愛の物語を囁いて

ひなた翠

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三者面談

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「最近、瑠衣ったら顔に痣や傷を作って帰ってくるんですけど。先生、この子から何か聞いてますか? 私が聞いても、答えてくれないんです」

 母さんが用意されている椅子に座りながら、英先生に質問した。

 胸の谷間が見えるように、さりげなく机に手をついて前屈みになる。

 英先生は、母の行いに気付いているのか、知らないけれど、視線を下に落としたまま、学校の資料に目を落とした。

「伊坂くらいの年頃だと、友人同士のいざこざは良くあるものです。成績がガタ落ちしているわけでもないし、校内で目立つ行動をしているわけでもありませんから。大丈夫だと思いますよ」

 英先生が進路調査票をファイルから引き出しながら、口を開いた。

「それより伊坂。先日の調査表なんだが。白紙で提出していたけど。これは何か意味があるのか?」

 先生が僕に視線を向けた。

 パソコンで印字された文字以外、何も書かれていない用紙を先生が僕に突きだした。

「今日の三者面談は進路についてが主な話題なんだ。ここに何も書かれてないと、成績と見比べて、こんごどのような勉強方法にするかが話せない」

「あ、ああ」と僕は唇を噛んだ。

「小暮先生に聞いたら、去年はきちんと志望校が書かれていたと話していたが」

「あ、あれは取り消し!」

 英先生、小暮と僕の話をしたんだ。

 そりゃ、去年の担任と今年の担任なら、話すこともあるだろうけど。

 あんまり知られたくない。小暮から、僕の話を。一年の頃の僕の話を英先生には知られたくない。

 真面目な生徒になろうと努力している最中に、過去の悪行を裁かれるみたいで。あまり心地良くない。

 教師たちから『不良』って一目おかれるような人間ではなかったけど。なんとなく嫌なんだ。

 英先生には、真面目な僕だけを知っていてもらいたいから。

「『取り消し』?」

 英先生が眉間に皺を寄せた。

「一から志望校を考え直したいって思ってるんです。でも何を、どうしたらいいのか……」

「それなら、そうと相談してくれればいいんだ。放課後、きちんと時間を作るから」

「そんな……ご迷惑ではありませんか? 教師のお仕事はお忙しいって聞きますし」

 母さんがすかさず横やりを入れてきた。

「悩んでいる生徒を放ってはおけませんから」

 英先生が、母さんの顔を見て会釈した。

「母の言うとおり、僕……先生に迷惑は……」

 もうかけたくない。ただでさえ、『抱かないと先生の過去をバラす』とか言って脅したヤツなのに。

「どの教師も決まって言う決め台詞みたいな言葉だが、今が大事なときなんだ。伊坂は馬鹿じゃない。努力すれば、希望の大学に行けると信じてる。だから相談しよう」

 僕はコクンと頷くと、英先生が「よし」と呟き、分厚い手帳を開いた。

「今日は会議が入ってるから無理だが、明日の放課後ならどうだ?」

「あ、はい。大丈夫です」

「なら、そのときにきちんと話し合おうな。今日はせっかく伊坂のお母さんに来てもらって、進学の話ができなかったのは申し訳ないが。後日、伊坂のほうから報告しろ」

「あ、うん」と僕は英先生の言葉に頷いた。

「先生の格好良いお顔が拝見できただけで、嬉しいわ」

 もう三者面談は終わりだと察知した母親が、席を立ちあがると、英先生の手にすっと手を重ねた。

 はあ!? 何、やってんだよ。

 僕は、母の手から腕を経て、横顔を見つめる。

 小暮にも見せるような女の顔で、英先生の目をじっと見つめていた。

 英先生は、「失礼」と声をかけてから母さんの手を退けた。
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