支配者の刻印〜愛を知らない獣が、借金オメガを溺愛する〜

ひなた翠

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第二章:二つの顔、二つの世界

急な呼び出し

 夜九時を過ぎた頃、スマホが振動した。画面を見ると、知らない番号からメッセージが届いている。開くと、ホテルの名前と部屋番号、位置情報の地図が表示されていて、その下に短い文章が添えられていた。

『すぐ来い』

 鬼頭さんからだとすぐにわかった。リビングで宿題をしている歩を見て、笑顔を作る。

「ごめん、急にバイトが入った」
 立ち上がって上着を羽織ると、歩が顔を上げた。

「こんな時間に?」
「うん。すぐ戻るから」

 そう声をかけると家を飛び出して行った。
 冷たい夜風が頬を撫でて、息が白く染まる。駅に向かって歩きながら、スマホで地図を確認した。

 電車に乗って、ホテルのある駅で降りる。駅前には高級ホテルが立ち並んでいて、落ち着いた照明が建物を照らしていた。重厚な石造りの外観に、エレガントな装飾が施されている。大理石の柱が並ぶエントランスは、まるで宮殿のような佇まいで、場違いな居心地の悪さを感じた。

 広々としたロビーには、シャンデリアが輝いていて、絨毯を踏む足音すら響かないほど静かだった。フロントの前を通り過ぎて、エレベーターホールに向かう。

 部屋番号がある階でエレベーターを降りると、廊下がやけに静かに感じた。携帯の画面に表示されている部屋番号とドアの表示を確認してから、呼び鈴を押した。

 しばらく待つと、ドアが内側から開いた。バスローブ姿の鬼頭が立っていた。濡れた髪が額にかかっていて、シャワーを浴びたばかりのようだ。

「遅い」
 不機嫌な声で言われて、僕はムッとして唇を噛んだ。

「メッセージを見てすぐに来ました」
「言い訳はいらない。入れ」

 中に入ると、甘ったるい香りが鼻を突いた。女性の香水の匂いが部屋に充満している。

(女性がいるのか?)

 部屋の奥を見ると、ベッドが乱れていた。シーツがぐちゃぐちゃになっていて、枕が床に落ちている。
 明らかにした後だ。

(女性とやった後に僕を呼び出したてこと?)

 背後でドアが閉まる音がして、振り返る前に鬼頭さんの手が僕の肩を掴んだ。

「待っ……」

 抗議する間もなく、ベッドに押し倒された。うつ伏せに倒されて、腰を掴まれる。ズボンのベルトが外されて、ジッパーが下ろされる音が聞こえた。

「ちょっ……服を……!」
(いきなり?)

 慌てて声を上げると、ズボンと下着が一気に膝まで引き下ろされた。上半身は服を着たままで、下半身だけが露わになる。

「鬼頭さん……!」
 名前を呼んで抗議しようとすると、背後から鬼頭さんの熱が押し当てられた。

「っ……!」

 準備もなく、いきなり挿入されて悲鳴が喉から漏れた。身体が引き裂かれるような痛みが走って、シーツを掴む。鬼頭さんが容赦なく腰を動かして、奥を突いてきた。

「痛い……やめ……」

 掠れた声で訴えても、鬼頭さんは止まらない。ただ黙々と腰を打ち付けてきて、僕の身体を貪る。顔がシーツに埋まって、甘ったるい香水の匂いが鼻腔を支配して、気持ち悪くなる。

 女の匂いがするシーツに枕の近くに長い髪の毛が落ちているのが見えた。

(絶対、女性を抱いた後だろ)
 しかもそれだけでは満足できなかった様子。

「あっ……ああっ……」

 声が漏れて、身体が揺さぶられる。腰を掴まれて、さらに深く突かれた。

 鬼頭さんの動きが激しくなって、荒い息が背中にかかる。繰り返し突き上げられて、身体が前に押し出されそうになった。シーツを掴む手に力が入って、爪が布地に食い込む。

 鬼頭さんの手が僕の手首を掴んで、手のひらを上に向けさせた。

「っ……」
「これは何だ」

 低い声で問いかけられて、身体が強張る。鬼頭さんが僕の手のひらを見ていた。二日連続の肉体労働で、手のひらにマメができていた。

「前に抱いたときはこんなのはなかった」
 鬼頭さんが指摘して、僕は手を引こうとした。

(よくそんなこと、覚えてるな)

「離して……」
「答えろ。何をした」
「……バイト」

 小さく答えると、鬼頭さんが手を離した。僕はすぐに手を握りしめて、マメを隠す。
 悪いことをしたわけではないのに、鬼頭さんに見られるとなぜか罪悪感を覚える。

「くっ……」

 鬼頭さんが低く呻いて、腰の動きが速くなった。奥を激しく突かれて、僕はまた甘い声が勝手に漏れてしまう。身体の奥が熱くなって、少しずつだが痛みとは違う感覚が混ざり始めた。

 やがて鬼頭さんが奥で止まって、熱いものが中に注がれた。鬼頭さんが僕の背中に覆い被さってきて、重さで息が苦しくなった。

 荒い息を吐きながら、鬼頭さんがゆっくりと身体を起こした。繋がったまま、僕の身体が起こされる。

「っ……」

 体勢が変わって、さらに深く入り込んできた感覚に声が漏れる。鬼頭さんが僕の背中を自分の胸に引き寄せて、首筋に唇を這わせてきた。

「鬼頭、さん……」

 名前を呼ぶと、鬼頭さんの手が僕の顎を掴んで顔を横に向けさせた。無理やり唇を奪われて、舌が侵入してくる。ねちっこく濃厚なキスに、息ができなくなった。

 鬼頭さんの舌が僕の口内を蹂躙して、唾液が混ざり合う。キスをしながら、鬼頭さんの手が僕の男性器に伸びてきた。

「んっ……!」

 僕の熱を握られて、身体が跳ねた。鬼頭さんの大きな手が、上下に動き始める。キスをされながら擦られて、身体の熱が腹の奥へと溜まっていく。

「ああっ……だめ……」

 キスが一瞬離れて、声が漏れた。すぐにまた唇を塞がれて、舌が絡みついてくる。鬼頭さんの手が僕のものを執拗に擦り上げて、快感が押し寄せてきた。

 繋がったまま、キスをされながら、前を擦られる。身体中の感覚が研ぎ澄まされて、気持ちよさが鋭敏に反応する。

「んんっ……!」

 鬼頭さんの手の動きが速くなって、先端を親指で擦られた。電流が走ったような快感に、身体が震える。

「あっ……ああああっ……!」

 キスが離れた瞬間、絶頂が訪れた。鬼頭さんの手の中で果てて、白濁した液体が飛び散る。全身が痙攣して、力が抜けた。

 鬼頭さんが僕の身体を支えて、ゆっくりと引き抜いた。身体から熱が抜かれると、一気に力が抜けてベッドに崩れ落ちた。

 荒い息を吐きながら、シーツに顔を埋めた。女の香水の匂いが強くなって、現実に引き戻される。身体中が痛くて、動けなかった。

 鬼頭さんが僕の隣に横になって、天井を見上げている。荒い呼吸が落ち着いていくのが聞こえて、静かな時間が流れた。

 僕は身体を起こして、中途半端に下ろされたズボンを引き上げた。足に力が入らなくて、よろめく。連日の肉体労働のバイトで、全身が筋肉痛だ。さらに鬼頭さんに抱かれて足腰がガクガクと震えている。

 こんな状態で無事に帰宅できるかわからないが、用事が済んだのなら帰りたい。
 ベルトを締めて、上着を拾い上げる。鬼頭さんが僕を見ていて、声をかけてきた。

「帰るのか?」
 僕は振り返って、冷たく答えた。

「弟が待ってるので」

 鬼頭さんが身体を起こして、ベッドから降りた。白いシャツに袖を通して、ズボンを履いていく。

(何をして……?)
 鬼頭さんがネクタイを締め終えると、内ポケットから何かを取り出す。

「これを持っていけ」
 差し出されたのは、札束だった。何枚も重ねられた一万円札が、手渡される。

「いらない」
 僕は首を横に振って、断った。鬼頭さんの眉間に皺が寄る。

「手にマメができるようなバイトをするな」
 低い声で言われて、僕は唇を噛んだ。

「無理。バイトはする。鬼頭さんのお金には頼らない」

 きっぱりと答えて、玄関に向かう。立ち上がって一歩踏み出すと、足がふらついた。身体が傾いて、倒れそうになる。

 鬼頭さんの腕が僕の身体を支えて、壁に押し付けられた。

「弟のためを思うなら、金を受け取れ。これは借金には加算しない。当面の生活費にはなるだろ」
 僕の手を掴んで、無理やり札束を握りしめさせる。温かい手が僕の手を包んで、離してくれなかった。

 弟のためと言われたら、断れない。バイトのたびにふらふらになっていては、弟が心配してしまう。もしかしたら父がいなくなったことを知られてしまうかもしれない。

「……わかった」

 小さく答えると、鬼頭さんが手を離した。僕は札束を上着のポケットに入れて、鬼頭さんから離れた。

「送る」

 鬼頭さんが短く言って、部屋のカードキーを手に取った。有無を言わさぬ口調に、僕は黙って従った。

 鬼頭さんが先に部屋を出て、僕も後に続く。エレベーターに乗って、地下駐車場に向かう。
 車に乗り込むと鬼頭さんがエンジンをかけた。走行中、静かな車内で、二人とも何も話さなかった。

 見覚えのある景色が見えてきて、車が家の前に停まった。僕はシートベルトを外して、ドアに手をかける。

「ありがとうございました」

 形式的な礼を言って、車を降りた。鬼頭さんが何か言おうとしたが、ドアを閉めて家に向かう。振り返らずにマンションの自動ドアを開けて、中に入った。

 家に帰るとリビングの電気は消えていて、歩はすでに寝ているようだった。靴を脱いで、そっと廊下を歩く。歩の部屋の前を通り過ぎて、脱衣所に向かった。

 服を脱ごうとして、微かな匂いが鼻をついた。女性の香水と、鬼頭さんの匂い。ホテルで染み付いた匂いが服に残っていて、吐き気が込み上げてくる。

 慌てて服を脱ぎ捨てて、トイレに駆け込んだ。便器に顔を近づけて、胃の中のものを吐き出した。

(こんなの――嫌だ)

 顔を洗って、シャワーを浴びる。熱いお湯が身体を流れて、穢れた身体が綺麗になっていく。

 シャワーから出て、パジャマに着替える。鏡に映る自分の身体を見て、新しいキスマークが増えているのに気づいた。首筋に赤い痕が増えていた。
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