完璧な義兄は不完全な愛に溺れる~義弟の甘い蜜~

ひなた翠

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第一話「誰にも言えない悩み」

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 会議室に拍手が響き渡り、大型契約が成立した瞬間の高揚感が胸を満たしていった。相手企業の部長が満面の笑みで握手を求めてきて、俺は完璧な笑顔を作りながら応じた。

「松井田部長、お疲れ様でした! さすがです!」

 会議室を出ると、営業部の後輩たちが興奮した様子で駆け寄ってきて、俺の肩を叩きながら祝福の言葉を投げかけてくる。契約書類を抱えた女性社員が頬を上気させながら「部長、今夜は飲みに行きましょう! 私、もう予約しちゃいました」と甘えた声で誘ってきて、周囲の同僚たちも「そうですよ、たまには付き合ってくださいよ」と囃し立てた。

 俺は柔らかな笑顔を浮かべ、丁寧に首を横に振った。

「すみません、明日も早いので今日は失礼します。皆さんで楽しんでください」

 笑顔を保ちながら、俺は彼らに背を向けて会社を後にする。周囲の期待していた表情が失望に変わるのを見ないように、足早にエレベーターへと向かう。

 夜の街に出ると、冷たい空気が頬を撫でていった。ネクタイを緩め、深く息を吐き出す。誰もいない道を歩きながら、胸の奥に溜まった重苦しさがじわりと広がっていった。

 気づけば、いつものバーの前に立っていた。看板の明かりが暗い路地を照らし出し、扉の向こうから低い音楽が漏れ聞こえてくる。俺は扉を押し開け、カウンター席の隅に座った。

「いつものをお願いします」

 マスターが無言で頷き、琥珀色の液体がグラスに注がれていく。氷がカラリと音を立て、グラスを傾けると喉を焼くような熱さが胸に染み込んでいった。

 仕事はうまくいった――でも。

(どうして抱けないんだ)

 三日前に恋人に振られた傷が疼き、仕事で成功を収めても飲む気になれなかった。
 過去に付き合った女性たち全てに、振られてきた。理由は一つ――セックスができないから。

 三日前に別れたばかりの元カノ、白石綾との破局が一番辛かった。同じ会社の経理部で働く彼女は、一年も俺と付き合ってくれたのに、最後まで俺は彼女を抱くことができなかった。

「もう無理です――耐えられない」

 あの日、ホテルのベッドの上で、裸の綾が涙を流しながら言われた光景が脳裏に焼き付いている。俺は何も答えられず、ただ謝ることしかできなくて、彼女は静かに服を着て部屋を出て行った。

 医者には「器質的な問題はない。心因性勃起障害だろう」と診断されたが、原因は分からないままだった。女性の裸体を見ても、キスをしても、愛撫をしても、熱は多少反応するのに、肝心な時に萎えてしまう。

 二杯目のグラスを空けた頃、隣の席に誰かが座る気配がした。ふと視線を向けると、息を呑むほど美しい女性が座っていて、長い黒髪が肩から背中へと艶やかに流れ落ちている。

 洗練された黒のワンピースを着ているが、胸元が深く開いていて白く滑らかな肌が覗き、太腿まで伸びたスリットから細く美しい脚のラインが露わになっていた。心臓が不意に大きく跳ね、視線を逸らすべきとわかっているのに目が離せなくなる。女性の横顔は整っていて、長い睫毛が頬に影を落とし、薄い唇が妖艶に光っていた。

「お一人ですか?」

 女性が微笑みながら声をかけてきて、低くハスキーな声が妙に色っぽく耳の奥まで響いてきた。顔立ちをよく見ると、どこか義弟の千景に似ているような気がして、視線が自然と吸い寄せられていく。大きな瞳が俺を見つめ、唇の端が僅かに上がっていた。

「ええ、まあ」

 俺は素っ気なく答えたが、女性は気にした様子もなく細い指でグラスを持ち上げ、ゆっくりと傾けた。喉が動く様子が妙に艶めかしく見えて、目を逸らすことができない。

「お名前は?」
「ちか、です」

(名前まで義弟と似ている)

 名乗られた名前が妙に耳に馴染んで、俺は少し躊躇いながら自分の名前を告げた。

「伊織です」

 会話が始まると、不思議なほど話しやすかった。ちかの話し方は柔らかく、時折見せる笑顔が胸の奥まで染み込んでくる。

 質問の仕方が押し付けがましくなく、ただ静かに俺の話を聞いてくれて、相槌を打つ声が優しく耳に届いた。グラスが空になるたびにマスターが無言で新しい酒を注ぎ、酔いが回るにつれて心のガードが緩んでいく。

「実は、三日前に彼女と別れまして」
 俺が呟くと、ちかは少し驚いたような表情を見せて首を傾げた。

「そうなんですか。お辛かったでしょう」
 同情ではなく、ただ静かに寄り添うような声に、胸の奥が熱くなる。

「どうして別れたんです?」

 問いかけられて、俺は躊躇った。普段なら絶対に言わない弱みが、酔いと彼女の優しい雰囲気に促されて言葉になって口から出ていた。

「勃たないんです」

 自分でも信じられないほど素直に告白してしまい、ちかの反応を伺うように視線を向ける。彼女は驚いた様子もなく、眉一つ動かさずに、ただ静かに俺の言葉を受け止めていた。

「今までできた恋人には、全てセックスが原因で別れました」

 言葉が次々と溢れ出し、もう止められなくなる。医者に何度も通ったこと、診断結果が心因性だったこと、原因が分からないまま過ごしてきた孤独な日々。全てをちかに吐き出してしまい、グラスを傾けて残った酒を一気に飲み干した。

 ちかは俺の手を優しく握りしめ、温かい手のひらが震える俺の手を包み込んだ。細くて柔らかい指が俺の手に絡み、親指が手の甲を撫でていく。

「試してみます?」

 囁くような声で誘われて、心臓が激しく鼓動を打ち始めた。ちかの手が俺の手を離れ、カウンターのテーブルの下へと潜り込んでいく。太腿の上に柔らかい手のひらが置かれ、ゆっくりと内側を撫で上げられて、股間へと移動していった。

 スラックスの上から俺の熱を包み込むように握られ、指が形を確かめるように動いていく。今まで歴代の彼女たちが触れても微塵も反応しなかった熱が、信じられないほど大きく滾っていて、スラックスの中で窮屈に脈打っている。

 ちかの指がゆっくりと上下に動き、布越しに愛撫されるたびに、熱がさらに硬さを増していった。

「つらそう」

 ちかが耳元で囁き、吐息が耳朶にかかって身体が震える。俺の手を引いて立ち上がらせ、抵抗する気力もなく、彼女に導かれるまま店の奥にある個室トイレへと向かった。

 カウンターを離れる時、マスターと目が合ったが、彼は何も言わずにグラスを磨き続けていた。

 扉が閉まると同時に鍵がかけられ、狭い空間に二人きりになった。ちかが俺の前にしゃがみ込み、細い指が器用にベルトのバックルを外していく。ゆっくりとスラックスが下ろされ、下着の上から熱を包み込まれた。

「こんなに大きくなって」

 ちかが満足そうに呟き、下着も一緒に下ろしていく。露わになった熱を見て、彼女は唇を舐めて艶めかしい笑みを浮かべた。

「すごく、大きい」

 低い声で呟かれ、頬が熱くなる。ちかの唇が先端に触れ、温かく柔らかい感触に思わず腰が震えた。舌先が尿道口を舐め、甘く刺激されるたびに腰が跳ねそうになる。

 舌が先端を何度も舐め、唾液で濡れていく。ちかの口が大きく開き、熱がゆっくりと口の中に含まれていった。温かく、柔らかく、濡れた感触が全体を包み込み、今まで感じたことのない快感が全身を駆け抜けていく。膝が笑いそうになり、壁に手をついて身体を支えた。

 ちかの舌が熱に巻きつき、口の中で上下に動いていく。頬の内側に押し付けられ、吸い上げられ、舌で転がされる。唾液の水音が狭いトイレに響き、恥ずかしさと興奮が同時に押し寄せてきた。

 上から見える彼女の胸の谷間に視線が吸い寄せられ、白く柔らかそうな膨らみが呼吸に合わせて揺れている。さらに興奮が高まり、熱がちかの口の中で脈打った。俺は震える手を伸ばし、ちかの胸元に手を滑り込ませて柔らかい膨らみを探っていく。ブラジャーの上から乳房を掴み、親指で乳首の位置を探って軽く擦った。

「んっ、ん」

 くぐもった甘い声が喉の奥から漏れ聞こえ、その声を聞いた瞬間に熱がさらに硬さを増していった。ちかの舌がより激しく動き、口の中で深く扱かれる。先端が喉の奥に当たり、絞り上げられるような快感に視界が白く染まった。

 今まで誰にも与えられなかった快楽を、ちかは簡単に引き出してくる。呼吸が乱れ、腰が自然と動いてしまい、ちかの口の中で浅く腰を振ってしまう。

「いれていい?」

 掠れた声で尋ねると、ちかは口を離してゆっくりと顔を上げた。唾液で濡れた唇が艶めかしく光り、糸を引いている様子に息が荒くなっていく。ちかは唇を舐めて艶を足し、俺を見上げながら微笑んだ。

「動かないでね。私から入れたいの」

 ちかが立ち上がり、便座の蓋を閉めて俺をそこに座らせた。膝の上に跨るように重なってきて、スカートの中に手を入れて下着を脱いでいく。黒いレースの下着が床に落ち、ちかの手が俺の肩に置かれた。

 もう片方の手が下へと伸び、俺の熱を掴んで自分の秘部に押し当てる。熱い吐息が顔にかかり、ちかの瞳が近くで俺を見つめていた。長い睫毛が揺れ、薄い唇が僅かに開いている。

「入れるね」

 囁かれた瞬間、ちかがゆっくりと腰を下ろし始めた。先端が熱く濡れた場所に触れ、押し広げられながら侵入していく。今まで味わったことのない感覚に、息が止まりそうになった。

「ん……あっ、ああ」

 ちかの甘い声が耳に届き、さらに深く入り込んでいく。熱く、狭く、濡れた場所が俺の熱を締め付け、内壁が蠢くように動いていた。半分ほど入ったところで、ちかは動きを止めて呼吸を整えている。

「気持ちいい……」

 ちかが囁き、再び腰を下ろし始めた。さらに深く、奥へと進んでいき、全てが飲み込まれていく。今まで味わったことのない快感に頭が真っ白になり、一気に限界へと上り詰めた。

「待っ……もう……」
 声を絞り出そうとしたが、奥まで入り切る前に絶頂が訪れてしまった。

「っ……!」

 声にならない呻きが漏れ、腰が跳ね、ちかの腰を掴んで強く引き寄せてしまった。熱いものが体内の奥深くまで注がれていき、絶頂の快感が全身を支配していく。視界が真っ白に染まり、耳が遠くなり、ただ快楽だけが身体を満たした。

 波が何度も押し寄せ、そのたびに身体が震え続ける。ちかの中で脈打ち、まだ出し続けていて、止まらない快感に身体が溶けていきそうだ。

(気持ちいい――)

 自慰で感じてきた快感とは比べ物にならないほど強烈で、身体の芯から湧き上がってくる熱に溺れていく。ちかが俺の首に腕を回し、身体を密着させてきて、温かい吐息が首筋にかかった。

「すごい、たくさん出てる」

 ちかが耳元で囁き、まだ繋がったまま腰を僅かに動かす。敏感になった熱が刺激され、また腰が跳ねた。

 やがて絶頂の波が引いていき、全身の力が抜けていく。ぐったりと便座に沈み込み、荒い呼吸を繰り返した。ちかが優しく俺の頬に手を添え、額を合わせてくる。

 我に返った時、俺は中出しする形になってしまったことに気づいて血の気が引いた。

「すみません、避妊を……」
「大丈夫、ピル飲んでるから」

 ちかが優しく微笑み、俺の頬に手を添えた。まだ繋がったままの状態で、彼女の温もりが俺を包み込んでいる。

「もっと、ちかと一緒にいたい」

 自分でも驚くほど素直な言葉が口をついて出て、ちかは嬉しそうに目を細めた。

「ホテルいく?」

 誘われるまま、俺は頷いた。二人で身なりを整え、トイレから出てバーを後にする。夜の街を並んで歩きながら、ちかの手を握りしめた。柔らかく温かい手が、俺の震える手を優しく握り返してくれた。
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