11 / 38
三者面談
11
しおりを挟む
「最近、瑠衣ったら顔に痣や傷を作って帰ってくるんですけど。先生、この子から何か聞いてますか? 私が聞いても、答えてくれないんです」
母さんが用意されている椅子に座りながら、英先生に質問した。
胸の谷間が見えるように、さりげなく机に手をついて前屈みになる。
英先生は、母の行いに気付いているのか、知らないけれど、視線を下に落としたまま、学校の資料に目を落とした。
「伊坂くらいの年頃だと、友人同士のいざこざは良くあるものです。成績がガタ落ちしているわけでもないし、校内で目立つ行動をしているわけでもありませんから。大丈夫だと思いますよ」
英先生が進路調査票をファイルから引き出しながら、口を開いた。
「それより伊坂。先日の調査表なんだが。白紙で提出していたけど。これは何か意味があるのか?」
先生が僕に視線を向けた。
パソコンで印字された文字以外、何も書かれていない用紙を先生が僕に突きだした。
「今日の三者面談は進路についてが主な話題なんだ。ここに何も書かれてないと、成績と見比べて、こんごどのような勉強方法にするかが話せない」
「あ、ああ」と僕は唇を噛んだ。
「小暮先生に聞いたら、去年はきちんと志望校が書かれていたと話していたが」
「あ、あれは取り消し!」
英先生、小暮と僕の話をしたんだ。
そりゃ、去年の担任と今年の担任なら、話すこともあるだろうけど。
あんまり知られたくない。小暮から、僕の話を。一年の頃の僕の話を英先生には知られたくない。
真面目な生徒になろうと努力している最中に、過去の悪行を裁かれるみたいで。あまり心地良くない。
教師たちから『不良』って一目おかれるような人間ではなかったけど。なんとなく嫌なんだ。
英先生には、真面目な僕だけを知っていてもらいたいから。
「『取り消し』?」
英先生が眉間に皺を寄せた。
「一から志望校を考え直したいって思ってるんです。でも何を、どうしたらいいのか……」
「それなら、そうと相談してくれればいいんだ。放課後、きちんと時間を作るから」
「そんな……ご迷惑ではありませんか? 教師のお仕事はお忙しいって聞きますし」
母さんがすかさず横やりを入れてきた。
「悩んでいる生徒を放ってはおけませんから」
英先生が、母さんの顔を見て会釈した。
「母の言うとおり、僕……先生に迷惑は……」
もうかけたくない。ただでさえ、『抱かないと先生の過去をバラす』とか言って脅したヤツなのに。
「どの教師も決まって言う決め台詞みたいな言葉だが、今が大事なときなんだ。伊坂は馬鹿じゃない。努力すれば、希望の大学に行けると信じてる。だから相談しよう」
僕はコクンと頷くと、英先生が「よし」と呟き、分厚い手帳を開いた。
「今日は会議が入ってるから無理だが、明日の放課後ならどうだ?」
「あ、はい。大丈夫です」
「なら、そのときにきちんと話し合おうな。今日はせっかく伊坂のお母さんに来てもらって、進学の話ができなかったのは申し訳ないが。後日、伊坂のほうから報告しろ」
「あ、うん」と僕は英先生の言葉に頷いた。
「先生の格好良いお顔が拝見できただけで、嬉しいわ」
もう三者面談は終わりだと察知した母親が、席を立ちあがると、英先生の手にすっと手を重ねた。
はあ!? 何、やってんだよ。
僕は、母の手から腕を経て、横顔を見つめる。
小暮にも見せるような女の顔で、英先生の目をじっと見つめていた。
英先生は、「失礼」と声をかけてから母さんの手を退けた。
母さんが用意されている椅子に座りながら、英先生に質問した。
胸の谷間が見えるように、さりげなく机に手をついて前屈みになる。
英先生は、母の行いに気付いているのか、知らないけれど、視線を下に落としたまま、学校の資料に目を落とした。
「伊坂くらいの年頃だと、友人同士のいざこざは良くあるものです。成績がガタ落ちしているわけでもないし、校内で目立つ行動をしているわけでもありませんから。大丈夫だと思いますよ」
英先生が進路調査票をファイルから引き出しながら、口を開いた。
「それより伊坂。先日の調査表なんだが。白紙で提出していたけど。これは何か意味があるのか?」
先生が僕に視線を向けた。
パソコンで印字された文字以外、何も書かれていない用紙を先生が僕に突きだした。
「今日の三者面談は進路についてが主な話題なんだ。ここに何も書かれてないと、成績と見比べて、こんごどのような勉強方法にするかが話せない」
「あ、ああ」と僕は唇を噛んだ。
「小暮先生に聞いたら、去年はきちんと志望校が書かれていたと話していたが」
「あ、あれは取り消し!」
英先生、小暮と僕の話をしたんだ。
そりゃ、去年の担任と今年の担任なら、話すこともあるだろうけど。
あんまり知られたくない。小暮から、僕の話を。一年の頃の僕の話を英先生には知られたくない。
真面目な生徒になろうと努力している最中に、過去の悪行を裁かれるみたいで。あまり心地良くない。
教師たちから『不良』って一目おかれるような人間ではなかったけど。なんとなく嫌なんだ。
英先生には、真面目な僕だけを知っていてもらいたいから。
「『取り消し』?」
英先生が眉間に皺を寄せた。
「一から志望校を考え直したいって思ってるんです。でも何を、どうしたらいいのか……」
「それなら、そうと相談してくれればいいんだ。放課後、きちんと時間を作るから」
「そんな……ご迷惑ではありませんか? 教師のお仕事はお忙しいって聞きますし」
母さんがすかさず横やりを入れてきた。
「悩んでいる生徒を放ってはおけませんから」
英先生が、母さんの顔を見て会釈した。
「母の言うとおり、僕……先生に迷惑は……」
もうかけたくない。ただでさえ、『抱かないと先生の過去をバラす』とか言って脅したヤツなのに。
「どの教師も決まって言う決め台詞みたいな言葉だが、今が大事なときなんだ。伊坂は馬鹿じゃない。努力すれば、希望の大学に行けると信じてる。だから相談しよう」
僕はコクンと頷くと、英先生が「よし」と呟き、分厚い手帳を開いた。
「今日は会議が入ってるから無理だが、明日の放課後ならどうだ?」
「あ、はい。大丈夫です」
「なら、そのときにきちんと話し合おうな。今日はせっかく伊坂のお母さんに来てもらって、進学の話ができなかったのは申し訳ないが。後日、伊坂のほうから報告しろ」
「あ、うん」と僕は英先生の言葉に頷いた。
「先生の格好良いお顔が拝見できただけで、嬉しいわ」
もう三者面談は終わりだと察知した母親が、席を立ちあがると、英先生の手にすっと手を重ねた。
はあ!? 何、やってんだよ。
僕は、母の手から腕を経て、横顔を見つめる。
小暮にも見せるような女の顔で、英先生の目をじっと見つめていた。
英先生は、「失礼」と声をかけてから母さんの手を退けた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
20
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる