禁じられた運命の香り〜白銀の研究者と翡翠の王子〜

ひなた翠

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第六章:新しい命たち

妊娠発覚

 あれから一ヶ月が過ぎた。

 先生が僕の主治医に復帰してくれて、定期検診が再開された。体重も元に戻って、今は普通に暮らしている。ただ最近、食欲が増大しているような気がしていた。

 今日は定期検診の日で、先生の研究室に足を運んでいた。

「先生、検診お願いします」

 僕は研究室のドアをノックして、中に入る。白い壁に囲まれた清潔な部屋は診察台と机、本棚が並んでいる。先生の匂いが部屋中に満ちていて、安心した。

 先生が振り向いて、微笑んでくれる。以前は見せなかった穏やかな笑顔をむけてくれる。僕と結ばれてから、先生はよく笑うようになったように思う。

「リエル、おいで」

 先生が手を広げてくれた。僕は嬉しくなって駆け寄って、先生の腕の中に飛び込んだ。大きな腕が僕を包み込んでくれて、温かさが伝わってくる。

 先生が僕の顔を両手で包んで、優しくキスをしてくれた。柔らかい唇が触れ合って、甘い感覚が広がっていく。

「リエル、甘い匂いがする」
 先生がキスを離して、僕の匂いを嗅いだ。

「今日はスコーンを持ってきたんです」
 僕は鞄からスコーンの入った箱を取り出した。朝、母と一緒に焼いたばかりだった。

「リエルが作ったの?」
 先生が嬉しそうに箱を受け取った。

「母と一緒に作りました。僕はまだ一人で作れなくて。もう少し時間をください」
 今は母に教えてもらいながら少しずつ覚えているところだった。

「わかった。楽しみに待っているよ」
 先生が優しく微笑んでくれた。

 僕は診察台に座った。冷たい感触が太腿に伝わってくる。先生が聴診器を首にかけて、僕に近づいてきた。

「エレノア先生には悪いことしちゃったなあ」
 エレノア先生のことを思い出して、申し訳ない気持ちになった。

「そうだな」
 二回だけ、担当医師として診てくれたエレノア先生。二回目のときは、先生を追い出すように帰ってもらったから、申し訳なく思っている。

「エレノア先生は、すっかり君の症状に夢中だよ」
「――え?」

 僕は驚いて先生を見た。

「薬が効かないオメガの対処という論文を書きたいと、君の治療記録を見たいってよくここに来てる」

(ええ?)

「ちょ……」
 僕は言葉を失った。僕の治療記録を論文にされるなんて。

「大丈夫。ちゃんと断ったから。ただ諦めきれてないみたいで、また来るって言ってた」
 先生が苦笑しながら話し、僕の頭を撫でてくれる。

「困る」
 僕がぼそっと本音を漏らすと、先生がくすくすと笑った。

「リエルを実験台にする気はないよ」
 先生が言い切った。

「母上は……」

 研究対象なのに、と言いそうになって言葉を止めた。母は特異体質のオメガとして、先生の研究対象になっている。

 先生が僕の顔を見ると、何が言いたいのか理解したようだった。

「また勘違いしてる。ユーリ君に対しては、恋愛感情がないから研究対象として大いに調べられる。リエルは無理。絶対に研究対象にはさせない」

 先生がきっぱりと言った。
 恋愛感情があるから無理という解釈でいいのだろうか。嬉しくて、胸が温かくなった。

 先生が僕のお腹に手を当てて、触診を始めた。優しく撫でるように、お腹を確認していく。

「ちょ……あっ、えっ?」

 先生が驚いた声をあげた。手が止まって、もう一度お腹を確認し、さらに他の検査数値もカルテを見て比べていた。

「先生、どうしたんですか?」
 僕は不安になって尋ねた。何か異常があるのだろうか。

「――妊娠してる」
 先生の言葉に、僕の頭が真っ白になった。時間が止まったように感じた。

「え? 僕がですか?」
 僕は驚いて聞き返した。

(妊娠? 僕が?)

「リエル、妊娠してる」

 先生が出会ったなかで一番の笑顔を見せた。氷のような青い瞳が、温かく輝いている。先生が僕を抱きしめてくれて、大きな腕が僕を包み込んだ。

「おめでとう、リエル!」
 先生の声が嬉しそうに響いた。

 僕のお腹の中に、先生の赤ちゃんがいる。命が宿っている。嬉しくて、涙が溢れてきた。
 僕はお腹に手をあてた。まだ何も感じないが、確かに命がある。先生も僕の手の上に手を重ねてきた。大きくて温かい手が、優しく包み込んでくれる。

「ありがとう、リエル」
 先生が囁いた。愛おしそうに、僕を見つめている。

「先生こそ、僕すごく嬉しいです」
 僕は言った。涙が頬を伝って落ちていく。嬉しすぎて、言葉が続かなかった。

 顔を見合わせると、先生が唇を重ねてきた。蕩けるほど甘いキスを交わして、僕たちは抱き合った。先生の子どもを授かった。二人の命が、お腹の中で育っている。

 幸せだった。こんなに幸せでいいのだろうかと思うほど、心が満たされていた。
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