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噂の威力
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白い雲がモコモコしている青い空を見上げながら、俺は煙草を吸う。
学校の屋上は昔から、過ごしやすい。どこの学校でも、それは同じだ。
昼間は不良たちの溜まり場で、放課後はカップルの溜まり場だ。いくら学校側が、立ち入り禁止の札を掲げても、生徒が居なくなった試しはだないだろうな。
「何かあるたびに、高いところに行って独りの世界に閉じこもるのは、君の悪い癖だよ」
しゃがれた声がして、俺は振り返った。
俺の背後に立った人は、いかにも高級そうなスーツに身を包み、白い髭を持ち上げて笑った。この人は、校長先生だ。
そして前の学校を退職した際に、俺に助け船を出してくれた人でもある。
親父の兄貴で、俺のおじさんにあたる人だ。
「ご迷惑をおかけしました、おじさん」と俺は煙草を咥えたまま、ぺこりと頭をさげた。
「小暮君から話は聞いたよ。殴られた件については、大事にはしないそうだよ」
「そりゃそうだろ。大事にして困るのは、あっちだから」
「それでも手をあげたのは、惣二郎のほうだよ」
俺はフェンスに寄りかかると、肩を持ち上げた。
「おじさんの立場を悪くするつもりは無いんだけどね。つい、手が……。昔の手癖の悪さはなかなか直らない」
俺は己の右手を見つめた。
「中学、高校の頃の君に比べたら、随分と心が広くなったと思うよ。ほら、自分のことを言われたくらいじゃあ、殴らなくなったんだから。それにさっきだって、一発だけで終わりにしてる。随分と、落ちついたよ。十代の惣二郎だったら、小暮君を病院送りにしているんじゃないか?」
「おじさん、俺に甘過ぎ」と俺はぷっと笑った。
「惣佑によく言われてる。『お前は、惣二郎にだけ甘すぎる!』って」
おじさんがくくくっと肩を揺らして、笑顔を作る。
「親父に?」
「ああ。昔からずっと言われてた。惣二郎の再就職に関しても、手を出すなって言われてたんだけど。まあ、惣佑から見れば、家を継いでもらえる最大のチャンスだったから、そう言ったのかもしれないけどね」
「サンキュ。まだ家には入りたくないんでね。親父だったら、俺の年の頃には家を継いで、結婚して、俺を育ててた。でも俺はまだ家に縛られたくは無いんだ。継ぐ素質は充分にあるだろうけど」
俺は苦笑した。
「今は時代が違うんだから。いいんじゃない?」
「また親父に言われるよ。『甘い』って」
「だろうね」とおじさんが笑った。
俺は煙草の煙を吐きだすと、携帯用灰皿に煙草をねじ込んだ。
「小暮君を殴ったことについて弁明は?」
「しません。殴ったのは事実だから」
「どうして殴ったかについては話してくれるのかな?」
「それも……しません。俺の生徒を矢面にするようなことはしたくないので」
「どうやら惣二郎が一方的に悪いってわけじゃないのがわかった。まあ、喧嘩といえば、惣二郎はいつも、とばっちりを受けるほうだけどねえ。くじ運の悪さは惣佑にそっくりだね」
「俺自身、悪いとは思ってないけどね」
おじさんが、クスクスと笑う。
「今回は見逃すけど、次回はきちんと二人で話し合ってもらうよ?」
話し合って解決するとは思えないけど。
俺はフッと口を緩めた。
「わかりました」
次回は殴らないように、自重しないとな。
じゃないと、伊坂が矢面にされてしまう。被害者である伊坂が、世間の冷たい風に晒されるのは、耐えがたい現実になる。
◇惣二郎side 終わり◇
学校の屋上は昔から、過ごしやすい。どこの学校でも、それは同じだ。
昼間は不良たちの溜まり場で、放課後はカップルの溜まり場だ。いくら学校側が、立ち入り禁止の札を掲げても、生徒が居なくなった試しはだないだろうな。
「何かあるたびに、高いところに行って独りの世界に閉じこもるのは、君の悪い癖だよ」
しゃがれた声がして、俺は振り返った。
俺の背後に立った人は、いかにも高級そうなスーツに身を包み、白い髭を持ち上げて笑った。この人は、校長先生だ。
そして前の学校を退職した際に、俺に助け船を出してくれた人でもある。
親父の兄貴で、俺のおじさんにあたる人だ。
「ご迷惑をおかけしました、おじさん」と俺は煙草を咥えたまま、ぺこりと頭をさげた。
「小暮君から話は聞いたよ。殴られた件については、大事にはしないそうだよ」
「そりゃそうだろ。大事にして困るのは、あっちだから」
「それでも手をあげたのは、惣二郎のほうだよ」
俺はフェンスに寄りかかると、肩を持ち上げた。
「おじさんの立場を悪くするつもりは無いんだけどね。つい、手が……。昔の手癖の悪さはなかなか直らない」
俺は己の右手を見つめた。
「中学、高校の頃の君に比べたら、随分と心が広くなったと思うよ。ほら、自分のことを言われたくらいじゃあ、殴らなくなったんだから。それにさっきだって、一発だけで終わりにしてる。随分と、落ちついたよ。十代の惣二郎だったら、小暮君を病院送りにしているんじゃないか?」
「おじさん、俺に甘過ぎ」と俺はぷっと笑った。
「惣佑によく言われてる。『お前は、惣二郎にだけ甘すぎる!』って」
おじさんがくくくっと肩を揺らして、笑顔を作る。
「親父に?」
「ああ。昔からずっと言われてた。惣二郎の再就職に関しても、手を出すなって言われてたんだけど。まあ、惣佑から見れば、家を継いでもらえる最大のチャンスだったから、そう言ったのかもしれないけどね」
「サンキュ。まだ家には入りたくないんでね。親父だったら、俺の年の頃には家を継いで、結婚して、俺を育ててた。でも俺はまだ家に縛られたくは無いんだ。継ぐ素質は充分にあるだろうけど」
俺は苦笑した。
「今は時代が違うんだから。いいんじゃない?」
「また親父に言われるよ。『甘い』って」
「だろうね」とおじさんが笑った。
俺は煙草の煙を吐きだすと、携帯用灰皿に煙草をねじ込んだ。
「小暮君を殴ったことについて弁明は?」
「しません。殴ったのは事実だから」
「どうして殴ったかについては話してくれるのかな?」
「それも……しません。俺の生徒を矢面にするようなことはしたくないので」
「どうやら惣二郎が一方的に悪いってわけじゃないのがわかった。まあ、喧嘩といえば、惣二郎はいつも、とばっちりを受けるほうだけどねえ。くじ運の悪さは惣佑にそっくりだね」
「俺自身、悪いとは思ってないけどね」
おじさんが、クスクスと笑う。
「今回は見逃すけど、次回はきちんと二人で話し合ってもらうよ?」
話し合って解決するとは思えないけど。
俺はフッと口を緩めた。
「わかりました」
次回は殴らないように、自重しないとな。
じゃないと、伊坂が矢面にされてしまう。被害者である伊坂が、世間の冷たい風に晒されるのは、耐えがたい現実になる。
◇惣二郎side 終わり◇
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