、身体も回復してきた。産まれた赤ちゃんは『海斗』と名付けた。
海斗は順調に育ち、夜泣きも少なくなってきていた。拓海は父親として海斗の世話を献身的に手伝ってくれて、夜中のミルクも交代でやってくれた。
ある夜、海斗を寝かしつけた後、拓海と二人でリビングのソファで座っていた。拓海が僕の手を取り、優しく握りしめた。
「悠斗、そろそろ首の後ろを噛んでもいい?」
拓海の問いかけに、心臓が跳ね上がった。番契約。首筋を噛んで、生涯の伴侶として結ばれる。僕たちはまだ、番同士じゃない。
婚約中に妊娠が判明した僕たちは、慌てて入籍はした。大学を卒業して、結婚してから番同士になろうと話していた僕たちはまだ、妊娠ですっかり番になるチャンスを逃していた。
「番になりたいんだ。悠斗と、ちゃんと」
拓海の真剣な眼差しに、胸が苦しくなった。
「ごめん……まだ無理」
声が震えて、拓海から視線を逸らした。拓海の手が、僕の手から離れた。
「そっか……」
拓海の声が、寂しそうに聞こえた。
(ごめん――まだ心の整理がついてない)
お腹の傷を見るたびに、辛くなる。拓海は変わらず僕を一番に愛してくれる。でも僕はもう――そう考えると、僕は番になるのが怖い。
「無理強いはしないから。悠斗が準備できたら、教えて」
拓海が立ち上がり、寝室へと向かった。一人残されたリビングで、僕は膝を抱えた。
番になれない。
子宮を失った身体で、拓海と番になる資格があるのか。もう子供を産めない僕が、拓海の番でいいのか。
拓海は優しいから、必ず「いい」と言ってくれる。でも本当は、ちゃんと子供を産める相手と番になった方がいいのではないか。
涙が溢れて、止まらなくなった。声を殺して泣きながら、自分の無力さを呪った。
「少し気になる所見があります。子宮に腫瘍のようなものが見えますね。前回の検診のデータでは、気になる影はあったものの、それほど大きくなかったのですが――」
医師の言葉に、心臓が止まりそうになった。隣に座る拓海が、僕の手を強く握りしめた。
「詳しく検査が必要ですが、出産は帝王切開にして、同時に腫瘍を摘出することになると思います」
頭が真っ白になり、医師の説明が耳に入ってこなかった。
診察室を出て、病院の待合室の椅子に座り込んだ。拓海が隣に座り、僕の肩を抱いてくれたが、身体が震えて止まらなかった。
「先生、それはどのような手術になるんですか?」
「子宮を摘出する手術になります」
(子宮ごと――?)
僕は頭が真っ白になった。
後日、僕は精密検査を受けた。妊娠中もあり、いくつか受けられない検査もあったが、今できる範囲で調べた結果、医師からは子宮の全摘をすすめられた。
「先生、子宮を残す方法はないんですか」
「腫瘍の位置と大きさを考えると、部分的な摘出では再発のリスクが高いです。お母さんの身体のことを考えると、全摘出をお勧めします」
医師の言葉が、胸に突き刺さった。
「でも……子宮を取ったら、もう子供が産めなくなるんですよね。それなら――」
声が震えて、涙が溢れそうになった。
「お気持ちはわかります。ただ、今は目の前の出産を無事に終えることが最優先です。腫瘍が悪性だった場合のリスクも考慮しなければなりません」
医師の言葉に、僕は現実を受け止めきれなかった。
(今、お腹にいる子だけ――。僕はもう妊娠できない?)
でも腫瘍だけを取る手術をしてもらえば、また妊娠できるかもしれない。
僕は拓海に支えられながら、引っ越したばかりの新居に帰った。
家に帰り、リビングで二人で向かい合って座る。重苦しい沈黙が続き、時計の音だけが部屋に響いていた。
「悠斗、俺は先生の言う通りにした方がいいと思う」
拓海が口を開き、僕は拓海を見つめた。
「悠斗の健康が一番大事だから。たとえ子宮を取ることになっても――」
拓海の言葉に、胸が締め付けられた。
「簡単に言わないで」
声が震えて、涙が溢れた。
「子宮がないってことは子どもが産めない。もう二度と、拓海の赤ちゃんを産めなくなるんだよ」
拓海が僕の手を取ろうとしたが、僕は手を振り払った。
「この子に兄弟を作ってあげられなくなる。僕は拓海の子どもを、もっと産みたい……」
涙が止まらなくて、声が詰まった。
「悠斗……」
「子宮を取ったら、僕は拓海のオメガとして相応しくなくなる――」
拓海の表情が険しくなり、立ち上がった。
「何言ってるんだ!」
拓海が初めて大きな声を出し、僕は驚いて黙った。
「二人目よりもまずは悠斗の命だろ! 悠斗が死んだら、俺はどうすればいいんだよ!」
拓海の目から涙が溢れていて、声が震えていた。
「お腹の子だって、母親がいなくなったら悲しむんだぞ。なんで自分の命を軽く見るんだ」
拓海の言葉が、胸に突き刺さった。
「だって……」
「だってじゃない! 俺は悠斗を失いたくない。子供が何人いたって、悠斗がいなきゃ意味がないんだ」
拓海が僕の肩を掴み、強く抱きしめた。
「頼むから、自分の命を大切にしてくれ。たとえ子宮がくても、悠斗は悠斗だ。俺の最愛で、大切な人だ」
拓海の声が震えていて、肩が震えていた。僕も拓海にしがみつき、声を上げて泣いた。
「怖いよ……子宮を取るのが怖い」
「わかってる。怖いよな。でも俺がずっとそばにいるから」
拓海が僕の背中を撫で続けてくれて、少しずつ震えが収まっていった。
「悠斗が無事でいてくれることが、何よりも大事なんだ。わかってくれ」
拓海の言葉に、僕は頷いた。
拓海は僕を失いたくないから、子宮摘出を受け入れようとしている。子供が産めなくなることよりも、僕の命が大切だと言ってくれている。
「ごめん……拓海を困らせて」
「謝らないで。悠斗が不安なのは当たり前だから」
拓海が優しく髪を撫でてくれて、胸が温かくなった。
予定日が近づき、入院の日を迎えた。病室のベッドに横たわりながら、お腹を撫でた。もうすぐ赤ちゃんに会える。拓海が椅子に座り、僕の手を握っていてくれた。
「大丈夫。俺がずっとそばにいるから」
拓海の優しい声が、不安を和らげてくれた。
僕は陣痛を味わうことなく、計画的に帝王切開でお腹の子を産むことになった。精密検査で腫瘍があることはわかっていても、開いてみないと実際の大きさや形はわからないと医師から説明を受けた。
できるだけ子宮を温存する方向だが、無理な場合は全摘という方向性で決まった。
手術室に運ばれ、麻酔が打たれた。下半身の感覚が徐々になくなっていく。意識ははっきりしていて、お腹を切られているんだろうな……という先生たちの仕草はわかるのに、痛みが全くなかった。
どれくらいの時間が経ったのかわからないが、赤ちゃんの泣き声が聞こえて、僕は嬉しくて涙が溢れた。
(産まれた! 拓海と僕の子が)
「元気な男の子ですよ」
看護師が赤ちゃんを抱いて、僕の顔の近くに見せてくれた。小さくて、赤くて、大きな声で泣いている赤ちゃんを見て、涙が溢れた。
「良かったぁ……」
僕が安堵の声をあげると、麻酔科医の医師が「全身麻酔に切り替えますね」という声を最後に僕の意識が飛んだ。
誰かに強く叩かれ、「わかりますか? 名前を言ってください」という大声で、意識がぼんやりと戻ってくる。
天井のライトがやけに眩しく、喉が焼けるように痛い。次の瞬間、お腹が焼けるような痛みに声にならない悲鳴があがった。
「名前、言えますか?」
再度の問いかけに、僕はガラガラな声で『藤堂悠斗です』とやっと思いで声を出した。
「手術終わりました。もう大丈夫ですよ。よく頑張りましたね。病室に戻りますね」
看護師の声を聞きながら、天井が流れていく様を茫然と見つめる。手術室から、病室へと移動していく。
(――痛い。熱い……)
お腹の傷が、過去にないほどの痛みを訴えている。意識は朦朧としているのに、痛すぎて気を失うこともできない。
入院している個室に戻ってくると、拓海の心配そうな顔が視界に入ってきた。
「た、くっ……ぃ」
喉が痛すぎて声がうまく出せない。
拓海は「手術終わったわよ」と優しい声で言うと、僕の手を握りしめてくれた。
「大丈夫、大丈夫だから」
拓海が涙をぼろぼろと流しなら、僕の手を強く握る。
「赤ちゃん……は?」
「元気だよ。さっき会ってきたけど、ミルクをすごい勢いで飲んでたよ」
全身麻酔の直前に会った我が子の姿を思い出す。小さくて、可愛かった。
しばらくして、医師が病室に来た。
「手術は無事に終わりました。腫瘍が子宮全体に広がっていたため、摘出しました」
医師の言葉が、胸に突き刺さった。
「子宮……ない」
声が震えて、涙が溢れた。
「悠斗、大丈夫だから」
拓海の声が優しくて、余計に涙が止まらなくなった。
「産まれた赤ちゃんと悠斗がいれば十分だよ。もう他に何もいらない」
拓海の言葉が、胸に沁みた。
赤ちゃんが無事に生まれてくれたことが、何よりも大切だ。
(納得して、手術を受けたんだから)
開いて中を見なければ、どういう状況になっているかわからない、と。説明を受けていた。ただ予想よりも悪化してただけのこと――。
それでも、心の奥に暗い影が落ちていくのを感じた。もう二度と、拓海の子供を産むことができない。
僕はもう――拓海の子を産んであげられない。
◇◇◇
出産から三ヶ月が経ち、身体も回復してきた。産まれた赤ちゃんは『海斗』と名付けた。
海斗は順調に育ち、夜泣きも少なくなってきていた。拓海は父親として海斗の世話を献身的に手伝ってくれて、夜中のミルクも交代でやってくれた。
ある夜、海斗を寝かしつけた後、拓海と二人でリビングのソファで座っていた。拓海が僕の手を取り、優しく握りしめた。
「悠斗、そろそろ首の後ろを噛んでもいい?」
拓海の問いかけに、心臓が跳ね上がった。番契約。首筋を噛んで、生涯の伴侶として結ばれる。僕たちはまだ、番同士じゃない。
婚約中に妊娠が判明した僕たちは、慌てて入籍はした。大学を卒業して、結婚してから番同士になろうと話していた僕たちはまだ、妊娠ですっかり番になるチャンスを逃していた。
「番になりたいんだ。悠斗と、ちゃんと」
拓海の真剣な眼差しに、胸が苦しくなった。
「ごめん……まだ無理」
声が震えて、拓海から視線を逸らした。拓海の手が、僕の手から離れた。
「そっか……」
拓海の声が、寂しそうに聞こえた。
(ごめん――まだ心の整理がついてない)
お腹の傷を見るたびに、辛くなる。拓海は変わらず僕を一番に愛してくれる。でも僕はもう――そう考えると、僕は番になるのが怖い。
「無理強いはしないから。悠斗が準備できたら、教えて」
拓海が立ち上がり、寝室へと向かった。一人残されたリビングで、僕は膝を抱えた。
番になれない。
子宮を失った身体で、拓海と番になる資格があるのか。もう子供を産めない僕が、拓海の番でいいのか。
拓海は優しいから、必ず「いい」と言ってくれる。でも本当は、ちゃんと子供を産める相手と番になった方がいいのではないか。
涙が溢れて、止まらなくなった。声を殺して泣きながら、自分の無力さを呪った。
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