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第二章;初めてのヒート
ラインハルトの屋敷
馬車が門をくぐり、敷地内に入った。白亜の美しい屋敷が目の前に現れる。三階建ての石造りの建物で、窓が規則正しく並んでいた。夕暮れの光が白い壁を照らし、淡く輝いている。
庭には薬草が植えられていた。ラベンダー、カモミール、ペパーミント。整然と区画された花壇に、様々な種類の植物が育っている。緑の葉が風に揺れ、香りが漂ってきた。
馬車が玄関の前で止まった。扉が開けられ、僕たちは降りた。石畳の上に足をつき、屋敷を見上げる。大きく、立派な建物だった。
玄関の扉が開いた。
ラインハルト先生の姿に息が止まりそうになった。
寝起きなのか、白銀の髪が少し乱れている。いつもは後ろで束ねているのに、今は下ろしたまま。長い髪が肩にかかり、顔の横に流れていた。いつもの医療官服ではなく、白いシャツとズボン。シャツのボタンが首元まで開いていて、鎖骨が見える。
色っぽくて息が止まりそうになる。
(こんな先生、初めて見た)
研究室では常に整った姿だった。髪を束ね、白衣を着て、きちんと身なりを整えている。でも今は――少し無防備で、温かみがある。
いつも僕たちがくる時は、仕事場にいる先生と大差ない感じだったのに。
今日は無防備すぎる。素の先生は、こっちなのかもしれない。
「ああ、そうだった。ユーリ君のヒートだったね。二日前の検診で、『もうすぐ』って言ったなあ」
先生は眠そうに目を擦った。大きな手が目元を覆い、ゆっくりと動く。
(可愛い)
可愛い、って……僕は何を考えているんだ。
四十八歳の男性に対して、可愛いなんて。でも、眠そうに目を擦る仕草が、可愛く見えた。普段は見せない表情と無防備な姿。
「お邪魔します、先生」
エドガーが挨拶した。弟たちも続いて頭を下げる。僕は最後に挨拶した。
「お邪魔します」
先生は頷き、僕たちを中へ招き入れた。
玄関を入ると、広いホールが広がっていた。白い大理石の床が光を反射し、天井が高い。シャンデリアが吊るされ、柔らかな光を放っている。階段が奥へと続き、二階へと上がっていた。
「君たちの部屋は一階だ。こっちへ」
先生が廊下を歩き始めた。僕たちは後に続く。先生の背中を見つめる。白いシャツ越しに、背中の筋肉の動きが見える。腰のラインが美しい。長い髪が背中に流れ、歩くたびに揺れていた。
廊下の突き当たりに扉があった。先生は扉を開け、中を指差した。
「エドガー、セシル、ルシアン、ノエル。君たちはここを使ってくれ」
広い客室だった。ベッドが四つ並び、窓からは庭が見える。弟たちが部屋に入っていき、荷物を置いた。
「ありがとうございます、先生」
エドガーが礼を言った。先生は頷き、僕を見た。
「リエル、君の部屋は二階の突き当たり。私の部屋の隣だよ」
心臓が跳ねた。
(隣――?)
胸が苦しくなった。
なんで今回に限って、先生の隣なのだろうか。いつもは弟たちと同じ部屋だった。二階の部屋で皆一緒に寝ていた。でも今回は違うようだ。
「なんで、僕だけ……」
声を絞り出すので精一杯だった。心臓が激しく跳ねている。
「屋敷内の模様替えをしたんだ。今、部屋が使えるのが一階のさっきの部屋と二階だけでね。それに――」
そう言って先生が一度言葉を止めた。
「リエルは成人したから。一人部屋にしたんだ」
先生は階段を上り始め、僕は後に続いた。階段を上る先生の背中を見つめる。二階の廊下を歩き、突き当たりの扉の前で先生は立ち止まった。
「ここが君の部屋だ」
扉を開けてくれる。中を覗くと、清潔な部屋が広がっていた。ベッドが一つ、机と椅子、本棚。窓からは庭が見えた。
「隣が私の部屋だから。何かあれば、すぐに呼んでくれ」
先生が隣の扉を指差した。
「はい……」
僕は頷いた。先生は微笑み、自分の部屋へ戻っていった。
僕は自分の部屋に入り、扉を閉めた。背中を扉に預け、深く息を吸った。心臓が激しく跳ねている。手が震えていた。
壁の向こうに、先生がいる。そう思うだけで胸が高鳴った。
庭には薬草が植えられていた。ラベンダー、カモミール、ペパーミント。整然と区画された花壇に、様々な種類の植物が育っている。緑の葉が風に揺れ、香りが漂ってきた。
馬車が玄関の前で止まった。扉が開けられ、僕たちは降りた。石畳の上に足をつき、屋敷を見上げる。大きく、立派な建物だった。
玄関の扉が開いた。
ラインハルト先生の姿に息が止まりそうになった。
寝起きなのか、白銀の髪が少し乱れている。いつもは後ろで束ねているのに、今は下ろしたまま。長い髪が肩にかかり、顔の横に流れていた。いつもの医療官服ではなく、白いシャツとズボン。シャツのボタンが首元まで開いていて、鎖骨が見える。
色っぽくて息が止まりそうになる。
(こんな先生、初めて見た)
研究室では常に整った姿だった。髪を束ね、白衣を着て、きちんと身なりを整えている。でも今は――少し無防備で、温かみがある。
いつも僕たちがくる時は、仕事場にいる先生と大差ない感じだったのに。
今日は無防備すぎる。素の先生は、こっちなのかもしれない。
「ああ、そうだった。ユーリ君のヒートだったね。二日前の検診で、『もうすぐ』って言ったなあ」
先生は眠そうに目を擦った。大きな手が目元を覆い、ゆっくりと動く。
(可愛い)
可愛い、って……僕は何を考えているんだ。
四十八歳の男性に対して、可愛いなんて。でも、眠そうに目を擦る仕草が、可愛く見えた。普段は見せない表情と無防備な姿。
「お邪魔します、先生」
エドガーが挨拶した。弟たちも続いて頭を下げる。僕は最後に挨拶した。
「お邪魔します」
先生は頷き、僕たちを中へ招き入れた。
玄関を入ると、広いホールが広がっていた。白い大理石の床が光を反射し、天井が高い。シャンデリアが吊るされ、柔らかな光を放っている。階段が奥へと続き、二階へと上がっていた。
「君たちの部屋は一階だ。こっちへ」
先生が廊下を歩き始めた。僕たちは後に続く。先生の背中を見つめる。白いシャツ越しに、背中の筋肉の動きが見える。腰のラインが美しい。長い髪が背中に流れ、歩くたびに揺れていた。
廊下の突き当たりに扉があった。先生は扉を開け、中を指差した。
「エドガー、セシル、ルシアン、ノエル。君たちはここを使ってくれ」
広い客室だった。ベッドが四つ並び、窓からは庭が見える。弟たちが部屋に入っていき、荷物を置いた。
「ありがとうございます、先生」
エドガーが礼を言った。先生は頷き、僕を見た。
「リエル、君の部屋は二階の突き当たり。私の部屋の隣だよ」
心臓が跳ねた。
(隣――?)
胸が苦しくなった。
なんで今回に限って、先生の隣なのだろうか。いつもは弟たちと同じ部屋だった。二階の部屋で皆一緒に寝ていた。でも今回は違うようだ。
「なんで、僕だけ……」
声を絞り出すので精一杯だった。心臓が激しく跳ねている。
「屋敷内の模様替えをしたんだ。今、部屋が使えるのが一階のさっきの部屋と二階だけでね。それに――」
そう言って先生が一度言葉を止めた。
「リエルは成人したから。一人部屋にしたんだ」
先生は階段を上り始め、僕は後に続いた。階段を上る先生の背中を見つめる。二階の廊下を歩き、突き当たりの扉の前で先生は立ち止まった。
「ここが君の部屋だ」
扉を開けてくれる。中を覗くと、清潔な部屋が広がっていた。ベッドが一つ、机と椅子、本棚。窓からは庭が見えた。
「隣が私の部屋だから。何かあれば、すぐに呼んでくれ」
先生が隣の扉を指差した。
「はい……」
僕は頷いた。先生は微笑み、自分の部屋へ戻っていった。
僕は自分の部屋に入り、扉を閉めた。背中を扉に預け、深く息を吸った。心臓が激しく跳ねている。手が震えていた。
壁の向こうに、先生がいる。そう思うだけで胸が高鳴った。
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