5 / 25
第二章:二つの顔、二つの世界
急な呼び出し
夜九時を過ぎた頃、スマホが振動した。画面を見ると、知らない番号からメッセージが届いている。開くと、ホテルの名前と部屋番号、位置情報の地図が表示されていて、その下に短い文章が添えられていた。
『すぐ来い』
鬼頭さんからだとすぐにわかった。リビングで宿題をしている歩を見て、笑顔を作る。
「ごめん、急にバイトが入った」
立ち上がって上着を羽織ると、歩が顔を上げた。
「こんな時間に?」
「うん。すぐ戻るから」
そう声をかけると家を飛び出して行った。
冷たい夜風が頬を撫でて、息が白く染まる。駅に向かって歩きながら、スマホで地図を確認した。
電車に乗って、ホテルのある駅で降りる。駅前には高級ホテルが立ち並んでいて、落ち着いた照明が建物を照らしていた。重厚な石造りの外観に、エレガントな装飾が施されている。大理石の柱が並ぶエントランスは、まるで宮殿のような佇まいで、場違いな居心地の悪さを感じた。
広々としたロビーには、シャンデリアが輝いていて、絨毯を踏む足音すら響かないほど静かだった。フロントの前を通り過ぎて、エレベーターホールに向かう。
部屋番号がある階でエレベーターを降りると、廊下がやけに静かに感じた。携帯の画面に表示されている部屋番号とドアの表示を確認してから、呼び鈴を押した。
しばらく待つと、ドアが内側から開いた。バスローブ姿の鬼頭が立っていた。濡れた髪が額にかかっていて、シャワーを浴びたばかりのようだ。
「遅い」
不機嫌な声で言われて、僕はムッとして唇を噛んだ。
「メッセージを見てすぐに来ました」
「言い訳はいらない。入れ」
中に入ると、甘ったるい香りが鼻を突いた。女性の香水の匂いが部屋に充満している。
(女性がいるのか?)
部屋の奥を見ると、ベッドが乱れていた。シーツがぐちゃぐちゃになっていて、枕が床に落ちている。
明らかにした後だ。
(女性とやった後に僕を呼び出したてこと?)
背後でドアが閉まる音がして、振り返る前に鬼頭さんの手が僕の肩を掴んだ。
「待っ……」
抗議する間もなく、ベッドに押し倒された。うつ伏せに倒されて、腰を掴まれる。ズボンのベルトが外されて、ジッパーが下ろされる音が聞こえた。
「ちょっ……服を……!」
(いきなり?)
慌てて声を上げると、ズボンと下着が一気に膝まで引き下ろされた。上半身は服を着たままで、下半身だけが露わになる。
「鬼頭さん……!」
名前を呼んで抗議しようとすると、背後から鬼頭さんの熱が押し当てられた。
「っ……!」
準備もなく、いきなり挿入されて悲鳴が喉から漏れた。身体が引き裂かれるような痛みが走って、シーツを掴む。鬼頭さんが容赦なく腰を動かして、奥を突いてきた。
「痛い……やめ……」
掠れた声で訴えても、鬼頭さんは止まらない。ただ黙々と腰を打ち付けてきて、僕の身体を貪る。顔がシーツに埋まって、甘ったるい香水の匂いが鼻腔を支配して、気持ち悪くなる。
女の匂いがするシーツに枕の近くに長い髪の毛が落ちているのが見えた。
(絶対、女性を抱いた後だろ)
しかもそれだけでは満足できなかった様子。
「あっ……ああっ……」
声が漏れて、身体が揺さぶられる。腰を掴まれて、さらに深く突かれた。
鬼頭さんの動きが激しくなって、荒い息が背中にかかる。繰り返し突き上げられて、身体が前に押し出されそうになった。シーツを掴む手に力が入って、爪が布地に食い込む。
鬼頭さんの手が僕の手首を掴んで、手のひらを上に向けさせた。
「っ……」
「これは何だ」
低い声で問いかけられて、身体が強張る。鬼頭さんが僕の手のひらを見ていた。二日連続の肉体労働で、手のひらにマメができていた。
「前に抱いたときはこんなのはなかった」
鬼頭さんが指摘して、僕は手を引こうとした。
(よくそんなこと、覚えてるな)
「離して……」
「答えろ。何をした」
「……バイト」
小さく答えると、鬼頭さんが手を離した。僕はすぐに手を握りしめて、マメを隠す。
悪いことをしたわけではないのに、鬼頭さんに見られるとなぜか罪悪感を覚える。
「くっ……」
鬼頭さんが低く呻いて、腰の動きが速くなった。奥を激しく突かれて、僕はまた甘い声が勝手に漏れてしまう。身体の奥が熱くなって、少しずつだが痛みとは違う感覚が混ざり始めた。
やがて鬼頭さんが奥で止まって、熱いものが中に注がれた。鬼頭さんが僕の背中に覆い被さってきて、重さで息が苦しくなった。
荒い息を吐きながら、鬼頭さんがゆっくりと身体を起こした。繋がったまま、僕の身体が起こされる。
「っ……」
体勢が変わって、さらに深く入り込んできた感覚に声が漏れる。鬼頭さんが僕の背中を自分の胸に引き寄せて、首筋に唇を這わせてきた。
「鬼頭、さん……」
名前を呼ぶと、鬼頭さんの手が僕の顎を掴んで顔を横に向けさせた。無理やり唇を奪われて、舌が侵入してくる。ねちっこく濃厚なキスに、息ができなくなった。
鬼頭さんの舌が僕の口内を蹂躙して、唾液が混ざり合う。キスをしながら、鬼頭さんの手が僕の男性器に伸びてきた。
「んっ……!」
僕の熱を握られて、身体が跳ねた。鬼頭さんの大きな手が、上下に動き始める。キスをされながら擦られて、身体の熱が腹の奥へと溜まっていく。
「ああっ……だめ……」
キスが一瞬離れて、声が漏れた。すぐにまた唇を塞がれて、舌が絡みついてくる。鬼頭さんの手が僕のものを執拗に擦り上げて、快感が押し寄せてきた。
繋がったまま、キスをされながら、前を擦られる。身体中の感覚が研ぎ澄まされて、気持ちよさが鋭敏に反応する。
「んんっ……!」
鬼頭さんの手の動きが速くなって、先端を親指で擦られた。電流が走ったような快感に、身体が震える。
「あっ……ああああっ……!」
キスが離れた瞬間、絶頂が訪れた。鬼頭さんの手の中で果てて、白濁した液体が飛び散る。全身が痙攣して、力が抜けた。
鬼頭さんが僕の身体を支えて、ゆっくりと引き抜いた。身体から熱が抜かれると、一気に力が抜けてベッドに崩れ落ちた。
荒い息を吐きながら、シーツに顔を埋めた。女の香水の匂いが強くなって、現実に引き戻される。身体中が痛くて、動けなかった。
鬼頭さんが僕の隣に横になって、天井を見上げている。荒い呼吸が落ち着いていくのが聞こえて、静かな時間が流れた。
僕は身体を起こして、中途半端に下ろされたズボンを引き上げた。足に力が入らなくて、よろめく。連日の肉体労働のバイトで、全身が筋肉痛だ。さらに鬼頭さんに抱かれて足腰がガクガクと震えている。
こんな状態で無事に帰宅できるかわからないが、用事が済んだのなら帰りたい。
ベルトを締めて、上着を拾い上げる。鬼頭さんが僕を見ていて、声をかけてきた。
「帰るのか?」
僕は振り返って、冷たく答えた。
「弟が待ってるので」
鬼頭さんが身体を起こして、ベッドから降りた。白いシャツに袖を通して、ズボンを履いていく。
(何をして……?)
鬼頭さんがネクタイを締め終えると、内ポケットから何かを取り出す。
「これを持っていけ」
差し出されたのは、札束だった。何枚も重ねられた一万円札が、手渡される。
「いらない」
僕は首を横に振って、断った。鬼頭さんの眉間に皺が寄る。
「手にマメができるようなバイトをするな」
低い声で言われて、僕は唇を噛んだ。
「無理。バイトはする。鬼頭さんのお金には頼らない」
きっぱりと答えて、玄関に向かう。立ち上がって一歩踏み出すと、足がふらついた。身体が傾いて、倒れそうになる。
鬼頭さんの腕が僕の身体を支えて、壁に押し付けられた。
「弟のためを思うなら、金を受け取れ。これは借金には加算しない。当面の生活費にはなるだろ」
僕の手を掴んで、無理やり札束を握りしめさせる。温かい手が僕の手を包んで、離してくれなかった。
弟のためと言われたら、断れない。バイトのたびにふらふらになっていては、弟が心配してしまう。もしかしたら父がいなくなったことを知られてしまうかもしれない。
「……わかった」
小さく答えると、鬼頭さんが手を離した。僕は札束を上着のポケットに入れて、鬼頭さんから離れた。
「送る」
鬼頭さんが短く言って、部屋のカードキーを手に取った。有無を言わさぬ口調に、僕は黙って従った。
鬼頭さんが先に部屋を出て、僕も後に続く。エレベーターに乗って、地下駐車場に向かう。
車に乗り込むと鬼頭さんがエンジンをかけた。走行中、静かな車内で、二人とも何も話さなかった。
見覚えのある景色が見えてきて、車が家の前に停まった。僕はシートベルトを外して、ドアに手をかける。
「ありがとうございました」
形式的な礼を言って、車を降りた。鬼頭さんが何か言おうとしたが、ドアを閉めて家に向かう。振り返らずにマンションの自動ドアを開けて、中に入った。
家に帰るとリビングの電気は消えていて、歩はすでに寝ているようだった。靴を脱いで、そっと廊下を歩く。歩の部屋の前を通り過ぎて、脱衣所に向かった。
服を脱ごうとして、微かな匂いが鼻をついた。女性の香水と、鬼頭さんの匂い。ホテルで染み付いた匂いが服に残っていて、吐き気が込み上げてくる。
慌てて服を脱ぎ捨てて、トイレに駆け込んだ。便器に顔を近づけて、胃の中のものを吐き出した。
(こんなの――嫌だ)
顔を洗って、シャワーを浴びる。熱いお湯が身体を流れて、穢れた身体が綺麗になっていく。
シャワーから出て、パジャマに着替える。鏡に映る自分の身体を見て、新しいキスマークが増えているのに気づいた。首筋に赤い痕が増えていた。
『すぐ来い』
鬼頭さんからだとすぐにわかった。リビングで宿題をしている歩を見て、笑顔を作る。
「ごめん、急にバイトが入った」
立ち上がって上着を羽織ると、歩が顔を上げた。
「こんな時間に?」
「うん。すぐ戻るから」
そう声をかけると家を飛び出して行った。
冷たい夜風が頬を撫でて、息が白く染まる。駅に向かって歩きながら、スマホで地図を確認した。
電車に乗って、ホテルのある駅で降りる。駅前には高級ホテルが立ち並んでいて、落ち着いた照明が建物を照らしていた。重厚な石造りの外観に、エレガントな装飾が施されている。大理石の柱が並ぶエントランスは、まるで宮殿のような佇まいで、場違いな居心地の悪さを感じた。
広々としたロビーには、シャンデリアが輝いていて、絨毯を踏む足音すら響かないほど静かだった。フロントの前を通り過ぎて、エレベーターホールに向かう。
部屋番号がある階でエレベーターを降りると、廊下がやけに静かに感じた。携帯の画面に表示されている部屋番号とドアの表示を確認してから、呼び鈴を押した。
しばらく待つと、ドアが内側から開いた。バスローブ姿の鬼頭が立っていた。濡れた髪が額にかかっていて、シャワーを浴びたばかりのようだ。
「遅い」
不機嫌な声で言われて、僕はムッとして唇を噛んだ。
「メッセージを見てすぐに来ました」
「言い訳はいらない。入れ」
中に入ると、甘ったるい香りが鼻を突いた。女性の香水の匂いが部屋に充満している。
(女性がいるのか?)
部屋の奥を見ると、ベッドが乱れていた。シーツがぐちゃぐちゃになっていて、枕が床に落ちている。
明らかにした後だ。
(女性とやった後に僕を呼び出したてこと?)
背後でドアが閉まる音がして、振り返る前に鬼頭さんの手が僕の肩を掴んだ。
「待っ……」
抗議する間もなく、ベッドに押し倒された。うつ伏せに倒されて、腰を掴まれる。ズボンのベルトが外されて、ジッパーが下ろされる音が聞こえた。
「ちょっ……服を……!」
(いきなり?)
慌てて声を上げると、ズボンと下着が一気に膝まで引き下ろされた。上半身は服を着たままで、下半身だけが露わになる。
「鬼頭さん……!」
名前を呼んで抗議しようとすると、背後から鬼頭さんの熱が押し当てられた。
「っ……!」
準備もなく、いきなり挿入されて悲鳴が喉から漏れた。身体が引き裂かれるような痛みが走って、シーツを掴む。鬼頭さんが容赦なく腰を動かして、奥を突いてきた。
「痛い……やめ……」
掠れた声で訴えても、鬼頭さんは止まらない。ただ黙々と腰を打ち付けてきて、僕の身体を貪る。顔がシーツに埋まって、甘ったるい香水の匂いが鼻腔を支配して、気持ち悪くなる。
女の匂いがするシーツに枕の近くに長い髪の毛が落ちているのが見えた。
(絶対、女性を抱いた後だろ)
しかもそれだけでは満足できなかった様子。
「あっ……ああっ……」
声が漏れて、身体が揺さぶられる。腰を掴まれて、さらに深く突かれた。
鬼頭さんの動きが激しくなって、荒い息が背中にかかる。繰り返し突き上げられて、身体が前に押し出されそうになった。シーツを掴む手に力が入って、爪が布地に食い込む。
鬼頭さんの手が僕の手首を掴んで、手のひらを上に向けさせた。
「っ……」
「これは何だ」
低い声で問いかけられて、身体が強張る。鬼頭さんが僕の手のひらを見ていた。二日連続の肉体労働で、手のひらにマメができていた。
「前に抱いたときはこんなのはなかった」
鬼頭さんが指摘して、僕は手を引こうとした。
(よくそんなこと、覚えてるな)
「離して……」
「答えろ。何をした」
「……バイト」
小さく答えると、鬼頭さんが手を離した。僕はすぐに手を握りしめて、マメを隠す。
悪いことをしたわけではないのに、鬼頭さんに見られるとなぜか罪悪感を覚える。
「くっ……」
鬼頭さんが低く呻いて、腰の動きが速くなった。奥を激しく突かれて、僕はまた甘い声が勝手に漏れてしまう。身体の奥が熱くなって、少しずつだが痛みとは違う感覚が混ざり始めた。
やがて鬼頭さんが奥で止まって、熱いものが中に注がれた。鬼頭さんが僕の背中に覆い被さってきて、重さで息が苦しくなった。
荒い息を吐きながら、鬼頭さんがゆっくりと身体を起こした。繋がったまま、僕の身体が起こされる。
「っ……」
体勢が変わって、さらに深く入り込んできた感覚に声が漏れる。鬼頭さんが僕の背中を自分の胸に引き寄せて、首筋に唇を這わせてきた。
「鬼頭、さん……」
名前を呼ぶと、鬼頭さんの手が僕の顎を掴んで顔を横に向けさせた。無理やり唇を奪われて、舌が侵入してくる。ねちっこく濃厚なキスに、息ができなくなった。
鬼頭さんの舌が僕の口内を蹂躙して、唾液が混ざり合う。キスをしながら、鬼頭さんの手が僕の男性器に伸びてきた。
「んっ……!」
僕の熱を握られて、身体が跳ねた。鬼頭さんの大きな手が、上下に動き始める。キスをされながら擦られて、身体の熱が腹の奥へと溜まっていく。
「ああっ……だめ……」
キスが一瞬離れて、声が漏れた。すぐにまた唇を塞がれて、舌が絡みついてくる。鬼頭さんの手が僕のものを執拗に擦り上げて、快感が押し寄せてきた。
繋がったまま、キスをされながら、前を擦られる。身体中の感覚が研ぎ澄まされて、気持ちよさが鋭敏に反応する。
「んんっ……!」
鬼頭さんの手の動きが速くなって、先端を親指で擦られた。電流が走ったような快感に、身体が震える。
「あっ……ああああっ……!」
キスが離れた瞬間、絶頂が訪れた。鬼頭さんの手の中で果てて、白濁した液体が飛び散る。全身が痙攣して、力が抜けた。
鬼頭さんが僕の身体を支えて、ゆっくりと引き抜いた。身体から熱が抜かれると、一気に力が抜けてベッドに崩れ落ちた。
荒い息を吐きながら、シーツに顔を埋めた。女の香水の匂いが強くなって、現実に引き戻される。身体中が痛くて、動けなかった。
鬼頭さんが僕の隣に横になって、天井を見上げている。荒い呼吸が落ち着いていくのが聞こえて、静かな時間が流れた。
僕は身体を起こして、中途半端に下ろされたズボンを引き上げた。足に力が入らなくて、よろめく。連日の肉体労働のバイトで、全身が筋肉痛だ。さらに鬼頭さんに抱かれて足腰がガクガクと震えている。
こんな状態で無事に帰宅できるかわからないが、用事が済んだのなら帰りたい。
ベルトを締めて、上着を拾い上げる。鬼頭さんが僕を見ていて、声をかけてきた。
「帰るのか?」
僕は振り返って、冷たく答えた。
「弟が待ってるので」
鬼頭さんが身体を起こして、ベッドから降りた。白いシャツに袖を通して、ズボンを履いていく。
(何をして……?)
鬼頭さんがネクタイを締め終えると、内ポケットから何かを取り出す。
「これを持っていけ」
差し出されたのは、札束だった。何枚も重ねられた一万円札が、手渡される。
「いらない」
僕は首を横に振って、断った。鬼頭さんの眉間に皺が寄る。
「手にマメができるようなバイトをするな」
低い声で言われて、僕は唇を噛んだ。
「無理。バイトはする。鬼頭さんのお金には頼らない」
きっぱりと答えて、玄関に向かう。立ち上がって一歩踏み出すと、足がふらついた。身体が傾いて、倒れそうになる。
鬼頭さんの腕が僕の身体を支えて、壁に押し付けられた。
「弟のためを思うなら、金を受け取れ。これは借金には加算しない。当面の生活費にはなるだろ」
僕の手を掴んで、無理やり札束を握りしめさせる。温かい手が僕の手を包んで、離してくれなかった。
弟のためと言われたら、断れない。バイトのたびにふらふらになっていては、弟が心配してしまう。もしかしたら父がいなくなったことを知られてしまうかもしれない。
「……わかった」
小さく答えると、鬼頭さんが手を離した。僕は札束を上着のポケットに入れて、鬼頭さんから離れた。
「送る」
鬼頭さんが短く言って、部屋のカードキーを手に取った。有無を言わさぬ口調に、僕は黙って従った。
鬼頭さんが先に部屋を出て、僕も後に続く。エレベーターに乗って、地下駐車場に向かう。
車に乗り込むと鬼頭さんがエンジンをかけた。走行中、静かな車内で、二人とも何も話さなかった。
見覚えのある景色が見えてきて、車が家の前に停まった。僕はシートベルトを外して、ドアに手をかける。
「ありがとうございました」
形式的な礼を言って、車を降りた。鬼頭さんが何か言おうとしたが、ドアを閉めて家に向かう。振り返らずにマンションの自動ドアを開けて、中に入った。
家に帰るとリビングの電気は消えていて、歩はすでに寝ているようだった。靴を脱いで、そっと廊下を歩く。歩の部屋の前を通り過ぎて、脱衣所に向かった。
服を脱ごうとして、微かな匂いが鼻をついた。女性の香水と、鬼頭さんの匂い。ホテルで染み付いた匂いが服に残っていて、吐き気が込み上げてくる。
慌てて服を脱ぎ捨てて、トイレに駆け込んだ。便器に顔を近づけて、胃の中のものを吐き出した。
(こんなの――嫌だ)
顔を洗って、シャワーを浴びる。熱いお湯が身体を流れて、穢れた身体が綺麗になっていく。
シャワーから出て、パジャマに着替える。鏡に映る自分の身体を見て、新しいキスマークが増えているのに気づいた。首筋に赤い痕が増えていた。
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
繋ぎの婚約を契約通り解消しようとしたら、王宮に溺愛軟禁されました
こたま
BL
エレンは子爵家のオメガ令息として産まれた。年上のアルファの王子殿下と年齢が釣り合うオメガ令息が少なく、他国との縁組も纏まらないため家格は低いが繋ぎとして一応婚約をしている。王子のことは兄のように慕っており、初恋の人ではあるけれど、契約終了時期か王子に想い人が現れた時には解消されるものと考えていた。ところが婚約解消時期の直前に王子宮に軟禁された。結婚を承諾するまでここから出さないと王子から溢れるほどの愛を与えられる。ハッピーエンドオメガバースBLです。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
様々な形での応援ありがとうございます!
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
追放されたオメガの食堂~嵐の夜に保護した銀狼の獣人王と幼いもふもふ孤児たちに手料理を振る舞ったら、溺愛されました~
水凪しおん
BL
名門貴族の生まれでありながら、オメガであることを理由に家族から見捨てられた青年・リオン。
彼は国境の森の奥深くで、身を隠すようにして小さな食堂を営んでいた。
ある嵐の夜。
激しい雨風に打たれながら食堂の扉を叩いたのは、大柄で威圧的な銀狼の獣人・ガレルと、彼に抱えられた幼い2人のもふもふ獣人の孤児たちだった。
警戒心も露わな子供たちと、不器用ながらも彼らを守ろうとするガレル。
リオンは彼らを食堂へ招き入れ、得意の温かい手料理を振る舞う。
「……うまい食事だった」
リオンの作る素朴で心温まる料理と、彼自身から漂う穏やかな匂いに、ガレルや子供たちは次第に心を開いていく。
誰からも必要とされないと思っていたリオンだったが、ガレルからの真っ直ぐな愛情と、子供たちからの無邪気な懐きによって、少しずつ自身の価値と居場所を見出していく。
美味しいご飯が紡ぐ、孤独だった青年と不器用な獣人王の、甘く温かいスローライフ・ラブストーリー。