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第五章:抗えない運命の番
和解
リエルが気持ちよさそうに眠っている姿を見て、私はほっとした。
(ヒートが終わった)
疲れ切った顔だったが、穏やかな寝顔だ。頬に少し血色が戻って、呼吸も落ち着いている。ヒートが収まって、安心して眠っているのが分かった。
(リエルは薬が効かない)
特異体質者の子から産まれたオメガ特有なのだろうか。
過去の文献を漁ったがそのような研究課題も史実も記録されていなかった。ただ特異体質者は王族……しかも、次期国王とされる人間と番を組むのがこの国のルールだ。
だとするなら、その子どもは若いうちから婚約者が決まっている可能性が高い。強いヒートがくるなり、番っていたとするなら――研究課題にも上らないし、史実としても残らない可能性は高い。
私はリエルを抱きしめたまま、ベッドに横になっている。リエルの柔らかい髪が腕に触れて、温かい体温が伝わってくる。
(王立図書館でもっと過去の文献をあたってみる価値はある)
扉が叩かれる音がした。
「ラインハルト、話がある」
低い声だったが、怒りは感じられなかった。
私は身体を起こして、上着を羽織った。リエルを起こさないように、そっとベッドから降りる。扉に向かって歩いていくと、扉が開いてシオンが入ってきた。
琥珀の瞳が、ベッドに眠るリエルを見て、ホッと息をついていた。息子が無事だと確認して、安心したようだった。
「――穏やかな顔をして寝ている」
シオンが愛おしそうに呟いた。父親としての優しさが滲んでいた。
「運命の番だったんだな。少しでも疑った俺が悪かった」
「嘘だと思ったのか?」
シオンは、私たちが運命の番だと言った言葉を信用していなかったようだ。
「お前はユーリが好きだろ? アリエルを身代わりにしているのだと思った。素直なあの子を、言葉巧みに垂らし込んで運命の番だと嘘をついて抱いたのかと――」
シオンが説明をする。ユーリ君が好きで、リエルを身代わりにしていると勘違いしていたのか。だから父親として、引き離そうとしたと……。
「信用無いな、私は」
私は苦笑した。そんな風に思われていたなんて。
「リエルもそうだったが、そんなに私がユーリ君を好きなように見えるのか? 別になんとも思ってない。特異体質だから、研究対象としては魅力的な素材だが……恋愛対象ではない」
転生者仲間として、理解し合える存在ではある。研究対象としても魅力的だ。でも、恋愛感情は一度も抱いたことがなかった。
「――そうなのか?」
シオンの顔が明るくなった。安心したような表情をしている。
「……はあ? 今までずっと私が好きだと思っていたのか?」
私は驚いて尋ねた。まさか、ずっとそう思われていたとは心外だ。
「ああ。ユーリも最初、お前を好きだと思っていた。俺が無理やり奪わなければ、両想いになっていたはずだ」
ユーリ君も愛した人からとんだ誤解をされ、さぞ心外だろう。ユーリ君が私を好きなわけがないだろう。
番たくなくて、二階から飛びおりて逃走をはかろうとするようなやんちゃな男性は、こちらから願い下げだ。手に負えない。
「――やめてくれ。ユーリ君をそういう目で見たことは一度もない」
「初耳だ」
シオンが言った。驚いた表情をしている。
「こっちこそ、初耳だよ」
私は言い返した。誤解されていたなんて、知らなかった。二十年近くずっと誤解され続けていたのかと思うと、目眩がする。
「悪かった」
シオンは珍しく謝った。
(誤解が解けてよかったよ)
「私より、リエルに謝ってくれ。辛い思いをしたのはリエルのほうだ。一歩間違えれば、命を落としかねなかったんだ」
シオンの誤解のせいで、リエルがどれだけ苦しんだか。
「……そうだな。俺のせいだ。反省してる」
シオンが情けない表情になった。息子を苦しめたことを、後悔しているようだった。
「――だって、リエル」
私がリエルの頭を撫でながら声をかけた。
「……っ。起きてるって知ってたの?」
リエルが顔を真っ赤にして、布団からちょこんと顔を出した。髪が乱れて、翡翠色の瞳が潤んでいる。恥ずかしそうに、私とシオンを見ている。
「わかるよ」
私は微笑んだ。
「目が覚めたのか? 身体は大丈夫か? どこか痛いところはないか?」
シオンがさらにベッドに近づいて、リエルの身体に触れようとする。
シオンの手がリエルの肩に触れようとして、身体中についているキスマークを目にした瞬間、シオンがキッと私を睨んできた。
「こんなにつけることないだろ!」
息子の身体に無数のキスマークがついているのを見て、激怒したようだった。
「父上、やめてください。僕はつけられたいんです……って、こんなこと父上に言いたくない」
リエルがさらに顔を赤らめて、布団に潜り込んだ。恥ずかしさで、顔が見えなくなるまで潜っている。
私はリエルの可愛らしい反応に微笑んだ。恥ずかしがるリエルが愛おしくて、抱きしめたくなる。
シオンも愛おしそうに口元を緩めると、布団から少しだけ出ているリエルの頭を撫でた。大きな手が、優しく金色の髪を撫でている。
「父上が悪かった。アリエル、幸せになりなさい――ラインハルトが嫌になったらすぐに俺に言うんだ。極刑にしてやる」
息子の幸せを願いつつも、最後は脅しになっている。
「やめて! 僕は先生を嫌にならないから!」
リエルが布団から飛び出して怒った。怒気を含んだ声で、シオンを睨んでいる。最愛の息子に睨まれて、たじろいでいる姿が珍しくて私は口元を緩めて微笑んだ。
「そうか。わかった」
シオンが優しく言った。息子の想いを受け入れたようだ。
「ゆっくり休め」
シオンが言葉を残して、部屋を出て行った。
「先生、今日は帰らないで。僕の傍に居て欲しい」
リエルが甘えた声で言った。不安そうな翡翠色の瞳が、私を見上げている。
「わかった。ずっと傍にいるよ」
私はリエルに優しくキスをした。柔らかい唇が触れ合って、温かさが伝わってくる。甘いキスを交わして、しばらく私たちは抱き合った。
(ヒートが終わった)
疲れ切った顔だったが、穏やかな寝顔だ。頬に少し血色が戻って、呼吸も落ち着いている。ヒートが収まって、安心して眠っているのが分かった。
(リエルは薬が効かない)
特異体質者の子から産まれたオメガ特有なのだろうか。
過去の文献を漁ったがそのような研究課題も史実も記録されていなかった。ただ特異体質者は王族……しかも、次期国王とされる人間と番を組むのがこの国のルールだ。
だとするなら、その子どもは若いうちから婚約者が決まっている可能性が高い。強いヒートがくるなり、番っていたとするなら――研究課題にも上らないし、史実としても残らない可能性は高い。
私はリエルを抱きしめたまま、ベッドに横になっている。リエルの柔らかい髪が腕に触れて、温かい体温が伝わってくる。
(王立図書館でもっと過去の文献をあたってみる価値はある)
扉が叩かれる音がした。
「ラインハルト、話がある」
低い声だったが、怒りは感じられなかった。
私は身体を起こして、上着を羽織った。リエルを起こさないように、そっとベッドから降りる。扉に向かって歩いていくと、扉が開いてシオンが入ってきた。
琥珀の瞳が、ベッドに眠るリエルを見て、ホッと息をついていた。息子が無事だと確認して、安心したようだった。
「――穏やかな顔をして寝ている」
シオンが愛おしそうに呟いた。父親としての優しさが滲んでいた。
「運命の番だったんだな。少しでも疑った俺が悪かった」
「嘘だと思ったのか?」
シオンは、私たちが運命の番だと言った言葉を信用していなかったようだ。
「お前はユーリが好きだろ? アリエルを身代わりにしているのだと思った。素直なあの子を、言葉巧みに垂らし込んで運命の番だと嘘をついて抱いたのかと――」
シオンが説明をする。ユーリ君が好きで、リエルを身代わりにしていると勘違いしていたのか。だから父親として、引き離そうとしたと……。
「信用無いな、私は」
私は苦笑した。そんな風に思われていたなんて。
「リエルもそうだったが、そんなに私がユーリ君を好きなように見えるのか? 別になんとも思ってない。特異体質だから、研究対象としては魅力的な素材だが……恋愛対象ではない」
転生者仲間として、理解し合える存在ではある。研究対象としても魅力的だ。でも、恋愛感情は一度も抱いたことがなかった。
「――そうなのか?」
シオンの顔が明るくなった。安心したような表情をしている。
「……はあ? 今までずっと私が好きだと思っていたのか?」
私は驚いて尋ねた。まさか、ずっとそう思われていたとは心外だ。
「ああ。ユーリも最初、お前を好きだと思っていた。俺が無理やり奪わなければ、両想いになっていたはずだ」
ユーリ君も愛した人からとんだ誤解をされ、さぞ心外だろう。ユーリ君が私を好きなわけがないだろう。
番たくなくて、二階から飛びおりて逃走をはかろうとするようなやんちゃな男性は、こちらから願い下げだ。手に負えない。
「――やめてくれ。ユーリ君をそういう目で見たことは一度もない」
「初耳だ」
シオンが言った。驚いた表情をしている。
「こっちこそ、初耳だよ」
私は言い返した。誤解されていたなんて、知らなかった。二十年近くずっと誤解され続けていたのかと思うと、目眩がする。
「悪かった」
シオンは珍しく謝った。
(誤解が解けてよかったよ)
「私より、リエルに謝ってくれ。辛い思いをしたのはリエルのほうだ。一歩間違えれば、命を落としかねなかったんだ」
シオンの誤解のせいで、リエルがどれだけ苦しんだか。
「……そうだな。俺のせいだ。反省してる」
シオンが情けない表情になった。息子を苦しめたことを、後悔しているようだった。
「――だって、リエル」
私がリエルの頭を撫でながら声をかけた。
「……っ。起きてるって知ってたの?」
リエルが顔を真っ赤にして、布団からちょこんと顔を出した。髪が乱れて、翡翠色の瞳が潤んでいる。恥ずかしそうに、私とシオンを見ている。
「わかるよ」
私は微笑んだ。
「目が覚めたのか? 身体は大丈夫か? どこか痛いところはないか?」
シオンがさらにベッドに近づいて、リエルの身体に触れようとする。
シオンの手がリエルの肩に触れようとして、身体中についているキスマークを目にした瞬間、シオンがキッと私を睨んできた。
「こんなにつけることないだろ!」
息子の身体に無数のキスマークがついているのを見て、激怒したようだった。
「父上、やめてください。僕はつけられたいんです……って、こんなこと父上に言いたくない」
リエルがさらに顔を赤らめて、布団に潜り込んだ。恥ずかしさで、顔が見えなくなるまで潜っている。
私はリエルの可愛らしい反応に微笑んだ。恥ずかしがるリエルが愛おしくて、抱きしめたくなる。
シオンも愛おしそうに口元を緩めると、布団から少しだけ出ているリエルの頭を撫でた。大きな手が、優しく金色の髪を撫でている。
「父上が悪かった。アリエル、幸せになりなさい――ラインハルトが嫌になったらすぐに俺に言うんだ。極刑にしてやる」
息子の幸せを願いつつも、最後は脅しになっている。
「やめて! 僕は先生を嫌にならないから!」
リエルが布団から飛び出して怒った。怒気を含んだ声で、シオンを睨んでいる。最愛の息子に睨まれて、たじろいでいる姿が珍しくて私は口元を緩めて微笑んだ。
「そうか。わかった」
シオンが優しく言った。息子の想いを受け入れたようだ。
「ゆっくり休め」
シオンが言葉を残して、部屋を出て行った。
「先生、今日は帰らないで。僕の傍に居て欲しい」
リエルが甘えた声で言った。不安そうな翡翠色の瞳が、私を見上げている。
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